講談、という古典芸能がメディアを騒がせた令和元年。すべてはこの男から始まった――神田松之丞(かんだ・まつのじょう)。

あるときはラジオで毒を吐き、あるときはテレビで不敵に笑う。着物をまとった36歳の快進撃は、さながら講談で読まれる快男児のごとし。そして、2020年2月11日。真打昇進と同時に、講談界の大名跡を襲名する。

『週刊プレイボーイ』で連載中のゲストを招いて言葉をつなぐ「松之丞が訊(き)く!」の特別編として、来たるべき日まで。松之丞時代、最後の言葉をお届けする。

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バタバタでしたけど、なんとか凌(しの)いだ――昨年はそんな感じでしょうか。今年2月11日に真打昇進と六代目神田伯山(はくざん)の襲名が決まっていて、準備することも多かった。高座の数も減らそうと思ったんですけど、増えてましたね(笑)。

年間700席は超えました。単純計算しても、一日2席弱やっている。まあ、落語では(春風亭)一之輔師匠が1000席いきそうだとか、上には上がいるんですけども。

ありがたいことにメディアの仕事も増えて。こうやって週プレでも連載が始まりました。グラビアもやらせてもらって、非常に光栄でしたよ。

テレビもいろいろ出てますけど、レギュラーになった『松之丞カレン』(『松之丞カレンの反省だ!』)がけっこう大変で。ロケとスタジオ両方あるので、1回分を収録するのに2回撮影があるんです。

そのロケがまた、亀田史郎さんとか、大家族の美奈子さん一家とか、尋常じゃないストレスです(笑)。でも、ロケがどんな出来でも、スタジオでネタにすればいいので楽しくやらせていただいてます。

いわゆるゲスト出演みたいな出方も、一周した感じですかね。『徹子の部屋』も出たし、(明石家)さんまさんの番組にも出たんです。会いたい人にだいたい会えた気がします。

よく出来てるなと思うのが、いきなり『ダウンタウンDX』にバーンと呼ばれたりはしないんですよ。最初は『BS笑点』あたりからオファーが来る。そのBSで初めて顔を化粧されて、「あ、ドーラン塗って講談するのってこんなにやりにくいんだ」とか、そういうことに気づかされて。

で、多少結果を出すと、次は地上波の深夜帯。さらに次はもうちょっといい時間帯に、という感じで階段を上がっていくんです。いきなりてっぺんにきて上手くやれる人もいるんでしょうけどね。僕にはその香盤を徐々に上がっていく感じがちょうどよかったです。ちょくちょく失敗もできましたから(笑)。

そういう意味でも、昨年はいろんな人の優しさを感じた1年でしたね。爆笑問題の太田(光)さんの懐の深さもすごいですよ。『太田松之丞』なんて1回で終わると思ったら、ずっとやってますから。いまだに「いつ終わるんだろう、これ?」って思ってますよ(笑)。

■ピュアな視聴者と講談は相性がいい

振り返ると、向いてなかった番組もいっぱい出ているんです。情報番組の回答者をやったり、ひな壇に座ったり。明らかに向いてないです。僕、コメント力がゼロなんですよ(笑)。まあ、そういうオファーが来ること自体は悪いことではないですけどね。

先日なんて、大食いやってくださいって(笑)。「大食い番組とかが一番嫌いなんだよ、俺は!」って思わず叫びそうになりましたよ。

だから、メディアの仕事はかなり断ってもいます。いいオファーでも、こちらの出方と合わないなと思ったら、あっさり断る。その線引きについてはカミさんの嗅覚をわりと信用しています。最終的には夫婦で話し合って、出る番組を決めますね。

なので実際、カミさんと密に連絡しているのは確かなんですけど、『しゃべくり007』に出たときに、その部分が大きく扱われて、愛妻家キャラみたいになっていたのが面白かったですね(笑)。

本当は、司会の上田(晋也)さんをちょっとくさすみたいなやりとりがあって、現場ではめっちゃウケてたんです。もちろん芸人さんですから、本人も喜んで乗ってくださって。けっこう盛り上がったと思うんですけど、放送ではバッサリ切られてましたね。地上波の人気番組は徹底してるから、ゲストが無名だと、人の悪口を言っても使われないんだなと。

『しゃべくり』では最初に講談をやらせてくれたのもよかったですね。『扇の的(まと)』をやって、うまく短く編集してくれて。最初にそれを見せられるとラクなんですよ。あとは文化人ヅラできる(笑)。

この人は愛妻家で、という流れだったから、妙に好感度が高い感じだし。それを後日、ラジオでネタにもできるという。気づけば、すべってもウケてもいい状態になってますね。

しかも、ああいう講談の時間が意外と評判いいんですよ。SNSを見ても、「すごい!」とか、「何言ってるかはわからないけど圧倒される」とか、そういう感想が多いんです。

『松之丞カレン』でも、(滝沢)カレンさんが国立演芸場に遊びに来る回、『小幡小平次(こはだ・こへいじ)』が流れましたけど、数字(視聴率)がよかったみたいで。だから『松之丞カレン』でも無駄に講談の描写入れましょうよ、みたいなことになってます。

講談が数字を持ってるっていうのは発見でしたね。落語ですら、人気だと言われても、落語の芸そのものはなかなか数字がとれなくて大喜利をやっているわけで、けっこうすごいことだと思うんです。

視聴者、それも特に若い人の受け取り方が非常にピュアなのを感じますね。ああ、やりやすいな、と。これが講談の一部の嫌な常連なんかだと、「『扇の的』は鉄砲伝来前の雅な戦(いくさ)を描いているんだから、もっと格調高く読み上げて」とか言うでしょうね。こちらはそんなことはよくわかった上で、テンポも見せ方もテレビ対策を施してやっているわけで。

ただ、そういうことができるのも寄席のおかげなんです。寄席だと短い時間で、それこそ正月興行とかだと、2~3分でやってくれとか、そういう無茶ぶりがしょっちゅうある。「なんだよそれ、できるわけねえじゃん」と思ってましたけど、実はテレビ的な環境と似ていて、自然とトレーニングになっていたという。

ますます講談という芸の強さを思い知る日々です。特にピュアな視聴者と講談の相性はいい。講談に風が吹いているのを感じますよ。

●神田松之丞(かんだ・まつのじょう) 
1983年6月4日生まれ、東京都出身。2007年、神田松鯉に入門。2012年に二ツ目昇進。来年2月11日には真打昇進と大名跡「神田伯山」の襲名を控えている。現在のレギュラー番組は、TBSラジオ『神田松之丞 問わず語りの松之丞』、テレビ朝日『松之丞カレンの反省だ!』『太田松之丞』