バラエティプロデューサー角田陽一郎氏(左)が、作家としても多くの著作を持つ参議院議員・青山繁晴氏の映画体験をひもとく

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

前回に引き続き、参議院議員を務める傍ら、作家としても多くの著作を持つ青山繁晴(あおやま・しげはる)さんをゲストにお迎えします。

* * *

──『NANA』(2005年公開)がお好きとのことですが、邦画でほかに好きな作品はありますか?

青山 僕は洋画を見ることが多いのですが、ザッピングで「なんておもしろいんだろう」と思って改めて録画して見たのが、片岡修二監督の『ストリッパー』(2012年公開)。ネットのレビューでボロクソ言われてるし、「きっと売れてないんだろうな」と思ってDVDまで買いました(笑)。

──DVDまで買われたんですか! どんな作品なんでしょう?

青山 ある姉妹の物語です。姉が誇りを持ってストリッパーをやっています。大切な妹がいい会社に就職して、なんとその会社の御曹司と恋に落ち、結婚の約束をする。ところが、姉がストリッパーであることを理由に反対される。姉は苦しみ、妹とケンカもする。

そんななか突然、妹がストリッパーになる。ストーリーは飛躍しているし、一般的にいうと大した映画ではないのかもしれない。でも、生きる哀感とか人間のプライドとかが本当によく描けています。

──そこまでおっしゃるとは。僕もDVD買って見たいです。

青山 ぜひ買ってあげてくださいよ。日本映画って昔からエロスを扱う作品のほうが社会性や問いかけがあると思います。そういう伝統が残ってるんでしょうね。

──なるほど。では青山さんがいちばん影響を受けた映画はなんですか?

青山 影響というものは意外に受けないのですが、挙げるなら『アラビアのロレンス』(1962年公開)ですね。これも家族に連れられて、小学校5年生くらいのときにはじめて見ました。

──1916年~18年にかけて起こったアラブの反乱を描いた歴史映画ですね。アラビア半島を支配していたオスマン・トルコに対する反乱軍を、イギリスから送られて来た陸軍中尉のトーマス・エドワース・ロレンスが率いて打ち破るという。

青山 最初は好きじゃなかったんですよ。むしろ、はじめて見たときは残虐シーンにおののきました。

──どのシーンですか?

青山 例えば、ロレンスがオスマン・トルコ軍を襲うとき、次第に殺すことが目的になっちゃうシーン。血が吹き出たり、半月刀を振り下ろしたりして、怖くてびっくりしながら見た記憶があります。でも同時に、砂漠のシーンがすごく美しくてね。「世の中にはこういう別世界が遠くにあるのか」と感動しましたね。

──青山さん、今ちょっと少年っぽい顔になってましたよ。

青山 あ、そうですか?(笑)。親に頼んで鳥取砂丘にも行ったなあ。でも、映画とは全然違いましたけどね。

──そりゃ、アラブの砂漠とは違いますよね(笑)。

青山 僕は共同通信の記者をやめてから中東にもよく行くようになったのですが、アラブ人と馬があった。砂漠が好きという変な日本人でおもしろがられてね。これは『アラビアのロレンス』と関係があるでしょうね。

実はね、50歳くらいの頃かな、飛行機でシナイ半島の上空を通っているときにエンジンの出力が上がらず、墜落しそうになったんです。低空を飛び続けて、比喩ではなくラクダの顔が見えた。

アラブ人の乗客はみな、お祈りです。ふと考えたらそのルートって、ロレンスが死に直面しつつ越えたルートの上空だと気づいたんです。結局、無事にカイロに着いたんだけど、人生っておもしろいなあと感じましたよ。

──映画がフラッシュバックしました? 

青山 はい。セリフもほとんど覚えるくらい見ていましたから。ちなみにロレンスは最期、事故死するんです。

──イギリスに帰国してから、オートバイを運転中に事故に遭ったんですよね。

青山 実は僕、2016年の参院選が始まった初日に選挙カーが事故を起こしまして、車がガード下に挟まって傾いたんです。それを見た人たちにネットで「青山、左に傾く」と書かれました(笑)。

──うまいこと言いますね(笑)。

青山 話が横道にそれましたけど、『アラビアのロレンス』はいろんなシーンが人生に重なりますね。アラブのためにやったことが祖国イギリスの裏切りでアラブを苦しめることになるとか、運命の浮き沈みやいろんな真理を僕に叩き込んでくれた。

そういう意味では、この作品は「人生は広くて大きくて恐ろしい」という認識をあらかじめ作ってくれました。

──最新作『不安ノ解体』についてお伺いします。『不安の解体』というタイトルですが、ずばり、読むと不安が解体されます?

青山 いい質問ですが、それなら安易なハウツー本ですね。

──あらら(笑)。

青山 ご自分で不安を解剖して正体を知る、その手助けくらいなら僕にもできる。そういう気持ちで不安を解体するためのさまざまなアプローチを説いています。この本でいちばん言いたいのは「不安をなくそう」ということではなく、むしろ「不安があってはじめて人間になれる」ということ。

人間は死ぬことが不安であり、そういう根源の不安があるからこそ宇宙の果てについて調べたり、飛行機を飛ばしてよりよく生きようとしたりする。つまり、人の進歩は生存の不安からきていますから。

──なるほど。手助けとは、まさにアラビアのロレンスじゃないですか!

青山 それは偶然(笑)。

──いやいや現代のロレンスですよ。お前らがやりたいなら手伝うぞ、と。この本はロレンスが書いた名著『知恵の七柱』の現代版ってことでよろしいでしょうか?

青山 それは僭越(せんえつ)光栄にすぎますね(笑)。ロレンスは寂しがり屋だったと思います。僕も夜中に映画で人が動いてないと寂しくて原稿が書けない。同時進行のスーパーマンではなく、原稿も4種類を少しずつ書いていかないと視野が狭まる。映画は弱き者こそ助けてくれると思います。

●参議院議員 青山繁晴(あおやま・しげはる)
1952年生まれ、神戸市出身。慶應大学文学部中退、早稲田大学政経学部卒業。共同通信、三菱総研を経て独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長。2016年、参院選に出馬し初当選。現在は近畿大学と東京大学で教鞭を執る

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