『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で芹沢猪四郎役を演じる渡辺謙

現在公開中の映画、ハリウッド版ゴジラの新作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で重要な役どころを演じる渡辺謙にインタビュー。日本が誇る世界的名優はゴジラの魅力をどう語るのか? さらにはなぜか名優・勝新太郎の秘話まで!? 映画ライター・ギンティ小林が迫ります!

■"中間点"に立つ役者として

──前作のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』(2014年。以下、前作)が公開されたとき、渡辺さんはあるインタビューで、「安易な続編ではなく、今回の作品は一回ご破算にして、あらためてきちんとした世界観や脚本を作ってほしい。その物語の中に芹沢の名前があったら、やらせてもらうと思う」と語っていますね。その続編である『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』に出演を決めた理由は?

渡辺謙(以下、渡辺)今作は、オリジナルの『ゴジラ』(1954年公開の日本映画)に近い部分を感じたんですよ。

いかにしてゴジラが誕生したのか? この地球や人類にとって、どういう意味をゴジラが担っているのか?という部分がオリジナルに近いし、もっと膨らんだ気がしたんですよね。

そういう意味ではエンターテインメントの部分と、ストーリーテリングの中の深い部分が非常にマッチするんじゃないかなって思って、すんなり「やりましょう!」という感じでした。

──監督が前作のギャレス・エドワーズからマイケル・ドハティに変わりましたが、監督と(渡辺さんが演じる)芹沢猪四郎(いしろう)の役について、どんな話し合いをしましたか?

渡辺 前作ではゴジラと対峙(たいじ)するのは軍人がメインで、僕ら科学者はアドバイザーという感じだったんですけど、今作は科学者が主役。なので、マイケルからは芹沢がそのリーダーとして指示を出したり、統率してほしいんだと言われたので、それは意識するようにしましたね。

──芹沢猪四郎の名字は、オリジナル『ゴジラ』で平田昭彦さんが演じた芹沢大助博士が元になっています。そして今作で芹沢猪四郎は、この芹沢大助にオマージュを捧(ささ)げるような行動を取りますよね。映画を見た日本のゴジラファンの間で反響を呼ぶと思うのですが。

渡辺 脚本を読んだとき、おお、そう来たか!と思いました。ただ、今作の芹沢の行動自体は、オリジナルとは対照的というか、シニックです。

──そのシーンで芹沢は、ゴジラに向かって日本語で「友よ」と語りかけます。

渡辺 あのセリフ、当初の脚本には英語で書かれていたんですよ。でも、ゴジラとサシになって言葉を投げかけるのなら、やはり日本語でやりたいと監督に言って、ああいう形にした。ちょっと時代がかったセリフではあるんですけどね(笑)。ま、芹沢ですから許されるかな、と。

──前作では、「1954年の核実験(*1)はゴジラを滅ぼすためのものだった」と語られていました。でも、今回の映画で芹沢は「ゴジラを甦(よみがえ)らせたのは私たちの核実験が原因だ」と断言します。やはり、そこも日本人のキャラクターとしては譲るわけにはいかないと?

渡辺 そうですね。ただ、ほかの怪獣に関しても人類の所業によって目覚めたんだ、われわれこそが元凶なんだ、というのが芹沢の考えです。

(*1)アメリカがビキニ環礁(現在はマーシャル諸島共和国)で行なった第2次世界大戦後初の核実験のこと。これにより発生した大量の放射性降下物に被曝した漁船が日本の「第五福竜丸」である。1954年公開の『ゴジラ』は、太平洋の海底洞窟に潜んでいたジュラ紀の恐竜がこの核実験によって目覚めた、という設定になっている

──一方で今作では、あるシーンで核兵器が大胆な使われ方をしますね。

渡辺 そのシーンに関して、監督やプロデューサーたちとは「どういう思いを持ってやるべきなのか」「それは別の方法にはできないのか?」という話をしましたね。

現代社会においても、核や原子力をどう扱うかは正解が出てない。いまだに原子力発電所が回っていて、それに頼る電力があるわけで。われわれが今の社会の中で正解を出せていない。本当は出さなきゃいけないんですが......。

──ハリウッドと日本では、核兵器の認識の違いは大きい?

渡辺 核兵器に対する概念そのものがまるっきり違いますね。前作で、サンフランシスコ沖で核兵器を爆発させたけど、僕にしてみたら、ちょっと待ってよ! そのエフェクト(影響)がどれくらいあるのかわかってんの!?と。日本人としてそういった違和感は持っています。

──渡辺さんは、日本人としてハリウッド映画の『ゴジラ』に出演することをどう考えていますか?

渡辺 僕は、日本のお客さんと外国のお客さんの中間点に立たせてもらっていると思うんですよ。日本のお客さんには「ハリウッドでゴジラを撮る」と聞いたときに、「渡辺謙が出てるから、そんなに間違いはないだろう」と思っていただける。

アメリカや外国の人たちには、僕が出ているということで「これは日本のコンテンツなんだな」と思ってもらえる。そういう立ち位置に僕はいると思いますね。

──日本のファンとして、渡辺さんが出演したことでうれしかったことのひとつが、ハリウッド映画の中でも、「ゴジラ」の名を日本語の発音で呼んでくれたことですね。

渡辺 前作の撮影現場では、ゴジラの発音でプロデューサーたちとかなりディスカッションしましたね。でも、今回の現場では、海外の出演者たちが「ガッジラ」と英語の発音で呼ぶなかで、僕だけが「ゴジラ」と呼んでも、「日本人の呼び方はそうなんだ」って納得してくれました。

──ところで、芹沢を演じたことによって、海外のファンから声をかけられることは?

渡辺 ありますよ。面白いことに、なぜかイミグレーション(入国審査)のときにファンに遭遇することが多いんです。入国審査官にパスポートを見せるじゃないですか。そうすると「セリザワ!?」ってなって、「もうすぐパート2が出るよ」って教えると「イェーイ!」とスタンプを押してくれて(笑)。

■渡辺謙が語る『シン・ゴジラ』

──『ゴジラ』シリーズの中で好きな怪獣はいますか?

渡辺 今作を見て、キングギドラが好きになりました。あの悪役ぶりや動きのパワフルさがすごい。アクションのコリオグラフ(振り付け)のアイデアがすごい豊富で、ただガーンとぶつかったり光線を吐いたりではなく、ちょっと粘着性のある首の巻きつけ方とか攻撃の仕方も見応えがある。

それに今回、キングギドラ以外にもモスラやラドンが登場しますが、ゴジラ以外は飛翔(ひしょう)する怪獣なんですよね。みんな空中戦。飛ぶヤツってすごいなぁ!と思いましたね。だから、怪獣同士の格闘だけでも楽しめるんじゃないかな。 

──ところで、『シン・ゴジラ』(2016年公開)はご覧になりましたか?

渡辺 もちろん。『シン・ゴジラ』は、突然現れた未知の災害に人々が右往左往するパニック映画として作られていましたよね。思い出すのは、僕が映画館で見たとき、ふたつ前の席に8歳ぐらいの男の子がいたんです。彼が、初めてゴジラが海から這(は)い上がってくるシーンを見て、「パパ......ゴジラ!? あれゴジラ!?」って言ったんですよ。

──子供は素直ですね。

渡辺 その子の発言に『シン・ゴジラ』が集約されているような気がしますね。やっぱり僕らにとって、ダーンダーン!と登場してギャアアアッ!って吠える、これこそゴジラだな、と思うわけです。

■影響力はゴジラ級! 渡辺謙が明かす「勝新太郎」秘話

──ここからはゴジラとは関係ない質問なのですが......海外の映画人を取材すると、日本の映画が生んだ影響力のあるキャラクターとしてゴジラと同じくらい「座頭市」の名前がよく出るんです。

渡辺 ほう!

──座頭市といえば、やはり名優・勝新太郎です。渡辺さんが伊達政宗を演じた大河ドラマ『独眼竜政宗』(1987年)で勝さんは豊臣秀吉を演じていましたよね。そのときの話を個人的に聞きたくて。

渡辺 いいですよ(笑)。勝さんはエピソードだらけの人でしたね。例えば、秀吉の最期、諸大名が集合するなか、八千草薫さんが演じる正室・北政所(きたのまんどころ)が、寝ている夫の秀吉をそばで見守っている、というシーンがあるのですが、そのリハーサルのときに勝さんが「俺は死ぬ間際に起き上がってパアーッ!と言って、それからパタンと死ぬんだ」と宣言したんです。

その案を採用する形で本番が始まり、僕ら大名たちはじっと秀吉を見つめる......ところが、いつまでたっても勝さんは微動だにしない。

──え!?

渡辺 挙句、「ングァアアァーグォー」ってイビキが。おかしいな......と思っても誰も動けない、それも芝居かと。で、2、3分たったときに八千草さんが「寝てる」と(笑)。

──ゴジラ並みに何を考えているかわからないというか、豪胆というか。

渡辺 ただ、ものすごく緻密に計算する方でもあった。秀吉が東北に遠征したときに、福島で政宗を呼びつけるシーンがありました。その時期は8月という設定だったんですけど、リハのときに勝さんは「俺はなぁ、氷を食べる!」って言うわけですよ。

──政宗や秀吉が生きていた時代は製氷技術が発達していませんでしたから、夏場に氷を用意するのは至難の業です。

渡辺 そう。だから、「氷ですか? 8月の設定なんですが......」と疑問を挟むと「大丈夫だぁ。俺は(秀吉は)富士山に氷の室(*2)を持っていて、そこから取り寄せてるんだぁ」って言うわけですよ。皆、「はぁ......」って納得するしかなく(笑)。

それで本番のときには大きなタライを用意して、氷を入れて。秀吉は氷を食べながらセリフを言うんですけど、口に入れすぎて何しゃべってるかさっぱりわからない(笑)。

(*2)冬場にできた天然氷を夏までに蓄えておくための施設。山の陰など、気温が低い場所の地面に穴を掘って、茅(かや)などで覆う

──ハハハハ。

渡辺 ただ、やろうとしていることはすごく面白い。富士山から取り寄せた氷を東北で食べることで、秀吉の権勢を多く語らずに見せつけちゃうわけですから。

──これまで仕事したハリウッドの現場には勝さんのような方はいましたか?

渡辺 いやぁ、ションベンがちびりそうな現場はいっぱいありましたけど、勝さんのような方とは、今のところ出会ってないですね。幸か不幸か。

──では今後、仕事したいハリウッドの監督はいますか?

渡辺 正直に言うと、この方という人はいないんですよ。「願いを言い続けるとそれが現実になる」と言う人もいますが、僕は言わないほうが思いも寄らないタイミングで大きな仕事が舞い込んでくるところがあるので。ま、気が急っても的を決めずにボンヤリとやっていきたいと思います。

●渡辺謙(わたなべ・けん)
1959年生まれ、新潟県出身。82年『未知なる反乱』でテレビデビュー、87年にNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』で主演を射止め、一躍国民的人気を得る。2003年にハリウッド映画『ラストサムライ』に出演。同作で第76回米アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされ、その後『硫黄島からの手紙』(06年)、『インセプション』(10年)、『名探偵ピカチュウ』(19年)など、数々のハリウッド映画に出演。映画、ドラマ、演劇など世界各国で活躍する日本を代表する俳優だ

■『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』全国東宝系にて世界同時公開中!
監督:マイケル・ドハティ
脚本:マイケル・ドハティ、ザック・シールズ
出演:カイル・チャンドラー、ヴェラ・ファーミガ、ミリー・ボビー・ブラウン、サリー・ホーキンス、渡辺謙、チャン・ツィイーほか

米ワーナー・ブラザース、レジェンダリー・ピクチャーズと東宝がタッグを組んで製作する怪獣映画シリーズ「モンスターバース」。2014年の『GODZILLA ゴジラ』、2017年の『キングコング:髑髏島の巨神』に続く第3弾が『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』だ。本作は、人間を地球汚染の病原体だと考えるテロ集団が、自然の秩序回復のためキングギドラをはじめとする巨大怪獣たちを目覚めさせようと画策。その野望を芹沢博士(渡辺謙)たち特務機関モナークが阻止しようと奮闘する。
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●ギンティ小林
雑誌『映画秘宝』(洋泉社)の名物ライター。映画関連の著書多数。心霊スポット取材も精力的に行なう

ヘア&メイク/プシュケ ヘアメイク 筒井智美 スタイリング/馬場順子
衣装提供(ジャケット、シャツ、ネクタイなど)/BRION(問い合わせ:BRIONI JAPAN 03-6264-6422)