持ちネタは130以上。独演会は即完売。講談という伝統芸能を拡張し続ける唯一無二の才能――神田松之丞(かんだ・まつのじょう)、36歳。

圧倒的な探求心と隠さない野心。時々の毒と愛嬌(あいきょう)、野性的な面構(つらがま)え。こんな男をメディアは放っておかない。ラジオやテレビでの活躍は言わずもがな。

次は雑誌で、週プレを舞台に言葉を繋(つな)ぐ。いったいどこまで成り上がるのか? 彼と同時代を生きられるのもまた一興。講談さながらに、リアルタイムで物語を共にできる感謝を込めて。

取材を重ねて物語を紡ぐ。講談師とは、ジャーナリストに相通じる職業でもある。各界のトップランナーをゲストに迎え、じっくり言葉を重ねる対談連載が10月12日(土)発売の『週刊プレイボーイ43号』からスタートする。

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■時代を超える芸の行方。伝説は始まったばかり

新陳代謝の激しい世界ですね。『週プレ』をめくるとそう思いますよ。いつの時代も女性のグラビアがある。昔はもうちょっと男性スターが柱になってるケースもあった気がしますけど、まあ、今の旬はアイドルなんでしょう。次から次へとダイヤの原石が現れ、磨かれ、去っていく。

その点、僕は講談という伝統芸能を選んだので、ヘタすりゃ、死ぬまでやっていますからね。現在36歳。これから始まる連載で、さまざまな世界の方に話を訊(き)こうと思っていますけど、例えばこれがスポーツ選手なら、引退を考える年齢かもしれない。でも、ある落語の師匠が言うんです。「50歳になりゃ、楽しいよ」って。

30歳や40歳ではウケなかったネタが驚くほどウケるらしい。寄席演芸って歳をとればとるほど芸にフィットしていくようなところがあって、80歳、90歳になっても、芸を極めようと命を削っている怪物がゴロゴロいる。ロックなんかの世界でも、そういう年齢を超越した方はいるでしょうけど、こちらは毎日やってるので、また力の入れ具合が違うんですよね。

だから僕も、ずっと講談だけをやっていたいというのが根底にあって、どれだけメディアで売れようが、それで満足することはないんです。むしろ僕のレベルで「凄い芸を見た!」なんて言われると、「本当に凄い芸って、こんなもんじゃないよ」って言いたくなる。高校生の頃、故・立川談志師匠の高座を生で聞いた僕は、帰りの道すがらずっと鳥肌立ってましたから。

要はこれからなんですよ、僕は。もちろん講談に光が当たるようになったのはありがたいんですけどね。講談には成り上がりの主人公も大勢出てくる。そこを僕に重ねて見てくれる人もいるみたいですね。ホント講談は宝の山です。なかには極悪人が主人公の読み物もあって、そんなところも現代の人には新鮮に映るのかもしれません。

来年2月11日、真打という位に昇進します。「伯山(はくざん)」という由緒ある名跡も襲名する。連載が始まったと思ったら、すぐに名前が変わるっていうのもそうはないですよね。

襲名したからといって、瞬間的に何かが変わるわけじゃない。ただこれは数十年先に繋がる布石なので、スタート地点から見てもらえるのは、グッドタイミングだなと。

(スタイリング/上野 珠 ヘア&メイク/樋沼やよい)

●神田松之丞(かんだ・まつのじょう) 
1983年6月4日生まれ 東京都出身 所属:日本講談協会、落語芸術協会 
○2007年、三代目神田松鯉に入門。2012年に二ツ目昇進。2020年には真打昇進と六代目神田伯山の襲名を控えている。情報は公式サイトまで