昨年末、M-1審査員を務め、その的確なコメントが評判になった漫才コンビ・ナイツの塙宣之(はなわ・のぶゆき)さんが、集英社新書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』を刊行した。浅草を本拠地として活躍する塙さんにとって、M-1出場は関西漫才の総本山に殴り込みをかけるようなもの。そんな東と西とのお笑いの違いなどにも鋭く切り込んでいる。

ナイツは、二〇〇一年に始まったM-1グランプリに第一回からエントリーし、二〇〇七年には初めて三回戦の壁を破り、準決勝までたどり着いた。残念ながら決勝戦に進出することは叶わなかったが、その年、敗者復活戦から優勝という快挙を遂げたのがお笑いコンビ・サンドウィッチマンだ。

塙さんは、サンドウィッチマンのネタを見たときに、はっきり「負けた」と思ったそうだ。そのサンドウィッチマンの伊達みきおさんをお迎えして、M-1の裏話や現在のお笑い界の状況などを、お話しいただいた。

■サンドウィッチマン登場の衝撃

 二〇〇七年のときには、「ヤホー」の言い間違いのネタができていて、一回戦、二回戦、三回戦と、ものすごい手応えがあったんですよ。よし、今年は行けるなと思ったんですけど、結局準決勝で勝ち抜けなくて、敗者復活戦に入った。そのとき、ぼくらは「SMAP」のネタをやったんですね。

伊達 うんうん、知ってる。

 ところが、同じ敗者復活戦でサンドウィッチマンさんがぼくらの前に出て、それこそ死ぬほどウケていて、もう無理だなと、戦意は喪失していたんですよ。とにかく、あのときのサンドさんは衝撃でしたね。

伊達 敗者復活から決勝の九組を抜けて、最終決戦の三組に残るというのは、それまでは二〇〇三年のアンタッチャブルだけだったんじゃないかな。

 そうですね。でも、サンドさんはやっぱり特別だったと思いますよ。正直なところ、二〇〇七年は、準決勝に行けた時点でぼくのなかではもう満足しているんです、壁を破れたというので。だから、あまり悔しいという気持ちがなくて、サンドさんをほんとに応援していたんですよ。

伊達 うれしいわ~。

 そのとき最終決戦に残ったのは、トータルテンボス、キングコング、サンドウィッチマンの三組だったんですけど、大井競馬場の敗者復活戦会場にいた人たちは、大阪の吉本の若手はキングコング、東京吉本はトータルテンボス、それ以外の非吉本軍団がサンドウィッチマンと、完全に三つに分かれたんです。その応援がまたすさまじくて、ぼくもあの現場にいたんですけど、すっげえおもしろかった。

伊達 ああ、いたんだ。

 で、サンドさんが優勝したときには、ぼくら非吉本軍団は全員で、「よっしゃーっ!!」みたいになって。

伊達 いや、ありがたいですね、それは。やっぱり、吉本以外の他の事務所同士には一体感みたいなのがあって、そういう感覚でぼくらはやっていたんですね。

 正直いえば、うれしいのと同時に、やっぱりうらやましいという感じですよね。

実際、M-1の決勝戦で最大ウケ値をとれない、力を出し切れないコンビっていっぱいいるんですよ。ぼくらがそうなんですけど。何かやっぱりタイミングとか、そういうものを全部持っている人じゃないと優勝はできないんですよね。

伊達 ぼくらはすごく運がありましたね。ほんとにそれは思います。もう勢いだけで決勝へ行って、初めて(島田)紳助さんや松本(人志)さんをナマで見て、もう心臓バクバクですよ。立ち位置の関係で、富澤からは審査員が見えるんですが、ぼくからは見えない。ぼくは緊張しいなので、立ち位置もよかったんですね。あれで、もし「うわっ、松本人志さんいる!」ってなったら、もうネタ、飛びますよ。

――昨年のM-1では、サンドウィッチマンの富澤さんと一緒に塙さんが審査員をされました。

伊達 塙くんのコメントはもうピカイチですね。

 あらっ!?

伊達 その点、富澤は甘いですね。だって、塙くんは、若手のそれまでのネタを全部見てたんでしょ。

 そうなんですよ。

伊達 それは用意周到というか。

 それぞれ十個ぐらいずつのネタを見ておいたんです。でも、富澤さんはもしかしたら......。

伊達 あいつ、ほぼ初見でいっている。

 初見のほうがいいと思っていたのかもしれないですね。

伊達 そうそうそう。

 ぼくは、一日だけで判断するのがかわいそうだと思ったんですよ。ふだんのこいつらはおもしろいという、基礎点数みたいなのをつけておこうと。自分がそういうのがあったらいいなと思ってたから。だから、かまいたちは基礎点数が高かったんですよ、どのネタもおもしろかったから。でも、当日はあまりウケていなかった。

伊達 へえーっ。

 難しいんですよね。下手にいろいろ見てしまうと、こいつ、またこのネタやっているのかみたいに思って、何か全然笑えなかったり。もしまた審査員の話が来たら、次はやり方を変えて、当日初見でいこうと思っています。

伊達 そうだね。

 サンドさんが優勝したときも、多分、みんなが知らなかったという新鮮さがあったと思うんですよね。

伊達 それ、大いにあります。

 だから、度肝を抜かれた。まず、うまいし、ネタがおもしろいし、キャラがあるしって。何でこの人たちがこれまで出てこなかったのかということ自体が、もうM-1史上最大の謎なんですよ。

伊達 (オール阪神巨人の)巨人師匠が、本番中に「何でこの人ら、落ちてたの」って言ってくれたのは、すっごいうれしかったですね。

■言葉遊びの笑いは東京手法?

――塙さんは今度の本のなかで、ボケとツッコミのセンテンスが非常に短いこととか、「言い間違い」や言葉遊びを入れるところなど、サンドウィッチマンとナイツのネタが少し似ていると書かれています。

伊達 言い間違いといえば、もうナイツですけど、たしかにぼくらもやっています。まあ、言い間違いというのは、ネタづくりのなかでは王道ですからね。

 見たときに、ヤバいな、ちょっとかぶってる、かぶってるというか、おれらがパクったと思われるのは嫌だなと、思ったときがあったんですよ。

伊達 そんなこと思ったことない(笑)。

 要するに、言い間違いにツッコミが入るまででワンセットみたいなボケが多いじゃないですか。伊達さんと(相方の)土屋のツッコミの個性が全然違うから、あまり同じようには見えないけど、センスが似ているところがあるんですよね。

伊達 そうかもしれないね。ぼくらも「ボキャブラ天国」にハマっていた世代ですし、言い間違いとかイントネーションの違いでまったく違う意味を持たせるというのは好きですし、おもしろいと思うジャンルなので、ネタにも自然と入ってきますよね。

つぶやき(シロー)さんの「お金、今月、大分使ったからな」というのが、「今月、大仏、買ったからな」とか。やっぱりそういうのおもしろいものね。で、それって、意外と西ではやらないよね。

 こっちの手法なのかもしれないですね。

伊達 関西弁はもともとイントネーションも違うし。

 たしかに、そういう発音とかのボケは、関西ではあまりやりませんね。でも、フットボールアワーさんとか、意外にそういう言葉遊びの笑いが多いですね。

伊達 ああ、そうかもしれない。同じボケでも、塙くんの場合は、「何も悪いこと言ってませんよ」「間違ってませんけど」みたいな顔をずっとして、ひょうひょうとやるのがおもしろいよね。もうひとつ、塙くんは土屋くんのことをほぼ見ない。あれがまたね、おもしろい。ぼくなんか富澤の顔をよく見るし、富澤もぼくを見る。土屋くんは一所懸命塙くんに話しかけてるのに、塙くんは土屋くんを見ない。でも、最近はちょっと見るようになったよね。

 なった、なった。やっぱり中川家さんとか、サンドさんと一緒に、イベントをやっているじゃないですか。五分とかだったら、システム的にまったく見ないでやる漫才はできるんですけど、二十五分くらいになるとさすがに、ロボットみたいにやるのは、やっぱり変なので。だから、見るとしても、変なところで見たりとか、「うるせえ!」とか急に、「さっきからいちいち突っ込んでるんじゃねえ!」とか。

伊達 ほんとに。たまにね、何を言ってるのかなと思いますね。頭、おかしいわ~と思って見てます。「漫才サミット」ってライブをぼくらとナイツと中川家さんでやっていますけど、一番ぶっ飛んでるのは塙くんなんですよ。

塙 (中川家の)剛さんも相当おかしいですけどね。

伊達 剛さんもおかしいですけど、圧倒的に塙くんがおかしいです。まあ、そのくらいぶっ飛んでないと、ナイツのあのネタはつくれないですよ。

■東京芸人はナイツを目指している

――伊達さんは、関東芸人はなぜM-1で勝てないのかと思われたことありますか。

 それ、聞きたいですね。

伊達 ぼくら仙台なので、関東芸人とはいえないんですけれど、まあ、標準語という括りでいえば、いわゆる標準語でM-1で優勝したのは、アンタッチャブルと、ぼくらと......。

塙 トレンディエンジェルですね。あと、九州だけどパンクブーブー。それぐらいかな。数は少ないですね。

伊達 やっぱり関西弁のおもしろさ、「何でやねん!」という文化と、「何でだよ!」とでは全然ニュアンスが変わってくる。ぼくはどうしてもツッコミ目線になりますけど、その違いというのはすごくありますね。やはり漫才というのは関西の文化で、ぼくらはコントに逃げるというかね。しゃべくりは、やっぱり難しい。

 中川家さんを生で見ると、達者ですものね。

伊達 達者というか、流れるような関西弁で、東京とか、ぼくらの地元・仙台とかに関西弁の漫才師が来ると、「ああ、漫才だ」ってなりますものね。

 関東は、どちらかというと、ちゃんとした形がないとだめで、関東の人が普通にしゃべくりをやると、「人志松本のすべらない話」のフリートークみたいになっちゃう。だから、どうしても何か形をつくるんですよね。オードリーみたいな形とか、ぼくらみたいな言い間違いとか、あとコントに仕立てたりとか。

ただ、ジャルジャルなんかは、関西弁だけど、毎回、形をつくるので関東っぽいというイメージがありますね。
 
とはいっても、たとえば、浅草の東洋館などでは、M-1みたいな目線で舞台を見ている人はまずいませんね。要するに、客がいちいち審査しようとか、こいつ、どうだろうとか、構成はどうとかということは考えない。お客さんは、ただ笑いに来ているだけ。でも、それでいいんだと思うんです。笑いをいちいち分析するというのは、もうプロだけの世界なんですね。
 
まあ、ぼくなんか東洋館の若手とか見ていると、何だ、こいつの構成はって、むかついたりしますけど、でも、お客さんが笑っていれば、それで別にいいんですけどね。

伊達 でも、東洋館も客層が変わったというか、ナイツなんかが東洋館を盛り上げるようになってからお客さんが育ったというか。

 昔は、ほんとに酔っぱらって寝ている人しかいなかったですからね。

伊達 この人、どうやって入ってきたんだろう、お金、払ったのかな、みたいな人もいたよね。

 いや、マジでそうでした。

伊達 でも、今は、お客さんもニコニコしてちゃんと見ていますものね。あれは、ナイツとかが育てているんですよね、お客さんを。

塙 いえいえいえ。

伊達 いい劇場ですよ、今、ほんとに。だから、今、東京芸人は、やっぱりみんなナイツを目指しているんだと思いますよ。

その意味で、今度の塙くんの本はお笑い好きにはたまらないと思いますよ。お笑い好きが見て、「なるほどね」ということが結構あるんじゃないですか。

 お笑い界の落合博満を目指しているので(笑)。

伊達 関西の人にも読んでほしいですね。

 関西の人もだし、漫才協会の若手にも読んでほしいですね。
 
ところで、今、ぼくがやっているやつ知ってます? "サンドウィッチマン・ネガティブキャンペーン"っていって、いろいろな悪口ばかり言って、好感度を何とか一位から引きずりおろそうと。ぼく自身はどんなに好感度が低くなってもいいから、とにかくサンドウィッチマンを一位から引きずりおろそうって。

伊達 何でそんなことしてるの?

 この前も、サンドウィッチマンがNHKのロケで泊まったホテルの部屋が狭いって、天下のNHKに文句を言ってましたよって、言ってやりました。何とか引きずりおろそうと思って。

伊達 何なんですかね。仲間なのか、ライバルなのか、わからないですよね(笑)。

 悔しいんで、やっぱり(笑)。

<青春と読書 9月号より転載>

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『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(集英社新書 本体820円+税)