『週刊少年ジャンプ』で連載1周年を迎え、「全国書店員が選んだおすすめコミック2019」で第3位に食い込んだマンガ『アクタージュ act-age』。
それを記念して、原作担当のマツキタツヤ氏、漫画担当の宇佐崎(うさざき)しろ氏、そして担当編集の村越周氏による裏話座談会が実現。その模様を大公開!
■連載決定まで、死ぬほどボツを出されました
村越 マツキ君が初めて『週刊少年ジャンプ』の漫画賞である「第2回ストキンpro」に応募してくれた『阿佐ヶ谷芸術高校映像科へようこそ』という読み切りがあるんですけど、これがもうぶっちぎりで良かったんですよ。
マツキ 初めて褒められたな(笑)。それは原作の賞で、鉛筆とノートだけでネームを描きましたという、落書きみたいなものだったんです。村越さんから「絵をつけてやろう」という話をいただいて、宇佐崎さんが思い浮かんだ。
宇佐崎 もともとTwitterでフォローし合っていたんです。マツキさんが上げていた作品を見て、リプライを送って。
マツキ 生まれて初めてマンガを描こうと思い至り、まずそれをウェブに上げてみようと考え開設したアカウントでした。友達にも誰にも言わないで始めてフォロワーもほとんど0人の怪しいアカウント。なのに目をつけてくれたのがうれしかった。
宇佐崎 予知夢系のマンガでしたよね。キャラがいいなと思ったんです。女の子が主人公で。
マツキ もともと、僕は女性を主人公にしがちなんですが、宇佐崎さんが描く女の子の表情がすごく好きだった。いいな、動かしやすそうだなって。
村越 宇佐崎さんのことは僕も知っていて。前に担当していた『左門くんはサモナー』という作品のファンアートを彼女が描いていて、エゴサーチしているときに「この子、絵、上手いな」って、チェックしていた。
宇佐崎 村越さんから突然メールが来たときは、めっちゃ怖かったです。
村越 『左門くん』の公式Twitterのアカウントから送って、マウントを取りにいきました(笑)。
宇佐崎 版権問題とかで「絶対怒られる!」って。
――そうしてコンビを組んで、絵をつけた『阿佐ヶ谷...』を『週刊少年ジャンプ』本誌に掲載。このときから、連載を視野に入れていた?
村越 いや、全然。そもそも宇佐崎さん、マンガを描いたことがなかったので。
宇佐崎 描きたいな、とは思っていたけど、話がまったく作れない。だから作画のお話をいただいたときも「やります!」と言ったものの、何もわからない状態でした。
村越 『阿佐ヶ谷...』に絵をつけるときも、とりあえず地元の奈良から東京に一回来てもらって、連載中の先生方の生原稿を見せるところから始めました。『僕のヒーローアカデミア』の担当に原稿を少しだけ見せてもらったりして。
宇佐崎 生原稿、すごかったです。
村越 だから、『阿佐ヶ谷...』の後にもう何本か読み切りを経験させて、マンガの描き方に慣れてもらってから連載を狙おうと思っていたんです。けど、マツキ君からなかなかネームが上がらない(笑)。
マツキ 出したんですよ。出したんですけど......。
村越 全部ボツに。
マツキ 企画段階から否定されるレベルのボツばかりで。
村越 キスすると回復能力が上がる話とかありましたね。
宇佐崎 逆に、私のイラストを出発点にして、そこから話を広げてみたりとかも試したんですけど、しっくりこなかったらしくて。
村越 全然面白くない。
マツキ 「『ジャンプ』に合わせにきてるよね」って、ジャンプ編集者に言われると思わなかった。
村越 変に少年マンガっぽいものを描こうとしているというか、窮屈そうに描いていたんですよ。自分のフォームで投げてないみたいな。で、ようやく「これはおもろい」って上がってきたのが『アクタージュ』の1話目だったんです。『阿佐ヶ谷...』と同じ世界線で、その数年後を舞台にしている。登場人物もかぶっていたりするんですけど、ですから最初から『阿佐ヶ谷...』を広げて連載を狙いにいったわけではなくて、原点に舞い戻ってきたみたいな感じでした。
■ヤクザの事務所に行く夜凪を描きたい
――『ジャンプ』といえば、連載はもちろんですが、そこで生き残るのが難しいというイメージがあります。連載が始まってから重圧はありましたか?
宇佐崎 あったんですけど、結局『阿佐ヶ谷...』以降読み切りを描く機会もなく、『ジャンプ』本誌での連載がマンガを描く2回目というレベルで。評価が悪かったら終わるというのはもちろん念頭にあって怖かったけど、最初の頃はもうこれ以上頑張れないくらい頑張って毎週描いていたので......。
マツキ 読み切り用のネームが通らないまま、連載ネームが通ってしまったから......。
宇佐崎 いや、マツキさんを責めているわけではなく(笑)。確かにもう1本読み切りを挟んでいたら、もうちょっとマシなものをお出しできたかなという思いはあるんですけど、それは完全に私の力不足なので。今、私、『アクタージュ』の第1話を見るのがすごくつらいんですよ。
村越 「ここにスピード線がもうちょっとあったほうがいいね」とか、そういう技術的な話をしたよね。
宇佐崎 絵のことを村越さんに教わるという、不思議な感じ(笑)。
村越 俺は描けないのにね。
宇佐崎 昨年の1月末から連載が始まって、気持ち的に少し落ち着いてきたのはゴールデンウイークくらいの時期。初めて1週間休めたので。
村越 確か「デスアイランド編」のオーディションが終わったくらいじゃないかな。
マツキ 主人公の夜凪がオーディションで暴走しちゃって、(同じオーディションを受けた役者仲間の)茜ちゃんを泣かせてしまうという場面があって。そこで夜凪もショックを受けて反省するんですけど、そこからすごく描きやすくなった。「さすがにこうなったら、こいつ、困るんだ」って。アクタージュは「夜凪が人間性を獲得してゆく話」なんだって発見ができた。
宇佐崎 私もあのあたりのシーンで、最初に「筆が乗ったな」という感覚がありました。表情も、こういうのを描こうというのが明確にあって、それが描けたというか。
村越 あのあたりからいい流れができて、最初にぽんって票(アンケート)が上がったのが、夜凪と茜ちゃんが仲直りする回。こうやってちゃんと成功体験を描くと(結果として)返ってくるんだなという手応えはふたりともあったんじゃないかな。
マツキ 最初の頃は夜凪の芝居の特殊性を強調するために、夜凪の芝居の欠陥を読者にすら隠しながら話を作っていて。欠陥を夜凪自身にも読者にも知覚させてからは、いじりやすくなった。