『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の新連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
前回に引き続き、白石和彌(しらいし・かずや)監督が登場。何かと話題の衝撃作『麻雀放浪記2020』の裏話を激白します!
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──阿佐田哲也さんの小説『麻雀放浪記』を再映画化されましたよね。
白石 邦画史に残る傑作で、僕らが学生の頃はみんな麻雀をやってたんで、必ずどこかで見た作品。だから、再映画化するのは恐れ多くて......。
──どんな経緯だったんですか?
白石 ある日、プロデューサーから「麻雀打てます?」って連絡が来て、「打てるけど、別にあなたとは打ちたくない」とか返してたら、試写室に呼ばれて......。
最初は「絶対いやだ!」って言ってたんですが、「魂だけ受け継いだぶっ飛び映画にしたら?」ってなって。主人公が戦後からタイムスリップしてくるんです、九蓮宝燈(チューレンポウトウ)をアガって。
──役満でタイムスリップ?(笑)
白石 それもプロデューサーが言いだして、「おまえみたいなのがいるから日本映画は......」ってイラッとしてたんだけど、話してるうちに「あれ? おもしろくなるかも」って。
過去に戻るためには九蓮宝燈をアガり直さないといけないんだけど、全自動麻雀卓だから詰み込めない......っていう、くだらない話なんです。
──「くだらない」が褒め言葉だとすると、最高にくだらない(笑)。
白石 しかも、タイムスリップしたのが2020年だから、あらぬことに巻き込まれる。戦後と同じ感覚で賭け麻雀して捕まったり(笑)。
──ネットでは「オリンピック批判のせいで国会議員から怒られた」なんて話もあがってますけど......。
白石 今、麻雀はプロリーグが始まり、議員連盟も知的なスポーツとしてオリンピック競技に推そうという動きがありまして。「麻雀に対する負のイメージを払拭(ふっしょく)したい」という気持ちは僕らも同じなので、「ぜひコラボを」と試写会でお見せしたわけですよ。
そしたら、「映画としてはおもしろいけど、協力するところはひとつもないよね」って(笑)。確かに、この映画はクリーンな麻雀のイメージとは正反対の、イカサマで勝っていく話なんで......。
──犯罪撲滅させようとしてる人に犯罪映画を見せたみたいな(笑)。
白石 オリンピック中止のくだりも笑ってもらえたんですよ。でも、いつのまにか間違ったとらえられ方で世間に広まってしまい......。まあでも、蓋(ふた)を開けたらバカ映画なんで結局叱られますね、映画ファンに。
──この作品をリスペクトする人は多いですもんね。そもそも今回の再映画化は、斎藤工(たくみ)さんが構想10年かけて実現したものだそうですね。
白石 彼はセクシーな俳優の代名詞という感じですが、実際は昭和の男。浮ついた感じがまったくないストイックなやつですよ。
再映画化するにあたり、彼だけでなく僕たちスタッフは全員、阿佐田哲也さんがやろうとしていた一番コアな部分、"男らしさ"みたいなものを追求しています。エンタメとしておもしろいものに仕上がっていると思いますよ。
●映画監督 白石和彌(しらいし・かずや)
1974年生まれ、北海道出身。若松孝二監督に師事し、演出として行定勲、犬童一心監督などの作品に参加。主な監督作は『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『彼女がその名を知らない鳥たち』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』
■『麻雀放浪記2020』
全国ロードショー公開中。
1945年の「戦後」から2020年の「戦後」へタイムスリップした若き天才ギャンブラーが見た世界とは? 平成最後の最も危険なセンセーショナル・コメディ! 主演・斎藤工