1stアルバムは名盤だけど、メンバーが自分のミニチュアの人形を持つジャケ写はホラー

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、アメリカの"不運な"人気バンドについて語ってくれた。

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少し前に、ビッグ・スターという往年のバンドをご紹介しました。今では同名の韓流アイドルグループの陰にすっかり隠れている不運なバンドですが、似たようなケースをもうひとつ発見してしまいました。それが今回紹介するバンド「Blood,Sweat & Tears(略称・BST)」です。

どうやら防弾少年団という韓流アイドルグループの曲で同名のタイトルのものがあるらしく、ネットで検索するとそっちの情報ばかり出てきてしまいます。しかも、防弾少年団の略称が「BTS」だったりもするので、かなりややこしいことになっています。

今回私が紹介するBSTは、1960年代後半~70年代にかけてものすごく人気があったアメリカのバンドです。もとはアル・クーパーが中心になってつくったバンドですが、クーパーが去った後に全盛期を迎え、1969年にはザ・ビートルズの『アビイ・ロード』を抑えてグラミー賞を受賞しました。

ただ、私は子供の頃は好きではありませんでした。BSTはブラス・ロックを確立したバンドだといわれているんですが、大げさなサウンドがクドく感じられたんです。でも、久々に聴き直してみると、ジャズやブルース、ソウル、プログレッシブ・ロックまでフュージョンさせた音楽性が知的でいいなと思いました。

バンドの代表曲のひとつは『Spinning Wheel』。ボーカルのデヴィッド・クレイトン・トーマスの歌い方がすごくクドいんですが(苦笑)、この声があったおかげでバンドが売れたんだと思います。この曲ではホルンのパートが印象的ですが、実は70年代に日本のワイドショーでこの部分が使用されていたそうですね。

また、『Lucretia Mac Evil』は、これぞソウル・ファンクという曲ですが、途中でギターとホルンのバトルみたいなパートがあるんです。これが分解不可能なくらい複雑なセッションになっていて、思わず「おーっ」と感嘆してしまいます。

プログレッシブ・ロック的な長大なインスト曲『Blues Part2』では、クリームの『Sunshine of Your Love』のフレーズをまんま引用しています。昔はこれを聴いてドン引きしてしまったんですが、今聴くと知的な遊び心を感じますね。ちなみに、このときのBSTのメンバーはほとんどが音大卒のエリートでした。

実はこのBST、全盛期にアメリカ政府主導の東ヨーロッパ友好ツアーに行ったことがきっかけで、ファンから大バッシングを受けました。当時は学生運動や公民運動真っただ中で、政府に媚(こ)びるなんてすごくダサかったんです(子供の頃は音楽性よりもこっちが嫌いな理由だったかも)。一説には、カナダ人で犯罪歴もあったクレイトン・トーマスが、アメリカのグリーンカードが欲しくて引き受けたともいわれています。

興味深いのが、防弾少年団はアメリカのビルボードメインチャートで1位を獲って、文在寅(ムン・ジェイン)大統領からお祝いのメッセージをもらったり、大統領と一緒に海外のイベントに出席したりもしています。国と時代が違えば、ミュージシャンと国家の関係もずいぶん変わるんだなと思いました。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、MBSラジオ『市川紗椰のKYOTO NOTE』(毎週日曜17:10~)などにレギュラー出演中。アル・クーパーの次のボーカルの候補には、ビッグ・スター結成前のアレックス・チルトンの名前も挙がっていた

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