初の長編監督映画『シライサン』が公開される小説家の乙一さん

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

今週は初の長編監督映画『シライサン』が1月10日(金)に公開予定の小説家の乙一(おついち/安達寛高)さんにお話を伺いました。

* * *

――人生を変えた映画についてお聞きする企画です。ちなみに僕は押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)が上位にきまして。

乙一 義理の父ですね(笑)。

――自分の番組に押井監督をお呼びしたこともありますし、この連載が始まったときからずっと言っているんですよ。そんなワケで、ご自身の作品に影響を与えた作品を教えていただけますか?

乙一 『新世紀エヴァンゲリオン』(95年)ですね。当時17歳だったんですけど、あそこまでアニメ作品をのめり込んで見たのは初めてでした。主人公の碇シンジくんよりちょっとだけ上でしたね。

――具体的にどういうところが好きだったんですか?

乙一 もちろんストーリーや表現もですけど、自分としてはやはり作中に登場する「謎」。提示されるたびに気になりましたし、それが増幅していくのが心地よかったんです。

――ちなみに僕はエヴァンゲリオンの文字の出し方がカッコいいなと思って見ていました。当時はもうテレビマンになっていたので。『エヴァ』以降、バラエティ番組でもあの影響を受けた編集、演出が増えましたしね。

乙一 影響を受けたという意味では、今思うと、『小説 シライサン』(角川文庫)でも、最後のほうは『エヴァ』の謎が増幅していく感じのものを目指していたかもしれませんね。

――「ひとつの作品内ですっきり終わる」というのが嫌なんですね。

乙一 そうなんです。むしろ、拡散していく感じが好きというか。

――ちなみに『エヴァ』好きだと言うとお父様はなんておっしゃるんですか?

乙一 いや、残念ながら『エヴァ』について話したことはないですね(笑)。

――ほかに影響を受けた作品は?

乙一 小説を書き始めた小学生から中学生にかけての頃、スティーヴン・スピルバーグが関わっていた『世にも不思議なアメージング・ストーリー』(85~87年)というオムニバスドラマがあったんですけど、すごく好きで見ていましたね。

もともと『トワイライトゾーン』(83年)という映画をいくつかテレビで見ていて、それに似たものを探すうちに映画雑誌で「どうやらそういう海外のシリーズがあるらしい」と知って。

実際に見てみると、『トワイライト』よりファンタジー寄りで、それがすごく好みでハマりましたね。小説書くときに、参考にしていました。

――逆に小説で影響を受けた作品はありますか? 乙一さんの作品って、映像をイメージしたときにすごく怖い作品が多いので。

乙一 ミステリーというジャンルに初めて触れたのはゲームの『かまいたちの夜』(94年)でした。そこから新本格ミステリーの作家さんに触れるようになって、『占星術殺人事件』(81年)とか『十角館の殺人』(87年)とかを読んでいましたね。

――ちなみに、ホラーやミステリー以外のジャンルで好きなものってありますか? 

乙一 『ベイブ』(95年)が好きですね。今回の『シライサン』でも監督として現場にいるとき、いつも「彼(ベイブ)みたいにいよう」って思っていたんです。ほかの牧羊犬が高圧的に羊を追うなかで、豚のベイブって下から頼むんですよ。監督として俳優さん、スタッフさんに接する際にそうありたいなって。

――牧羊犬ではないということですね。つまり、もしかすると乙一さんは監督としては......。

乙一 ええ、豚ですね僕は(笑)

*後編は1月15日(水)に配信予定です

●乙一(おついち)/安達寛高(あだち・ひろたか)
1978年生まれ、福岡県出身。2003年、『GOTH リストカット事件』で第3回本格ミステリ大賞受賞。今作で長編映画初監督を務める

■『シライサン』1月10日(金)全国公開予定
(c)2020松竹株式会社 配給:松竹メディア事業部

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