■『カメ止め』の再来!? 上田監督の斬新な挑戦
製作費が約300万円ながら、予測不能な展開がウケて興行収入31億円を突破し、昨年最大級の話題作になった映画『カメラを止めるな!』(以降、『カメ止め』)。
この『カメ止め』で長編商業デビューを果たした上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)監督が、今年も予測不能な話題作を引っ提げて日本映画界の台風の目になる!?
8月16日から全国公開される映画『イソップの思うツボ』は、上田監督がオリジナル脚本を手がけた意欲作。それだけでなく、上田監督と共に、『カメ止め』で助監督だった中泉裕矢監督、同じくスチール担当だった浅沼直也監督の盟友3人による"トリプル監督"作品。そんな超異例のスタイルで製作されたのである。
しかも監督だけでなく、ヒロインもトリプル! 監督ごとにメインで演出するヒロイン(およびその家族)が振り分けられていたということで、今回は上田監督と、上田監督がメイン演出した兎草(とぐさ)早織役で、週プレのグラビアでもおなじみの井桁弘恵(いげた・ひろえ)さんの対談をお届けするぞ!
■ラスト間際に物議! 驚きの"あの行動"
――本作は3人のヒロインとそれぞれの家族が、誘拐、裏切り、復讐によって化けの皮がはがされていく物語とのことですが、まず3人の共同監督になった経緯を教えてください。
上田 僕はもともと、中泉監督や浅沼監督とは付き合いが長いんですよ。2015年に公開された『4/猫 ねこぶんのよん』というオムニバス映画では、3人が各話を監督したという縁もあって、今回の共同監督という形で一本の作品を作るプロジェクトがスタートしたんです。
今までにも、兄弟で共同監督っていう映画はあったりしますけど、血のつながりもない3人が共同監督で作るっていうのは、世界的に見ても珍しいんじゃないですかね。
井桁 現場に3人の監督が全員いらしたので、なんかすごく新鮮で不思議な撮影でした。私が演じた兎草早織の兎草家は、基本的には上田監督が演出担当だったんですけど、石川瑠華ちゃん(ヒロインのひとり・亀田美羽役)と共演するシーンは、亀田家担当の中泉監督からも演出を受けたりして、ちょっと混乱したり。どういう演技にしようか相談しようと思っても、3人のうち誰に聞いたらいいかわからなくて(笑)。
あ、そういえば、中泉監督は演技指導のときはすごくしゃべりかけてくださるんですけど、それ以外の雑談とかは全然しゃべってくれなかったんですよね。
上田 井桁さんがかわいすぎて、緊張しちゃうっていうのは言ってた。普段は目を合わせられないって(笑)。
井桁 悲しかった(笑)。
上田 まぁ、中泉監督の気持ちもわかるよ。語弊があるかもですけど、今まで僕の作品の女優さんって、ファニーフェイスというか、もちろんすごく魅力的なんですけど、いわゆる"正統派美少女"って感じのコはあまりいなかったんですよ。だから僕も井桁さんをキャスティングしたときは、うわーってテンション上がりましたもん。
井桁 そうだったんですね。でも、物語後半の山小屋に3家族が集まるシーンでは、もうメイク直しもしないで、そのまんまの状態でボロボロな顔も出しちゃってますよね。
上田 それがすごくよかったと思うよ。井桁さんは、売れっ子タレントで恋愛体質の女子大生って役どころ。物語前半はちょっと意地悪な女子っぽく見えなきゃいけないけど、天真爛漫(らんまん)なピュアさも見せなくちゃいけない。
そこから後半で、また違う一面も出てくる難しい役どころだったから、前半から後半にかけてちゃんと同じ人物としてつながって見えるかなっていうのは、ちょっと心配してた部分なんだよね。
でも、体当たりというか、いい意味でボロボロの姿もさらしてくれて、全編通して"兎草早織"として成立してたし、すごく魅力的なキャラになってたよ。
井桁 そう言ってもらえるとほっとします。山小屋のシーンの早織はかなり過酷な状況だったし、11月の寒いなかでのロケで、撮影環境も冷えとホコリでかなりハードだったので、無我夢中でしたね。
クライマックスで、早織が自分の両親に対して行なった"あの行動"の撮影のときは、もう心身共に限界が近くて(笑)、必死でやりました。
■この作品のおかげで天狗にならなかった
上田 "あの行動"の後の早織のラストシーンは、演技が一番難しかったよね。
井桁 そうですね、加減が......(笑)。早織としては自分のやってしまったことの混乱もあるし、"あの行動"をしてしまった後の両親に対して、突き放すのか、受け入れるのか、それとも自ら離れるのかっていうバランスの表現に、すっごく悩みました。
上田 井桁さんでよかったなって思ったのは、迫真の演技を見せようとか、よけいなことを考えずに早織を演じてくれてたところかな。役者さんが用意してきた演技プランが、過剰になって前のめりになりすぎて、邪魔になることもよくあるんだよね。けど、早織として目の前にある状況を、その場の空気で演じてたんで、天性のものがあるなって。
井桁 ラストシーンは、早織の複雑な感情がカメラ越しに伝わっているか不安で、何度も大丈夫でしたか?って聞いちゃった記憶があったんですけど、そう言っていただけてよかったです。上田監督は、この映画を作るのはやっぱり大変でしたか?
上田 3人監督っていう体制自体がすごくチャレンジングだから、この作品で映画っていうものをどういうふうに変えられるのかなっていう、不安とワクワクが入り交じってましたね。
3年ぐらい前から始動してるんですけど、そのうち最初の2年はずっと監督3人とプロデューサーで、何回も延々と会議して詰めていく作業だったんですよ。だから実際の製作は、最後の1年でガーッと進めた感じで。
井桁 私がオーディション受けたのが去年の8月で、撮影はその年の11月に9日間で一気に撮りましたもんね。
――去年の8月というと、『カメ止め』ブームの真っただ中! では上田監督は、かなりのプレッシャーを感じながら製作してたんですか?
上田 いや、むしろ『カメ止め』ブームでやたら忙しくなって、ともかくこの作品の進行もしなくちゃいけないって状況だったので、プレッシャーを感じる余裕もなく(笑)。あと、監督3人の意見が食い違ったときはその都度、それぞれ自分のやりたいことをプレゼンしてたんですけど、対等な立場で自分の感覚を疑ってくれる人がいるのは新鮮でしたね。
ともすれば『カメ止め』で天狗になっていたかもしれない時期に、「自分はまだまだだな」って何度も思えて。だから、あらためて鍛えられたし、むしろタイミング的にはすごくよかったんじゃないかなと。
――映像の色みを統一しないなど、あえて監督ごとの好みをそのまま反映しているような部分もありましたが、それでも一本の映画として違和感なくすっと見られたという印象もありました。
上田 3人の作家性の色をそれぞれ出してるから、シーンによっては全然違うものになってるんですよ。だけど、一歩引いた視点で全体を見ると、きちんと一枚の絵(映画)になるようにっていうのにこだわりましたし、一番難しいところでもありましたね。
井桁 だからそういう部分に注目しつつ、何度も見ていただきたいですよね。
上田 確かに。3監督がぶつかった痕跡がそのまま残ってるので、ほかの映画とは違った楽しみ方もできると思います。あと、自分はどのヒロイン推しかで友達同士、モメてもらえるとうれしい(笑)。
井桁 モメられるの怖い(笑)。でも絶対にダマされると思うので、ぜひダマされてください。ちなみに、私は初めて完成版を見たとき、残念ながらダマされなかったんですけど......(笑)。
上田 そりゃそうだ(笑)。
(スタイリング/小山田孝司[The VOICE MANAGEMENT] ヘア&メイク/帆足雅子)
◆『イソップの思うツボ』
8月16日(金)より、全国ロードショー公開予定。
出演/石川瑠華、井桁弘恵、紅甘ほか。
カメだけが友達の内気な女子大生・亀田美羽。大人気"タレント家族"の娘で女子大生の兎草早織。アウトローな生活を送る復讐代行屋・戌井小柚。3人の少女による甘く切ない青春物語......ではなく、誘拐、裏切り、復讐てんこ盛りのだまし合いバトルロワイヤル! 『カメラを止めるな!』でチームを組んだ上田慎一郎、中泉裕矢、浅沼直也によるトリプル監督作品だ
●上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)
1984年4月7日生まれ、滋賀県出身。中学生の頃から独学で自主映画を撮り始め、2015年までに『お米とおっぱい。』(2011年)など8作品で監督を務める。2018年に『カメラを止めるな!』で、映画業界内外から大きな注目を集める
●井桁弘恵(いげた・ひろえ)
1997年2月3日生まれ、福岡県出身。2017年、朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ系)のリポーター、「リクルートゼクシィ11代目CMガール」などに抜擢。9月1日スタートの『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)では、"女性仮面ライダー"を演じることでも話題に