『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
今回は、公開中の映画『108~海馬五郎の復讐と冒険~』で監督、脚本、主演を務める松尾スズキさんが登場!
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――早速、人生を変えた映画について伺っていきます!
松尾 映画で変わりますかね?(笑)
――(笑)。では印象に残っている映画はありますか? 例えば、学生時代に見た作品のなかでよく覚えているものとか。
松尾 石井聰亙(そうご/現・岳龍)監督の『狂い咲きサンダーロード』(80年)かな。高校生のときにひとりで見に行って衝撃を受けましたね。
――暴走族同士の対立と抗争を描いた作品ですが、惹(ひ)かれた理由は?
松尾 もともと、あんまり楽しい高校生活じゃなかったんですよ。友達もいなくて、かなり鬱屈(うっくつ)した青春を送っていた。だから、エネルギーが爆発したこの映画に、気持ちがリンクしたんだと思います。
――劇作家、演出家としてエッジの効いた作品を数多く手がけていますが、この作品の影響もあります?
松尾 確かに、この映画が持つパンク精神は自分の中に残っているかも。今日まで考えたことなかったけど、言われてみるとね。
――そのときに「俺も映画を作ってみたい」と思ったんですか?
松尾 それが、そんなこともなく。映画を撮ろうなんてまったく思わなかったし、むしろ、撮れると思ったのも40歳を過ぎたくらいなんですよね。カット割りの仕方とかわかんないから(笑)。
――舞台とはまた違いますもんね。
松尾 それに若い頃は映画に出てもそんなに出番が多くないから、現場に長くいないじゃないですか。そうすると、作り方もわかんないまま。でも、だんだん出番が増えてくると、自然と監督とのコミュニケーションが増えて、「こうやって撮ってるんだ」って気づくようになった。
――俳優として映画に出演することで、受け止め方も変わったんですね。
松尾 映画作りの構造がわかると、撮られ方もわかってくるんですよね。
――自分が出たり、見たりしたなかで人生が動いたと感じた作品は?
松尾 『殺し屋1』(01年)。三池崇史監督の作品なんだけど、すごく楽しそうに撮ってらっしゃるのが印象的で。その頃から「撮りたい」という気持ちが増していったかも。
――僕も三池監督の現場、ドキュメンタリーの撮影で一度行きましたけど、本当に楽しそうですよね。
松尾 テンション高いしね。『殺し屋1』では双子の殺し屋役だったんだけど、ある女優さんをビルから拉致して、車の中に押し込むシーンがあって。その女優さんはね、おっぱいが完全に見えちゃっているような衣装だったんですよ。
台本には「車に押し込む」としか書いていないのに、三池監督は「そのコのおっぱいを揉(も)みながら車に押し込んで犯してください」とか「もっと腰振って」とか言ってきてさ。
――容易に想像できます(笑)。
松尾 でも、当時の俺には訳がわからなくて、「これでヤってるように見えるのかな?」「この女優さんはそもそもそういうことしていい人なのかな?」とかいろいろ考えちゃって......。それで実際に「本当に揉んでいいんですか?」ってその女優さんに聞いたら笑われて、すっげえ恥ずかしい思いをしましたね(笑)。
★後編⇒角田陽一郎×「大人計画」主宰・松尾スズキ「最新作は"寝取られ愛"全開のお行儀の悪い作品」
●松尾スズキ(まつお・すずき)
1962年生まれ、福岡県出身。「大人計画」主宰。劇作家、演出家、映画監督、小説家、エッセイスト、そして個性派俳優でもある
■『108~海馬五郎の復讐と冒険~』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中
配給:ファントム・フィルム