いま注目の女子格闘技界において、愛らしいルックスと驚異のマッチョボディを持ち、その高い実力でニューヒロインと話題を呼んでいるのが、渡辺華奈(29)だ。
彼女は7歳から柔道を始め、全日本ジュニア選手権で優勝、さらに7年間全日本指定強化選手に選ばれるなど、輝かしい実績を引っさげ、2017年末に華々しくMMA(総合格闘技)デビュー。現在(2018年8月20日)まで4戦負けなしと早速、その実力を発揮している。
そんな彼女を直撃。彼女が感じる柔道とMMAの違いとは? そして第二のキャリアとなるMMAへの特別な思いとは? 8月26日のDEEP 85 IMPACTでの5戦目(対赤林檎戦)を直前に控えトレーニングに熱の入る中、その合間をぬって、語ってもらった。
ーー昨年12月のMMAデビューから早4戦となる渡辺選手ですが、そもそも柔道から転向したきっかけは何だったんですか?
渡辺 私、7歳から柔道一筋だったんですけど、一番の転機は6年間所属していたJR東日本から戦力外通告を受けたことですね。会社から「来年からはコーチとして選手を見てほしい」と言われてしまいまして。
ーー柔道選手としての道が閉ざされてしまったと。
渡辺 会社の提案どおり、実際に3ヵ月はコーチをしていたんですけど、もうモヤモヤしかなくて......。当時は28歳で、年齢で言えば柔道選手としてのピークはすぎていたのかもしれないですけど、自分の中では「まだ力を出し切ってないのに!」という気持ちでいっぱいでした。
ーーそこで行き着いたのがMMAだった。
渡辺 総合格闘技は小学生の頃から好きで見ていたんです。PRIDEもKー1も。よく覚えているのはミルコ・クロコップ選手、エメリヤーエンコ・ヒョードル選手、あと桜庭和志選手の試合。魔裟斗vs山本KID徳郁戦なんかも食い入るように見てました。当時から「いつか格闘技をやりたいなあ」と思っていましたし、柔道の次はMMA以外に考えてなかったです。
ーーでも、MMAは柔道と違って打撃もありますよね。恐怖心はなかったんですか?
渡辺 全然。柔道もけっこう試合中にバッティングがあるのでそれと一緒かなって。友だちにも「危ないんじゃない?」と言われましたけど「そうかな?」と。試合中に打撃を食らって朦朧としたとき「あ、これは危険な競技かも......?」と思ったぐらいですね。
ーー柔道を離れたことで環境は大きく変わりました?
渡辺 生活自体がガラッと変わりました。柔道時代は会社組織の中にいたのでスケジュールは、練習内容も含めて全部決まっていたんです。でも、MMAは個々がプロなので、練習の組み立てもスケジュール調整も自分でやらないといけない。良くも悪くも全部自分に責任が来る感じですね。
ーー両方とも過酷ですけど、過酷さの種類が違うというか。
渡辺 柔道は厳しい世界ではあったけど、練習環境や生活に関しては守られていた気がします。いまは後ろ盾も何もないですけど、楽しいです。自分でやることで、成長できなかった部分が培われている実感できるので。
ーーほかにも柔道とMMAの違いって何か感じます?
渡辺 柔道に比べ、MMAは戦略的に闘うスポーツだなと思いました。たとえば柔道だと寝技になっても10秒ぐらいで立たないといけないし、立った状態でも一回展開が終わると仕切り直しになる。その点、MMAは時間が流れっぱなしなので、戦い方やペース配分を考えないといけない。言うなれば、柔道は出たとこ勝負――本能で闘う競技に対し、MMAはフルに頭を使うスポーツというか。おかげで始めた当初は頭がパンクしそうでした(苦笑)。
ーープロとして魅せるという部分も、やっぱり意識します?
渡辺 その意識もかなり変わりましたね。私に「こういう闘い方をしてほしい」「こういう技で勝ってほしい」と思ってくださる方もいると思うので、プロとしてちゃんとしたパフォーマンスを見せないといけないと思って。それは、試合だけでなく入場、退場や身だしなみも全部。でも自由に自分を表現できるのは楽しいです。"女子格(ジョシカク)"って華やかな世界じゃないですか。なんか"女子"な感じですし。
ーー柔道は"女子"じゃなかったんですか?
渡辺 柔道時代に髪を染めるなんて、もってのほかでしたから。でも、MMAは髪を染めてもいいし、試合のときは編み込みもする。同じアスリートでもアプローチの仕方が違うなって。ま、どっちも練習は厳しいんですけどね。
ーー渡辺選手は人一倍、練習量が多いそうですね。先日、出演された『ジャンクSPORTS』でも紹介されていましたが、とくに筋トレの量は常軌を逸しているというか(笑)。
渡辺 これでも減らしたんですけどね。前は毎日4時間のウエイトトレーニングをやっていたんですけど、いまはコーチに止められているんです。とにかくやりすぎだし、もっと格闘技の練習やビデオ研究に時間を割けと。だから、筋トレは1日1時間半~2時間、週4に抑えてますね。
ーーそれでも抑えてる(笑)。筋トレも柔道時代からの習慣なんですか?
渡辺 柔道時代、63キロから57キロに階級を下げて減量するようになってからですね。それまでは筋トレは好きじゃなかったし、食生活も乱れまくりで身体のことは考えていませんでした。休みの日はラーメンのガイドブックを持って1日に3件食べ歩くという、とてもアスリートとは言えない生活で(苦笑)。でも減量が必要になったことで筋トレも食事も少しずつ変えたんです。そしたら、身体は変わるわ、パワーはつくわ。やり始めたら楽しくなっちゃいました。
ーーどういう部分が楽しいんですか?
渡辺 目に見えて効果がある。柔道って練習しても負けるときがあるし、本当に自分が強くなっているかわからないんです。でも筋トレをすると100%身体が変わる。筋トレは裏切らないんですよ!
ーーそんな渡辺選手はMMAで現在4戦負けなしです。デビュー戦は2017年12月3日DEEP JEWELS18でのひかり戦ですね(2R、腕ひしぎ十字固めでの勝利)。
渡辺 JR東日本を退社したのがその年の7月末だったんですけどじつは所属ジム(『FIGHTER'S FLOW』)が開設していなくて、10月まではちゃんと練習できてなかったんです。だからデビュー戦までの準備期間は2ヵ月ちょっとしかなくて。
ーーええーーっ! それで一本勝利とは驚きです! さらに2戦目で、同年12月末のRIZIN参戦というのもスゴいキャリアですね。
渡辺 RIZINでの試合はスゴく楽しかったですね! 演出も賑やかでめっちゃテンションあがりました。RIZINには観客として何度か会場に観に行っていたんですけど、まさか自分が出られるとは思ってなかったので。実際にリングに立ったら、もう楽しすぎました!
ーーいきなりの大舞台なのに緊張なんてしないんですね......。しかも対戦した杉山しずか選手はMMAで実績あるトップ選手ですが、勝算はあったんですか?(3R、判定勝利)。
渡辺 勝てると思って闘ってました。MMAのスキルは向こうが上ですけど、自分もずっと柔道をやってきましたから。
ーーそれだけ柔道で培ってきたものに自信があると。
渡辺 もちろんです。
ーーでは、これまでの4戦で最も印象的な試合は?
渡辺 4戦目の試合です。
ーー今年6月DEEP JEWELS20での奈部ゆかり選手との再戦ですね(3R、判定勝利)。
渡辺 あんな打撃戦になった試合は初めてでした。試合後に目の下が腫れるぐらいの激しい試合でしたし、試合中も打撃をもらいながら「こんにゃろ!」と燃えましたね。勝ちはしましたけど、課題も多く見つかりました。また強くなるために練習したいなと思いました。
ーーでは、いま強化している部分というのは?
渡辺 全部です。やはりキャリアが浅いので、全体的に至らないところばかりで。中でもやはり打撃ですね。いままでも打撃をできないなかでごまかしてやってきているというか。早く"MMAファイター"になりたいです。
ーーそれにしても渡辺選手は7歳からずっと闘っているわけですよね。その根底にある闘争心の源はなんですか?
渡辺 うーん、なんだろう。生きている実感みたいなことかな。たぶん私、闘うことをやめたら、その瞬間からおばあちゃんになって立ち上がることもできなくなるんじゃないかと思うんです。それぐらい何か求めていて。だから引退後を想像すると......あー、怖い怖い怖い。
ーー闘わないことが怖いんですか?
渡辺 挑戦していない自分がイヤなんでしょうね。あとは、やっぱり世界一になりたい気持ちが強いんだと思います。それはオリンピックに出られなかったことが原動力になっている部分は確実にあります。私、柔道で道が閉ざされてMMAを始めようと思ったとき、コーチに「どこで何をしたら世界一になれますか?」って聞いたんです。
ーーオリンピックに代わって世界一になれる場所を探していた。
渡辺 何をすれば世界一として認めてもらえるかを誰かに教えてほしかったんですね。世界で一番になることへの気持ちが止められないんです。格闘技は難しいんで、まだまだできないことばっかりですけど。それを一つひとつクリアしていくのもまた楽しんですけどね。
ーーでは、いまの渡辺選手はMMAで世界一への道をたどっている過程なわけですね。
渡辺 外国人選手と闘ってみたいとか、RIZINのような大きな舞台に立ちたいとか、やりたいことはたくさんあるんですけど、目指すものが世界一だというのは変わらないですね。
ーーそのためのMMA転向だったと。
渡辺 そう、MMAには世界一になりにきました。だからこそ、筋トレでも何でもすべての力を出し切るつもりです!
●渡辺華奈(WATANABE KANA)
1988年8月21日生まれ 東京都出身 167cm 57kg
FIGHTER'S FLOW所属。7歳より柔道を始め、学生・社会人時代において多くの実績を収めた。2017年より総合格闘家へ転向。12月3日DEEP JEWELS18で総合格闘技デビューし、現在までに4戦3勝1分け。8月26日(日)にはDEEP 85 IMPACT(後楽園ホール)にて赤林檎選手と対戦する。