この先も発覚するたびにバッシングと出演作のお蔵入りを繰り返すのでしょうか

麻薬取締法違反容疑で11月16日、女優の沢尻エリカ容疑者が逮捕され、激震。10年前から常習的に薬物を使用していたとの供述も。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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沢尻エリカ容疑者の逮捕で、また同じことの繰り返しです。出演する予定だった来年放送予定のNHKの大河ドラマは急遽、俳優の川口春奈さんで撮り直すことに。

今後は出演者の起用の際に薬物使用の疑いがないか"身体検査"を厳しくするべきだという意見もあるようですが、それでも把握しきれないことはあるでしょう。この先も発覚するたびにバッシングと出演作のお蔵入りを繰り返すのでしょうか。

ピエール瀧さんのときにも議論になりましたが、著名人が薬物で逮捕されると個人攻撃に終始して、薬物依存症への理解はなかなか深まりません。沢尻容疑者逮捕の直前に田代まさし容疑者が覚醒剤所持の疑いで逮捕されましたが、一度薬物依存症になると、治療を受けてもキッパリとやめるのは難しい。それを毎度「ダメ人間だ」と叩くのは依存症患者への偏見を強めるだけです。

一度はやめても手を出すのは、依存症患者をカモにしている売人組織があるからです。責められるべきは薬物を売る側であって、依存症患者を寄ってたかって叩いたところで根元を断つことはできません。

海外の例を見ても、使用者には治療を、売人には懲罰をという流れになっています。もし本当に薬物が憎いなら、使用した芸能人を再起不能にする見せしめよりも、依存症にはどのような治療が必要なのかを具体的に報じるほうが世のためです。

「こんなに乱れた私生活だった!」「以前からマークされていた」「違約金は数億円以上」と次々報じられるゴシップを楽しむばかりで、薬物依存のことなんか知る気もない人がほとんどなのかもしれないけど、だったらなおさらメディアは「依存症は人ごとではないよ」と啓発してほしいです。

私は以前、ある番組でギャンブル依存症の自助グループを取材したことがあります。切実にやめたいと思っているのにどうしてもやめられない人たちの苦しみは凄絶で、「意志が弱い」「だらしない」と責めてもなんの助けにもならないと実感しました。

私自身も、かつて15年間にわたって摂食障害という病気を経験しました。過食嘔吐(おうと)という症状で、苦しくなるまで食べては吐くことがやめられなくなるのです。

今日こそやめよう、もうこんな生活はいやだと思っているのに、生きるしんどさを紛らわすためには食べて忘れる以外に方法がない。で、結局また食べ吐きをしてしまい、自己嫌悪で死にたくなる......という悪循環でした。いわば食べ吐き依存症だったのです。

不安や苦しみを何かに依存することなしに緩和するにはどうすればいいのか、依存症になってしまったらどんな支援があるのか。回復した人の言葉など、もっと大事な「知るべき話」があるはずです。薬物事件の報道ガイドラインが必要でしょう。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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