普段は、公民館の和室で2、3人のお客を前にネタを披露している地下芸人がいる。チャンス大城、43歳だ。
そんな彼が大人気特番『人志松本のすべらない話』で、まさかの?大活躍――壮絶ないじめられネタで、そうそうたるメンバーから爆笑をかっさらったのだ!
さらに先日、惜しまれながらも20年以上に及ぶ歴史に幕を下ろした人気番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』でも、人気コーナーのひとつ「博士と助手~細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」に女芸人・小出真保とのユニットで登場、ドキュメンタリーで見る“生活苦を抜け出せない夫婦”のモノマネに挑戦し見事、優勝を果たした。
一体、唐突に出現したこの芸人は何者なのか? これまでいかなる人生を歩んできたのか? 気になって仕方がない読者の方々を代表し、早速、突撃インタビューを試みた!
-まことに失礼ながら、苦節のベテラン芸人が突如、大活躍しているみたいな感じですが、「みなおか」「すべらない話」と絶好調ですね。
大城 いえいえ。芸歴30年でも未だに風呂なしアパート住んでまして。そう言えばこの間、すごい夢を見ました。どんな夢かというと、国の新しい法律で、芸歴25年以上で売れてない奴は射殺されるんです。僕をかわいがってくれている先輩芸人のゆきおとこさんと一緒に殺される夢を見ましたよ。
-恐ろしい夢ですね(笑)。ご出身はどちらなんですか?
大城 兵庫の尼崎です。普通の家です。父親はブラジャー工場で金具を作っていました。兄貴と姉貴がいるんですけどね、その姉貴が僕にそっくり。この顔をロン毛にしたようなもんです。占いが得意で、学生時代は休み時間になると姉貴の前に長蛇の列ができたくらいの腕前です。で、ついたあだ名が「ミステリアス」って言うんです。
-大城さんも占ってもらったことがあるんですか?
大城 「東京に出たらあかんっ!」と言われました。「絶対に売れない。私の占いは間違いないから」と…。「東京出てって、売れずに我慢できるの?」って諭(さと)されて。おまけに「あんた、54歳でプチブレイクするよ」ですから。そんだけ時間かかって、プチか!!(笑) 結構、長い! 54歳になるまで、まだ11年ありますから。
-お姉さんがミステリアスだと、お兄さんは?
大城 兄貴はピアノが超絶うまいんですよ。ほんまに音楽は天才的だったと思います。でも無精でね。高校の時ですけど、半年に1回くらいしか風呂に入らないんです。あまりの臭いに担任の先生から「頼むから風呂に入れてください」って電話があったくらいです。それでなんとか風呂に入れたら、お湯があっという間に茶色くなりました。
-うわっ! 髪とかも伸び放題だったんですかね??
大城 伸び放題だったのは爪ですよ。知ってますか? 足の爪って、放っておくと皮膚に沿って伸びるんですよ。くるんって、下に向かってね。熊手みたいに。
ある夜のことです。自分の部屋で僕が寝てたら、廊下からカチカチって音が聞こえるんですね。なんだろなぁと思ってドアを開けたら兄貴が立ってた。だから「なんか音が聞こえるよな?」と聞いたんだけど、「そんなのわからん」と言ってトイレに向かって歩いて行ったんです。
そしたら、またカチカチって音がし出してね。犯人は兄貴の足の爪。歩くたびに伸びた爪が床に当たってカチカチ言ってただけなんです。もうね、タップシューズでも履いているのかと思いましたよ。
兄貴って、一度寝たら起きないんですけど、その間に見かねた母親が足の爪を切ったんです。でも普通の爪切りだと入らなくてね。爪と皮膚の間に画用紙を挟んで、上からカッターでバチンと。ただ、ちょっと力が入りすぎてカッターが画用紙を突き破ってしまったんです。
そしたら大惨事に! 寝たら起きない兄貴が、ぎゃーっ!って言うて。痛さで飛び跳ねましたね。で、またカチカチですよ。たけしさんの映画「座頭市」のエンディングみたいになってました。
「俺ら、面白くなくなったな」
-ところで大城さんは、大阪NSC(お笑い学校)に2回も通ったとか…なんでまた?
大城 最初に入ったのは中学3年の時です。同期には千原兄弟さんにFUJIWARAさんにバッファロー吾郎さん、なだぎたけしさんがいます。
僕は「オッヒョッヒョー」というギャグしかなくて、挫折しました。そのあと定時制高校に入ったんです。
-でも、笑いの道を諦めきれずにもう1回、大阪NSCに入ったと…。
大城 その時は土木作業現場のバイトでいじめられて、一緒に山に首まで埋められた和田っていう同級生とコンビを組んで、改めて養成所に入りました。
-まさか、また同期のメンバーがツワモノ揃いだったんですか?
大城 次長課長にチュートリアル、野性爆弾が一緒です。和田と建築現場コントとかやってたのですが、お客さんにはウケなかったですね。また挫折しました。
-ひょっとして、それでまた辞めちゃったんですか?
大城 そうですねぇ。NSCを辞めてから、バイト暮らしですよ。西成の日雇い労働者ばかりが集まるオールナイトの映画館とか、モップ工場とかで働いていました。相方の和田も一緒に。
ちゃんと働いているから生活は安定していたんですけど、ある金曜の夕方、バイト中に和田がボソッと言ったんですよ。「俺ら、面白くなくなったな」って。
-葛藤があったんですね?
大城 なんなんでしょうね? でも、そんなことを言い出すもんで気にはなっていたんです。そしたら次の月曜、和田がアルバイトに来ないんですよ。いつも朝礼があるんですけど、その時間になっても現れない。
働いていた工場の後ろには高速道路が走っていて、朝礼中もその景色が見えるんですけど、突然、そこにタンクトップ姿の男が現れたんです。朝礼に出てたみんなが「なんじゃ、あれ?!」って騒ぎになったんですが、よく見たら、それが和田だったんですよ。
和田が走っている後ろを黄色いパトロールカーがサイレン鳴らしながら通って行きました。当然ですけど、和田、捕まって怒られたみたいです。
でも、そんな無茶をする和田を見て、きっとこれは俺へのメッセージだと。「俺にできるのはこれが精一杯だけど、おまえはもっとできるやろ。お笑いをやれ」って。でっ、東京に行こうと。
千原ジュニアが「なんで5点やねん!」
-なんか、いい話ですね。でも、さすがに東京に出てきたばかりの頃は苦労されました?
大城 勝手に公民館みたいなところでライブをやったり。割と人気なのが『挙動不審寄席』ってイベント。MCまで挙動不審な芸人だから、どっちもイジらずイジられずで、おいしい食材が目の前で腐っていくという。そんなライブをしながら、後はバイトですね。やっぱり建築現場とかが多いです。
-仲のいい芸人さんとか、できましたか?
大城 サタデーナイトシュウソウさんと仲良しです。シュウソウさんと仲良くなったから、千原せいじさんと再会できたんです。彼がせいじさんの経営する居酒屋で店長をやっていて、そこで「一緒にやろうよ」って誘ってくれたんです。それでアルバイトすることになりました。
-かつての同期との再会ですか?
大城 でも、覚えているわけないと思ってね。最初に会った時に僕から「同期です」って挨拶したんです。せいじさんはやっぱり覚えてなくて、でも思い出そうとはしてくれました。
「何か、当時の得意だったやつ、やってみい」というので「オッヒョッヒョー!」という一発ギャグをやったら、すぐに思い出してくれまして。「おまえ、オッヒョッヒョーやないか!!」って。それで、店で働かしてもらうことになりました。
-その縁で、ジュニアさんとも再会できたんですか?
大城 せいじさんがかわいがっているお笑いコンビ、飛石連休の岩見よしまささんとは仲が良くて、去年の5月に僕の家で飲もうってことになったんです。で、岩見さんがウチに来たんですが、あまりの汚さにまずは掃除だ、と。
そしたら大阪NSC時代に使っていたノートが見つかっちゃったんです。ネタ帳なんですけど、そのノートに同期の点数をつけてましてね。FUJIWARAさんに10点、他の何組かが10点、9点となってて、千原兄弟さんに5点と書いてたんです。
それを見つけたもんだから、岩見さんが面白がって“せいじさんに見せましょ”って。そんなもん、見せられるわけないじゃないですか。抵抗したんですけど、勝手に写メを撮って、ほんまにせいじさんに見せちゃったんですよ。
-あらら、バイトで雇ってもらってるのに…。
大城 それがジュニアさんにも伝わりまして。千原兄弟さんは草月ホールで毎月「チハラトーク」ってライブをやってるんですが、去年の七夕の時にそこに呼ばれ、「なんで5点やねん!」ってなりまして(笑)。
でも、その時に昔のいじめられた話とかをしたらウケまして。ジュニアさんが『人志松本のすべらない話』のオーディション勧めてくれたんです。千原兄弟さんには本当に心から感謝です。あと、岩見さんにも。
僕のプチブレイクは54歳。長いなぁ~
-じゃあ、岩見さんがノートを見つけなければ、今の状況はなかったんですね! ちなみに大城さんって、そんな風には見えないですが、実はクリスチャンなんですよね…。
大城 家族全員そうです。クリスチャンって、教会に行って神父さんに懺悔(ざんげ)するんですが。それにまつわる話がありますね。
もう随分と昔の話になりますが、当時の尼崎には野良犬がいっぱいいたんですよ。そんな犬を斎藤という友達が捕まえて、うちに連れてきたんです。狂暴な犬で、噛まないように口輪をはめているんですよ。
-危なすぎです!
大城 でね、当時、父親は夜勤をしていて昼間は家で寝てたんです。斎藤はその父親が寝ている部屋に野良犬を入れたらどうなるかって言って、ズカズカとウチに上がってきたんです。
-えっ、止めなかったんですか…。
大城 もちろん止めたけど、言うことなんか聞きませんよ。で、うちの父親っていびきがすっごくでかくて、ドアを閉めてても外まで聞こえるんです。どんなイビキをかくかというと、「ウィー!!!! ウィー!!!」って感じ。最初、外野を守ってる選手かと思いましたよ。
それで寝ているのを確認して犬の口輪を外して、部屋の中に投げ入れた。するとしばらくは父親のいびきが聞こえていたんです。「ウィー!!!! ウィー!!!」ってね。
でもすぐにそれが「ギャーッ」って絶叫に変わって、ドッタンバッタン、すごい音が聞こえてきた。こら、あかんとドアを開けたら最初に飛び出してきたのは犬でね。続いて顔面血まみれの父親が出てきたんです。
それで父親が斎藤の胸ぐら掴んで「状況を、とにかく状況を説明してくれ?!」って。斎藤、バカ正直に答えて、ぶん殴られました。僕も殴られたんですよ。
-いたずらの度合いが違いますね。でも、それが教会とどう繋がるんですか。
大城 いや、それで次の日曜に家族で懺悔に行ったわけですよ。で、僕にしてみればそれが一番最近の謝る話でしょ。だから神父さんにしたんです。
小部屋にひとりづつ入るんですけど、小窓が開いた衝立(ついたて)があって、その向こうに神父さんが座ってる。で、「なんでも話しなさい」と仰るから「友達が野良犬を連れてきて、父親の部屋に放ったんです。そしたら血まみれの父親が出てきて…」って話したら、急にその小窓が閉まったんですよ。
どうしたのかなと思ってたら、しばらくしたら小窓が開いて、神父さんの荒い息遣いだけ聞こえるんです。神父さん、後ろ向いて、震えてる。爆笑したいのを必死にこらえてたんですよ。
僕の次が父親だったんですが、その時はまだ顔が包帯ぐるぐる巻きでね。で、父親がまた野良犬の話をしたわけ。もう、神父さんも限界みたいで、こまめに小窓が閉まる音が外まで聞こえるんです。
そのたびに父親のでっかい声が聞こえましてね。「神父さん、どないしたんですかぁ。神父さん?」って。もう、ご本人登場ですからね。僕がフリになってますから。
で、ついに父親が外に出てきて「いかん、神父さんが大変や。様子が心配だから見てくる」いうて、裏から神父さんのいる部屋に入って行った。そしたら、ヒーヒー言っててね。息できないくらい笑って苦しくなってたみたいで、思わず神父さんのほうから「もう、許してくれー」と赦(ゆる)しを乞うてました。
-はははっ、神父さんも大変ですね。それでは最後にこれからの活動予定を教えてください。
大城 とにかく、姉貴に言わせれば、僕のプチブレイクは54歳。長いなぁ~。昨日、麻生太郎さんの物真似をしながら「X JAPAN」の『紅』を歌うというネタが完成したので、是非、TVのオーディションにいきたいです! 本当に、僕に関わる全ての皆さんに感謝です。頑張りますね。
(取材・文/長嶋浩巳 撮影/八坂悠司)
■チャンス大城(ちゃんす・おおしろ) 1975年生まれ、兵庫県尼崎市出身。中学3年時に大阪NSC入り。同期には千原兄弟、FUJIWARA、バッファロー吾郎がいるが退所し、定時制高校に通う。その後、再び大阪NSCに入るも、また退所。その後、親友に背中を押されて上京。現在、地下芸人として注目されている。