「サスケくん」森本裕介が拠点としている大阪府堺市の「ハウスクリニック浦嶋」のセットの前で。「普通の住宅街にあるんですけど、近所の人にとってももう見慣れた光景になっているらしく。たまに通りかかった人に応援されたりします」(森本) 職場のある新大阪から、退勤後に1時間地下鉄に揺られて通っている
TBSが誇る名物番組『SASUKE NINJA WARRIOR』第36回大会が今冬放送予定! 

そこに向けて、週刊プレイボーイの編集者が現在活躍中のSASUKE界の英雄たちを訪ね、共にトレーニングをする中でそのパーソナリティを掘り下げていく、極めてマニアックな"SASUKE応援コラム"「SASUKE放浪記」が短期集中連載の形でスタート。シーズン1は全8回を予定しています。

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SASUKEの総合演出を務める乾雅人氏が、現役プレーヤーの中で唯一"怪物"と呼ぶ男がいる。男の名は森本裕介。3年前に開催された第31回大会で史上4人目の完全制覇者となった彼こそが、「SASUKE界で今、最も強い男」に相違ない。

「今のSASUKEは、森本との追いかけっこです」

乾氏はそう笑う。

誕生から22年目を迎えたSASUKEだが、1stステージから始まる4つのステージすべてをクリアした完全制覇者は、歴代でたったの4人しかいない。そして完全制覇されるたび、SASUKEは人智を超えた進化を遂げてきた。

その進化の代名詞のひとつが「ウルトラクレイジークリフハンガー」である。

見覚えのある方も多いだろう。幅僅か3㎝ほどの突起に両手の指の力だけでぶら下がり、数m移動したあとに、ぶら下がった体勢のまま1.8m後方の突起に飛び移る。それを二度、繰り返すのだが、二度目のジャンプの先の突起は電動で上下に動く仕様になっている。文字に起こしただけで、人体の構造の限界を超える動きが必要とされるエリアであることがわかる。

初登場の際、「果たしてこれを人間がクリアできるのか」と、多くのSASUKEファンたちは絶望し、番組制作サイドの底意地の悪さを痛感したことだろう。しかし森本は今、このエリアをほとんど苦にしない。前回の第35回大会(2018年3月放送)でも危なげなくクリアし、3年ぶりにFINALステージ進出者となった。

森本の強さの秘密を探るべく、取材班は彼の本拠地である大阪を訪ねた。平日の夜。仕事終わりの森本と待ち合わせたのは「ハウスクリニック浦嶋」という堺市新金岡にある住宅リフォーム店の前だった。

「ここの浦嶋さんという方がずっと、関西のSASUKEプレーヤーたち......普段一緒に練習する仲間が20人くらいいるんですけど......のサポートをしてくれていて。僕も週2くらいのペースで浦嶋さんのセットで練習させてもらっているんです」

ハウスクリニック浦嶋のガレージには、立派なSASUKEセットが建造されていた。その主、今年42歳の浦嶋伸次氏も、かつてSASUKE出場を目指して日々トレーニングを積んでいたプレーヤーだった。浦嶋氏はこう語る。

「でも出場することはできないまま時間が過ぎて、このセットも解体しようかなと思った時期もあったんです。そんなときに、森本君と出会った。聞けば大阪で働いているという。『ぜひうちのセットを使って練習してくれ』と声をかけました。それからは自分が出場するのではなく、選手たちのサポートをすることに楽しさを見出せるようになりました。何より、森本君を見ていると『こいつには絶対勝てへん』って(笑)」

現在26歳の森本の青春は、まさにSASUKEと共にあった。中学、高校時代は部活をやらずにSASUKEの練習に明け暮れ、大学時代に友人に誘われて始めたクライミングも、国体出場歴があるほどの腕前だが、元はといえば「SASUKEに生かせる」と思ったのがきっかけだった。

「昔からアスレチックの遊具で遊ぶのが好きで。SASUKEの番組も、録画したものを何度も何度も見返しているような子供でした。それで、僕が中学2年のときに行なわれた第17回大会(2006年)で、あの"最強の漁師"長野誠さんが7年ぶりに、史上ふたり目の完全制覇を達成した。

それまでは、SASUKEに憧れを持ちつつもテレビの中の遠い世界のことだと思っていたんです。でも長野さんの快挙を見て、『見ている場合じゃない』と。その次の大会の募集で初めて応募サイトを開いて、第18回大会(2007年)、15歳のときSASUKEに初出場しました」


今でこそ栄光のゼッケン100は彼のものとなっているが(*毎回、100人の挑戦者の中で最後に登場し、その大会で最も活躍が期待される選手に託される)、森本は最初からSASUKEで好成績を上げられていたわけではなかった。

「むしろ僕、運動は苦手で。学校でも体育の成績が一番悪かったくらい。足も速くないし、球技は基本、ダメですね」

15歳から17歳のあいだに出場した第18回大会から第22回大会(2009年)はいずれも1stステージでリタイア。それ以降、「最年少出場者」の肩書もなくなった森本は、しばらくSASUKEの表舞台から遠ざかる。しかしその間にも人知れず練習を重ね、19歳......第27回大会(2011年)でカムバックしてからは、1stステージで失敗したことは一度もない。

森本の練習方法を見て納得する。SASUKEの成績上位者は大抵、難関といわれる3rdステージの練習に時間を割く。先述のクレイジークリフハンガーや、それ以上に凶悪な、僅か1㎝の突起に逆手の状態で4本の指を掛け、やはり握力だけで進んでいく「バーティカルリミット」などなど......。

しかし森本はウォーミングアップのあと、3rdステージ用のエリアも充実したハウスクリニック浦嶋のセットを前に、まずは1stステージのシミュレーション練習から始める。しかも、スタート地点でお辞儀をするところから始める。

「カメラに向かって礼をするところから全部決めています。練習と同じ感じで本番でもスタートが切れるように」

完全に本番を想定したシャドートレーニング。ハウスクリニック浦嶋の前の歩道をスタートした森本は、そこにはない「クワッドステップス」や「ローリングヒル」を頭の中で具現化しながら軽快なステップを踏んでいく。「タイファイター」や「そり立つ壁」はセットを使いながら。前回初登場した新エリア「ドラゴングライダー」はやはりイメージの中で。

試しに、記者も一緒にやらせてもらった。

「ゼッケン49番、集英社週刊プレイボーイグラビア編集イシバシタロウ、33歳~!」

小声でスタート前の実況まで入れてくれる徹底ぶり。スタートの合図に合わせて飛び出すと、すぐに注意が入った。

「今の助走だといきなり水に落ちます。クワッドステップスの入り口は......(足で地面を示しながら)ここです」

その後も森本の指摘は続く。

「ローリングヒルは、今の足の動かし方だと回ります。向きを変えるなら......こうです」

「ドラゴングライダーのトランポリンまでの距離は、僕の場合三歩なんですが、イシバシさんは背があるから二歩のほうがいいと思います」

森本は、そこに存在しないエリアの距離感さえも完璧に記憶している。ある番組関係者の言葉が頭をよぎる。

「サスケくん(森本の愛称)は、第何回大会の誰々は、このエリアを何歩で進んでどうやって飛び移ったのかとか、すべて瞬時に思い出せます。あいつは......マニアです」(番組宣伝担当者)

それを伝えると、森本は笑ってこう言った。

「今は競技に特化した部分だけを見返しますから、昔ほどじゃないですけどね。昔は出場者の身長と体重、奥さんの名前とかも全部覚えてました(笑)」

森本裕介の本当の凄さは練習量ではない。誰にも負けないSASUKEへの愛と、飽くなき探求心――それこそが、彼が"モンスター"たりうる理由だった。

「僕の場合、スイッチがふたつしかないんです。今は仕事とSASUKE。これだけです」

週プレの取材ということで、試しに好きな芸能人を聞いてみる。

「いないんですよね......ドラマとかも観たことなくて......テレビを観るとしたら、SASUKEくらい。でもこの間『KUNOICHI』に出た朝比奈彩さんの練習を指導したから、出演されていた『チアダン』は毎週観たんですよ。『あ、ドラマって面白い!』って思いました(笑)」

「それかて俺が『朝比奈さん出るんやし、ドラマくらい観といたら』って言うたからやろ」と隣の浦嶋氏の突っ込みが入る。めげずに質問を続ける。

「休日の趣味ですか? あ、でも読書はします」

好きな作家はいますか、とたずねてみる。

「というよりは、アスリートの自叙伝とか......。伊調馨さんとか、野村克也さんとか。やっぱり一流の人たちの本は勉強になります」

そっちかよ! という声をのどの奥に押し込める。サスケくんはやはりサスケくんだった。

「あとは、SASUKEの研究ですね。それと遠征」

この翌日も、北関東のみなかみ町にあるSASUKE仲間の自宅に、トレーニングのため日帰りで遠征するらしい。会社のボーナスの大半はこの交通費に消える。

仕事か、SASUKE。極端だがシンプルな、ある意味うらやましい生活といえるのかもしれない。そういえば森本の職場、IDEC株式会社の面々も前回大会で応援に駆けつけていた。2年前に大学院を卒業し新社会人となってからの森本は、常にIDECのロゴが入ったポロシャツを着てSASUKEに出場している。

「このあいだも社長に呼ばれて、激励されました。IDECの誇りや、これからも頑張ってくれと言われました(笑)」

制御機器メーカーであるIDECに入社して3年目。森本は現在、回転寿司店などにあるタッチパネルのソフトの開発を主に担当している。

「大学院でも情報系の研究室に入っていて、それを生かしたものづくりに携われればいいなと思っていたので。就活のとき、IDECのインターンに参加して、ライフ・ワーク・バランスといいますか、そういう点に力を入れているのも感じましたし、何より会社の雰囲気がすごく良かったんです。人間関係が最高の職場ですね」

森本はIDECに入社した年、「最初の一年はきちんと仕事を覚えるため」という理由でSASUKEへの出場を辞退した。次回、今冬放送される第36回大会は、そんな真面目な彼がIDECのロゴ入りシャツを着て出場する4回目の大会となる。

「(完全制覇まであと5mの綱登りでタイムアップの)前回は、まったくの力不足。(それまで誰もクリアしたことのなかった)『バーティカルリミット改』を含む3rdステージ突破に照準を絞っていたので、持久力も技術もスピードも足りなかった。

あの日から今日までは、完全制覇を勝ち取るんだという強い決意を持って練習に励んできました。......FINALステージの練習って、死ぬほどきついので、片手間にできないんですよ。ほかのどのエリアの練習と比べても、別次元できつい」

前回大会のFINALステージは、両手両足を蜘蛛のように突っ張って垂直に壁を駆け上る「スパイダークライム」、ジャンプする懸垂の要領で鉄棒を使って上へ上へと体を運んでいく「サーモンラダー」、そして最後の綱登り、合計25mを45秒でクリアするという設定だった。森本は現在、ハウスクリニック浦嶋のセットを使ってこれよりもさらに高負荷の練習を一日3セットこなしている。

「1回目に完全制覇したときも、『FINALの練習ってこんなにきついのか。クリアしたらもう二度とやらない』という感じだったんですけど、今はそのときよりもさらにきついことやってますからね。でも、前回大会の直後は今と同じメニューは全然こなせなかった。きつい練習をした分、進化した自分に出会える、その充実感を味わえるだろうなと、そういう思いで僕はSASUKEをやっています。

SASUKEがほかのスポーツと違うところって、対象となるコースが常に進化していくところにあると思うんです。新たなモチベーションというか、目標が持ちやすい。だから、やる気がなくなるとか、そういうことはないですね」

もちろん、その場で森本にFINALステージ用の練習を見学させてもらった。それは文章にするのも困難なほど鬼気迫るものだった。ここまでやらなければSASUKEを完全制覇することは叶わないのか......本戦出場に憧れる全国のSASUKEファンが、そう絶望してもおかしくないほどに森本の練習は凄まじかった。そんな彼に、SASUKE攻略のためのアドバイスを求めると......。

「心技体、すべて揃えることが重要です。『体』を作れている人は意外と多いんですよ。皆さん一生懸命トレーニングされていると思うので。でもその次の『技』まで持ち合わせている人は少ない。エリアの特性に合わせた体の動きができているか、という部分です。

そして『心』。これが一番難しい。いかに練習と同じパフォーマンスを本番で発揮できるか。僕もできるようになったのは完全制覇した年くらいからです。真剣な気持ちと、ちょっと気楽な気持ちの配分のさじ加減といいますか。だいたいの方が、気合いが入りすぎていて普段と違うメンタルで本番に臨んでいるんですよ。

僕もそうだったのでよくわかるんですけど、SASUKEって小さい頃から憧れている方も多くて、長年の夢が叶ったからそれで頭が真っ白になっちゃって、気がついたら水の中っていうパターンがすごく多くて。初出場の方は、特にそこが難しい部分だと思います」

普段の練習から徹底したイメージトレーニングを行ない、体と技だけでなく心も鍛えてきた4人目の完全制覇者、サスケくん。来る第36回大会でも彼が主役となることは間違いない。

最後に、SASUKE界隈の関係者がもっとも気になっているであろう質問を彼にぶつけてみた。「森本さん、お話をうかがっていると全然女っ気がありませんけど、そちらはどんな感じなんですか?」。すると、森本は困ったように笑ってこう答えた。

「そうなんですよ。僕も今年で27歳になるので、実はいろいろな人に突っ込まれるようになりまして。恋愛や結婚の願望がないわけじゃないんですが......SASUKEに対する欲求が強すぎて、そっちのほうに頭がいかないんですよね」

もうひとつ、定番の質問をぶつけた。

――あなたにとって、SASUKEとは。

「僕にとってSASUKEとは、『青春』です。憧れて、それに向かって努力して、仲間をつくって、夢を叶えて......。青春のすべてがSASUKE。青春そのものです」

頭脳明晰の完全制覇者"サスケくん"。森本裕介の青春は終わらない。

●森本裕介 Morimoto Yusuke
1991年12月21日生まれ、高知県出身。身長162㎝、体重62㎏。15歳でSASUKE初出場。2015年開催の第31回大会で史上4人目の完全制覇を達成。2016年より制御機器メーカーIDEC株式会社に勤務。3月に放送された前回大会では、出場者100人中唯一FINALステージに進出。現在日本最高峰、最強のSASUKEプレーヤーである

『SASUKE NINJA WARRIOR』第36回大会の情報はこちらから! 
https://www.tbs.co.jp/sasuke_rising/