「被写体は誰でもいいわけじゃない。中川パラダイスは断りました(笑)」と語る川島明氏

お笑い界トップクラスの大喜利実力者である麒麟・川島明が、お笑い純度の高い、超ストイックなネタ本『#麒麟川島のタグ大喜利』を発売! インスタグラムに投稿し始めたきっかけや原点でもあるハガキ職人時代の秘話を聞いた。

■衣装より肌着のほうがボケを考えやすい

――本が発売されてからの反響はありましたか?

川島 みちょぱ(池田美優)やダレノガレ(明美)ちゃんが読んでくれてたり、芸能界の人で買ってくれてる人が多いんです。

――GENKINGさんや、はあちゅうさんもSNSで「本が届いた」と投稿してましたね。

川島 そうなんですよ。結婚式をしたときに「こんな人までお祝いしてくれるんや」みたいなのがありますけど、あんな感じです(笑)。だから本を出してよかったなとほんま思いましたね。

――そもそもインスタグラムで「タグ大喜利」をやろうと思ったきっかけは?

川島 もともとインスタにいろんな写真を投稿してたんですけど、「いいね」の数はよくて1000ぐらいだったんです。でもエアコンを掃除した写真に「#ポケモンの対戦画面か」とハッシュタグをつけたら、地味な写真なのに「いいね」が5000ぐらいついてコメントもめっちゃ来たんですよ。そのときに「今まで一生懸命、旅行先の写真を撮ってたんはなんやったんや」と思って(笑)。

そこで「写真も言葉ひとつでよくなるのかな」と。それから打ち上げで撮った千鳥・ノブの(差し歯の抜けた)写真に「#ドキュメントの最後のカット」とつけて載せたときに「いいね」が1万くらいついて、今の形になりました。

――特に反響が大きかった写真はなんですか?

川島 千鳥・大悟の居酒屋での写真は「いいね」が5万くらいつきましたね。あとはブラックマヨネーズの小杉(竜一)さん。タグ大喜利のことは言わずに「カッコいい写真を撮らせてください」と言ったんです。

それで、その写真に「#インドネシアのたばこを吸う赤ちゃん」とつけたんですけど、たまたま翌日に朝の情報番組が僕のインスタを取り上げてくれて。そしたら小杉さんから連絡が来て、「どういうこと? カッコいい写真を撮るって言ってたのに、なんで俺が、たばこを吸うインドネシアの赤ちゃんなん?」って(笑)。

――いきなり番組で知ったらびっくりしますよね(笑)。

川島 ただ、「めっちゃワロタから全然やってくれ」って言ってもらえて。それからはみんなに趣旨を説明して、許可を取ってから載せています。

――写真の撮り方に何かこだわりはあるんですか?

川島 写真はなるべく要素が少ないほうがいいですね。衣装を着ているよりも肌着とかシンプルなほうが考えやすい。だからテレビ番組の本番が終わってすぐに楽屋に戻るんじゃなくて、5分ぐらい待って、「そろそろ肌着になってるやろうな」というタイミングを狙ってます。

EXITのりんたろー。に写真を撮らせてもらおうと思ったら、次の現場に向かうタクシーに走っていくときで、「ちょっと待ってくれへん?」と僕がファンみたいに呼び止めたことがありました。りんたろー。は「いいですよ」と言ってくれたんですが、マネジャーはイライラしてましたね(笑)。

――(笑)。自分から撮ってほしいと言ってくる芸人さんもいませんか?

川島 ウーマンラッシュアワーの中川パラダイスに「あれ、おもろいですね。僕も出してくださいよ」って言われたんですけど......断りました。

――なんでですか?

川島 一応、(芸人としての)実力を見させてもらってるので(笑)。

――オーディションがあるんですか?(笑)

川島 やっぱりこれまでに出てもらっている方々はそうそうたるメンバーですから。一緒に仕事をさせてもらって自分を高めてくれる皆さんなんです。だから誰でもいいわけじゃないんで、一応セキュリティを設けてます。

――セキュリティって。パラダイスさんはお笑い不審者?(笑)

川島 パラダイスを入れるとみんなに失礼かなと。

――(笑)。ところでハッシュタグはいつ考えるんですか?

川島 家ではやらず、移動中や待ち時間にやってます。一度、コロコロチキチキペッパーズのナダルの写真をずっと見て考えていたら、マネジャーから「待ち受けですか?」と言われたことがありました。

――ナダルさんをめっちゃ好きやと思われたんですね(笑)。相方の田村裕(ひろし)さんが本の中にひそかに登場していると聞いて探したんですが、わかりませんでした。

川島 表紙カバーを外してみてください(笑)。

――あ! 田村さんいた!

川島 ここの写真は全部新作で本を買った人だけのおまけです。

■タグ大喜利の原点はラジオへのネタ投稿

――川島さんは中学生のときからラジオ番組にネタの投稿をしていたそうですが。

川島 電気グルーヴさん、ウッチャンナンチャンさん、とんねるずさん、雨上がり決死隊さんとかのラジオにハガキを送ってましたけど、最初は全然読んでもらえなかったんですよ。「おもろいはずやのになんで読まれへんねん? ハガキはちゃんと届いてんのか?」と思って、「配達員が捨ててるんちゃうか?」と疑いだしましたから(笑)。

――俺のハガキが読まれないわけがないと(笑)。

川島 ちゃんと配達員がポストから回収してるか確認しに行きましたからね(笑)。それからどんどんハマっていったんですけど、ハガキを読まれたいという気持ちが勝ってきて、お笑いとは関係のない、おじいちゃんのパーソナリティがひとりでやってる俳句を詠む朝のラジオ番組とかにもめっちゃ投稿し始めました。

――ハガキを出す趣旨が変わってきてるじゃないですか(笑)。

川島 そうなんですよ。もう読まれたいだけなんです。そのラジオは競争率も低いし、15歳が送った時点で珍しがって読まれる。だから毎週景品で、知らんおじいちゃんが写ったテレフォンカードが家に送られてきてました(笑)。

――後輩芸人のレギュラーの松本康太(こうた)さんは素人時代に雨上がり決死隊さんのラジオの名物ハガキ職人だと聞きましたが知っていましたか?

川島 焼肉パンチというラジオネームでめちゃくちゃ読まれてましたから憧れの人でしたよ。

次回作は芸人以外の被写体でもやってみたいか尋ねると、「俳優さんだったらマジで怒る人もいるかもしれないですよね(笑)」と苦笑い

――芸人になってそのことは、いつ気づいたんですか?

川島 「レギュラーは雨上がりさんのライブによく呼ばれてるね」という話を松ちゃん(松本康太氏)としていたら、「昔、雨上がりさんのラジオにめっちゃハガキを出してたんですよ」って。それでラジオネームを聞いたら焼肉パンチって言われて、「すごい人やん!」ってなりました。

――でも川島さんはそのラジオでは1回も読まれなかったんですよね。今の川島さんから考えたら不思議ですけど。

川島 でもその当時はやり方を間違ってたし、面白くなかったんだと思います。その後、吉本の養成所に通ってるときにもTKOさんのラジオの大喜利コーナーにバンバン出してました。

――それは読まれたんですか?

川島 もちろん読まれました(笑)。TKOのおふたりに伝えたら「おまえか!」ってわかってくれました。芸人としての自主トレという感じでしたね。

――そもそも大喜利を初めて知ったのは?

川島 ダウンタウン松本(人志)さんの『一人ごっつ』(フジテレビ系)ですね。それまでの大喜利は、なぞかけでうまいこと言うイメージでした。でも松本さんの大喜利を見て「めちゃくちゃおもろいな」と。

――松本さんの『IPPONグランプリ』をはじめ、大喜利番組によく出演されてますが、共演者で好きな芸人さんはいますか?

川島 もちろんバカリズムさんや(千原)ジュニアさんも好きですが、やっぱり一番好きなのはロバートの秋山(竜次)君ですかね。秋山君は人間力で答えてくる。僕は文字や言い方やタイミングや発想だったりしますが、秋山君はそれらがいらない。顔がフリップというか(笑)。

――確かに独特ですね。

川島 僕が言っても「ウケへんやろうな」というのでIPPONをバンバン取っていくので。そこが好きです。

――先日、『IPPONグランプリ』の収録があったそうですが、いかがでしたか?

川島 自粛明けいきなりの仕事だったんで、「脳の血管が切れるわ」というぐらい緊張してました。出演者全員がオープニングトークをやや噛んでましたね(笑)。

――自粛明けにはヘビーな仕事ですね(笑)。

川島 「マジでスケジュールから消えてくれへんかな」というぐらい震えてましたね。収録の3日前ぐらいから寝れなかったです。

――そういえば、川島さんは自粛中にこの本を仕上げたそうですね。

川島 本当に仕事もなかったんで4月はずっとハッシュタグを考えてました。お笑いの脳を全部注ぎ込みましたね。

――今後またタグ大喜利の本を出すとしたら、芸人さん以外の被写体でもやってみたいですか?

川島 芸人さんだと笑いをわかってくれるんで苦情は来ないんですけど、俳優さんだったらマジで怒る人もいるかもしれないですよね(笑)。「なんだよ。なんでそんな悪口を言うんだよ」って(笑)。

――最後のタグで毎回フォローしてますが、それでも無理ですか(笑)。

川島 最後の1行では納得しないでしょうね。「なんだよ」となると困るんで、ホンマに仲がいい人か、「この本が好きですよ」という人になると思います。

●麒麟・川島 明(かわしま・あきら)
1979年生まれ、京都府出身。お笑いコンビ「麒麟(きりん)」のボケ担当。漫才をはじめとし、さまざまなバラエティ番組でも活躍中。『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)や『フットンダ王決定戦』(日本テレビ系)などの大喜利番組では何度も優勝するほどの実力者 

■『#麒麟川島のタグ大喜利』
(宝島社 1200円+税)
芸人仲間の写真にハッシュタグでコメントをつける「タグ大喜利」。例えば、お笑いコンビ「ロッチ」の中岡創一の場合、「#どこの深夜バイトにも一人はいる顔」「#店長に怒られたあと『怒られる役も大変やで』と強がる先輩」など、写真にマッチした秀逸な言葉が並ぶ。また、ハッシュタグの最後にはその芸人の魅力が凝縮された温かいフレーズが置かれているのも特徴。インスタグラムの投稿や男性ファッション誌『smart』の連載で掲載したものに加え、書き下ろし作品もたっぷり収録されている

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