アンダーグラウンドで儚(はかな)い輝きを追い求める“星”たちを描いた注目の作家・渡辺優さん アンダーグラウンドで儚(はかな)い輝きを追い求める“星”たちを描いた注目の作家・渡辺優さん

会社の同僚と初めて行ったライブで「地下アイドル」にハマった40代独身OLの夏美が、無謀にもいきなりアイドルのプロデュースに挑戦することを決心したのはなぜ…!?

そんな夏美の元に集まった、ワケありのメンバーたち――所属するグループが解散して行き場をなくしたカエデや、「天使」を自称するいじめられっ子、女装男子など人生の主役になれない若者たちの居場所探しとは?

2015年に小説すばる新人賞を受賞しデビュー、注目される作家・渡辺優の3作目となる『地下にうごめく星』は、軽快な文体からライブハウスの熱気や恋にも似たアイドルへの想い、そして現代の若者の抱える閉塞感がリアルに伝わる青春小説だ。

舞台は、作家自らが住み続ける地方都市・仙台。そのアンダーグラウンドで、儚(はかな)い輝きを追い求める“星”たちを描いた理由などを聞いたインタビュー前編に続き、自身が作家になった動機までを伺った。

-デビュー作の『ラメルノエリキサ』もそうですが、歪んだ心境や暗い気持ちを綿密に書かれている割に、読後感がいいのが不思議です。それはポリシーとして?

渡辺 あまりに全てが幸せに終わるものは記憶に残っていない気がして、状況はともかくその人の気持ち的にハッピーならいいかなって。基本的にハッピーエンドが好きなのもあるんですけど、書いていて悲しい話だとやっぱり辛くなってくるので(笑)。できればポジティブな気持ちになれる作品にしたいというのは最初からありました。

特にこの作品は、地下アイドルのドロドロしたネガティブな世界を書こうとすれば、もっと暗いネタはたくさんあると思うんですけど、自分が惹かれたのはそうじゃない部分だったので。そういう自分の希望もあって「だからアイドルに惹かれるんだ」というポジティブな気持ちに寄せて書きました。もしもこの登場人物と近い、辛い状況にある人が読んで癒やしになったら、それは最高だなと思います。

-登場人物の台詞もリアルで、例えば夏美の「自分が幸せなだけじゃ幸せじゃなくなる」という台詞に共感できる人も多いと思います。

渡辺 それは自分が実感していることでもあるんです。最近はおいしいものを食べても「飽きてきたな…」とか(笑)。日常の中の幸せって、味わったことのあるものが多くなってきて「この感覚は初めて!」とかは、もうそうそうない。まだ全然やり尽くしてはいないとわかっていても、閉塞感のような停滞している感覚があって。そんな時に地下アイドルを観てすごく新鮮に感じたんです。

-登場人物の個々の背景にはネグレクトやリスカ、結婚しない女の生き方など社会的な問題もはらんでいますが、そういうのも常に気になっている?

渡辺 それはあるかもしれません。世代的にかもしれないですけど「暗いのが基本」みたいなところがちょっとあるので(笑)。高校時代は「大人になりたくないな」「働きたくないな」と思っていたし、基本的に鬱々(うつうつ)とした性格ではあると思います(笑)。

-希望のない話題の中で育ったような?

渡辺 普通に幸せに生きてる人なんているのかなとは思っていて、私も生まれた頃から不景気世代ですけど、今の10代のコたちってますますそうなのかなって。

この中だと翼くんという男のコは就職したくない気持ちが強い。就活は辛いし世の中はブラック企業だらけだし(笑)。そういうのが常識という空気の中で生きていたら、社会人になることに希望が持てないよなって。世代的に「ものすごいことは起こらないだろう」という諦念的なものはあるような気はします。

自分が小説を書いていることにびっくり

-でもご自分は3年前にすばる新人賞を受賞し作家デビューという、ものすごいことが起こり、新しい世界が開けています。

渡辺 それは本当によかったと思います(笑)。それがなかったら本当にぼんやり生きていただろうなって。高校を卒業したら大学に行き、就職してという。なんとなく段階が見えてしまう…それが幸せな人生でもあると思うんですけど、何か刺激が足りないという気持ちは常に抱いていたので。3年前にデビューしたのはすごく面白い出来事で、何か目が覚めた感じはしました。

-プレッシャーはなかった?

渡辺 ありましたね…。でもその時は本当に新しいことばかりが起きたので、慣れるので精一杯、気にしたところで…というのもあるかもしれません(笑)。

-そもそも、小説を書き始めたきっかけは?

渡辺 翻訳の専門学校に行っていたんですけど、翻訳が苦手であまり向いてないんじゃないかと思い始めていて(笑)。じゃあ自分で書いてみようかなって5年前から書き始めました。

-そこからトントン拍子ですね。作風的にはライトノベルでも良さそうな題材ですが、小説という形を選んだのは? 

渡辺 ずっと小説を読んできたから小説になったという感じです。もしライトノベルが書けたらそれでデビューしたかったかもしれないし、映像が撮れるなら映画監督だったかもしれない。この形で表現したいというより、自分が一番馴染みがあるものという感じで。

-自分では作家に向いてると思いますか?

渡辺 うーん、読者としての時間のほうが長いので、いまだに自分が小説を書いていることにびっくりします(笑)。

-すでに3冊も出されてますけど(笑)。

渡辺 そうですよね、いい加減、しっかりせねばとは思うのですが(笑)。

すごくハマる気がします(笑)

-マイペースに歩んでいくと(笑)。仙台を拠点にされて、今回の舞台も地元ですが。東京に出たいという気持ちは?

渡辺 なかったですね。アイドルのライブ等は東京でしかやらなかったりするので、わざわざ新幹線に乗って行かなきゃいけない不便さはあるんですけど、それでも仙台に残るメリットがまだ大きくて。家賃もすごく安いとか(笑)。

-最初にお話ししたセンダイガールズもありますが、女子プロレスなんかも題材として興味はいかがですか!?

渡辺 すごく興味が出てきました。行きたいです。観ちゃったら、すごくハマる気がします(笑)。

-それは是非! では最後に、次回作のことなど展望を教えてください。 

渡辺 題材としてはチャレンジしていく部分もありますけど、書いている時の気分としては、楽しいほうに自動的にいってしまうので変わらないかな。楽しくない時は読み直した時にその部分を消してしまうことが多いので、そのほうが読んでもらう方にも楽しいのかなって、素朴に思ったりしています(笑)。

読者としての時間のほうが長くて、自分が何を書きたいのか、何を面白いと思うのか、まだ把握できていないところもあるので。これっていう専門を決めるより、まずは幅広くやっていきたいと思います。

(取材・文/明知真理子 撮影/五十嵐和博)

渡辺優(わたなべ・ゆう) 1987年、宮城県生まれ。大学卒業後、仕事のかたわら小説を執筆。15年に『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。17年、『自由なサメと人間たちの夢』に続く、3冊目となる『地下にうごめく星』を3月26日に刊行。