極真会館・松井章奎氏(右)と代官山道場の師範代・赤石誠氏(左)。極真会館が誇る熟練の達人おふたりに挟まれ、子供のように輝くドラゴン先生(中央)の瞳であった

毎週金曜日配信のWEB連載漫画『50代の☆リアル体験入門 ドラゴン先生格闘ロード』。50代・格闘技未経験の漫画家、ドラゴン先生こと岡村茂氏が、話題の格闘技道場へ実際に入門、その模様をリアルに描いた前代未聞の作品だ。

各道場それぞれで我が身を強くする武器を体得することを己に課し、プロレス(DDT)、システマ、クラヴマガ、ブラジリアン柔術の有力道場へ、次々と挑戦を重ねた。ここまで門を叩いた4道場での闘いは、指導者を驚かせるほどの適応力を見せて見事完遂。そして今、また新たな道場へ――。

この夏、55歳になった岡村氏。長くウェイトリフティングを続け、ベンチプレス135キロ、バーベルスクワット145キロを上げる強靭な肉体を誇る。漫画家界No.1の強さを自認し、リアル格闘技の世界でも通用するのではないかという思いを形にしたのが、この作品だ。

それだけに、毎回の挑戦はガチ。氏は内心「チャンスがあれば、一発、パンチなり蹴りなり、指導してくれる達人に本気で技を入れてやる!」くらいの意気込みで取り組んでいるのだ。

そんな岡村氏が5番目のターゲットとして向かったチャレンジの舞台は、極真空手だった。

日本国内に約100支部。900ヵ所を越える道場で5万人の会員が稽古に明け暮れ、海外にも実働会員で80万人が登録しているという国際空手道連盟 極真会館。その総本部が、岡村氏の体験入門を受け入れてくれたのだ。

極真空手といえば、創始者・大山倍達総裁の教えを守り、直接打撃(フルコンタクト)の真剣勝負を伝統としている。大山総裁といえば、1950年に猛牛と対決し、47頭の牛を倒し、うち4頭は一撃必殺で即死させたという逸話であまりにも有名。世界に名だたる極真空手の創始者として国際的に活躍したカリスマ格闘家であることは、格闘技ファンなら誰もが知っていることだろう。

大山総裁が設立した国際空手道連盟 極真会館は、総裁なき後、松井章奎(しょうけい)氏を館長に仰ぎ、さらに進化の道を歩んでいる。2018年には、門下生たちの極真の技をさらに磨き上げる一環として、セミコンタクトルールを採用した大会を開催するなど、新たな取り組みにも意欲的だ。

岡村氏が勇躍、向かったのは、その極真会館の代官山道場。2015年に開設された道場は、壁・天井・畳と、作品中の写真でわかるように、清潔感ある白に囲まれた空間だ。血と涙と汗が染み込んだ道場......と勝手にイメージして向かったのだが、それは間違いだった。

真っ白な道着に着替え、道場に足を踏み入れると、岡村氏は感無量といった様子に。なんといっても、氏にとって幼い頃からの憧れの武道である極真空手の道場に、今、立っているのだ。高揚感でいっぱいなのも無理はない。

それに、格闘技がメディアに登場する機会が多かった当時、大会のテレビ中継やアニメを観て、見よう見まねで特訓した技や型は、現在も「自然と体が覚えているはず」(岡村氏)だけに、高いレベルでの体験入門ができるはず......なのだ。

さて、今回も、岡村氏の挑戦の模様をダイジェストでご紹介しよう。

極真会館へのチャレンジは、システマ・クラヴマガ・ブラジリアン柔術への入門と同様、2回に分けて行なった。1回目は通常のクラスで基本の動きを知り、自宅でも繰り返し練習する。そして2回目は各道場の達人にマンツーマンで極意を学ぶ。

この2回の体験を通じて、岡村氏は各格闘技のツボを見出だし、体得するというわけだ。

稽古の初日。参加したのは、初心者から上級者までが、基本を身につけ、反復練習をするための一般クラス。指導に当たってくれたのは、総本部の正指導員である日比野丈二四段。鋭い視線でいかにも強そうなイケメンである。

神前で黙想する一同。ついつい体重が前乗りになってしまうドラゴン先生(右)だが、憧れの極真空手道場への初見参とあって、いつになく引き締まった表情も印象的

極真の稽古は、己が自身に課し、黙々と鍛錬する試練の道。指導者は、門下生が誤った方法へ進まないように導いてくれる存在だという。この日の稽古で、日比野四段は岡村氏をいかに導き、才能を引き出してくれるのだろうか――。

返事は常に「押忍!(オス!)」。極真会館では、この押忍に『尊敬』『感謝』『忍耐』の意味を込めて使っているという。

礼と黙想に続いて行なわれた準備体操は、岡村氏にとって、早速この「忍耐」が問われることになった。柔軟とフィジカルをテーマにたっぷりと時間をかける。

毎度のことだが、岡村氏の一番の弱点といえるのが、この柔軟。連載の最初に挑戦したプロレスの道場で柔軟地獄にハマって以来、自宅でコツコツ練習しているというが、50代も半ばで簡単に体は柔らかくなってはくれないのだ。

「いててて」と、声に出すことは死んでもできないドラゴン先生。マンツーマンで先生の柔軟の指導をしてくださったのは、極真会館の日比野丈二氏。厳しさは優しさである

ここで日比野四段の視線は、挑戦者のこの弱点をいきなり見抜いた!

始めは道場の中央で門下生に正対してお手本として運動していた四段が、一列に並んだ門下生の左で運動していた岡村氏のすぐそばに、ツツッと移動してくる。そこからは、まさにマンマーク!

前屈で岡村氏のかかとが上がってしまえば、すかさずチェックが入る。うつ伏せ状態から頭と足を上げる運動で難儀すれば、真横で喝が......。

これまでも各道場で柔軟運動は必ず体験したが、メニューの豊富さと時間の長さ、なにより中身の濃さは段違い。しかも、漫画家の1日だけのクラス挑戦に対してのサービスなのか、マンツーマンで弱点克服のための指導をしてくれるのだが、むしろ逆にプレッシャーとなって岡村氏にのしかかる。額から出る汗も半端ない!

「柔軟はやって損することはないんですよ。立派な稽古の一つです」とは、稽古の解説のためにわざわざ道場に足を運んでくださった総本部の福田勇師範。「できないものを、できるように努力する、それが稽古」だという。

初日の道場練習もまだまだ前半戦。突きや蹴りの稽古の間も、気づけば日比野氏によるドラゴン先生マンマーク状態。「なかなかできる!」と思ってもらうことはできたのか!?

なんとか柔軟をクリアした後は、突きと蹴り。体幹を鍛えるのを目的とした準備体操だ。どの動きも右と左、手足を入れ替えて繰り返す。

「空手のいいところの一つが、この体の右と左を同じように使うところです。さらに頭の先から足の先まで使うので、上下左右、体の全体を鍛えることができるわけです」と福田師範。

稽古を見ていると、指導者や上級者の、手足の先までキュッと力が入った突きや蹴りは美しい。鍛えた全身が生み出すこの美しさも、空手の魅力の一部といえるだろう。

さて、準備体操に続いて、本格的な技術や型、そしてミット打ちの稽古に移る。ここから先はネタバレになるので、漫画2話目以降をチェックしていただこう。

初日の仕上げは、ミット打ち。ドラゴン先生の相手をしてくださったのは、もちろん日比野氏だ。止まって打つなら簡単なミットも、相手と自分が動きながらだと難しいのだ

ただ、稽古2日目については、予告編として、ここで少し触れておきたい。

初日の挑戦から数日をおいて行なわれたこの稽古では、驚くなかれ、国際空手道連盟 極真会館を率いる松井館長直々に指導していただけることになったのだ! ぴかぴかの素人であり、入門しているわけでもない岡村氏を相手に稽古をつけてくださるとは、なんともったいないことか!!

松井館長が登場するとあって、道場の空気は前回とは違うピリピリした空気が漂う。

しかし、そんな緊張感をほぐすように、館長は我々に極真会館の稽古について語り始めた。昔の稽古がいかにハードであったかということ、時代も移り、現在の極真会館は「ただ強くなれればいい」ではなく、誰もがそれぞれの年齢などに合わせて自らを鍛錬する場に変わってきているということ......。

余談だが、極真会館ではジュニアの指導にも力を入れている。そんな話をされている折に、岡村氏が昆虫関係のイベントで小学生を相手に講演していることを話すと、いきなり館長にはピンときたらしい。「来年、この道場で昆虫イベントやってくださいよ」などと会話がはずみ、道場の雰囲気はいきなり軽くなったのだった。

これにて、初日の稽古は無事終了。空手の手練れと漫画の手練れ、空手道場ではどうしたって余裕度で負ける。汗でフニャフニャになった先生の道着も、名誉の勲章だ!

館長と正対し、基本中の基本の稽古をつけてもらう岡村氏。館長の横には、代官山道場の責任者にして、2011年の世界空手道選手権大会で4位に入賞するなど華々しい経歴を持つ赤石誠師範代が立ち、氏の稽古をサポートしてくれる。ミット打ちの相手が元世界4位とは、なんたる贅沢な時間だろう......。

館長の動きの一つひとつは、まさに優雅の一言。頭の先からつま先まで無駄な力を入れず、それでいて隅々にまで力感にあふれている。突きや蹴りも、全身の姿勢がゆるぎないのは、長年の鍛錬の賜物だろうということは、素人の目からみても間違いない。そんなお手本を目の前にして、ひとり、黙々と動きを学ぶ岡村氏。極真空手を松井館長から教えていただいている喜びが伝わってきた。

このマンツーマンの稽古の模様は漫画作品のPART4以降で紹介する予定。刮目してお待ちいただきたい。

この道の目指す先に待つものは何か。漫画を楽しみながら、50代の格闘技初心者の進化の過程を追っていくと、読者自身も励みになり、元気が湧いてくるはず!? そして自分も強くなりたい!と実践したくなるかもしれない。

この激闘の記録は岡村氏オリジナルの動画でも楽しむことができる。

★連載漫画『50代の☆ リアル体験入門 ドラゴン先生格闘ロード』第5闘:国際空手道連盟 極真会館編PART1は「週プレNEWS」で無料配信公開中

(取材協力/国際空手道連盟 極真会館 www.kyokushinkaikan.org