講談、という古典芸能がメディアを騒がせた令和の始まり。震源地はこの男――松之丞改め、六代目神田伯山(かんだ・はくざん)。

あるときはラジオで毒を吐き、あるときはテレビで不敵に笑う。着物をまとった36歳の快進撃は、さながら講談で読まれる快男児のごとし。去る2020年2月11日には真打昇進と同時に講談界の大名跡を襲名。初日の披露目興行には徹夜組が出るなど、演芸界では異例の盛り上がりを見せている。

『週刊プレイボーイ』に短期集中連載として、全7回にわたって展開された独り語り「最後の松之丞」より。真打昇進・襲名直前に語った、ジャンルを背負う覚悟について。そして、目標として掲げ続ける講釈場の実現に向けての心意気をお届けします。

* * *

■スポークスマンとしての覚悟

真打昇進&襲名披露の直前まで『畔倉重四郎(あぜくら・じゅうしろう)』の連続読み(5日連続で19席。全3公演)があったり、とにかく突っ走ってきました。

たまに僕の存在に現代性を感じると言ってくれる方がいるんですけど、自分じゃわからないんです。というのも、僕自身、現代をインプットしている余裕がない。年末に雑誌の企画で映画のベスト3を聞かれたんですよ。でも、去年見た映画の数が3本ですから(笑)。「ベスト5」だったらどうするんだっていう。

しかも、1本は仕事絡みの『ターミネーター(:ニュー・フェイト)』。ターミネーター講談をやらせてもらったんですよね。シュワちゃんみたいな特殊メイクをして、張り扇をダダンダンダダンって(笑)。

そういう講談のスポークスマンとしての仕事はまだまだやっていく必要があるでしょうね。ただ、本音を言えば、理想的なのは、僕が出なくても講談がメディアで取り上げられる状況なんです。

『週刊プレイボーイ』の連載で宮藤官九郎さんと対談させてもらったときにも言いましたけど、例えば『いだてん』で落語がフィーチャーされていたじゃないですか。あれが講談で、古今亭志ん生師匠の役回りが田辺一鶴(たなべ・いっかく)先生だったら、講談の話題が自然と広まっていくわけですよ。

それでいくと、岡田准一さんがトイレ(INAX)のCMで講談師に扮しているのは画期的でしたね。だって、『タイガー&ドラゴン』のメインだった人ですよ。「あ、そこ落語家じゃなくて、講談師なんだ」って思った人も多いんじゃないですか。岡田さんが広めてくれるんだったら、僕も全面的にお任せしたい(笑)。講談が少しずつ現象になっているのを感じた出来事でしたね。

■老人になっても推せますから

ずっと言ってるんですけど、最終的な目標は「講釈場をつくること」。30年後ぐらいの実現に照準を絞っています。

今、僕は36歳です。35から40手前ぐらいの年代って、社会人だったら、よくも悪くも自分の人生プランがある程度は見えてくる頃じゃないですか。仕事でも部下が増えたり、家庭を持ったりして、現実的なラインを見据えていく時期ですよね。

その点、芸人は、お客さまに夢を見させるのと同時に、自分自身もファンタジーを生きているところがある。なので、詐欺師的にというか(笑)、ちょっとロマンのある夢を語っていくほうがいいと思うんですよ。

ただ、それがあまりにも現実離れしすぎた夢だと、「何言ってんだ、こいつ」となってしまうので、まずは細かい目標をひとつひとつ、有言実行していく。そうすれば、「こいつを応援していけば、こんな面白いことを実現していってくれるのか」っていうふうに期待を持ってもらえる。ただし、ダメでも責任は取らない(笑)。

「応援して、課金をすると夢がかなう」って、まあ、アイドルもそうなのかもしれないし、いまふうだとクラウドファンディング的な発想なのかもしれない。ただ、われわれの世界は基本的に引退がないので、こちらが老人になっても推せますから(笑)。

ただ、そこで僕が「50歳になったら東京ドームで公演をやりたい」とか言いだすのは、ちょっと違うんですね。これだとセンスがないんです。そんな目標を掲げても、お客さまが「それいいね」とか「応援したいね」とはならない。そもそも、50になってやることじゃない(笑)。

もっと心の内から湧いてくるような、自分にも、お客さまにもウソのない、志の高い夢であるべき。そのへんはもう、人生の価値観としか言いようがないんですけど。しかも大事なのは、私利私欲ではないということですね。みんなが喜んでくれて、ワクワクしてくれるような目標がいい。こんなことを言う僕は、だいぶ人に嫌われてもいますけど(笑)、そこは一貫してブレていないつもりです。

だからこそ、講釈場をつくりたい。これは夢であり、目標であり、現実的にも必要なことなんです。実現するまでプレゼンを続けるし、どうすればかなうのかを逆算して動かないといけない。

すると、まだまだ僕は講談の魅力を伝えて、お客さまを獲得するためにメディアに出る必要がある。信じてもらえないかもしれないですけど、正直向いていないとも思うんですよ、スポークスマン的な活動は。でも、岡田さんも加勢してくれていることですし(笑)、まだまだ全力でやっていきますよ。

■たどり着いた答えはユーチューバー?

講談をめぐる環境をもっと整えていきたいんですよね。特に、講談に特化したメディアやソフトも増やしたい。

松之丞時代の最後のCD(『最後の松之丞』)をつくったんですよ。これは伯山になったら、今後あまりやらなくなるだろうなっていうネタも収録したもので、「それってどうなんだ」って思うかもしれませんが(笑)、初めて講談を聴く人には案外いいかもしれない。3席収録してあるんですけど、最後30分ぐらい僕が独り語りで、それぞれのネタの出来を解説で言い訳をしているので(笑)。

あと、すでに稼働していますが、YouTubeチャンネルを開設しました。ここまで何号かにわたって、真打昇進や伯山襲名への抱負を語ってきておいて、最後にたどり着いた答えが、ユーチューバー......(笑)。

いや、僕自身も初めはどうかと思ったんですよ。「ええっ、いまさら?」って。でも、カミさんがノリノリで(苦笑)。「伯山になったタイミングで始めるのがいい」とか「"講談師/ユーチューバー"っていう肩書が面白い」とか。そんなことを言われるうちに、だんだん僕もその気になっちゃって。確かに講談を広めるという点では、理に適ってもいますし。

というわけで、2月11日からの披露興行のうち最初の30日間、毎日動画がアップされることになりました。ぜひチェックしてみてもらえればと。

しかし、伯山継ぐのにけっこう頑張ったと思うんですよ、僕。まさか同時にユーチューバーにもなるとは思わなかったですよ(笑)。

●神田伯山(かんだ・はくざん) 
1983年6月4日生まれ、東京都出身。2007年、神田松鯉に入門。神田松之丞を命名される。2012年に二ツ目昇進。2020年2月11日に真打昇進と大名跡である六代目「神田伯山」を襲名した。最新情報、披露興行の日程は公式HPまで