ニュー新橋ビルの地下に続く階段にあるすてきな看板。「味な店」って表現が好き

『週刊プレイボーイ』本誌で連載中の「ライクの森」――。

人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

今回は、建物好きな彼女がサラリーマンで賑わう「ニュー新橋ビル」への思い入れを語ってくれた。

* * *

地震の速報が出るたびに、「私の住んでる街は大丈夫かな?」と気になりますよね。先日、東京都内の大型商業ビルの耐震診断の結果が発表されました。なかでも、“震度6強以上で倒壊の危険性が高い”と診断された建物のひとつが「ニュー新橋ビル」です。

1971年に竣工(しゅんこう)した当時は、最先端のビルだったようです。網の目のような独特の外装は、日の傾き加減で見え方が変わってすごくすてきです。中の階段の辺りの内装も凝っていて、建物好きにはたまりません。

何より、ビル全体に漂う“闇市感”。実は、この一帯は戦後日本最大の闇市といわれた「新生マーケット」があった場所で、ニュー新橋ビルもその猥雑(わいざつ)な雰囲気を受け継いでいるんです。館内には数え切れないほどの店舗が入っていて、サラリーマンのお父さんを中心とするお客さんたちで今でも賑(にぎ)わっています。

ここの近所に住んでいた頃、私もよくお世話になったのがグルメ。オムライスが絶品の「むさしや」や、昔ながらのナポリタンを出してくれる「喫茶店POWA」、牛カツを超レアで食べられる「牛かつ おか田」など、老舗の名店を挙げればキリがありません。ここ数年で「チャーハン王」などの人気店が出店し、炭水化物天国の様相を呈しています。

おなかがいっぱいになったら、ぜひ喫茶店「フジ」へ。大きな富士山の絵が飾られた“ザ・純喫茶”という趣のお店です。でも、いつの間にか電源とWi-Fiが完備されていたのには衝撃を受けました。もはやスターバックスも顔負けです。

ゲームセンターが5、6軒固まっているゾーンもあります。なぜかどこも古いゲーム機を置いていて、私も以前、初期の『電車でGO!』を見つけて遊んだことがあります。たぶん狙って古いものを置いているというよりは、機体を入れ替えなかった結果、レトロ風になったんじゃないかなという気がします。

ビル全体で区分所有者は300以上

趣味系では「交通趣味ギャラリー」というお店もあります。ここは鉄道グッズのショップで、電車の表示板、記念切符、その他グッズが所狭しと陳列されています。その様子は、マニアが見ればお宝の山、そうじゃない人から見るとゴミ屋敷に見えるかもしれません(笑)。

その他、青汁系の種類が豊富なフレッシュジューススタンドや、ボーッとするにはうってつけの屋外テラス、そしてパチンコ屋まであります。

……さて、お気づきでしょうか。このビルには、サラリーマンの皆さんが会社をサボって一日過ごすためのものがすべて詰まっているんです(笑)。なんなら、マッサージ屋が占拠するフロアもあるので、サボり疲れた後のシメまで完璧です。ただ、廊下で客引きをされるので怪しさ満点ですが……。

このニュー新橋ビル、5階から上はオフィスや住居になっています。そのそれぞれに個人オーナーがいるので、ビル全体で区分所有者は300以上になるそうです。

耐震化がなかなか進まないのは所有者の意見がまとまらないからだそうですが、改修や建て替えを行なっても、この闇市っぽい猥雑さは残してほしいですね。

●市川紗椰(いちかわ・さや)1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、MBSラジオ『市川紗椰のKYOTO NOTE』(毎週日曜17:10~)などにレギュラー出演中。倒壊の危険性が高いと診断されたビルの中には、紀伊國屋ビルディングや六本木共同ビルなど好きな建物も多い