スキマスイッチの常田真太郎(ときた・しんたろう)さんは、ガンダムファン歴・約35年という知る人ぞ知る生粋のガンダム好き。「ガンダム」や「νガンダム」のガンプラを愛してやまなかった常田さんが、言わずと知れたアムロ・レイ役の声優である古谷徹(ふるや・とおる)さんにガンダム愛をぶつけます!
■音割れOKだった?"ファースト"深イイ話
――スキマスイッチの常田真太郎さんのあふれるガンダム愛を、古谷徹さんに受け止めてもらいます!
古谷 常田さんは今41歳ってことだと、『機動戦士ガンダム』(1979年)はリアルタイムで見てないですよね?
常田 そうですね。小学生のとき、『Z(ゼータ)』(『機動戦士Zガンダム』、85年)や『ZZ(ダブルゼータ)』(『機動戦士ガンダムZZ』、86年)はリアルタイムで見てたんですけど、"ファースト"をちゃんと見たのはその後でした。『逆シャア』(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』、88年)は劇場で見ましたよ。
古谷 小学生には難しいよね。
常田 最初はジオンが単純に悪者だって思ってて......。
古谷 そのとおりです(笑)。
常田 僕の場合、まずガンプラにハマッたんです。初めて作ったのは腕も脚も関節が動かない最初期の1/144ガンダムですね。初めて本気で、しっかりバリ取ってヤスリかけて、色塗ってウェザリングもして......って作り込んだのは1/100のν(ニュー)ガンダム。付属してるちっちゃいアムロのフィギュアにも、細い筆でちゃんと色を塗りましたよ。
古谷 あははは(笑)。ありがとうございます。僕、アムロが乗った機体で一番好きなのはνガンダムなんで、うれしいです。やっぱりあの攻防一体になるフィン・ファンネルはカッコいいですからね。
常田 ですよね。でもガンプラだとファンネルってよくなくしちゃうんですよ(笑)。そういえば、"ファースト"のテレビ放送は打ち切りだったって噂は、本当なんですか?
古谷 本当ですね。全50話ぐらいある予定だったのが、43話になったんです。僕ら俳優陣が聞かされたのも、けっこう直前でした。確かアフレコのとき、急に、あと2回で終わります、みたいに言われた記憶がありますね。
常田 そんなに視聴率が取れてなかったんですか?
古谷 視聴率はよくなかったんですけど、放送当時から大学生ぐらいの層ではすごく盛り上がってたみたいですよ。放送の途中から、アフレコスタジオの前に大学生たちが僕らを"出待ち"するようになってて、「『機動戦士ガンダム』ファンクラブ連合会長」っていう名刺を持ってる学生さんが、インタビューさせてくださいって来たり(笑)。
常田 でもその熱量もわかる気がします。例えば、タムラ料理長が塩の大切さを力説するシーンがあったり、かと思えばククルス・ドアンの島のような回があったり。
あとは、再会したアムロのお父さんがお弁当箱みたいな使い物にならない回路部品を渡してきたり。そういうのが戦時中の描写として深みを増してるんですよね。これって戦争なんだなっていう実感に利いてくるというか。
古谷 よく見てますね(笑)。
常田 これは決して悪い意味じゃないんですけど、戦闘中のアムロの「うわぁぁぁぁ!」みたいな叫び声って、けっこう音割れしてるじゃないですか。僕らの世界では音割れしたらそこでレコーディングは終わりでやり直しなんですけど、アニメだって基本的に音割れはダメですよね?
古谷 もちろんNG、ほかの作品では許してもらえないですね。でも戦争をしていて、命がけで斬り合ってるわけだから、音割れなんか気にしないで、マイクが壊れてもいいやっていう気持ちで本気で絶叫したんですよ。特にアムロの場合は、怖いから声を出すっていうのもあったから。
常田 臨場感ですね、まさに。
古谷 音が割れたときって、普通ならその後に音響監督さんとかから、「もっと抑えてください」とか、「もっとマイクから離れて」って指示が出るんですけど、ガンダムの現場ではそういうことは言われなくて。しかもそのまま、音割れた絶叫のままオンエアしてくれて。それだけ特別な現場だったってことですよね。
■ガンダムとスキマ。"結末"に共通点
――『Z』『逆シャア』時代のアムロはいかがですか?
古谷 "ファースト"が終わったとき、続編は作らないって富野(由悠季[よしゆき])監督は言っていたし、僕もそのつもりでやりきっていたから、『Z』は正直、アムロが出てくる作品のなかで一番嫌いです(笑)。
だってアムロは半分幽閉状態だし、何よりガンダムに乗らないし。一年戦争のヒーローとして、もうちょっとカッコよく出てくるかなって思ってた期待を裏切られました(笑)。
常田 なるほど、そうだったんですね。僕は『Z』もかなり好きなんですよ。アムロとシャアが顔も合わせてないのに、お互いの存在に気づけちゃうシーンとか、すごく好きで。
『Z』のときのアムロは、古谷さんがそう演じてらっしゃったんだと思うんですけど、常に憂いがあるんですよね。なんかいろいろと"見えて"しまっていて、"ファースト"のときよりも人間らしい深い苦悩があって、そこが僕的に響くんですよ。
あとは、ベルトーチカさん(ベルトーチカ・イルマ/『Z』でのアムロの恋人)には子供ながらにびっくりしました。こんなタイプの女が来るのかって(笑)。
古谷 ああ、ベルトーチカね。僕、個人的にベルトーチカは全然タイプじゃないんですよ。人の心にズカズカと踏み込んでくる女性が苦手で(笑)。
常田 なるほど。あの人がアムロを変えちゃったんだって、勝手に思ってました(笑)。
古谷 『Z』はテレビ版から20年たって劇場版3部作をやったんですよ。そのときには、アムロがまた命をかけて戦いに身を投じるためには、ああいう女性の存在も必要なんだろうなって、ちょっと許せるようになりましたけどね。でもやっぱり僕はチェーン(チェーン・アギ/『逆シャア』でのアムロの恋人)が大好きですから(笑)。
常田 チェーンさんはベルトーチカさんと真逆で、けなげに尽くすタイプですもんね。
古谷 チェーンは(アムロの)部屋の前で膝抱えて丸まって待ってるじゃないですか。いいコだなーって。
常田 僕はマチルダさんが好きですけどね。一度は憧れる学校の先生みたいで。でもアムロもシャアも、基本的に恋愛がちゃんと成就しないですよね。フラウ・ボゥはハヤト・コバヤシと結婚しちゃうし。あのピリリリーンっていうニュータイプの力って、あんまり女性関係には使えないんですね(笑)。
古谷 使っちゃいけない(笑)。あとシャアは、目的のために女を利用する卑怯(ひきょう)なやつだと思ってます(笑)。まぁチェーンが出てくるからだけじゃないですけど、僕は『逆シャア』が好きなんですよ。アムロが大人でカッコいいですから。アムロ的には、ようやく『逆シャア』でシャアを超えたなって思いましたしね。
常田 『逆シャア』は年に1回ぐらい見てます。
古谷 そんなに!?
常田 あのラストがたまらなく好きなんですよ。アムロとシャアが最後どうなったんだろうっていう終わり方って、実はスキマスイッチの曲の作り方にも生きていて。通ずるところがあるんですよ。
古谷 そうなんですか?
常田 僕らの曲の歌詞って、ほとんど結末を描いてないんです。例えば今年出した『青春』っていう曲は、"告白しに行くぞ"ってところで終わってたりするんですよね。相方(スキマスイッチのボーカル・大橋卓弥さん)とも、その後の結末とか解釈は、聴いている人に委ねるのがいいよねって話はよくするんです。
『ガンダム』シリーズって、余韻を残していろいろな解釈ができる終わり方が多くて、想像力を持って見ないとわからないアニメなんですよ。
■アムロも『奏』も当時の再現は難しい
――古谷さんは今でも各時代のアムロを演じる機会は多いと思いますが、古谷さん的にやりやすいのはどの年代のアムロですか?
古谷 やっぱり演じやすいのは、精神的にも声自体も大人になっている『逆シャア』時代のアムロですね。一番自分の地声に近いので、発声もしやすいです。このときのアムロは29歳なんで、自分自身の実体験と結びつけての役作りもしやすいですから。
常田 "ファースト"とか『ORIGIN』(『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』)とかの、まだ幼さが残るアムロを演じるときって、どういうイメージで声帯を動かしたり、演技したりするんですか?
古谷 15歳のアムロは内向的で、しゃべり方がたどたどしいっていうキャラが定まっているから、そういう意味では作りやすいんですよ。でも、ファーストのアフレコ当時は僕もまだ25、26歳で、まだまだ青春期真っただ中で若かったし、声優としても未完成な部分があって、それが15歳を演じる上でリアリティにもつながっていたんですよ。
気持ちが先行して、言葉が後からついてくるぐらいに感情移入していたし、声優として完成してないから語尾が消えたり聞き取りづらかったりしたんですけど、それが良さでもあったんですよね。
常田 粗削りだからこその良さってありますよね。僕らの場合、『奏(かなで)』『全力少年』という15年ぐらい前の曲があるんですけど、相方はもう当時の歌い方はできないって言ってて。声帯をどう使っていたか覚えてないらしいんです。まぁ僕らは、今の『奏』『全力少年』の良さがあるって自信を持って言えますけどね。
古谷 ミュージシャンの方でもそういうことあるんですね。今の僕はいろいろな経験もして打算も妥協も知っちゃってるし(笑)、声優としての完成度も上がってるから、語尾まで全部はっきりしゃべっちゃうんですよ。
気持ちは当時の感覚で演じようとしても、声優としての技術が上がっているからこそ、少年らしさの再現の難しさっていうのがあって。だから"ファーストのアムロを演じる"ということに関しては、今の僕は当時の僕に勝てないんですよね。
常田 古谷さんにもそういうジレンマがあったんですね。当時の感覚には戻れないっていうのは、曲作りの面でもあったりしますね。昔は音楽的な理論も何もわかってなくて、むちゃくちゃ粗削りだったんですよ。
『奏』も特にイントロなんかは理論的にはだいぶありえない部分もあるんですけど、でもやっぱり熱量がこもってて、だからいろいろな人に届く曲になったのかなって思います。
古谷 ミュージシャンと声優って、一見まったく違う仕事に思えますけど、やっぱり作品を届けるっていうのは一緒だから、いろいろ通ずるところがあるんですね。
――ガンダムと音楽の深い話、ありがとうございました!
●古谷徹(ふるや・とおる)
1953年生まれ。『機動戦士ガンダム』アムロ・レイのほか、『巨人の星』星飛雄馬、『聖闘士星矢』星矢、『ドラゴンボール』ヤムチャ、『きまぐれオレンジ☆ロード』春日恭介、『美少女戦士セーラームーン』タキシード仮面といったメジャーキャラを数多く演じる。近年も『ONE PIECE』サボ、『名探偵コナン』安室透などが人気で、存在感を放つ
●常田真太郎(ときた・しんたろう)
1978年生まれ。スキマスイッチでピアノやトータルサウンドトリートメントを担当。『奏』『全力少年』などを大ヒットさせ、7月には最新シングル『青春』を発売。『Revival~おっさんずラブEdition~』がiTunes・Apple Musicにて12月末まで配信中。全国38公演を回るツアー『スキマスイッチ TOUR 2019~2020 POPMAN'S CARNIVAL vol.2』を開催中