『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
映画『M 村西とおる 狂熱の日々 完全版』が全国公開中のAV監督、村西とおるさんに人生を変えた映画について伺いました。
■山田洋次に触発されて撮った『不幸せの黄色いハンカチ』
──この連載では、人生に影響を与えた映画について、お話を伺っていまして......。
村西 ちょっと待ってくださいね、まずは自己紹介だけさせてちょうだい。定石のワンフレーズがあるんですよ。
──ま、まさかアレを聞けるんですか?
村西 ......お待たせいたしました。お待たせしすぎたかもしれません。昭和最後のエロ事師、村西とおるでございます。人呼んで、昭和最後の愚か者。ナイスですね~。
──生で聞けて感動です! それでは話を戻しますが、この連載では、人生に影響を与えた映画をいろいろな方に聞いているんです。村西監督はいかがでしょうか?
村西 やっぱり『月光仮面』(1958年)だね。実家が福島県いわき市なんだけど、私が子供の頃はあちらのほうにまだテレビがそれほどなかったの。私が見たのは大村文武さん主演の『月光仮面』で、「来週また月光仮面が来るぞ!」と映画館に行くのが楽しみでね。
映画館の中で「月光仮面のおじさんは~」って歌いながら大騒ぎしてましたよ。のちにAV業界に入ってから、彼を探してきて監督をしていただきました。
──AVの監督をですか!?
村西 そうそう。彼はその頃、鬼怒川温泉のあたりで仕事をしつつ、隠遁(いんとん)生活を送られていたけど、「ぜひお願いします」と頼み込んで。
──ちなみに『月光仮面』を見て、「出たい」と思ったのか、「作りたい」と思ったのか、どちらの反応でしたか?
村西 私はもう月光仮面になりたいほうです。
──そのものになりたいと。
村西 それくらい好きだったね。月光仮面は確かカブに乗っていたんだけど、私は自転車におふくろの帯紐で作った手綱をつけて手を離して乗って、そんでドブにハマって顔面を打ってね。今でもそのときの傷が残っていますよ。
──ほかに影響を受けたのは?
村西 鮮烈に覚えているのは黒澤明監督の『天国と地獄』(63年)。白黒映画ですが、この作品を凌駕(りょうが)するものに私はいまだに出会っていない。作品への興奮度に、映像のクオリティや画質はあんまり関係ないんですよ。
だからね、近頃は3DだとかVRだとかいわれているけど、最新技術を使ったところでいいものができるわけではありませんよ。
──映像のクオリティを上げたからといって、作品のクオリティまで上がるわけではないということですね。
村西 そうなの。『アバター』(2009年)みたいなのは一回見ると飽きちゃうんですよ。手品みたいなもので、ネタバレしちゃうから。二度は惹(ひ)きつけられないし、心を揺さぶられるものでもないですからね。
──AV監督として大活躍していた80年代に影響を受けた作品とかってあります?
村西 やっぱりね、山田洋次監督の『遙(はる)かなる山の呼び声』(80年)かな。
──おお! 僕も山田洋次監督大好きなんです。
村西 あれはね、やっぱり泣けたというかね。山田監督作品のなかでも最高のラブストーリーじゃないでしょうか。あとは高倉健さんが大好きなので、同じく山田洋次監督の『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』(77年)。影響を受けて、北海道で『不幸せの黄色いハンカチ』という作品を撮ったことがあるの。
──どんな作品でしょう?
村西 網走(あばしり)刑務所で同房になった男たちがデキちゃって、ふたりとも社会復帰を果たして元の暮らしをするうちに「やっぱり女性のほうがいいな」ってお互いなっちゃう話。
──悲しい話ですね。
村西 そういう男と男の悲しい友情の物語なの。関係を断ち切ろうとするふたりは、オホーツクの海が見える場所で最後のラブシーンを迎えるんだけど、お尻の穴を白いハンカチで拭いたら黄色くなっちゃって、それを海に流す......という作品です。だから『不幸せの黄色いハンカチ』。
でも、ビデ倫の審査に出したら、「こういうことはやめてくれ」と言われてタイトル変更ですよ(笑)。
──怒られたんですね(笑)。
■天童よしみが自伝映画で北川景子を指名する?
──村西監督といえば、やっぱり『全裸監督』(19年)のお話も聞きたいです。僕は見て普通に興奮しちゃいました。
村西 やっぱり山田孝之さんが素晴らしい。あの天下の、スーパースターの山田さんが"駅弁"をやるなんてね。
──誰も思わないですもんね。
村西 山田孝之さんの役者魂に感動しましたね。彼に会ったときに「こういう作品でAVもどきの駅弁なんかやったら、CMのお仕事なくなってしまうんじゃないですか?」と聞いたんです。
そうしたら、「私はCMタレントじゃありません。役者です。必要だったらなんでもやります。だからそんなことをおっしゃらないでください」と言ってくださって......。だから今回の役も自分自身でやりたいと。
──すごい役者魂ですね。
村西 でも、実はネットフリックスから2年半前にお話を聞いたとき、別の方の名前を言っていたんですよ。「主演は誰がよろしいと思いますか?」と聞かれ、「福山雅治さんはどうです?」って。
──福山さんですか。
村西 すると、うちの社長が「あんたバカじゃないの?」と大笑いしたんです。
──福山さんは駅弁しそうにないですもんね(笑)。
村西 それと同時に、「天童よしみさんが自伝記映画を作るときに北川景子さんを指名するのか?」とせせら笑われましたよ。でも、自分ではそう思ってるんだから。私の役は福山雅治さんだろうって。
──でも僕、山田孝之さんを見ていたら、だんだん村西監督に見えてきたんです。
村西 それがまた彼のすごいところですよね。撮影前に、2時間半くらいお話ししたんですが、私が一方的に話すのを彼はじーっと黙って聞いていてね。それで、「どうですか。私のことどう思いますか?」って聞いたら、「とんでもない人ですね」とひと言。
結局、私のそのとんでもなさ加減というものを彼がぐっと吸収して、あの作品で再現してくださったんですよね。
★後編は12月25日(水)配信予定です
●村西(むらにし)とおる
1948年生まれ、福島県いわき市出身。前科7犯に加えて借金50億円を抱えるという破天荒な人生で"ハメ撮りの帝王"の異名を取るAV監督。今夏、話題を呼んだNetflixオリジナル作品『全裸監督』のモデルにもなった
■『M 村西とおる 狂熱の日々 完全版』
東京・テアトル新宿、丸の内TOEIほか公開中