映画『ごっこ』でアラフォーでニートの城宮を演じた千原ジュニア 映画『ごっこ』でアラフォーでニートの城宮を演じた千原ジュニア

助演・清水富美加の突然の出家や、原作者の急逝などもあり公開が延期になっていた映画『ごっこ』が10月20日に封切りとなった。

狂気的な父性愛と自己犠牲の連鎖を描いた家族愛の物語。憑依したかのように主人公を演じた千原ジュニアを直撃した。

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■結婚したら丸くなると思ってたんですけど......

めったに目が合わない。合ったら合ったでにらまれているようで少し怖いのだけれど。

最初の質問で、ある例を引き合いに出しつつ「漫才と芝居に共通するところはあると思うか?」と問うと、彼はぶっきらぼうに言った。

「全然別ですね」

しばし沈黙――。

千原ジュニアは、この映画の中で演じた城宮(しろみや)を、まだ演じ続けているかのようですらあった。

10月20日、ジュニアが主演を務める映画『ごっこ』が封切りとなった。原作は鬼才、小路啓之(しょうじ・ひろゆき)が遺した同名のマンガで、社会の暗部をファンタジックに描いた名作として知られている。

主人公はアラフォーでニートの城宮と、5歳児のヨヨ子。大阪で暮らすふたりは一見、父子家庭のようだが、実際は「ごっこ」。そう、家族のフリをして暮らしているにすぎない。もっと言えば、城宮は決して許されない罪を背負っている。ヨヨ子はそれを知りながら城宮を「パパやん」と呼び疑似親子を演じていた。

作品にとってそれが必ずしも好結果を生むのかどうかはわからないが、演者の実人生と役が妙にハマることがある。ジュニアが演じる城宮もそう思えた。

「役作りをどうこうするということもなく、そのままやらしてもらいましたね。自分も中学時代、(城宮と同じように)引きこもっていた時期があるんで、そういうのもあってキャスティングされたのかなと勝手に思ってましたけど」

当時、自分を唯一、肯定してくれたのが祖母だった。

「人と違っていいんだよ、とか。いろんなことを言ってくれましたね」

『ごっこ』の中で、落伍(らくご)者である城宮を唯一、肯定してくれたのがヨヨ子だった。城宮はヨヨ子の愛に、城宮なりの愛し方で応えようとするのだが愛を表現することがへたな上まったく不慣れなために、自分の人生を破壊してしまう。

「何も考えずに衝動的なタイプですよね。すごくわかるなー、と。俺もどっちかというとそっち。思ったらもうやっていた、ということが人生で多々あるんで」

例えば、こんなところもふたりは重なる。

原作にはヨヨ子と暮らすようになった城宮が〈子供と戯(たわむ)れているだけでボクに「いい人」のフィルターをかけて見てくれる〉と世間の自分を見る目の変化に感懐を抱くシーンがある。

ちょうど昨年12月に第1子が誕生したジュニアに、父親となったことによる心境の変化を聞いた。

「家に帰ると嫁と子供がいるということで、どっかで思いっきり振り切れてもいい免罪符をいただいたかな、みたいな感じはありますね。

結婚して子供ができたらきっと丸くなって......みたいなレールが敷かれてると思ってたんですけど、実際はまったく逆なんやなと。この前もライブやったんですが、むしろごりっごりの下ネタもいけんねんな、みたいな」

■天才子役に顔をどつかされた?

映画が撮影されたのは、2015年の秋から翌年1月にかけて。本来ならもっと早くに公開にこぎ着けられるはずだったが、諸事情により公開は延び延びになっていた。この間、キャストのひとりである清水富美加が幸福の科学へ出家したことも話題になった。

「ネタバレになるんであんまり詳しくは言われへんけど、映画の中では、その出家した女優さんが俺を外の世界に連れ出しにくるという。むしろ入ったのはおまえやないか!って。千眼美子(せんげん・よしこ)ってね......俺の名字も音読みしたら『センゲン』ですけどね」

そう言うと、ジュニアは少しだけ笑った。

実は公開を待つ間、原作者の小路が不慮の事故で亡くなるという悲運にも見舞われた。

「お蔵入りになるのかとも思いましたけど、(ヨヨ子役の)平尾菜々花(ひらお・ななか)っていう女優のためにも、この作品は世に出たほうがいいなと思ってました。埋もれさせるにはもったいなさすぎるやろ、と」

今や、天才子役との呼び声が高い平尾菜々花。彼女の話になると、ジュニアは途端に饒舌(じょうぜつ)になった。

「久々にとんでもない子役が出てきたなぁと。完全にイニシアチブ取ってくれてましたね。まだ小学生なのに、完全にこっちを動かすお芝居というか。彼女の顔を思いっきりどつくシーンがあって、俺にできるのかなぁと不安に思ってたんですけど、フルでどつけましたから。

でも、俺がどついたんじゃなくて、彼女がどつかさせたんですよ。普通、小さい女の子の脳が揺れるぐらいどつけないですよね。それをやらせてしまうんです」

最も印象的なシーンを問うと、遊園地で撮影したヨヨ子とのラストシーンを迷わず挙げた。

「ほぼ順撮り(映画のシーンの順番どおりに撮影していくこと)だったので、映画の中と、実際と、同じような感じでふたりの距離が近づいていった。だからもう終わりかよ、みたいな。

お互い、変な空気があってね。さみしいとか、切ないとか、そういう言葉を発したら崩れてしまいそうやから、とことん楽しむしかないなみたいな。ほんま、ええ時間でした」

野外での撮影中、ジュニアは何度となく温かいスープをスタッフや演者に振る舞ったという。どんなスープで、どんな味だったかまではわからないが、その様子は目に浮かんでくる。城宮は、世間から見れば極悪人でしかない。にもかかわらず感情移入してしまうのは、そんなジュニアが演じていたからだ。

●『ごっこ』絶賛公開中! 
出演:千原ジュニア 優香 平尾菜々花 ちすん 清水富美加ほか 監督:熊澤尚人 原作:小路啓之 配給:パル企画 (C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA
大阪の寂れた帽子屋には、アラフォーでニートの城宮と、5歳児・ヨヨ子が仲睦まじく暮らしていた。実はこのふたり、他人に知られてはいけない秘密を抱えた"親子"だった。そんなふたりの暮らしはある日突然、衝撃の事実によって崩壊してしまう......。パパやんとヨヨ子の人生をかけた究極の選択とは!?

●千原ジュニア 
1974年3月30日生まれ(44歳)、京都府出身。89年、お笑いコンビ「千原兄弟」結成。人気お笑い芸人として地位を確立しているなかで、俳優として映画やドラマにも出演。映画主演作には『ポルノスター』『HYSTERIC』『新・ミナミの帝王』がある

(スタイリング/鬼塚美代子(アンジュ) 衣装協力/MIDWEST)