2008年の再結成以来、精力的な活動を続けているサニーデイ・サービス。彼らが2年ぶりとなるオリジナルアルバム『いいね!』を、3月に配信先行でリリースした(CD、アナログ盤は5月リリース)。
本作は日常の心象風景を、シンプルな言葉とサウンドで鮮やかに描いたギターロック。特にセンチメンタルなメロディに乗ってむき出しのまま、せつなく歌い上げるヴォーカルはリスナーの心を激しく揺する。
バンドのボーカル&ギターを担当し、ソングライターである曽我部恵一(そかべ・けいいち)に、今回のアルバムについてを聞いた。
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――新作『いいね!』は、近作と比較しても、すごく瑞々しくて疾走感のあるロックが詰まった作品になっているなと思いました。全9曲35分。一気に突っ走って聴かせ切る勢いがあるというか。
曽我部 うんうんうん。でもいつもそうだけど、自分ではどういう作品にしようとか考えてないんですけどね。1年ぐらいいろんな曲を書いて、レコーディングして、ボツにした曲もいっぱいある中で残ったのがこの9曲。これがベストだなってだけで。前はアルバムを作っても1曲ぐらいしかボツにならなかったんだけど。
――それは自分の中でのハードルが上がっているということ?
曽我部 昔はしょーもない曲でもしょーもないだけじゃない良さがあったんですよ。でも今は、しょーもない曲はしょーもないって思っちゃう(笑)。
例えば、18歳ぐらいの女の子たちって、顔立ちとかスタイルとか関係なく、みんなかわいいでしょ? 肌の張りとか、髪の艶とかがあって。俺も若いときに書いた曲はそうだったわけ。でも、今は若さでねじ伏せるパワーがないから、そうじゃない作り方をするっていうか。だから1年という時間がかかるのかもしれないし、ボツにする曲も多いのかもしれない。
――だとしてもサニーデイは、"枯れた良さ"みたいなところには向かわないですよね。
曽我部 確かに今回のは、違うよね。でも拒んでるわけじゃないよ。だって"枯れた良さ"って老いたことをさらけ出している状態でしょ。枯れるのも若々しいのも、本質的には一緒。若々しいとか老いていくとか、生活から切り離されたところで、音楽だけが"うまくなる"のが一番嫌。ただ単に「よくできました」っていう音楽は、これからも俺は作りたくないだけで。
――今回の『いいね!』ってアルバムタイトルは非常に印象的です。これはSNSの「いいね!」にインスパイアされたんですか?
曽我部 そう思う人も多いかもしれないけどまったく違う。単純に「いいね!」って言葉が、いいなと思っただけで。ものすごくピュアに「いいね!」って思える、そう感じる瞬間って、やっぱり素晴らしいって思ったというか。
「今日、めっちゃ楽しいね!」とか「なんか雰囲気いいね!」とか、単純にそういうこと。天気がいいから江ノ島に行って砂浜に座ってビール飲んでみたいな。そういうことがテーマ......テーマというか、アルバム全体を包む1つの何かとしてあったらいいんじゃないかなって。
制作を始めた当初は、『Be Happy!』っていう仮タイトルをつけてたんです。
――すごくストレートですね。でも、言われてみたらなるほど、「僕は死んでいるように恋しているんだよ」(『心に雲を持つ少年』)、「愛も憎しみもどっちでもいいけど」(『エントロピー・ラブ』)、「春はとっくに終わったのにね」(『センチメンタル』)など、割と重たいことを歌ってますけど、瑞々しい曲と歌声で軽やかで楽しい印象に聞こえます。
曽我部 とにかくそういうことが歌えたら最高だなって、なんとなく思っただけなんだけど。でもなかなか言えないでしょ? 「Be Happy!」って。ただ基本的に言いたいことって、誰しもそういうことなんだとは思う、みんな、日々生きている中で。
――そう思うようになったのは、自分の中に変化があった?
曽我部 変化があったかはわからないけど......なんか「Be Happy!」とか「いいね!」っていう感覚が、皮肉じゃなくてストレートに届いたら最高だなとは思ったかな。
――自分の中に変化があったかどうかはわからないということですが、逆にここは変わらないなと自覚している部分はありますか?
曽我部 音楽は生活から生まれてくるものだって思っているところかな。自分にとってのいい音楽って、メロディーやアレンジが素晴らしい曲っていうことじゃなくて、その人が生きている生活からどう音が生まれたかっていうところが重要なんですよ。その人の足元から生まれてきた音楽というか。
毎日仕事をして生活して、いろんな人に会ったり、くやしい思いをしたり、うれしい気持ちになったり、そういうところから生まれてくる音楽。その心持ちで音楽を作っているところは、ずっと変わってないと思う。
――ちなみにこのアルバムは、CDとアナログ盤のリリースに先行して配信でのリリースが先行していますね。
曽我部 本来は4月のどこかにCDとアナログ盤でリリースしようと思ってたんだけど、プレスが間に合わない状況になったんです。
とは言え、音はもう完成しているんだから、先に配信でリリースして、早く聴いてもらったほうがいいなって。今、みんな家にいて暇だろうし、気持ちも滅入ってたりするだろうし。
――今、音楽の聴き方の主流となっているサブスク(サブスクリプション=定額制サービス)についてはどう捉えています?
曽我部 LPレコードが主流になっていったのが1960年代からでしょ? その前はラジオをみんなが聴いて、リクエストが多くてオンエアされたものがヒット曲で、今は動画配信の再生回数が多かったり、サブスクで多く聴かれているものがヒット曲になる。だからラジオ局がいっぱいあるみたいな感じで、サブスクはいいと思いますよ。
――なるほど。CDでなくてもいいと。
曽我部 うん。音楽の聴き方としてアルバムに何千円かのお金を出して聴くのが優れた聴き方だとは思わないですね。音楽は中身だから。それに僕は自分の音楽に関して、聴かれたら聴かれただけいいと思ってるし、たくさんの人に聴いて欲しいと思って作ってる。
――それにしても、新型コロナウイルスの影響は本当にいろんな方面に出ているんですね。
曽我部 もう暇ですよ(笑)。でもあんまり暗くはないっていうか、急に来た夏休みぐらいに思ってますけどね。音楽を作る人間が、必要以上に重苦しくなるのはどうかなとも思うし。
――曽我部さんは、「ROSE RECORDS」というレーベルの経営者でもありますけど、大変じゃないですか。
曽我部 今までも2年に1回ぐらい、会社の口座が0円になることはあるし(笑)、なんとかやっていくって感じなのかな。金融公庫へ相談に行ったりして。
そもそもこの世界で、いいことばっかり続くはずがないですから。いいこともあれば悪いこともある。結局は、普段からそう思って生きてくってことなんじゃないかなって思います。
――これからの活動への思いを聞かせてください。
曽我部 これからライブで新しいアルバムの曲を歌ってから、やっと今回はこんな感じなんだなってわかっていくんだと思います。あとは、もっと世間に認められたいなって思いますね。
――もう十分に認められてません?
曽我部 いやいや、認められてないですよー。例えば源くん(星野源)みたいに、どこに行っても曲が流れてるなとか、紅白に出たりとか、俺はまだそういう経験を味わったことがないから。冗談じゃなくて、それはモチベーションの1つかもしれない。
――まだまだ満足していないと。
曽我部 うん。でも紅白にしても、自分の音楽がまだ見合ってないから呼ばれないんだなって、わかってはいるんだよね。だからもっと努力してそこに見合う曲ができたら、今以上に広い層が聴いてくれて、自分の音楽がさらに自由に羽ばたいていく気がする。
だからこそ、そのためにもいっぱい曲を作る。どんなに音楽を続けていても、もっといろんな人に「いいね!」って言われたい気持ちが、僕は大きいのかもしれないです。
■サニーデイ・サービス
1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。フォーク、ネオアコからヒップホップまでを内包した新しい日本語のロックは、シーンに衝撃を与えた。現在までに13枚のアルバムをリリース。どの作品もバンド像を更新し続ける創造性/革新性に満ち、グッドメロディに溢れる。現在も国内外で揺るぎない支持を集める。
➡「サニーデイ・サービス オフィシャルYouTubeチャンネル」 https://www.youtube.com/user/savemyvideo