是枝裕和監督(左)の映画体験を角田陽一郎氏がひもとく!
『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

先週に引き続き、最新作『真実』が公開中の是枝裕和(これえだ・ひろかず)監督が人生で影響を受けた作品や製作者を語ります!

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――最新作『真実』は撮影されてみて、いかがでしたか?

是枝 非常にフレキシブルに、俳優陣みんなが対応してくれましたね。(主演の)カトリーヌ(・ドヌーヴ)はほぼ準備をしてこない人なんです。覚えてきたセリフを言うのではなく、現場に入って、その空間と相手の役者とのやりとりのなかでセリフを入れて、振る舞いを決めていく。それがとてもよかった。

――もともと、フランス人に対しては「理屈っぽい」ってイメージがあったんですけど、だからこそ、本作での会話のやりとりがすごく自然かつリアルに感じられました。

是枝 確かに日本で家族劇を描くときより、言葉にして伝えるようにはしました。日本人同士だったら黙って背中を向ける演出にするところを、言葉での衝突を多めにしたり、その言葉も強めにしたり、という具合に。

――ずばり、見どころはどこでしょう?

是枝 まじめに答えると、名優たちによるお芝居のアンサンブルですね。現場にいると、カトリーヌからいろんな意味で目が離せなくて、振り回されていることがだんだん快感になってきたんですよ。カトリーヌはもう生き物として面白い。お客さんにもそういう部分を共有してもらえるとうれしいですね。

――それでは最後に「人生を動かした映画ランキング」の記入をお願いします。前号では映画やテレビドラマなど幅広い作品が挙がっていましたよね。

是枝 うーん......。やっぱり倉本聰さんが好きだから、『前略おふくろ様』(75~76年)かな? 山田太一さんの『岸辺のアルバム』(77年)とか『想い出づくり。』(81年)とか『早春スケッチブック』(83年)も好きだったし、悩みますね......。有名な脚本家ばかりで、これだとちょっとまじめすぎます?

――いえいえ(笑)。そこからさらに順位をつけていただきたいです。作品でなく、監督名でも構いません。

是枝 それなら演出家の名前を書こうかなあ。倉本さんとか山田さんだと普通すぎちゃいますもんね。よし、じゃあ、久世光彦さん(『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』などを演出)にします!(笑)。あと、鴨下信一さん(『岸辺のアルバム』や『ふぞろいの林檎たち』などを演出)。

――あっ! 鴨下さんは僕がTBSに入社したときの制作局長です(笑)。

是枝 そうですか。鴨下さんのドラマはもう圧倒的にヤバかったですからね。あとは佐々木昭一郎という元NHKのディレクターもすごかった。

『四季・ユートピアノ』(80年)、『川の流れはバイオリンの音~イタリア・ポー川~』(81年)、『春・音の光 川 スロバキア編』(84年)っていう連作を大学生の頃に見たんですが、これがドラマなのかドキュメンタリーなのかわからない不思議な作品なんです。

ピアノ調律師の女のコが音を求めてヨーロッパの街を旅するという内容で、現地の人々との交流が描かれていくんですけど、プロの役者がひとりも出てこない。「テレビってなんて自由なんだろう」と感じちゃって、僕は大学卒業後にテレビの制作会社に就職することになりましたから。佐々木さんの名前も挙げさせていただきます。

●是枝裕和(これえだ・ひろかず)
1962年生まれ、東京都出身。昨年、『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドール受賞。国内外問わず高い評価を受ける

■『真実』TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
(c)2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA 配給:ギャガ

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