銭湯の魅力と必要性を語る銭湯アイドル・湯島ちょこ。葛飾区の末広湯にて 銭湯の魅力と必要性を語る銭湯アイドル・湯島ちょこ。葛飾区の末広湯にて 若い世代でじわじわと広がる銭湯ブーム。まだ家庭に風呂がなかった時代、銭湯はひとつの地域に必ずあったインフラだったが、1975年前後のピーク以降、急速に減少した。そんな中、銭湯文化を再び盛り上げるため奮闘するのが"銭湯アイドル"の湯島ちょこだ。

ただ、銭湯アイドルと言いつつも本業は漫画家・イラストレーター。さらに銭湯プロデューサー、銭湯絵師の弟子...と多くの肩書も。なぜ彼女が銭湯にハマったのか、そしてなぜ銭湯の普及に勤(いそ)しむのか聞いた。

―まず伺いますが、銭湯に出合ったのはいつなんですか?

湯島 高校生の時ですね。たまたま学校見学で東京に来た時に、煙突見えたから行こって、ふらっと。それまで銭湯自体見たことなかったから、ホントに気まぐれでした。

―そこで銭湯にハマった?

湯島 そうです。銭湯で全く知らないおばちゃんに「どこから来たの?」っていきなり話しかけられたんですよ。こんな普通に話しかけてくれるの!?ってビックリしたんですけど、イヤじゃなかったので話していたら、戦争の話や最愛の人を失った話とかしてくれて、こんなに辛い思いしている人がいるのに、お風呂の中で笑っているのが羨ましいじゃないけど、いいなって。

―確かにディープな話をされるのはすごいですけど、羨ましいとなったのはなぜ?

湯島 ちょっと個人的な話をすると、私、小学生の頃からずっと女子の輪に入れなくて部活を除けば仲のいいコは1、2人くらいだったんですよ。高校の頃はそれに加えて、いろいろ事情があって母親を支えなくちゃいけなくて、ふさぎ込んでいたんです。学校も家もイヤで、人生やめることも頭によぎって。

―自分の辛さを吐き出すこともできなかったと?

湯島 はい。それが銭湯は人と人との距離感が近くて、それでいて本当に踏み入ってほしくないところは踏み入らないでもらえる場所なんだなって思って、すごく助けられたんです。自分の分岐点のような、それから自分の人生は自分で歩もうと思って。

―それで自分でも銭湯文化を広めようと思った?

湯島 社会的にも辛さやイヤな感情を開放する場所がないじゃないですか。なんでそうなっちゃうんだろうなって思いながらも、ふらっとそうなっちゃうんだろうなって思って、それなら銭湯を残しておかないとダメだなと思ったんです。

―そのための方法がアイドルだったと。

湯島 アイドルファンの方にうつ病や自閉症を持ってる人が多い印象だったんですよ、SNSのプロフィールに書いてる方も多くて。私自身の経験で銭湯が癒してくれたので、私を通じて銭湯のことを知ってもらえば、本質的に幸せになれるんじゃないかって思ったんです。

―実際にどんな活動をされているんでしょうか?

湯島 「オフろう会」という一緒に銭湯を回る会です。ひとつのエリアで銭湯を3,4軒はしごして、食事会という流れですね。昔は歌ったりもしていたんですけど、今はそれをメインに土日で開催してます。あとは今後、知名度が上がったらトークショーとかもやろうとは思ってます。

―SNSでは銭湯グラビアも展開していますけど、そこに抵抗はなかったんですか? ましてや本業は漫画家ということで。

湯島 イラストで描くよりも若い女のコの自撮りのほうが評価が高くて、悔しいと思ったんですよ。でも、それで自分の好きなものをアピールできるんだったら結局、銭湯知ってもらえるきっかけになるし、それが一番早いなと気付いたのでやってしまおうと。

―すごい合理的ですね。それなら脱ぐのも厭(いと)わないと。

湯島 批判もありますけど、見てもらうことすらなかったら存在しないのと一緒じゃないですか。まず見てもらうことが大事。これしかやらないって決めちゃうと見てもらえる可能性も下がるし、それで銭湯を知って行ってもらえたら、一番やりたかったことなので仕方ないなって。

―銭湯プロデューサーというのはどういったことを?

湯島 いまは地方の銭湯が集客に悩んでるらしくて、プロデュースしてほしいって言われています。あと、高校生たちが部活の帰りに掃除手伝ったりしたら1週間だけ無料にするとかそういったアドバイスしたりしてます。

―東京でも銭湯が減っている中、地方はなおさら困窮しているでしょうね。

湯島 地方銭湯の場合、一番困るのは銭湯っぽくない外観なんですよ。相談受けたところは民家で暖簾(のれん)もなかったり。交流の場だけでなくて何かあった際の貯水場にもなるので、なくなってしまうのは問題なんです。震災の時に全部の家のガスと電気止まったじゃないですか。銭湯だけは薪で沸かしてたので、廃業しようか悩んでる銭湯に1千人くらい押しかけて、お金ももらわずに入れてあげたっていう話もあるんですよ。だから、なくなると困るんです。

―先日の大阪でも、地震で断水に遭った住民が銭湯に集まっているという報道があり、その価値が見直されていましたね。では、銭湯絵師に弟子入りというのも存続のためですか? 確か今、もう3名しかいないって...。

湯島 追っかけのように丸山清人さんとう銭湯絵師の方の仕事風景を撮影してたんですけど、冗談で弟子になるかって。それを真に受けて、本当に丸山さんたちがいなくなっちゃったら銭湯の壁に絵を描く人がいなくなるので、自分にその技術があればと思って弟子入りしました。

―冗談を真に受けてって(笑)。実際に描かれていないんですか?

湯島 銭湯絵師になりたい!ってのはないんですよ。ペンキ絵がなくなる銭湯は見たくないと思っていて。だから今は自分で丸皿のようなキャンパスに描いたり、銭湯の方にお願いされた場合は背景以外のところに描いてはいます。背景を書き換えるのは当分先ですかね。現役の方に書いて欲しいです。

―今度7月には個展を開催されると伺いましたが、それもキャンパスに描いたもので?

湯島 そうです。大阪で行なうんですけど、関西って銭湯壁画の文化がないんですよ。お風呂に入りながら富士山を見るっていうのは都内だけの文化なんです。だから銭湯に富士山の絵などを展示します。

―いろいろとやられていますが、本業を圧迫はしていないんですか?

湯島 表に出ない銭湯の活動も多いので、漫画の依頼をされているんですけど、描けていなくてどうしようかなって。

―漫画もやはり銭湯モノですか?

湯島 仕事としては広告漫画しか描いていないんですけど、同人では銭湯モノも描いてます。ただそっちも最近描けていなくて、グッズのイラストより漫画を描いて欲しいって言う人もいたりするので、複雑な気持ちだけど嬉しいですね。

―では、最後に改めて銭湯の魅力をお願いします。

湯島 銭湯で出会う人って、基本的にはそこでしか会えない人たちが多いので、ある意味、気を遣わなくていいじゃないですか。悩みを喋っても継続して相手に負担かけないし、だからすごくホッとできるんだと思います。このまま銭湯文化が残って、いろんな人に知ってもらえたら嬉しいし、そのために私はできることを頑張っていこうと思います。

―今日はありがとうございました。

■湯島ちょこ(Yushima Choko)
漫画家、イラストレーター、銭湯アイドル、銭湯プロデューサー。22日には『有吉ジャポン』(TBS系 0時25分~)出演。7月4日(水)、大阪の銭湯「あべの橋」にて個展開催。クラウドファンディングにも挑戦中。詳細は公式Twitter【@bittersweet_423】、公式ブログ【https://lineblog.me/yusima_choco/】にて

■末広湯
住所:葛飾区宝町1-2-30 TEL:03-3693-3310 営業時間:16~23時 定休日:火曜 アクセス:京成線「お花茶屋」駅下車、徒歩10分 HP:http://hp1.cyberstation.ne.jp/kera/