『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
前回に続き、『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』で解説を務める小説家の平野啓一郎さんが登場!
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――解説としてご出演された映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』についてお伺いします。
平野 映像自体はネットに以前からアップされていたので断片的に見ていたんですけど、映画化にあたってきちんと編集され、当事者の証言が相当加わっています。なので、全共闘に関わった人たちがどう生きたのかという後日談も含めて、よくできた映画だと思います。
世代的に、団塊世代、全共闘世代には、いろいろわからないところがあって、映画を見てもそういう印象はありましたけど、的確なことを言っている学生もいたし、世代としてひとくくりにされがちだけど、立体的に見直すきっかけになりました。三島だけでなく、全共闘側の人たちへの理解も進む作品だと思います。
――僕、東大出身で、当時は平野さんと同じように「全共闘世代=怖い人たち」というイメージがあったんです。でも、今この映画を見て思ったのは「ただの若者じゃん」ということ。
理屈っぽくて、武闘派を標榜(ひょうぼう)する割に線が細い。戦えば勝てそうだし、ツイッターでクソリプを送ってくる現代の若者と変わらないなって。革命からSNSへとツールが変わっただけで、本質的には結局、今も昔も若者って変わらないんじゃないかと。
平野 映画を見た人から「三島が想像以上に紳士的で感銘を受けた」という声を多く聞いているんですが、三島はやっぱり、大学生を相手にしゃべっているという印象を受けます。僕は今、当時の三島と同い年なんですが、もし自分がそういう場に招かれたとしても、やはり高圧的にしゃべることはないでしょうし。
――学生に対して三島がほほえむようなシーンがありましたが、あれは彼が40代に突入していたからこその反応だったんじゃないかなと。体力や気力が衰え、革命家で居続けることができなくなったからこそ、学生に対する「わかった、わかった。頑張ってくれよ」という気持ちが微笑になったといいますか。
平野 三島の40代問題というか、ミドルエイジクライシスみたいなことはあったと思います。希死念慮(きしねんりょ)が非常に強いですし、あれだけ体を鍛えていたのも自分を奮い立たせるためだったかもしれません。
加えて、本人は行動して美しく死ぬことに強くとらわれていたけど、そういう意味でいうなら40代は少し遅く、焦りのような気持ちもあったのかもしれない。
一方、ほかの証言を見ていると、楯の会の若い学生たちからの突き上げもあったみたいで。実際、晩年のテキストを読んでいると「死にたくない」と「死なねばならない」というふたつの気持ちの間で葛藤していたのが伝わってきます。全共闘との対談後の文章を読んでいると、結局、学生と話が通じなかったと感じていたようですし。
―――この作品をどのように見てほしいですか?
平野 最近は三島でさえ、だいぶ読まれなくなっています。だから彼が作家としてどうとか、どんな思想を持っていたかとかはあまり意識せずに、まっさらなまま見るのがいいと思いますし、それが結果的に一番多くを得られるのではないでしょうか。
●平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)
1975年生まれ、福岡県北九州市出身。99年に『日蝕』で芥川賞を受賞。現在、東京新聞、中日新聞ほかにて、長編小説『本心』を連載中
■『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』公開中