昨年、結成20周年を迎えた3人組の音楽グループ、空気公団。彼らが、最新アルバム『僕の心に街ができて』を5月にリリースした。

日々の暮らしの風景を叙情的な歌詞と美しいメロディとで細やかに描いた傑作。瑞々しさ溢れるサウンドは、これからの季節にぴったりで、普段、アイドルの楽曲に親しんでいる読者にも是非とも聞いて欲しい1枚だ。

そこでリーダーの山崎ゆかり(作詞・作曲・歌)を直撃! 20年を振り返ってもらいつつ、ミュージシャンとしての現在の心境までを語ってもらった。

―ニューアルバムを聞かせていただきましたが、素晴らしすぎてヘビロテしています。

山崎 ありがとうございます。今回はメンバー3人だけで作りました。いつもはいろんな方に力をお借りしているんですけど、それがないことで自分たちの音だけにこだわれることができました。

―ある意味、今の空気公団がダイレクトに表現された1枚だと。何かテーマはあったんですか?

山崎 ジャケットを描いてもらった志村貴子さんの絵――強く淡い女性のイメージが最初にあって。そのうちアルバムタイトルが浮かんで、みんなの中でより膨らんでいった感じです。

―曲はどれもピアノなど生楽器をメインにした瑞々しさいっぱい。活き活きとして新たな季節の訪れを感じます。最初にできた曲は?

山崎 「美しい重なり」という曲ですね。過去に捉われてばかりいると新しいものが見えなくなる。過去が重なっていくのが今だろうって歌で。そこからイメージが広がりました。

―では、特に印象的な曲というと。

山崎 「君は光の中に住んでいる」って曲。昔から、死んだ人は光の中にいると私は思ってて。で、君は死んでるんですけど、ペンダントの光の中にいて僕を励ましてくれるって曲なんです。

―どの曲も温かみがあるというか。ゆったりしたリズムも生音の心地よさに拍車をかけますね。

山崎 音の中に「空気」を入れたいんです。それって聞く人が思いを巡らす時間でもあって。歌詞を耳にして、何か考えたり、自分に置き換えたり。そういうのが楽しいと思うんですね。あと、音程などは誤っていてもそのまま録って出しています。

―普段は皆さん、こだわりがある分、録り直ししますよね。

山崎 はい。でも突き詰めていない良さもあるというか。よりリアルに聞こえるかなと思っています。

―20周年を経て、このアルバムで21年目のスタートをきる空気公団ですが、元々はどんな経緯で結成されたんですか?

山崎 ずっと音楽の専門学校に行ってたんですけど、意味を感じられず、3年生の時やめちゃったんです。で、学校なくなったし、バンドやろうって友人に声をかけて結成しました。最初は音楽だけ聴いてほしくて、曲は作るけどライブをやらずにいました。ライブは不毛だと思ってたんです。

―20年前はちょうとバンドブーム真っ盛り。ライブをやって当たり前でしたよね。なのに不毛って(苦笑)。ではライブ経験、ゼロ?

山崎 いや、アンティノックってところで一度やりました。

―そこ、BRAHMANとか出てたハードコアの聖地ですよね。

山崎 店内にドクロがありました(笑)。ライブハウスってオーディションが要るんです。でも受けたくないから、オーディションがない場所を探して、見つけたのがそこで。次にライブをやったのは6年後です。

―その時はどんなライブを?

山崎 幕を下ろして、その後ろで演奏しました。で、カメラを回しながら演奏風景をその幕に投影して。1日3回やったんですけど、ただビデオを流してるだけなんじゃないかって勘違いして帰る人がいたので、最終回は表に出ましたけど(笑)。

―当時、雑誌の取材とか多かったんじゃないですか。

山崎 いや、どこも取り上げてくれなかったです。なので自分で冊子を作って、お店に置いてもらいました。あと地域限定のカセットを作って、それを売ったり。

―悉(ことごと)く尖ってますね。そもそもバンド名自体がすごく個性的です。

山崎 その頃、横文字のおしゃれなバンド名が多かったから、敢えて違うものにしたくて。でも漢字のバンド名ってメタルなどに多かったから、そっち系だとよく勘違いされましたけどね(笑)。

―ライブしないとか、自身のメディアを作るとか、日本語のバンド名とか今は普通ですよね。時代を先取りしてたのでは?

山崎 どうでしょう。でも確かにレールの上は歩いてなかったと思います。みんなと「ここに道があるかも」と思いながら草むらをかきわけ、進んでいた感じがしますね。

―20年の活動の中では、メジャーデビューやメンバーチェンジなどいろいろあったと思うんですが、転機というと?

山崎 特にないかな。私は空気公団を育てている感覚なんです。CDも自分が産んだ曲を里親に出す感覚で。だから、バンドも人間のように3歳までは怖いもの知らずでなんでもできて、10歳から自分の引き出しが急に広がり出して、16歳過ぎたら自分で自由にやれるようになって...と、自然にきましたね。

―では「音楽で食べていく」みたいな覚悟を決めた瞬間は...。

山崎 それもないですね。ただ「表現で食べていくんだ」という気持ちは、始めた時から常にあります。それは覚悟というより、ちゃんとやらなきゃって自戒というか。

―そもそも山崎さんが曲を作り始めたきっかけは?

山崎 子供の頃、エレクトーンを習ってましたけど、はっきりした原点は中学の時にふと、「今日の朝は1回しかない」と気づいたことですね。これは記録しなきゃと思って毎朝、ラジカセを窓辺に置いて、外の音を録るようになりました。親には心配されたけど(笑)。すると、同じに聞こえていたクルマの音や風の音など毎日少し違うんですね。そんな、その時だけの風景や雰囲気を録りたい想いが曲作りに繋がった気がします。

―バンド名の通り、「空気」そのものを表現したいというか。

山崎 頭の中で写真を撮っているんです。で、プリントを眺めながら曲を書いてるというか...。中でも一番撮りたい風景はグラデーションです。幸せな気分が憂鬱になっていく瞬間、明るい空間が暗くなる様子。そんな濃淡のある風景を曲で描きたいと思っています。

―でもグラデーションを音で表現するのは難易度が高いのでは。

山崎 そうなんです。強弱をつけて、音を鳴らせばいいってものじゃないですし。ただ、曲には音だけでなく歌詞や音像とかいろんな要素がありますから。それらを組み合わせて表現します。

―音楽体験はどんなものなんですか? 空気公団の曲は叙情的な詞と美しい音色から70年代シティポップを思わせる普遍的なサウンドなんてよく言われますよね。

山崎 それは...なんでしょう。普段、音楽を聴かないし、強いていえば無音かな(笑)。普遍的と言われるのは嬉しいですけど、自分ではわからないです。言葉もメロディも感じたものをそのまま出しているだけで。曲に関していえば、どの曲も出だしからラストまですべて順序立てて思い浮かばないとボツにしますね。

―そうなんですか。よくサビやリフから曲にすると聞きますけど。

山崎 いや、そこはバッサリいかないと。電車の中で思いついちゃった曲とかもなしです。

―う~ん(絶句)。頭の中の風景が完全に見渡せないと曲にしないってことですかね。あと、歌詞はすべてわかりやすい日本語で、英語のフレーズどころか、カタカナ英語も入ってこないです。

山崎 そうですね。ありふれた言葉を繋ぎ合わせることでより日常をふくよかに表現できる気がするんです。あと、英語は正しく発音できる気がしないのもあります(笑)。

―確かに日常の風景がぱっと思い浮かびます。う~ん...お話を聞けば聞くほど、徹底しているというか。バンドをはじめてから20年経って、自分自身の中で変わったなってことはありますか?

山崎 自分の中では変わらないですね。

―年齢を重ねると人間が丸くなると言いますけど。

山崎 「昔は尖ってたよね」とかは言われないですね。むしろ、ずっと鋭くなってる部分もあると思うんで。嫌なものは嫌だと言うし、逆にやりたいものははっきりそう言うし。自分は空気公団のスタッフでもあるんで、どう聴かせるかはシビアに考えます。

―ブレることはないと。では21年目以降のビジョンは?

山崎 今まで東京でしかライブをやってなかったので、とにかく日本中の里親をしてくれている人のところへ行って(笑)、感謝を伝えに行こうと思っています。後はそれから考えます。

―ライブを不毛だなんていっていた空気公団を知ってる昔からのファンからしたら、意外に思うかもしれませんね。

山崎 本当にそうですね(笑)。でもアルバムを手紙だと思えば、ライブはお返事をもらいにいくみたいなものですから。そんな風にツアーの意味もだんだんわかってきたというか。とにかくすごく楽しみですよ。これまでやったことがないことをやるわけですから。

―ある意味、空気公団が20年やってきたのも、そんなやってきたことのないことをやり続けられたから楽しくて続いたと。

山崎 それはそうですね。でもみんなそうだと思うんです。例えば田舎暮らしで、自分は毎日、同じことの繰り返しだっていう人でも、子供が育つ姿を見ていたりとか、同じ毎日なんて絶対ない。ちょっとの変化であっても気持ち次第で楽しくいられるんですよ。これからも毎日が新しく生まれ変わるものなんだってことを、音楽を通じて伝え続けていきたいと思っていますね。

■空気公団(くうきこうだん)
1997年結成。現在は、代表の山崎ゆかり、戸川由幸、窪田渡の3人で活動中。日常の何気ないけど大切な出来事を丁寧に切り取った良質なポップミュージックは今も多くのファンを生み続けている。

○約2年ぶりとなる最新アルバム『僕の心に街ができて』が絶賛発売中。
空気公団ニューアルバム『僕の心に街ができて』
品番:DDCZ-2197/価格:¥3,300(税込)

■ 空気公団ライブツアー2018『僕の心に街ができて』が決定。
07/07(土)千葉・cafeSTAND
07/14(土)岡山・城下公会堂
07/15(日)広島・流川教会
08/25(土)埼玉・senkiya
09/15(土)仙台・カフェモーツァルトアトリエ
09/17(月/祝)山形・とんがりビル KUGURU
09/22(土)名古屋・三楽座
09/23(日)大阪・SPinniNG MiLL
10/20(土)長野・上田映劇
10/27(土)高知・蛸蔵
10/28(日)香川・umie
11/03(土)山口・シネマ・ヌーヴェル
11/04(日)福岡・ROOMS
11/10(土)沖縄・桜坂劇場ホールA
11/16(金)京都・磔磔
11/24(土)韓国・空中キャンプ
12/16(日)東京・日本橋三井ホール
公演詳細については、公式HPをチェック!!
空気公団HP
http://www.kukikodan.com/