毎週の『キン肉マン』連載は必ずチェックしているというおぎぬまX氏 毎週の『キン肉マン』連載は必ずチェックしているというおぎぬまX氏

日本最大発行部数を誇る漫画誌『週刊少年ジャンプ』および『ジャンプSQ.』が開催する伝統の新人漫画賞、手塚賞・赤塚賞のギャグ部門"赤塚賞"で、昨年、29年ぶりの入選作が飛び出したことが漫画界で大きな話題となった。

その受賞者である新人作家・おぎぬまXが『週刊プレイボーイ』31・32合併号(7/20発売)および33・34合併号(本日8/3発売)の2号連続で掲載されている特集企画「キン肉マンヒストリー」の中で『キン肉マン』をテーマにした4コママンガをそれぞれ寄稿しているのだが......彼はなんと『キン肉マン』本編での超人募集採用経験もあるという筋金入りの"肉"マニアだった!?

ならばそんなおぎぬまX先生が果たして今回、どんな気持ちで週プレ編集部からの4コマ執筆依頼を受けたのか? そんな質問をサラッと投げかけてみたところ、彼の口から『キン肉マン』への愛の言葉が堰を切ったようにあふれ出す。例えるならそれは澱(よど)みきったドブ川すら清流に変えてしまうくらいの勢いで、正義超人が流す涙のようにとめどなく、彼はただひたすらに賛辞の言葉を語り続けたのであった!

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――おぎぬま先生はかなり『キン肉マン』がお好きとのことですが?

おぎぬまX先生以下、おぎ) はい、それはもう、僕が漫画家を目指した原点とも言える作品です!

――しかし、おぎぬま先生は1988年生まれということですから、いわゆる『キン肉マン』世代ではないですよね。いつ頃から何をきっかけにそこまで『キン肉マン』にハマったんでしょうか?

おぎ 最初は中学生の頃でした。クラスの友達のよっくんが家にあった漫画をめったやたらにロッカーの中に大量に詰め込んでて、休み時間に読み放題という状況があったんです。

――それは、ある意味素晴らしい環境ですね。

おぎ そうなんです。それでその中にたまたま『キン肉マン』があって、なにげなく手に取って読んでみたら、それがもう面白すぎて。よっくんに聞いたんですよ。「このマンガ、何!?」って。そしたらよっくん自身も「たまたま家にあったのを持ってきただけでよくわからん」って曖昧な答えが返ってくるだけで。

だから出会いは本当に偶然だったんですけど、それくらい予備知識も何もない状態で触れたものからそんな衝撃を受けるって、そうそうない経験じゃないですか。しかもそれが全巻揃ってるわけでもなく、たまたま数冊だけ飛び飛びで入ってたんです。そうしたら当然、続きがめちゃくちゃ気になって。それで一気に自分で買いそろえたところで、完全にドハマリしましたね。

――最初のきっかけとなったその巻はどのあたりだったか覚えてますか?

おぎ それが今はもう絶版になってるジャンプコミックスセレクションという少し大きめ判型のもので、今のジャンプコミックスとは巻数も異なるんですが、ストーリー的には「7人の悪魔超人編」の序盤のあたりでした。

――それはまたイイところから入りましたね!

おぎ はい、最高ですよね! でも今となっては一番好きなのは「アメリカ遠征編」のあたりなんですけどね!

――その好みもまたシブいです。しかしそこまで魂を揺さぶられたというのは、具体的にはどういうところが良いと思われたんでしょう?

おぎ まず、いちファンとしての感想から言わせてもらいますと、単純に物語としてブッチギリに熱いですよね。『キン肉マン』でこういう話をするときに言われがちなのは「展開が破天荒」だとか「謎理論の宝庫」だとか、ややもすると少し斜めから見て面白いと語られることも多いと思うんです。

でもそれは些末(さまつ)な話であって、実際の『キン肉マン』の一番の魅力はやっぱり、少年漫画の王道中の王道と言っていいくらいの熱さだと思うんですよ。めちゃくちゃ熱いし面白いし泣けるし、もっと真正面から堂々と捉えて評価されるべき作品だと思いますね。

そんな王道ど真ん中の作品なのに斜めから捉えられがちだということ自体がさらにこの作品のすごいところでもあって、それってよくよく考えたら作中での主人公キン肉マンの立ち位置と全く同じなんですよね。キン肉マンも本当はめちゃくちゃ強いし熱いし優しいし、こんな立派な少年漫画の主人公はいないはずなのに、でも作中ではなぜかみんなからドジだのアホだのと軽く見られてギャグ扱いされてしまってる。そういう"キャラ"としてのキン肉マンと"作品"としての『キン肉マン』の重なり方がこれまた奇蹟的で......いやぁこんなとんでもない作品はないですね。

――おぎぬま先生の熱さに驚きました。本当にお好きなんですね。

おぎ はい、でもこれはまだ序の口と言いますかただのいちファンとしての意見にすぎなくて、もうひとつ、僕自身も今ようやくプロの漫画家のスタートラインに立てたということで、漫画の描き手としてこの作品を改めて読み返すとさらにすごい!

――まだあるんですか(笑)!?

おぎ 山ほどありますよ! 真っ先に尊敬すべきは『キン肉マン』という作品が発明した画期的な文法や方法論が今の漫画界にはあふれてて、例えばキャラクター人気投票だとか、読者からのアイデア募集だとか、キャラクターの強さを数値化する超人強度だとか、今ではどの作品もやってるようなことをいくつも最初に思いついて始めてこられたことですね。

それにもっと根本的なところで考えたら、そもそも"超人プロレス"っていう概念も画期的だったんじゃないかと思うんです。もちろん『キン肉マン』以前にもプロレス漫画やヒーロー漫画はたくさんあったと思いますけど、これを掛け合わせて、人間離れした能力を持ったヒーローが現実世界のプロレスという縛りの中で闘うっていう設定は、見過ごされがちだけどまたものすごい発明じゃないですか。

そういうことをあれこれ考えたら、僕はまだ連載も持ててないので同業者というのはおこがましいですけど、それでもこれから新しく漫画を作っていこうと思っている身で、そんな自分が何かをやろうとするとたいていその前には『キン肉マン』が立ちはだかってるんです。「ああ、イイの思いついた!」と思ってもすぐに「いや、これ『キン肉マン』だ!」ってなっちゃう。

『キン肉マン』超人募集で採用されたときに贈られたノベルティーTシャツ 『キン肉マン』超人募集で採用されたときに贈られたノベルティーTシャツ

――そう言われると確かにそんな気がしてきました。

おぎ しかもですよ。ゆでたまご先生は一度決めたそのやり方を誕生から40年経った今もずっと崩さず続けていらっしゃるのがまたすごい。超人は今も必ずリング上での闘いでどんな問題も解決しますし、超人募集に至ってはチョイ役だけじゃなくて大事なラスボスすら読者ハガキから選ばれる。(キン肉マン)フェニックスなんて『週刊少年ジャンプ』時代のトリを飾る最重要の敵ですよ!

それすらご自分の都合で作ることはされずに読者ハガキから選ぶだなんて、これ採用された人は死ぬほどうれしいと思うんですよね。すごい。さっきからすごいしか言ってませんけど、本当にすごすぎる作品だと思ってます。

――ではそこまですごいと思われるこの作中で、おぎぬま先生が特にすごいと思われるお好きな超人は?

おぎ これはファンとしては本当に難しい問題で返答に困るんですけど、あえてどうしてもひとり選ぶなら、僕は声を大にして「キン肉マン」と言いたいですね!

――主人公来ましたね。

おぎ こういう時にファンとしては欲をかいてマニアックな超人の名前を出したくなるんですけど、そこをグッと我慢して、やはり僕はキン肉マンという超人がいかに素晴らしいかを語りたいですね。

――どういうところがいいんでしょう?

おぎ 一見ブタみたいな顔したあの超人が、そのキャラクター性だけでものすごくカッコよく見えるところまでもっていけるところですね。というのはだいたいどの作品でも人気キャラって、結局は元のビジュアル自体がいざという時にはカッコよく描けるよう最初から作られてるものなんです。

でもキン肉マンはどう考えても絶対に、元がそんな作られ方をしていない。それが今やあそこまでカッコよく見えるというのは、キャラクターが自力で成長したという以外に言いようがないですよ。それこそ少年漫画の真髄だと僕は思うんですけど、これができた作品が過去にどれだけあるかと考えてみると、僕はあまり他に思い浮かばないんですね。ほとんどないんじゃないですか。それくらい秀逸なキャラクターだと僕は思ってるので、この作品内で好きな超人という話をする場合、いったんキン肉マンは除外して、そこから考えないと始まらないというのがありますね。

――じゃああえてキン肉マンを除外すると?

おぎ マンモスマンですね。王位争奪戦で4人まで倒してしまうあの力強さ、ビジュアル、そしてロビンマスクとの闘いでも最後の最後まで格を落とさないまま消滅したところもしびれますよね。いやぁあれはカッコイイ!

レオパルドンを突き刺すマンモスマン(JC『キン肉マン』24巻「決戦!! 5対2!の巻」より) レオパルドンを突き刺すマンモスマン(JC『キン肉マン』24巻「決戦!! 5対2!の巻」より)

――どんどん出てきますね。ちなみに元に戻してキン肉マンの活躍シーンはそれこそ数えきれないほどあると思いますが、特にひとつ好きな場面を選ぶなら?

おぎ 1巻のテリーマン初登場の回で彼を殴り飛ばしたところですね。

――「ボーイ おとなをからかっちゃいけないよ!」時代のテリーマンですね!

おぎ そこも今やファンの間でギャグっぽく語られることが多いですけど、あの回って一話完結エピソードとしての完成度が抜群に高いんですよ。しかも最後はわかりあって協力して敵を倒したのは想像できるんですけど、あえてそこまで描かないで、話としては改心したテリーマンの背中だけで終わるっていうね。

JC『キン肉マン』1巻「アメリカからきた男の巻」より JC『キン肉マン』1巻「アメリカからきた男の巻」より

――普段おちゃらけたあのキン肉マンが、マジ顔でテリーマンをガチ殴りするのか!?......っていう衝撃もありましたよね。

おぎ そうなんですよ、やるときはやるそのギャップなんです! だからもうひとつあげるとさっきも言った「アメリカ遠征編」でロビンマスクと再戦中に、スカル・ボーズたちの陰謀でロビンがあっさり切り捨てられて谷底に落とされ生死不明になるんですよね。その時にキン肉マンがそれを画策した連中を恐ろしい顔で睨みつけて「てめえら みな殺しだ――っ!!」って言い放つシーン。これもたまらなくカッコイイ!

――5巻のラストですか。行動原理としては先のテリーマンの時と同じですね。

おぎ 結局『キン肉マン』ってダメ超人の壮大な成長物語というのが一番のベースになってると思うんですけど、その若き日の青さの中に見える成長の瞬間って言いますかね。それが僕は本当にいつ見ても痺れるし、ものすごく勇気をもらえますね!

JC『キン肉マン』5巻「ロビンの秘密の巻」より JC『キン肉マン』5巻「ロビンの秘密の巻」より

――しかし、それほど激しい思い入れを胸に秘めて生きてこられたおぎぬま先生が、今回週プレ編集部から『キン肉マン』4コマ執筆の依頼を受けた時は、どんな感想を抱かれたんでしょうか?

おぎ もちろんファンとしてこんな光栄な話はないとも思ったんですけど、その一方で大好きであるがゆえに『キン肉マン』を自分の立身出世(りっしんしゅっせ)のために利用するようなことがあっては決してならないと。『キン肉マン』に対してだけは常に謙虚でいないと、他のファンに対しても無礼だし自分自身も許せなくなりそうで、正直、お引き受けしてよいものかどうかから、ものすごく悩みましたね。

――でも最終的にお引き受けいただけたのは?

おぎ 結局、思い悩んだ挙句にたどり着いたのは、自分のその思いすら自己満足というか、ただのカッコつけのように感じられてきたんですよ。だって週プレ編集部さんからすると『キン肉マン』の本誌連載再開に向けて盛り上げようといろいろ考えられている中で、僕みたいなド新人に思い当たって連絡をいただいたのに、それをただの自己都合で断るってどんな立場だよ!って。

そもそも別にそんなすごい作家でもないんだから、じゃあこのお祭りのようなタイミングで今やるべきことは、『キン肉マン』が大好きなヤツがちゃんと「『キン肉マン』が大好きです!」って声を出して叫ぶことなんじゃないかって。そのためには自分のカッコつけなんてどうでもよくて、何でもやりますよ!って姿勢を見せることが本当に好きな作品に対して取るべき態度なんじゃないかと思って、それでお引き受けさせていただきました。

2019年下期の第91回赤塚賞に入選したおぎぬまXさんと、同賞パーティに出席されていたゆでたまご・嶋田先生(撮影/榊 智朗) 2019年下期の第91回赤塚賞に入選したおぎぬまXさんと、同賞パーティに出席されていたゆでたまご・嶋田先生(撮影/榊 智朗)

――でもそうなると次の問題として「何を描くか」というのも、おぎぬま先生のこだわりからすると大問題になってきそうな気もしますね......。

おぎ これも散々悩んだんですけど、思ったのは『キン肉マン』の超人を出して自分が作ったセリフをしゃべらせるなんてことはまずできないぞと。セリフを書くというのは命を吹き込む作業ですから、それは僕ごときがやっていいことじゃないというのは、自分なりの謙虚さを保つ最低限のルールとして最初に立てましたね。

――なるほど。だから『キン肉マン』4コマだけど、あえて超人は一切出てこない?

おぎ それが正解かどうかはわからないですけど、今の答えとしてはそうなりました。

――「今の答え」ということは、今後は別の答えが出てくる可能性も?

おぎ 少なくとも今の僕は無名の新人で、世の中に認められてるわけでも作家としてゆでたまご先生の信頼を得ているわけでも全くないので、そんな人間がロビンマスクやラーメンマンを自由に、しかも予想外のセリフを言わせるのが前提のギャグ漫画で、なんて大それたことは当然できないですけど、もしこの先、自分がちゃんと世に一人前と認められる作家になれて、おぎぬまXのセンスが『キン肉マン』とコラボしたらどうなるか見てみたいという読者が現れてくれるくらいのところまで行けたら、その時はもしかしたら違うやり方でのアプローチも浮かんでくるかもしれません。

でもそれもゆでたまご先生に信頼されるだけの作家になれていることが大前提での話なので、まずは何より自分がこれからしっかり頑張って、次はただのファンではなく同じ作家の後輩としてゆでたまご先生の前に出られるような漫画家になっておきたいですね。

――それが今後の目標ですか?

おぎ そうですね。そうなれれば尊敬するゆでたまご先生とも大好きな漫画の話がちゃんとできそうな気がしますし、『キン肉マン』への恩返しも今と違う形で何かできると思いますので。そういう作家になれるよう、今はまず最初の連載獲得を目指して新しい作品づくりに励んでいきたいと思ってます。

――楽しみですね。では最後にいよいよ8月17日(月)の更新から始まる『キン肉マン』の新章について、おぎぬま先生の期待されるところをお聞かせください!

おぎ ここまでのシリーズも欠かさずリアルタイムで読んできましたけど、多くのファンが言う通り「今が全盛期」というのをずっと続けられているのは作家として本当に尊敬できるし、目標にしたいです。

そんな先生が作られる新作なので楽しみしかないですが、僕が復活以降のシリーズで特に好きなのは、ゆでたまご先生が『キン肉マン』という作品のルールを変えないところは守りつつも、今なお新しいストーリーの作り方に挑戦され続けてるところなんですよ。例えばテリーマン対ジャスティスマン戦の決着のつけ方なんて、昔のジャンプ時代には絶対になかった作り方だと思いますし。だから次のシリーズもまたどういう新しい要素を見せてもらえるのか、というのが今から楽しみで仕方ないです。

――お話が尽きないですね!

おぎ とはいえどんどん新しいものを見たい一方で、長く見たいという思いもありますので、ゆでたまご先生におかれましてはあまりご無理をされすぎないよう、お身体を大事に頑張っていただきたいです!

――おぎぬま先生もこれからの作家さんだと思いますので、まずは新連載の開始を楽しみにしています。今後のさらなるご活躍を期待しています!

おぎ ありがとうございます!『キン肉マン』の新シリーズを楽しみにしながら頑張ります!

・おぎぬまX(oginumaX)
1988年1月26日生まれ、東京都町田市出身。2019年下期の第91回赤塚賞への応募作『だるまさんがころんだ時空伝』で同賞では29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。お笑い芸人としての活動歴もある異色の新人ギャグ漫画家として目下、連載獲得に向けての新作づくりに専念中。公式ツイッター(oginuma_x)。公式YouTubeチャンネル「おぎぬまXの4コマ道」も配信中

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おぎぬまX先生が描きおろした『キン肉マン』4コママンガは、本日8月3日(月)発売の「週刊プレイボーイ」33・34合併号に特別掲載

8月17日(月)発売の35号から待望の本誌連載が復活する『キン肉マン』カウントダウン応援企画「キン肉マンヒストリー」の中で、ゆでたまご中井義則先生のインタビュー記事等と一緒に掲載されているので、ぜひそちらも楽しみにご覧ください!

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