絵に興味を持ち、現在、クラウドファンディングでイラスト&エッセイ集出版プロジェクトを立ち上げている鈴木杏さん

あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ“友達の輪”を!とスタートした『語っていいとも!』

第59回のゲストで歌手・俳優の中村中(あたる)さんからご紹介いただいたのは女優の鈴木杏さん。

子役時代から活躍、「ポカリスエット」のCMなどで注目されると、96年にドラマ『金田一少年の事件簿』、翌年には『青い鳥』と話題作に出演、順調にキャリアを積み、03年の映画『花とアリス』では蒼井優とのW主演でも高い評価を得る。

その後も舞台で多くの実績を重ねるなど実力派の仲間入り、愛らしいイメージだった“杏ちゃん”も大人の女優として幅を広げているが、30代を迎えた今、その仕事観やプライベートでの素顔とはーー。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)

―実はだいぶ以前にインタビューさせていただいたことがあって…。その最後が『花とアリス』の時に蒼井優ちゃんと岩井(俊二)監督と3人で対談してもらったんですけど。

杏 そうですか。小猿時代ですね(笑)。

―小猿ってほどでも(笑)。2004年公開ですから17歳くらいですか。…まぁ子役時代からお仕事でインタビューも数多受けて、いちいち記憶がね(笑)。

杏 なんかもう、10代の頃は記憶がほとんどなくて(笑)。

―次から次へ通り過ぎていってる(笑)。あと映画の試写室でもお見かけしたことが…。

 一時期、映画を観てその作品について語るという企画を雑誌でやっていたので、その頃はよく観に行ってましたね。大体ひとりでフラッと、演劇もそうですけど、フラっと行って。

―お見かけしつつ、いちいち声かけられるのもウザいだろうなと遠慮してました(笑)。

 あははは、ありがとうございます(笑)。

―でもほんと『花とアリス』から14年も経ってるなんて、あっという間な…。

杏 そうですね。撮影時は16歳だったので、優ちゃんが私の2コ上で…。

―それが3年前にはアニメ化もされて。『花とアリス殺人事件』も同じキャスティングでね。

杏 もう性格も声もずっと図太くなったふたりが中学生をやるっていう(笑)。でも面白かったです。花とアリスを待ってくださる方がたくさんいらっしゃったんで、愛してもらってる作品なんだなぁって改めて思いました。

―作る側も観る側も同窓会みたいな(笑)。評判もよかったですよね。

 実写で出てるよりはすごい純粋に楽しんで観れるから、私自身、アニメいいなぁって思いました(笑)。

―またアニメでも岩井監督の多才さというか、なんでもできちゃうねっていう(笑)。

 ねぇ~ほんとですよね。

―実は岩井さんが僕の高校の先輩なんですけど。一応、後輩として認識されてるはずで(笑)。やっぱり『花とアリス』以来、ちょっと前の『リップヴァンウィンクルの花嫁』で久しぶりにお話させてもらって…。

杏 あ、そうなんですね。『リップヴァンウィンクル~』も素敵でしたね。大好きです、あの映画。

―そこで黒木(華)さんの泣き顔というか、泣きじゃくるのがすごい自然でよかったですねって話になって。『花とアリス』で蒼井優ちゃんのクシャミがすごいイイって絶賛したのに匹敵するよねと…。

 あ~クシャミ! そうなんですね(笑)。

―杏ちゃんの話題じゃなくてごめんなさいですが(笑)。でも当時の3人の対談でも、そのクシャミ話で盛り上がったんですよ。監督と杏ちゃんと僕で、あのクシャミはできないみたいな話をして。

 あははは(笑)。いやぁできないです。優ちゃんのクシャミはできない…。なんかでも、どっかでそういう優ちゃんとセットな部分は大っきいから。

「元々すごく動物的なのかもしれないです」

―杏ちゃんといえばで、それを時々思い出すんですよ(笑)。そしたら、また巡り巡って、こうしてお話する機会が…。

杏 巡り巡って(笑)。(中さんの前の)學さんの回は読みました。あのまんまな感じでイイですよね。

―怖い人だと思ったら気のいい浪速のおっちゃんで(笑)。ちょっと女性が心許しちゃう感じですよね。

 そうです、優しい人ですから。ズルいですよね、あの感じはね(笑)。私も學さんにはずっと可愛がってもらってて。

―実は學さんと中さんの繋がりも杏ちゃんキッカケだそうで…。留学する際のパーティーで紹介されたとか。

 そうか、あれが最初だったんでね。いつ初めて会ったとかって、結構忘れちゃうから。繋げたほうはそういうのありません? そっか、あの時だったのかぁって。

―學さんが描く絵の女性像が中さんのイメージだったという。やっぱり思えば叶うんや~と仰ってましたが(笑)。まさにキューピッドですよ。

杏 ねぇ~面白いです。よかったです、人の役に立てて(笑)。最初は私も『憑神』という舞台をやった時に學さんがアートディレクションされてて。大阪松竹座で1ヵ月くらい公演をしたんです。で、學さんは大阪だからしょっちゅう劇場に遊びに来ていらして、その制作部屋の真向かいの楽屋で、私もしょっちゅうゴロゴロしてて。

で、その隣同士の楽屋で暖簾(のれん)の下の部分が空いてるんですけど、向こう側でゴロゴロ~っとしてる學さんと目が合うっていう感じで(笑)。

―そう、本人もそんな感じでゴロっとしてたら目が合ってと仰ってました(笑)。

杏 それでよく話すようになって。東京で個展やられる時にも私が入り浸ったりするようになりました。

―なんかそれ自体、映画かドラマみたいな。ゴロっとしてて、目が合ってみたいな映像が浮かびます(笑)。

 ふふふふ、そうそう。いつも「あ~」って言って…だらけてただけなんですけど(笑)。

―そういう入り浸ってとかゴロゴロも愛らしいというか。すごく杏ちゃんらしいような…。なんかずっと杏さんじゃなく、杏ちゃんっていまだに言うのも失礼ですけど(笑)。

 あ、いえいえいえ。杏ちゃんでいいです(笑)。

―ではお言葉に甘えて(笑)。なんか、そういう出会いとか繋がりも杏ちゃんのキャラとしてすごく多いんだろうなと。

 そうなんですかね…。もちろん役者のお友達もいますけど、最近は異業種の友人も増えてきて、それが面白いです。ほんとに飲み友達とかそういう感じなんですけど。やっぱりなんだかんだ人の繋がりで流れていくし、そのご縁ってすごい狭いところで回っていることが多かったりするから。

―こちらのイメージとしては、僕なんかどうしても1番最初の『青い鳥』での印象が原点というか。あのドラマはすごい好きで、子役で出てたのが10歳ですか。オープニングで電車からトーンって降りてくるシーンの屈託のなさっていうか、愛らしさが今も変わらず続いてるような…。ああいう素の感じが周りからも受け入れられてるのかなと。

 あ~…中身はまんまですね、たぶん。大して変わってないというか、成長してないっていうか。でも、なんか元々すごく動物的なのかもしれないです、人と出会った時なんかも。あ、この人は楽しそうだなとか、ちょっと面倒くさそうだなとか単純に嗅覚で嗅ぎわけてる気がして(笑)。

で、歳を重ねていけばいくほど時間も限られてくるんで、なんか楽しそうだなって思ったところにしか行かなくなって。ちょっとでも緊張しそうだったり、伸び伸びできなさそうなのはいいやと思って。

「ずーっともがいてた時期が長かった」

―それで楽になれてるというか、楽にしていった感じ? まぁ子供時代からのキャリアでいったら四半世紀くらいな…。それだけ注目されて、ずっと抱えるものもね。

 そうですね。…でもなんか、いい意味でも悪い意味でもたぶん鈍感なんだと思うんです。やっぱりちょっと鈍感なほうが楽だし、楽しめるっていう(笑)。

―ははは。まぁいろんなことに神経質だったり繊細すぎると大変ですよね。

 そう。やっぱりいろんなことをお仕事でも経験して、いろんな役を演じたりとか人と出会って、すごく頭でっかちになってた時期もあったと思うんですけど。そうすると自分の元々持ってた感覚が薄れていって、柔軟性がなくなっていくみたいなことを通り越した時に、それこそ絵を描き始めて。

30歳を迎えたタイミングから、また元に戻っていった感覚が強くて。やっぱり子供の頃からやっていて、技術と同時に鎧(よろい)みたいなものを着けていたと思うので…。

―ずっとそのままじゃいられないみたいなのはあるでしょうしね。もちろん歳とともに葛藤もあって、端で感じなくても影の部分も自分で内包したり…。

 殻を着けていったのも自分を守るために必要だったものなんですけど。段々、その鎧があるとできることが限られ始めて。で、どうやったら外れるんだろうって考えた時期が20代後半にあって。30代に差しかかるぐらいから徐々に取れるようになって、また幼少期の頃のすごく動物的な感覚に戻ってきたっていう。

―20代後半で、割と最近ですよね。鎧を剥ぎとって削ぎ落とすみたいな…。

 なんかそのサイクルの中にいるんだと思いました。やっぱり自分のお芝居もこう…感覚でしっくりくるかこないかみたいな。すごい漠然としてるんですけど、でもそのほうが頭で考えてどうこうするよりも確かだったり。プライベートの人間関係で人と向き合う時もだし、素直になったほうが早いよなっていう。友達でも家族でもそれは大きいと思います。

それと今、絵を描き始めて、そのひとりの時間でリズムができていったのも、どこか強く作用してるんだろうなぁって。なんか写経に近いんですけど、没頭するっていう…。もちろん最初は外に向けるために描いていたものじゃなかったので、ただ自分のためにっていうのがたぶん大きかったんだと思います。

―その絵の話が出たタイミングで、中さんからのメッセージを紹介しますね。ちょっと長いんですが、そのままお伝えして…。

お元気ですか、杏ちゃま。去年の頭くらい、読売演劇大賞の最優秀女優賞受賞を祝った時ぶりですね。今度、画集を出すのよね、楽しみです。すごく頻繁(ひんぱん)に会っていた頃に、杏ちゃまが「仕事と仕事の合間に不安になる」って話をしてくれたの覚えてますか? その時、私は本を書いたら?とか、何か時間を埋められたらいいよねって、思いついたことを言っていたんだけど、杏ちゃまは自ら見つけましたね! ここを介してメッセージ送るのは不思議な感じだけど、手紙は楽しいですよね。そういえば、杏ちゃまが撮影か何かの旅先から手紙を送ってくれて、そこにも可愛くて奇妙なモンスターみたいな挿絵を書いてくれていました。あれは私だったの? 杏ちゃまだったの?

 覚えてないな~、どんなの描いたんだろう(笑)。その前にも描いてはいたんだと思うんですけど、ちゃんと描き始めたのが2016年で、その脱出するしないぐらいの時期だったと思います。

―ほんと意外に遅い印象というか。子役を脱皮する10代とかではないんですね。

 ずーっともがいてた時期が長かったんだと思うんですけど、20代のほとんどがそうなんで…でもみんなちょっと不安定というか、もやもやしてたりしませんか? どの職業でも20代って。

―高校や大学を出て会社入ってとか、わかりやすく変わる時期はあるでしょうけど。役者の世界で早くからやってると、周りは大人ばかりだし、その中で遮二無二走り抜けてね。

 そうですね、はい。早くから始めたんで、演劇でもやっぱりやりながら教えてもらうっていう時期がずーっとあって。もちろん、まだできてないことはありますけど、ある程度いろんなことができるようになってから苦しくなった感じかもしれないです。

―子役からやってきた人たちは特にテクニカルなものとか、それこそロジックな演技論を身に纏(まと)うとそこで壁にぶち当たっちゃうのも多いそうで。どうやったら素のまま自然にそぎ落とせるの?って、その鎧をまた剥ぎ取るみたいなね。

 言葉を明瞭に伝えることができるようになったり、感情の出し方もわかってきて。空間の使い方でもテクニックはもちろん必要だし、それがないとできないことってたくさんあるんですけど。でも、できることが増えるってことはできないことが増えるのと一緒だし…そういうことを繰り返して、なんか30になって腑に落ちたっていうか。

それが吹っ切れたのは、自分っていう枠は超えられないってことに諦めがついたからなのかも(笑)。自分よりももっと優れたものになろうとしてた時期が20代だったと思うんです。それはそれで目指すべきことだったんだと思うんです、自分の枠を広げるっていうか。でも背伸びするのと踏ん張るのとは違うので、すごい背伸びしようとしてたなって。

それよりも自分のままで踏ん張ることが大事になってくると、なんとなく感覚的にわかってきた時に、この枠が変えられないならどうやってそこを豊かにしていくか、ちゃんと向き合っていかないと駄目だと感じて。

―それこそ脱皮するというよりは。自分という器を客観的に見つめ直して?

 30になって、できないことはそうそうできないっていうか、変えるのが難しくなっていくっていうじゃないですか。でも、できないことがあるのはそんなに悪いことでもないんじゃないかなって開き直ったという言い方もできるんですけど。

できないことはなるべく減らしたほうがいいけど、まぁとりあえず置いといて。できることを広げていこうっていう風に…それが開き直りというか、吹っ切れたというか…。

―いい意味での諦念も含めてね。

 そっちのほうがいいなぁって。頑張ることと無理をすることが同義語だったのが分かれて、全然違うことなんだって理解して。

―ちなみに今回、改めて認識したんですけど、血液型はB型なんですよね?

 はい。すごくB型なんです(笑)。

―すごくB型(笑)。やっぱりその屈託のなさだったり大らかさは原点にそういうのもあるのかなって納得しちゃったんですが(笑)。

 そうだと思います。なんか、そういう“ケセラセラ感”が強くなってきてる気がします。

―あるがままにというか、人生、なるようになるみたいな?(笑) でも、それこそ早いうちからデビューして、次から次へといろんなコも後から出てきて、追いかけられてる自分とか、そこに焦りだったりもあって当然だと思いますが。他人と比べての劣等感や妬みみたいなマイナス感情は持たないタイプ?

 いや、ありますあります。全然あると思うんですけど…なんかその時期に演劇をやってたのがすごいよかったのかなって。いい具合にまた自分の畑を耕すみたいな感じで。今、特にそう思います。

―そこで刺激も受けて? 年上の人とか見ても、いろんな人がいますからね。いちいち周りを気にしててもやってられないやっていう…。

 疲れちゃうからっていうのはあります(笑)。そういう感情を持っておくほうがいいこともあるとは思うんですけど、なんか違う方向にぶれちゃうタイプなんで。人と比べたりすると、自分の本質から離れてしまう気がする…上手く言えないですけど…。

―それこそB型の本質的にはそういうジメジメした感情を持ってる自分がイヤっていう…。

杏 それはそうですね。気にするとキリがないから、一度放っておく…。そこにあんまり視線を注ぐのはやめようみたいな感じかも(笑)。自分は比べてないと思ってても、やっぱり外からは比べられる世界だと思うので。

―アスリートの世界なんかも特にそうですけど、記録とか勝ち負けでわかりやすく判断されるのとも違いますしね。

 芸能もそうだし、どこの世界も同じかもしれないですけど、みんなそれで苦しむじゃないですか。だから自分の人生だったり、その感覚的なものはあんまり他人に委ねちゃいけないなって。そのグジグジしたところに目線を置いてる場合じゃないなとも思うので。

だったら、いかに犬を可愛がるかとか、友達に美味しいご飯を作れるかとか、いかに健康でいるかとか…そういう時間に費やしたいって考えるようになって。

●この続きは次週、6月24日(日)12時に配信予定!

(撮影/塔下智士)

■鈴木杏(すずき・あん)1987年4月27日、東京都生まれ。1996年にデビュー、子役として注目を浴び、その後もTV、映画、舞台などで幅広く活躍。2016年には舞台「イニシュマン島のビリー」「母と惑星について、および自転する女たちの記録」で第24回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。近年の舞台出演作として、「欲望という名の電車」、蜷川幸雄三回忌追悼公演「ムサシ」など。31歳の誕生日を機に現在、クラウドファンディングでイラスト&エッセイ集出版プロジェクトを立ち上げた(6月29日まで)。https://www.booster-parco.com/project/381