『北斗の拳』生誕35周年を記念し、原哲夫(左)と武論尊が登場!

1980年代の「週刊少年ジャンプ」大躍進を牽引(けんいん)した作品のひとつとして大ブームを巻き起こし、今なお高い支持とリスペクトを集め続ける名作『北斗の拳』!

その生誕35周年を記念するイベント"伝承式"が9月13日、東京・赤坂にて開催され、多くの報道陣が集まる中、作者である武論尊(ぶろんそん)・原哲夫のふたり、そしてこの35周年のテーマソング「202X」を製作したミュージシャンの布袋寅泰氏が登壇した。

この日の"伝承式"は、まさに『北斗の拳』を1万年先まで遺る作品にすべく新たに製作された「石版」を初披露するという式典。登壇者3名を前に除幕され、初公開となった。

布袋寅泰も駆けつけた!

さらに、同作第1話が1983年の「週刊少年ジャンプ」誌上で初めて公開された日であることにちなみ、日本記念日協会より「北斗の拳の日」と公式認定。

まさにあれから35年目となるこの記念日に際し、原作シナリオを手掛けた武論尊は「始めた時は35年も皆さんに覚え続けていただける作品になるとは思ってもいなかった。感謝しかない。その感謝とは読者に対してもそうだけど、原君というこの上ない描き手に恵まれたことへの感謝もまた大きい。

原君とはジャンプ時代は編集者を通してのやり取りが主で、ほとんど顔を合わせることはなかったが、それでも作品の中でずっと戦っていた。彼がこちらの予想を超える絵を上げてきて、そしたらそれ以上の原作を考えてぶつけるしかない。

そのブン殴り合いの成果がこの作品だと思う。原君が描き手じゃなければこれほど大きな作品になることはなかった。その感謝は改めて今、原君に伝えたい」と当時の様子を述懐。

35年前に「週刊少年ジャンプ」に描かれた記念すべき『北斗の拳』連載第1話全48ページをそれぞれ約20kgの御影石の板にひとつずつ手作業で刻み、総重量約1トンの「新装版」として仕上げられた北斗の拳 石版

その言葉を受けて、作画を手掛けたもうひとりの作者・原哲夫は「それを言うなら、僕の方は武論尊先生の原作に殴られっぱなしの印象だった。でも若くてやりたいことは溢(あふ)れていたから、その中で行間を読めるところは自由に読んで、好き勝手に描かせてもらっていただけ」と謙遜を見せた。

さらに、「『北斗の拳』の前作で僕は思うような結果を残せなかったので、武論尊先生と新たに週刊連載としてこの作品を立ちあげることになったときは、まず10週乗り越えることを目指して始めた。そこから小さな努力を続けるうちに読者のおかげで大ヒット作品になれた。武論尊先生と同じく感謝しかない」とやはり読者への感謝の大きさを口にした。

また、武論尊・原哲夫からのオファーを受けて製作したという35周年テーマソング「202X」のMVを初披露。布袋氏に加え、CGを駆使した形でケンシロウ、ラオウが映像内に登場し、3ピースバンドを組んで楽曲を演奏するという夢の共演映像が上映された。さらに、布袋氏が書きおろした同楽曲の楽譜も1枚の「石版」として後世へ遺されることに。

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イベント終了後「週プレNEWS」では、改めて武論尊・原哲夫の両先生に、35年目の今『北斗の拳』という作品を改めて振り返っていただく機会を得た。

――まず、お聞きしたいのはかつてのジャンプ連載時代、武論尊先生が原哲夫先生に対して「この作画はすごい!」、また原哲夫先生が武論尊先生に対して「この原作はすごい!」と特に印象に残っているエピソードがあればお聞かせいただけますでしょうか。

武論尊先生(以下、) 原君はとにかく誰が見てもわかると思いますけど、漫画としてデフォルメした中での筋肉のつき方、キャラクターの立ち振る舞い、どこをとっても絵が飛び抜けてすごいですよ。その技術でもって、僕が文章として書いたものを常に予想以上の形で上げてくる。だから僕から原君に絵でダメ出ししたことは一回もないですよ。

――たったの一度も?

 ないですね。だって僕はあんな絵描けないもん(笑)。絵の描けないヤツがそこに文句言い始めたら「じゃあ、お前が描けよ!」って話になるじゃないですか。原君の場合は、原作に書いてないことまで描いてこられることも多々あったけど(笑)、それでも文句言う気を起こさせないものになってるから。

たとえば初期のキャラクターでムチを使うウイグル獄長というのがいるんだけど、かぶっている鉄兜(かぶと)のツノを引き抜くとそこに大量のムチが仕込まれていてそれで闘い始めるという......アレは僕もビックリしましたよ。

だって原作にそんなこと一言も指定してないからね(笑)! あれは完全に原君のオリジナル。でもそのインパクトがあまりにすごくて、見た瞬間「あ~~~やられた~~~!」って。

原哲夫先生(以下、) あそこからそんなの出るわけないんですけどね(笑)。

 いや、でも僕は感動したの。巨大な強面がムチを振るうってところで僕は納得してたのに、そこにさらにキャラを上乗せしてくる。ジャギだってあれほど怖いヘルメットかぶってるとは思ってなかったけど、原君のあのデザインを見て、このままじゃいけないと思ってさらに凶悪にしていったところもあるし。原君とやってる間はそういうことが他にもたくさんあって、もう脅かし合いの連続でしたよ。

原 武論尊先生の原作って、読むと妄想が膨(ふく)らむようにできてるんです。だから最初に読んでいって、いざ描くときには原作にあったことと僕が勝手に妄想したことの区別がつかなくなってるんですよ(笑)。それで全部描いちゃえ!ってやってるうちに、そういう原作にないことまで描いてたことは、確かによくありましたね。

――原作通りではなくても武論尊先生は許容してくれた?

 そこが武論尊先生の懐(ふところ)の広いところですよね。もちろんそこは人によって方法は違ってて、たとえば一字一句変えてほしくないという原作者の先生もいらっしゃいますし。

――そこはやっぱり仕事のやり方としてのおふたりの相性がかなり良かったということなんでしょうね。逆に原先生の方で、武論尊先生の原作で特にすごいと思われた具体的なシーンを上げるとすれば?

 やっぱりセリフ回しが見事ですよね。名言も多いじゃないですか。だから絵が頭に浮かびやすくて、コマ割りしていくときもあまり考えないでスラスラできちゃう。多分、誰が作画をやっても、それなりに面白い漫画にできちゃうと思うんですよね。

そこが楽な半面、僕の立場としては恐ろしくもあって「これはマズイ、自分の味を出さなくちゃ!」って焦るんです。そのプレッシャーが大きかったかなぁ。

現在も漫画原作者として活躍されている武論尊先生

――武論尊先生は、あえて意識してそういう作り方を?

 そこは僕も常に映像をイメージして作ってるから。僕、自分では文章を書くのが下手だと思ってるんです。だからどうするかというと、頭の中に映像を思い浮かべてその説明をシナリオとして書く。それで、絵の描き手にも映像として伝わるというのはあると思います。

 まさにそうですね。武論尊先生の原作は絵が見えるんです。

 でも不思議なことに絵コンテは描けないの。

 そうなんですか(笑)? 僕はてっきり絵コンテのイメージで文を書かれてるのかと。

 イメージはいくらでも湧(わ)くけど、コマが割れないんだよねぇ。

 僕は、逆にコマはすぐ割れるんですけどね。

 それができるのが漫画家さんなんだよ(笑)。

――そこはじゃあ本当に良い組み合わせだったということなんでしょうね。

 具体的なシーンを挙げると、レイのセリフで「てめえらの血はなに色だーっ!!」とか、そのすぐ前のリンのセリフで「安心したら涙が...ど...どうしたんだろう...」とか。僕は先生の原作を読んで感動して、泣きながら描いてましたもん(笑)。

ラオウの最期の「わが生涯に一片の悔いなし!!」とか、雲のジュウザもいいセリフがたくさんありましたよね。挙げればキリがないですけど、そういうのがポンポン出てくるのがすごいなと。あれは他の人にはできない仕事ですよね。

武 そこは、僕の生命線はセリフだと思ってますから。原稿を担当の堀江(信彦、『北斗の拳』初代担当編集)さんに毎週渡す時も、いいときはニヤッとして「このセリフいいですね。お預かりします」って言ってそのまま帰っていくんです。でも、納得いかなきゃ全然受け取ってくれない(笑)。

――それは書き直しということですか?

 山ほど書き直しさせられましたよ(笑)。

原 でもいい決めゼリフがないと、漫画にする意味がないんですよ。

武 そう。僕も漫画はキャラクターだと思ってるから。セリフがダメだとキャラも立たないんだよね。

 今では分かれて仕事をしていますけど、今でも時々「これ、武論尊先生だったらどういうセリフ書いてくるかな?」って、想像することはよくあります。

――あと当時の『週刊少年ジャンプ』といえば『北斗の拳』をはじめ『キン肉マン』『キャプテン翼』『ドラゴンボール』など大人気作品がひしめきあうまさに"黄金時代"と呼ばれた時期でもありましたが、読者アンケートはやはり気にされていたんでしょうか?

 アンケートはやっぱり僕らだけじゃなく、あの当時の人たちはみんな気にしていたと思いますよ(笑)。

 ライバル意識はみんな持っていたと思います。ただ僕自身は常に自分たちが絶対的な一番だと思ってやってましたから。この前も別のインタビューで「『キン肉マン』とかどう思ってましたか?」って同じように聞かれたんですけど、僕としては「ライバルだと思ったことは一度もありません!」と答えました。同列だと思われたくなかったので。

 ちょっとヤメてくださいよ! 武論尊先生がそういうこと言うたびに、僕らとゆでたまご先生が仲悪いみたいに思われるんですから(笑)!

武 え、(ご本人たちに)バレてるかな(笑)?

 絶対バレてますよ! たまにゆでたまご先生に会うと、なんとなく僕を見る目が冷たい気がしますもん(笑)!

「自分が一番だ」という強い信念があってこそ、北斗の拳は『北斗の拳』たれた

――あ、じゃあやっぱり心の底では意識されていたところも?

 まあ、でも作家としては、そこはみんなあったよね(笑)。

 だけどそうは言いつつ、さっき武論尊先生がおっしゃったこともあながち嘘ではなくて、あまりそこは気にしないようにしてましたね。というのは漫画って、周りを意識する前にまず自分との戦いじゃないですか。なので、あえて周りは見ないようにしてました。

 まあ、僕もさっきはああいう言い方をしましたけど(笑)、そういうことですよ。こっちは常に上から目線なんだけど、でも多分、向こうも同じような気持ちだったと思うんです。みんな自分が一番でしょう。それが当時のジャンプの姿だったんじゃないかと僕は思いますよ。

 本当にそう......みんなね、自分が一番じゃないとイヤな人ばっかり。僕は5番くらいでいいという謙虚な気持ちで生きてるんですけどね(ニッコリ)。

 嘘だろ(笑)。あとは、僕ら以上に編集者同士の争いの方がすごかったと思いますね。社内でこそアイツに負けてたまるかという気持ち。だから編集者はみんな作家の尻を叩くんですよ、「もっと頑張れ、アイツに負けるな!」って。

 編集者が他の漫画家の悪口を吹きこんでくるんですよ(笑)。だから、いざ会ってみたらめちゃくちゃいい人だったなんてこともよくありましたよ。それで逆に「じゃあ僕も悪い人みたいに思われてるのかな~」って落ち込んで(笑)。

 それくらい編集者も必死だったってことだよ。みんなで争ってたんだよね~、当時は。

――ではこれが最後の質問になりますが、今日の"伝承式"は100年後、1万年後まで作品を遺すというコンセプトで開催されました。その1万年後の未来人に『北斗の拳』という作品を通してどういう思いを持ってもらいたいですか?

 僕としては実は何か伝えたいというよりも、単純に楽しんでもらえればいいと思ってるんですよ。漫画はエンターテインメントだと思ってるので、ひとつの作品として「こんな面白いものが昔にあったんだ」って思ってもらえればそれが一番。面白いものを求めている人に読んでもらって、それでちゃんと面白いと思ってもらう。

ただ、時が進むにつれて伝達方法はどんどん変わって、遠くない未来に紙媒体というもの自体が古めかしいものになるかもしれないし、そうなると漫画なんてものもなくなる可能性もある。

でもその"漫画という媒体"を遺したいという思いはあるよね。「古臭く見えるかもしれないけどちょっと見てごらんよ、面白いだろう?」って。そういう形で遺ってほしい、という思いはありますね。

 僕は35年前に描いたこの漫画が、新しい世代の人にちゃんと受け入れてもらえるのか、もしくはもう古臭くなってしまっているんじゃないかというのが今でも常に心配で。だから少なくとも僕が生きてるうちにはどんどんリメイクして、なるべく今の世相に合うようにリニューアルしながらやりたいという気持ちはあります。

でも、そろそろ年で体力的に来てるところもありますから。そうなると、次代の才能に何かしらの僕の思いを遺して引き継いでもらうということになるんですよね。今回の企画もそのひとつの形なのかもしれないけど、100年後、1万年後ではなく今の僕自身も、今の若い作家さんに何かしら僕の技術や思いを引き継いでもらえたらなぁ......というのが特に最近、よく思うようになっていることですね。

 この絵は原君にしか描けないからね。

 でもいい若者もいますよ。ウチのアシスタントにも有望な人材はいますし。

対談終了後に、原先生から「『週プレ』買ってるよ」と声を掛けていただき、「連載やるよ」のリップサービスに浮足立つ週プレNEWS班

――じゃあ、今は後進を育てたいという新たな目標が?

 育てるなんておこがましいことは思ってません。ただ僕の培(つちか)ってきたことはあるので、伝えられる部分は伝えて、新たな面白いものをその人たちから発信してもらえたら「面白い」が繋がっていくじゃないですか、それが理想ですね。

――まさに"伝承式"にふさわしいお言葉を最後にいただけたかと思います。本日はお忙しい中、両先生とも貴重なお話を本当にありがとうございました!

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なお、今回新たに製作された「石版」は被災地支援のチャリティーオークションとして9月25日より「Yahoo!オークション」に出品、競売にかけられるとのこと。伝説の1枚を手に入れる絶好のチャンス。詳しくは『北斗の拳』公式ホームページにてご確認ください!

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定価:本体550円+税 発行:集英社 (c)武論尊・原哲夫/NSP 1983