昨年12月、幕張メッセでのワンマンライブ(1万7000人満員)を成功させたBiSHをはじめとする5グループを抱え、今の音楽シーンを語るには欠かせない音楽事務所「WACK」。
そんなWACKが昨年3月に行なった、1週間にわたる"合宿形式オーディション"の模様を捉えたドキュメンタリー映画『世界でいちばん悲しいオーディション』が、本日1月11日から全国で順次公開される。
公開を記念して、WACKの代表取締役兼プロデューサーである渡辺淳之介氏を直撃! 映画やオーディションの見どころについて語ってもらった!
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■自分の職業を手に入れるために真剣になる姿は、「滑稽だな」と
――WACKは2014年の設立以来、毎年のように合宿形式オーディションを行なってきていますが、ここまで定期的にオーディションを行なう事務所も今や少ない気がします。
渡辺 もちろん、毎年やっているのは、新しいお客さんを呼んだり、既存のお客さんの注意を引きつけるためですね。
今のアイドル市場は、お客さん自体が非常に飽きっぽくて、AKB48さんや乃木坂46さんのように、メンバーがどんどん入れ替わっていく。パンクバンドやロックバンドに求められるのが"変わらないこと"なら、我々が求められるのは"変わっていくこと"なので、毎年狙ってやらせてもらっているんです。
――なるほど。そして、これらのオーディションの様子は、毎回のようにドキュメンタリーとして映画化されてきましたが、今回の映画化にはどんな意図が?
渡辺 ひとつの理由として、僕が炎上をビビってるからです(苦笑)。今までは、誰もがネットで観られるような状態にすることを好んでたんですけど、BiSHの人気が上がってきたことによって「観る人が増えたなぁ」っていうのが正直なところで。
映画はYouTubeと違って"観る人を選ぶ"というか、叩くためにわざわざ観る人って少ないじゃないですか。やっぱり、僕としてもオーディションや活動のスタンスは崩したくないし、そのスタンスがわかる人たちに観てもらうってなると、映画が最適なんですよね。
――誰もが炎上しかねない昨今で、これまでの渡辺さんの"やり方"だと厳しくなってきた、と。
渡辺 まぁ、合宿形式で、それを全部リアルタイム配信する(※オーディション期間中は、ニコニコ生放送を使って深夜帯、早朝も含めた24時間を配信している)みたいな、馬鹿なことができる事務所も僕らくらいしかいないので。今後もネットでの配信は続けますけどね。
――「24時間配信の合宿」以外にも、「連日の早朝マラソン」「食事にランダムで入るデスソース」「敗者復活制度」など、毎度おなじみの要素が盛り込まれたオーディションでしたが、今回はついに、舞台が離島・壱岐島(長崎)に変わりました。
渡辺 オーディションって、やっぱり芸能界の入口なので。参加するコたちにもちょっと「特別なところに来た」って思いをしてほしいなって思ったんですよ。そんな中、たまたま学生時代の同級生に壱岐の観光PRをしている奴がいて、協力体制をフランクに作ってもらうことができて。
もともと「次は無人島でサバイバルでもさせてみたい」と思ってたんですけど......今回はたまたまですね(笑)。
――でも、離島に移ったことで、オーディションの"過酷感"はさらに増した気がします。過酷といえば、参加者のヨコヤマヒナ(現GANG PARADEの月ノウサギ)さんが「泣いてる女のコを見て笑う大人ばっかり」とつぶやくシーンが印象的でした。
渡辺 ハハハ! まぁやっぱり、年齢もそんなに重ねていない、社会人経験もない女のコたちが、自分の職業を手に入れるために真剣になる姿は、「滑稽だな」と思いますね(笑)。
――「滑稽」ですか?
渡辺 頑張り方がわからない人たちが、考えて、泣いて、必死に取り組んでいるところって、いろんなドラマが見られるというか。
たとえば、彼女たちが今までやってきた学校の勉強なら「こういう勉強をしたら、こういう点数が取れる」っていう答えがあると思うんですけど、追い込まれると何もわからなくなって、"悲劇のヒロイン"のように振る舞ったり、「お前、言い訳だけじゃん!」って言いたくなるようなコも出てきたりする。
だんだんと「アイドルになりたい」っていう気持ちが削がれていったり、僕に途中でクビ(※オーディション脱落)を言い渡されたことで一気に冷めて、カメラに「渡辺さんのこと、もとから嫌いなんです」って言い出す奴もいましたね(笑)。
そういう人間的な部分が現れるオーディション、僕はすごく面白いと思ってます。
■人と違うことをやって目立たないと、誰も見てくれない
――渡辺さんはもともと、WACK設立前の旧BiS(2011~2014年に活動)時代からとにかく"人間を追い込むこと"でなにかを魅せてきたように思えるんですが、そのルーツはどこにあるんでしょうか?
渡辺 学生時代にも思っていたことだし、「BiSを始めてからその答え合わせをした」というのが正解かもしれないですね。
僕、学生時代はバンドを組んでいて、そのバンドで食っていくことを諦めてから、裏方でいこうと思って就活したんですけど、レコード会社とかテレビ局とか、ほとんど落ちてるんですよ。まぁ、最終面接までいって、役員連中にキレられたりしてたから当然なんですけど。
――面接でキレられる就活生、なかなかいないですよ(笑)。いったい何を怒られたんですか?
渡辺 その頃から極端なことが好きだったんですよね。当時、流行ってた音楽のグループがあったので、「アレを真似たグループを作ったらいい」って言ったら、社長から「お前は芸能界というものをわかっていない」とすごい剣幕で言われたりしました。
あとは、あるドラマの構成について「俺、アレはどうかと思いますよ」って言って怒られたり。面接官に「弊社の弱点を言え」って言われたから言ったんですけどね。
――......(苦笑)。
渡辺 まぁ、そこで「自分はコンサバティブには生きられない」っていうことがよくわかりました。結局、そのあとに「つばさレコーズ」っていう"エクストリーム"に寛容な会社に入ったんですけど、つばさには今もすごく感謝してます。
アイドルを全裸にして富士の樹海で走らせる(※旧BiSの1stシングル『My Ixxx』 のMV)なんて、大手事務所じゃ懲戒免職モノですからね。
――ちなみに、当時、つばさレコーズでは怒られなかったんですか?
渡辺 最初はめちゃめちゃ怒られました。でも、YouTubeに上げたMVが、1日で20万回再生くらいされて。手のひら返しで「よくやった!」と(笑)。
BiSを始める前、プー・ルイ(※BiSの元リーダー。現BILLE IDLE)のマネージャーだったんですけど、プー・ルイのデビューミニアルバムは120枚くらいしか売れませんでしたからね。数字って大事だなと思いました。
――映画の冒頭で、渡辺さんは参加者に「合格したら"お客さんが楽しめること"が最も大事なるエンターテイメントの世界に入る」と語っています。「お客がいること」や「とにかく見てもらうこと」を常に考える意識は、その頃に染み付いたんですね。
渡辺 そうですね。やっぱり大手でもないかぎり、とにかく人と違うことをやって目立たないと、誰も見てくれないので。
僕、オーディションを受ける"まだプロじゃないコたち"や、学生時代の才能がない自分って、状況が一緒というか。どうしようもなく"偽物"で、普通の人は見てくれないと思うんですよ。「だったら、変なことをやってでも人に見てもらおう」と、あの頃から、常にお客さんに向かって石を投げてる雰囲気でやり続けています。
■サイコパスの自覚はありますけどね(笑)
――また、映画の中では何度も「後悔しないように」「俺も後悔してきた」というフレーズが出てきます。渡辺さんがしてきた"後悔"って、いったいなんですか?
渡辺 それこそ就活のことも後悔してるし、結構"しっぱなし"ですよ(笑)。僕、高校を中退してるんですけど、あの頃は今以上に斜に構えてたから、ほとんど学校に行かなかったし、文化祭もひとりだけ何もしなかったし。大検で入った大学も、真剣に行かなかったから6年費やしたし、友達もいないし。だから僕、結婚式に1回も出たことないんですよね。
――......渡辺さん、今34歳ですよね? 結婚式、ゼロですか?
渡辺 ほぼ呼ばれたことないですよ。まぁ、仕事関係で呼ばれたら出るかもしれないけど、仕事に関係なければムダだとも思うので、呼ばれても行かないかもしれないっすね。
――そこまで「仕事」と言い切れる人って、なかなかいない気がします。
渡辺 でも、僕としては、それこそオーディション中は「アイドルになること」だけを考えてほしいし、グループに入ったらそのグループのことだけを考えてほしいですけどね。ここだけの話、僕自身も表にずっと出続けている以上、エンターテイメント受けする自分を意識して動いてますし。
――それこそ、映画の中で「(渡辺さんは)仕事上のサイコパス」という言葉が出てきますが、まさにそうだ、と。
渡辺 まぁ、サイコパスの自覚はありますけどね(笑)。もちろん、参加者にはわざと厳しくしてる部分もあるんですけど、社会はオーディション中の僕みたいに怒ってくれないし、何も言わずに見捨てるだけなので。そういうところも感じてほしいなと思ってはいます。
すでにグループにいるメンバーを数名、オーディションに参加させるのも、もっと上にいってもらいたいから連れて行くわけですし。とにかく真剣な人間を求めてます。
――なるほど。ある意味、この映画には"渡辺淳之介イズム"や"WACKらしい考え方"が詰まっている気がしました。
最後に、1月ということで、今年のWACKの活動について展望を聞かせてください!
渡辺 そうっすね......。「とにかくお金を稼ぐ」ってことをもうちょっと考えたいですね。何をするにもやっぱりお金がないと始まらないので。昨年、4グループ以外にWAggっていうアイドル育成プロジェクトや、ファッションブランド「NEGLECT ADULT PATiENTS」も始めたので、そっちもなんとかしたいですね。あと、アニメも作りたいと思います。
――......アニメ、ですか??
渡辺 アニメ、マジで作りたいんですよね~。『けものフレンズ』とか、儲かってそうじゃないですか(笑)。
――絶対、本気じゃないですよね!?(笑)でも、今年も予想外のエンターテイメント、楽しみにしています!
●渡辺淳之介(わたなべ・じゅんのすけ)
株式会社WACK代表取締役であり、事務所に所属するBiSH、EMPiRE、BiS、GANG PARADE、WAggのプロデューサー。昨年、自身のファッションブランド「NEGLECT ADULT PATiENTS」の展開をスタート。公式Twitter【@JxSxK】
■【世界でいちばん悲しいオーディション】
1月11日(金)より、テアトル新宿ほか 全国で順次公開。公式サイト、公式Twitter【@sekakana_movie】