日本最大級の都市型周遊フェスとして、毎年6月の3週目に開催されていた「やついフェス」が今年はコロナの影響で中止に。......と思っていたら、オンラインでまさかの復活開催! あらゆるプラットフォームを駆使して日本中をつなげる、誰もやったことのない"前代未聞の試み"とは!?
■プラットフォームを会場にする
お笑いコンビ・エレキコミックのやついいちろうが主催し、毎年6月の第3週に開催されてきた「YATSUI FESTIVAL!」(通称、やついフェス)。
その最大の特徴は都市型周遊フェスという点で、観客は渋谷の街を舞台に、多くのライブハウスを行き来できる。また、アーティストだけではなく、お笑い芸人、アイドル、文化人など、ボーダーレスな出演陣も魅力で、「日本一出演者の多いフェス」としても知られている。
今年も例年どおり、「TSUTAYA O-EAST」など、渋谷の13会場で開催を予定していたが、新型コロナウイルスの影響で中止を余儀なくされてしまった。主催者であるやついいちろうが苦渋の決断を振り返る。
「新型コロナウイルスの影響で、もともと会場として使う予定だったライブハウスがすでに3つも潰れてしまいました......。
『やついフェス』はこれまでずっと周遊型のフェスとしてやってきましたが、来年またリアルなフェスを開催できたとしても、今まで使わせてもらっていたライブハウスがどこまで残っているかわからない状況です......。本当に先が見えない。
今振り返れば、春先は『遅くとも6月には終息するだろう』と言われていましたし、実際自分も5月に入るまでは予定どおり開催するつもりでいましたからね」
誰にも予想できなかった新型コロナウイルスの大流行。やついの無念は計り知れないが、そこから「オンラインフェス」のアイデアを生み出すことになる。
「中止になってしまったけど、『何かしらやりたいな』と思ったんです。これは『CAMPFIRE』のクラウドファンディングのページにも書いたんですが、僕の仕事は未来にみんなが『楽しいなー』と感じる予定をつくることだと思っていて。
中止を決めたときは自分を含め、周りの人たちに『楽しい』と感じる予定が何もなかったんです。コロナがいつ終息するかわからない以上、チケットの払い戻し費用や会場のキャンセル料を考えると、来年の会場を予約することもできないですから。だからこそ、僕は何がなんでもオンラインで開催しようと決めました」
5月頭に決心してから約1ヵ月。スタッフと協議を重ねてきたが、時間的な余裕はまったくなかった。
「準備期間がどう考えても短すぎるので最初は小規模になっちゃうかなと思ったんです。でも『やついフェス』ってそもそも周遊型だし、いろんなモノの中から自由に選択できるのが最大の魅力。
だから、お客さんがライブハウスとライブハウスをグルグル回ってる、というイメージをオンライン上でもつくりたいと思ったんです。そこで思いついたのが、プラットフォームをライブハウスに見立てるというアイデアでした」
オンラインフェスの"会場"はYouTubeやニコニコ生放送、LINE LIVE、Instagram、Zoomといった多種多様なプラットフォームだ。極端な話、携帯やパソコン、タブレットなど、デバイスを複数用意すれば、同時視聴も可能なのだ。
「アーティストによっては安全確保などの理由で生配信をするわけではなく、収録した映像や音源を流す場合もありますが、それでもそのパフォーマンスは『やついフェス』のためだけにやってもらったものが多いんですよ。その結果、全国各地のさまざまなライブハウスを借りることになりました」
フェスはもちろんのこと、小規模のライブもままならない状況にもかかわらず、やついの呼びかけに多くのライブハウス関係者、アーティストたちが共鳴し、全国に輪が広がっているのだ。
■収益化できないから誰もやっていない?
複数のプラットフォームを駆使する前代未聞の試みだからこそ、当然ながらお金はかさむ。
「リアルな『やついフェス』を中止にした時点で、実は700万円以上の負債を背負っているんです。本当だったら、オンラインフェスをチケット制にすればお金を稼げたんですけど、それはやらなかった。
というのも、プラットフォームによっては課金ができないものもあるし、自由に回れるというフェスの理念を押し通すためには無料にしないといけない。つまり、収益化できないんです。誰もやってないのも納得ですよね(笑)」
このような流れの結果、やついはクラウドファンディングを決意するのだが、ここでひとつミスを犯したという。
「最初は正直、『みんな協力してくれるのかな?』ってめちゃくちゃ不安だったんです。だから最初、500万円という低めの金額に設定したんですけど、ありがたいことに3日もかからずに突破しました。うれしかったですね。『9年やってきてよかったな』って思いました」
やつい自身、ファンの思いがここまで強いとは予想できなかったようだ。
「ただ、『目標金額を突破してるから、もう支援は足りてるんだな』って勘違いされそうなんですよね。全然足りてないのに!(笑)。今思えば、最初から本当に必要な金額に設定しておけばよかったなって。
最終ゴールは当初の目標金額の3倍の1500万円。それだけ集まってやっと赤字分とオンライン開催分の費用を賄える計算なんですよ。もちろんそれ以上いってくれても全然うれしいですけどね」
■全国8ヵ所、さらに韓国ともつなぐ
結果的に、リアルで行なってきた「やついフェス」と変わらない規模感になった「オンラインやついフェス」。それどころか、「オンラインならではの大きなメリットがふたつある」とやついは語る。
「ひとつ目は、今まで行きたかったけど行けなかった人たちが自宅で参加できるようになったこと。地方に引っ越したり、東京にいても育児で忙しかったり、そういういろんな事情でフェスに参加するのが難しい人たちから、『家で見られてうれしい』という声がたくさん届きました。
もちろん、そういう声が以前から多いのは把握していたんですけど、『渋谷をグルグル回るのがコンセプトなわけだし......』って考えて、来場者だけに向けてやることを重視してたんです。
でも、今回たくさん喜びの声をもらって、『こういうのもアリだな』って再認識しましたね。子育て中のお母さんが参加できるって貴いことじゃないですか。
ふたつ目は、日本中のライブハウスをつなげられること。今までは渋谷の街を周遊できることに重きを置いていたけど、オンラインなら指一本で日本中を周遊できる。
今回は札幌、東京、名古屋、京都、大阪、松江、福岡、沖縄の全国8ヵ所に加えて、韓国在住のアーティストともつなげられることになりました。海外にまで達したことで、オンラインフェスとしては日本最大に。当日のオープニングでは全会場をつなげてスタートしたいと思っています」
しかし、一方では新しい試みだからこその苦労や心配事もある。
「アーティストやライブハウスに説明するのが大変でした。パラシュート部隊の斉藤優君には『何言ってるのかよくわかんないです』『僕らは何をすればいいんですか?』って言われたり(笑)。
『出たい』と言ってくれるけど、権利の問題で出られないアーティストもいますし、そういう大人の事情的な難しさもありますね。まあ仕方のないことなんですけど。
本当にどんなふうになるのか予想がつかないですね。生放送ならではのトラブルがあるかもしれない。実際にLINE LIVEで開催を発表したときも、このプラットフォームのユーザーが若いせいか、『うんこ』『荒野行動やろう』『誰こいつ』的な、意味のわからないコメントもありました(笑)。
あと沖縄のライブハウスを東京の視聴者が見て、『ライブハウスの中だと沖縄感ねえよ』って思うかもしれないし(笑)。
でも、そういう予想できないところも含めて面白いし、今まで『やついフェス』を知らなかった人たちに一気に届くかもしれない。プラットフォームジャックというのかな。だから、当日はもはや社会実験ですよね」
■オンラインならではの超豪華な顔ぶれに
いよいよ今週末に迫った「オンラインやついフェス」。全国8会場、さらに韓国ではどんなメンバーが顔をそろえているのだろう。
「EZOorDIE!率いる札幌、日本一小さなお笑い会場からお届けする名古屋、SHIM TATSUYAボロフェスタチームの京都、Love sofaステージの大阪、たぬき音楽祭が開催されている松江、パラシュート部隊率いる福岡、そしてUKULELE GYPSY(キヨサクfrom MONGOL800)を中心に豪華メンバーが動いてくれた沖縄、そしてさらに、日本を飛び出して韓国からロックバンド、South Clubが参戦することになりました」
最後に、主催者のやついが特に注目している出演者を一挙に紹介してもらおう!
「まずは声優の神谷明さん。昨年優勝した名物コーナー『歌合戦』に今年も出場します!
アイドル界からは私立恵比寿中学が2015年以来の出演を果たしてくれます。そして、Negiccoも。最近メンバーのMeguさんが結婚を発表し、メンバー3人中ふたりが既婚者に。結婚しても続けられるアイドルを体現したようなアーティストですね。
文化人枠では、吉田豪&杉作J太郎のコンビ。J太郎さんが愛媛に移住してから豪さんはひとりで『やついフェス』に参加していましたが、オンラインになったことでユニット復活です!
常連組ではマキタスポーツや、劇作家の宮沢章夫さん、漫画家のしりあがり寿さんらが今年も出演してくれます。そのほかにもホフディラン、大槻ケンヂさん、元andymoriの小山田壮平さんなどなど超豪華な方々が集結しています!」
前代未聞のスケールで、なおかつ課金なしの完全無料で行なわれる「オンラインやついフェス」。今週末は自宅から、何かしらのプラットフォームを開いて、ちょっとのぞいてみてはいかがだろうか?
そしてそして、「やついフェス」のクラウドファンディング募集期限は6月21日の23時59分まで。18日正午時点で1590万円と、最終ゴールである当初の目標金額の3倍に当たる1500万円を突破。フェス終了後にはいったいいくら集まっているのか? そちらの行方にも注目だ!
■「オンラインやついフェス」6月20日、21日開催
「YATSUI FESTIVAL! 2020」が舞台を渋谷からオンラインに移して、課金なしの完全無料で復活開催。生配信ライブ、各アーティストの自宅からの配信、全国のライブハウスを巻き込んだ企画や、飲食店などとコラボしたオンラインフードコートからキャンペーンガールまで、ステイホームで楽しめる企画が盛りだくさん! 公式サイト【https://online.yatsui-fes.com/】に掲載されるタイムテーブルから各プラットフォームへ飛び、視聴可能だ
●やついいちろう(YATSUI ICHIRO)
1974年生まれ、三重県出身。1997年にお笑いコンビ、エレキコミックを結成し、作・演出・ボケ担当。DJやついいちろうとして音楽業界にも精通。俳優としても活動中