最終巻となる第5巻が発売された『THE超人様』 最終巻となる第5巻が発売された『THE超人様』
大人気漫画『キン肉マン』の公式スピンオフ作品としてまさかのカナディアンマンを主役に据え、同じ「週プレNEWS」にて毎週連載されてきた石原まこちん作のギャグ漫画『THE超人様』がついに完結!

そのラストコミックスとなる最終単行本第5巻が、本家『キン肉マン』の最新71巻と同日6月4日に発売された。

2017年から約3年の長きにわたり、子供の頃から憧れ続けた作品のスピンオフを描き続けたことへの思いや葛藤、敬愛するゆでたまご先生生との極秘エピソードなど、この3年間に沸きあがった様々な思いの丈を作者である石原まこちん先生に語りつくしてもらった!

――『THE超人様』はまこちん先生の深すぎる『キン肉マン』愛から始まった企画でしたが、開始から約3年、毎週連載されてみていかがでしたか?

石原まこちん先生(以下、まこ) 何と言っても僕にとっては神に近い存在であるゆでたまご先生からかなり寛大に、自由に遊ばせてもらえましたので、連載自体は毎週とても楽しくやらせていただきました。

でもその分プレッシャーもあって、小学生の頃以来に『キン肉マン』全巻を繰り返し何回も何回も読み返しましたね。

――それは漫画のネタ探しのために?

まこ それもありますけど、一番大きいのはファンとしてヘタなことできないっていう気持ちからですね。始めた当初は僕もかなり詳しい自信があったんで、記憶してる知識だけで描いてたんです。

でも時々それが間違ってることがあって、後で気づくたびに「あ~~しまったな~~」っていたたまれない気持ちになって。それでもう一回ちゃんと読むとやっぱりね、『キン肉マン』って本当に面白いですよね(笑)。

――まあ、そこは間違いないですね(笑)。

まこ 今読んで改めて驚くのは、ゆでたまご先生の話作りって絶対に置きに行ってないんですよ。それが本当にすごいなって。

――「置きに行かない」とは?

まこ 僕も漫画家としてもう何気に25年くらいやってるんですけど、長く漫画を描いていると描き方のセオリーがある程度見えてくるようになるんです。良くない言い方をすると、仕事としてこなせるようになってくる。

でもゆでたまご先生って、全くこなしてないんですよ(笑)。そんなセオリーは全部無視して、次どうやったら面白くなるかっていうことだけが、気持ちいいくらい常に最優先で考えられてるのがわかるんです。それが本当にすごい!

――それは今の漫画家という立場にならないとわからなかった分析ですね。

まこ そうですね。だからあんなに面白かったんだなって。しかもそのやり方が今もずっと続いてる。最新刊の71巻で出てくるサタン様にしても、もし置きに行くなら普通は実体化なんてさせないハズなんです。だって40年間ずっと陰で暗躍し続けた悪の権化ですよ。でもゆでたまご先生は躊躇なくそれをやってのけて、しかもリングで闘わせちゃうんですから......あの展開はさすがに僕もこの年になってなお度肝を抜かれましたね!

――言われてみればプロレスで闘う大魔王サタンって、斬新すぎる設定ですよね。

まこ でもこれこそが漫画なんだよな!って(笑)。最近よく思うのは、今の漫画界を取り巻く状況って、作者側も読者側もみんな変に漫画に詳しくなっちゃって、作り方と楽しみ方の作法みたいなのができかけてきちゃってる気が僕はしてるんです。

でもその流れをゆでたまご先生の『キン肉マン』は完全に無視してる。「こっちが面白いからこっち来いよ!」って作者の力だけで強引に引っ張っていってくれてるようにも感じられて、それは漫画家として最高にリスペクトできるところですね!

――じゃあ『THE超人様』はそこまでリスペクトされてる作品のスピンオフということで、まこちん先生なりのギャグに落としこんでいく上でのご苦労も読者の想像以上におありだったのでは?

まこ 僕なりのこだわりというか、線引きとしてやってたのは「アイドル超人はいじらない」ということでしたね。キン肉マンやロビンマスクやバッファローマンに人生変えられたくらい影響受けた人は世の中にたくさんいると思いますから。そこはヘタに茶化せないなと思って、自分の中でブレーキかけてました。

――それでカナディアンマンとスペシャルマンをメインに、プリプリマンを加えた3人にして、まこちん先生の代表作である『THE3名様』のセルフパロディに落としこまれた。

その『THE3名様』との繋がりでぜひお伺いしてみたかったんですが、同じファミレスが舞台で、そこに登場するミッキー、まっつん、ふとしの3人と座り位置も一緒ですよね。テーブル挟んで右側1人で左側に2人。

まこ はい、あえて一緒にしてますね。

記念すべき『THE超人様』の第1話。3人の初登場シーンも『THE3名様』と同じ位置取り 記念すべき『THE超人様』の第1話。3人の初登場シーンも『THE3名様』と同じ位置取り

――それはやっぱりキャラクターのつながりも意識されての配置なんですか? カナディアンマンがミッキーで、スペシャルマンがふとしで、プリプリマンがまっつんに対応するように?

まこ そこは完全に意識してやってます。カナディアンマンの変に強気な感じはミッキーと似てますし、スペシャルマンの人のよさはふとしっぽさもありますし。そこにもうひとり加えるなら『THE3名様』でいうところのまっつんにあたる、ちょっとダークなヤツがいてほしいなってことで選んだのがプリプリマンでした。

――なんでプリプリマンなのかって話もありますが(笑)、確かに底が見えないキャラとしてのわけわからなさというところでは、適任のようにも思えてきますね。

まこ プリプリマンにしたのは本編で色がついてないぶん、僕の自由にセリフをつけられるところもあったし、そこで『THE超人様』なりの設定やエピソードを作って話を転がしていけるかなというのもありましたね。そのためにも、まっつんよりはちゃんとしゃべるキャラにしていきたいとは思ってました。

『THE超人様』の主役をはる噛ませ三銃士・カナディアンマン、スペシャルマン、プリプリマン 『THE超人様』の主役をはる噛ませ三銃士・カナディアンマン、スペシャルマン、プリプリマン

――でも特にその中心にいたカナディアンマンが、本家の『キン肉マン』の方で連載中に死んじゃいました。『THE超人様』としては困りませんでしたか?

まこ 困りましたよ!(笑)。いや、最初に本編で登場したときは正直オイシイと思ったんです。ネタもリンクできて本編の応援漫画っていうこっち側の立ち位置も強調できる気がして。でも死んじゃった時はさすがに悩みましたね~。だって本編で死んでるのに、こっちはファミレスで何もなかったようにダベってるのも変じゃないですか?(笑)。それでしばらくカナディアンマンだけは休業することにして。

――結果、約半年くらい不在でしたね(笑)。

まこ そうなんですよ。戻すタイミングも難しかったんですけど、本編のスポットライトがカナディアンマンたちからフェニックスたちに移ったあたりでそろそろいいかなと思って、ゆでたまご先生に改めて許可をいただいてようやく元の3人に戻りました。

『キン肉マン』本編で、カナディアンマンがオメガ・ケンタウリの六鎗客のパイレートマン戦に臨んだ際は、約半年間にわたり不在となった 『キン肉マン』本編で、カナディアンマンがオメガ・ケンタウリの六鎗客のパイレートマン戦に臨んだ際は、約半年間にわたり不在となった

――やりすぎてゆでたまご先生から怒られたようなことは?

まこ いえ、そこはものすごく寛大に見てもらえたようで一切なくて、時々直接お会いした時も好意的なお言葉をいただくことが多くてうれしかったですね。

ある日、お会いした時も嶋田先生から「プリ子かわいいやん! ええやん!」って言っていただいて、それでプリ子も一話限りのキャラのつもりだったんですけど、どんどん出すようになって。

でもそうやって嶋田先生や中井先生と直接お会いさせていただいてる瞬間って、僕の中では未だに緊張しすぎて現実感が全くないんですよ。夢でも見てるのかなって感覚で。

ゆでたまご先生に褒められたというオリジナルキャラ・プリ子の初登場シーン。以降、頻繁に登場する常連キャラとなった ゆでたまご先生に褒められたというオリジナルキャラ・プリ子の初登場シーン。以降、頻繁に登場する常連キャラとなった

――スピンオフを描かれるようになってからは、何かとお会いされる機会も増えてきたと思うんですが、それでも変わらず?

まこ 本当は漫画のことで話したいこと聞きたいことは山ほどあるんですけど、そんな簡単に聞いていいのかっていう思いもありますし......今でもそうなるくらいの緊張感は変わらないですね。でもそうしてゆでたまご先生と何度かお会いさせていただいた中でひとつ、一番うれしかった経験は強烈に覚えていて、それは個人的な話で恐縮なんですけど、子供の時に自分で勝手に描いた手作りの『キン肉マン』の漫画冊子を見てもらえたことなんです。

――その冊子が、まこちん先生が漫画を描き始めた原点なんでしたっけ?

まこ そうなんですよ。勝手に作った手描きの冊子が50冊くらい、未だに大切に実家に保管してて。今しかないと思ってそれをゆでたまごの両先生にお見せしたんです。だけどそんな子供時代の落書きレベルの漫画なんて、普通だったら社交辞令的に「ふーん、描いてくれてたんだありがとうね~」くらいの軽い感じで流して見てくれる程度だと思うじゃないですか。

でもゆでたまご先生は違ってて、2人ともそれを流し見するんじゃなくて、ものすごく真剣な眼差しでしっかり読んでくれたんです。それでよくわかったんですよ。それがあの人たちの漫画やファンに対する向き合い方なんですよね。その時に僕自身もめちゃくちゃ感動しましたし「ああ、自分も漫画家としてこうありたいな」って心から思いました。

そういう意味でもスピンオフという形ではありますが『キン肉マン』に関わらせていただいたこの3年間、本当にたくさん勉強させていただいたと思ってます。

――その『THE超人様』は今回6月4日に発売となる第5巻で完結となりますが、まこちん先生が今後、漫画家として新たにやっていきたいことなどはありますか?

まこ そうですね。ひとつあるのは、今回は『キン肉マン』の世界観をお借りして、僕が昔からやってきた『THE3名様』の形に落としこむっていう作り方をやらせてもらいましたけど、今後もしできることなら、また他の作品ともこういうコラボスピンオフをどんどん試してみたいなって気持ちはものすごく湧いてきました。

――なぜ、そいった気持ちが湧いてきたのでしょうか?

まこ 僕、昔から音楽のレゲエが好きなんですけど、レゲエの面白いところって、たとえばひとつの王道リズムパターンを誰かが作り上げたら、それは最初に作った人だけの専売特許になるんじゃなくて、いろんなアーティストがそのリズムに独自の歌を乗せて、それぞれのオリジナル曲として発表して構わないっていう風土があるんです。

そんなリズムパターンのことをリディムといって、有名なところだとそのひとつに"スレンテン・リディム"っていう1980年代にレゲエシーンに大革命をもたらしたデジタルのリズムパターンがあるんですけど、ある日、レコード屋やってるレゲエ友達が僕に向かって「まこちんの『THE3名様』ってスレンテンだよね?」って言ってくれたんです。

それを聞いて僕自身も「ああ~そうか~!」って初めて意識したんです。どういうことかとていうと、ファミレスで3人がダベってウダウダ話してるっていうリディムがあれば、そこにどんなキャラが乗っても漫画として成立しうるんですよね。それでこれもその友達が言ってくれた言葉そのままなんですけど「まこちんは漫画界に新しいリディムをドロップしたんだよ!」って。

――めちゃくちゃカッコイイ言い方ですね。

まこ あくまでその友達が言ってくれるにはって話で、偉そうに聞こえたら本意じゃないですけど(笑)。でもそれは僕が漫画家として目指すべきところとしては、確かにひとつあるなと思ったんですよ。

――『THE超人様』という作品がその気づきを与えてくれた?

まこ そうなんです。その可能性を感じさせてくれたのは間違いなくこの作品でしたから、
ここから次に進むとなると、まずはそこを目指してみたいという気持ちでこの先も頑張っていきたいですね。

――では最後に最新刊の告知をご自身でお願いします!

まこ 『THE超人様』は、この第5巻で完結編になります。とはいえ良い意味でも悪い意味でもいつもと変わりなく、ダラッと脱力しながらヒマつぶしに読める仕様になってます。『キン肉マン』の最新71巻と同日の6月4日発売になりましたので、ぜひ本編の箸休めに手に取っていただいて、こっちのカナディアンマンとスペシャルマンとプリプリマンが最後どうなるか、彼らの結末を見届けてやってください!

■本家『キン肉マン』の緊迫した盛り上がりをよそに、ほぼゆるキャラと化したカナディアンマン、スペシャルマン、プリプリマンの3名様はやはりファミレスにこもったまま最後を迎えるのか、それとも衝撃のサプライズ展開が用意されている可能性もアリなのか!? ジャンプコミックス『THE超人様』最終第5巻は絶賛発売中です!

詳細はこちらまで!→ https://www.s-manga.net/items/contents.html?isbn=978-4-08-882342-3(一部試し読みあり)

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