『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
先週に引き続き、公開中の『108~海馬五郎の復讐と冒険~』で監督・脚本・主演を務める松尾スズキさんにお話を伺いました。
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――洋画で好きな作品はあります?
松尾 モンティ・パイソンは芝居を始めた頃、宮沢章夫さんとかケラ(リーノ・サンドロヴィッチ)さんとかに薦められて見て、めっちゃ面白かったんです。でも影響を受けたわけではないんだよね。自分がそれをまねしようとするとうまくいかないというか。ああいうナンセンスが自分の中にはなかった。
――大人計画のテイストとは違いますもんね。
松尾 ちょうどその頃、ジョン・ウォーターズ監督の『ピンク・フラミンゴ』(72年)を見たら、「あんなきったねえことを面白がってやってる外国人がいるんだ」って衝撃を受けて。そこで、俺にはジョン・ウォーターズ的な笑いのほうが合うんだなって感じたんですよ。それに気づいてから、自分で書いた芝居でもちゃんと笑いが取れるようになりましたね。
――それって何歳頃の話ですか?
松尾 見たのは27歳から29歳くらいで、大人計画が始まった後ですね。当時の小劇場は悪趣味なものがはやっていて、どっちかというと俺はそっち系なんだろうなって。
――現在公開中の監督・脚本・主演作『108~海馬五郎の復讐(ふくしゅう)と冒険~』について伺います。妻の不倫に激高した男が復讐のために108人の女性を抱く旅に出る物語ですが、「狂った夫婦関係を修正する方法が狂っている」というのが実に面白いなと。
ちなみに、なぜ108かというと、妻がSNSに上げた浮気投稿に108の「いいね!」がついたから、という(笑)。
松尾 面白いし、間違っていますよね(笑)。でも、今回の映画は俺の中では割と王道系かなって思っていて。シンプルに「女を抱く旅」に出るわけだから。
――復讐と冒険ですもんね。
松尾 あとはまあ、予算はないにせよ、女の人とヤッてる画(え)って持つじゃないですか(笑)。
――(笑)。着想はどこから?
松尾 ちょうど再婚する直前(2014年)にプロットを書き上げたんですけど、そのときに「結婚とは何か?」みたいなことを熟考していたんです。もう二度と失敗したくないですからね。でも、考えるうちに「失敗しないってどういうことだろう?」とか「向こうが失敗することもあるよな」みたいな考えが出てきて、そこから着想が生まれたんです。
――ご自身の投影に見えるところもありますよね。
松尾 自分が単純に「NTR」(寝取られ)というジャンルが好きなんですよね(笑)。そういう意味で、この作品は究極の寝取られ映画。108人と寝ないと、主人公は妻に浮気された心の傷が癒えないわけだから、ある種の純愛要素もあるかなって。
――しかし、とても攻めた作品ですよね。
松尾 今はすごくコンプライアンスに厳しい時代で不謹慎を笑うことがタブー視されてるけど、本当はそんなことないと思うんですよ。むしろ、映画館の中で何が行なわれようと自由な解放区であるべきだし、自分が監督・脚本・主演をするなら、「お行儀のいい暴力」みたいなものと戦いたいなと思った。だからこそ、この作品では見る自由を感じてほしいですね。とにかくお行儀の悪い作品なんで(笑)。
●松尾スズキ(まつお・すずき)
1962年生まれ、福岡県出身。「大人計画」主宰。劇作家、演出家、映画監督、小説家、エッセイスト、そして個性派俳優でもある
■『108~海馬五郎の復讐と冒険~』TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開中
配給:ファントム・フィルム