新型コロナウイルス感染症の拡大によって、注目されつつある有料配信ライブ。※写真はイメージです

今やサザンオールスターズや長渕 剛が、有料配信ライブをする時代になった。そこで「生ライブとの違い」「見る環境は?」など楽しみ方の極意を徹底取材した!

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■有料配信ライブはGW明けに急速に増えた

6月25日に横浜アリーナで開催されたサザンオールスターズの「有料配信ライブ」は約50万人が視聴したといわれ、約6億5000万円を売り上げた。また、8月22日には長渕 剛が360°巨大ビジョンを使って、初めての有料配信ライブを行なうという。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって今、有料配信ライブが急速に注目されつつある。

では、アーティストたちによる有料配信ライブは、いつ頃から始まったのか。有料配信サービス機能をいち早く提供した電子チケットプラットフォーム「ZAIKO」の大野晃裕さんが教えてくれた。

「新型コロナが拡大する前の2月上旬頃までは、私たちは純粋にイベントの電子チケットを販売するプラットフォームでした。しかし新型コロナの感染が拡大して予定していたリアルイベントが次々と中止になり、私たちが以前から仕事をしていたアーティストや事務所の収入が激減しました。

そこで何かマネタイズする手段が必要だということで、2月下旬に電子チケットにライブ配信機能をつけたんです。そのリリースを発表すると同時に以前からお付き合いのあったレーベルのカクバリズムさんにお話を持っていったところ、3月13日にアーティストのcero(セロ)さんの有料配信ライブが決まりました」

無料配信ライブ全盛の3月13日に行なわれたceroの有料配信ライブ。このライブが話題となり現在の有料配信の盛り上がりにつながっている

もちろん、これが有料配信ライブの始まりというわけではない。例えばオンラインセミナーなども有料配信ライブに含まれるからだ。ただ、音楽などのエンターテインメント系配信ライブを電子チケットで売ったのは、おそらくこれが初めてだという。

「この頃、多くのアーティストは無料配信ライブを行なっていました。そのため『本当に有料で見る人がいるのか?』という不安や『みんなが無料でやっているのにお金を取るのは不謹慎だ』というファンの方からの声が出てくることを覚悟していたのですが、ライブが終わると『有料でやってくれてありがとう』『もっと支援させてください』という声がほとんどでした。ファンの皆さんもアーティストの収入源を心配していたのです。

一方でイベントの主催者の方からも『うちでも有料配信をやりたい』というお問い合わせを、多いときには一日に100件くらいいただきました」

ceroの有料配信ライブの成功は、生ライブと同じようにステージ上で歌うのではなく、スタジオでメンバーたちが輪になって演奏し、その中をカメラが動きながら撮影するというオンラインならではの演出をしたことも大きかったようだ。

この件は多くのメディアで取り上げられた。これにより、多くのアーティストが有料配信ライブを次々と開催するかと思われたが、4月になると緊急事態宣言が出され、たとえ無観客でもアーティストのライブはメンバーやスタッフが多数、一堂に会して行なわれるため、開催が難しくなってしまう。

「有料配信ライブの開催数が増えてきたのは、緊急事態宣言の解除が見えてきたゴールデンウイーク明けから6月にかけてでした」

■打ち上げ放送、アーカイブも魅力

では、有料配信ライブを主催する側は、生ライブと差別化するためにどのような工夫をしているのか。

6月14日に三森すずこ、同20日にDIALOGUE+(ダイアローグ)、7月5日に内田真礼と、これまで声優アーティストによる有料配信ライブを3回開催したポニーキャニオンの野島鉄平プロデューサーに聞いた。

「有料配信ライブのひとつの演出方法として、映画などの映像作品を意識しています。今は多くの人がネットフリックスなどの動画配信サービスにお金を払っているように、生ライブとはまったく違った映像演出ができれば、有料配信ライブも受け入れてもらえるはずだからです。

例えば、DIALOGUE+は普通にステージで踊っている映像だけではなく、オンラインミーティングで会話をするときのようなバストアップの映像で『あたりまえだから』という曲を歌いました。こうすることで、視聴者は『僕だけを見ている』という気持ちになります。

また、内田真礼さんの場合は、ステージから離れて、バックヤードに止めてあった車に乗って歌ってもらいました。これはお客さんがいて、ステージから離れることができない生ライブ会場ではできない演出です」

有料配信ライブの魅力はライブ中だけではない。ライブ後にも楽しみがあるのだ。

「ライブ後に打ち上げ放送があったり、アーカイブを見られるというのも、生ライブとの違いだと思います。

出演したアーティストが打ち上げ放送で『あのシーンはこうだった』という感想や裏話をすることで、もう一度ライブ映像を見たくなりますし、1回目とはまた違った見方ができます。打ち上げ放送は、アーカイブが見られるという体験をより楽しんでもらうために出てきたアイデアです」

6月20日に行なわれたDIALOGUE+の有料配信ライブ。カット割りを駆使した映画のようなライブや打ち上げ放送が評判になった

音楽ジャーナリストの柴那典さんは有料配信ライブの楽しさをこう語る。

「アーティストのKREVA(クレバ)は、6月24日にビルボードライブ東京で有料配信ライブを行ないました。この会場はもともとライブレストランなので、ライブが終わってステージから下りるとフロアにシャンパンと料理が運ばれてきて、KREVAとバンドメンバーの打ち上げがスタートしました。

そして、さっきまで自分たちがやっていたライブを再生しながら『ここの演奏を見てもらいたい』といったトークをし、ライブチャット機能を使ってコメントを読みながら、ファンとコミュニケーションを始めたんです。

普段、アーティストが仲間内だけでやっている打ち上げを見ることができ、それにファンもチャットで参加できるというのは、配信だからこそのコンテンツです」

このように有料配信ライブは、「チケットの売り切れがない」「すべてのチケットがVIP席」「地方在住でも見られる」「移動の時間がかからない」「ゆったり寝転んで見られる」といった利点のほかにも多くの魅力があるのだ。前出の野島プロデューサーが話す。

「新型コロナが終息して、生ライブができるようになっても『東京公演』『大阪公演』『配信公演』のように新しい楽しみ方として根づいていくと思います」

■有料配信ライブは大画面4Kテレビで!

では、有料配信ライブの未来はどうなるのか? 前出の柴さんに聞いた。

「360°全天球カメラの周りをミュージシャンが囲んで演奏するマルチアングル配信はすでに行なわれています。また、ライブで歌っている空間にCGでAR(拡張現実)的な演出を加える配信もできています。

そしてアメリカの人気ラッパー、トラヴィス・スコットは今年4月に『フォートナイト』というゲームの中でバーチャルコンサートを行ないました。このライブは無料でしたが、このときに接続したプレイヤーは1230万人だったといわれています。

こうした方向性は技術的にさまざまなことが可能になっていくでしょうけど、私はそれよりもアーティストとファン、もしくはファンとファンの双方向的なコミュニケーションを進めていくほうが重要だと思います。

今の有料配信ライブは、ステージに立っている人にお客さんのリアルタイムの表情や声援が届きません。しかし、Zoomなどでオンラインミーティングが可能なわけですから、5G技術で遅延がある程度クリアできるようになるなら、客席側に大きなモニターを置いて100分割くらいでお客さんの顔を映し出すようなことはできるはずです。

そうなると、お客さんはアーティストに自分の顔が見えているという前提で配信ライブを見るわけですから、アーティストのTシャツを着て応援したり、「○○君、大好き!」というメッセージを書いた紙を掲げたりと、より生ライブに近くなる。

また、アーティスト側も『みんなどこに住んでるの?』と質問すると、『北海道』『沖縄』という紙を掲げるといったコミュニケーションが成立するわけです。

最新のテクノロジーを導入したり、ステージの演出を豪華にするよりも、アーティストにどれだけファンの顔と声とリアクションを届けられるかということのほうが価値があると思います」

これが実現すると、ほとんど生ライブと変わらなくなる。もしかしたら、生ライブ以上になるかもしれない。

ただ、気になるのがユーザー側の視聴環境だ。いくらいい画像や音質を提供しても、受け手の環境が悪いと楽しめない。

そこで最後に、IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志さんに有料配信ライブを楽しむためのオススメの環境を聞いた。

「本格的に楽しみたいのならば50インチ以上の大画面テレビをオススメします。今から買うのならば4K以外の選択肢はありません。

現在はソニーやパナソニックといった国内大手メーカーだけでなく、アイリスオーヤマや中国のハイセンスやTCLなども4Kテレビを出していて、品質も良くなっています。43インチの大画面テレビだったら5万円を切るものもあり、TCLやアイリスオーヤマだと3万円台から買えます。

また、大画面テレビ以外にもプロジェクターという選択肢があります。不思議なもので4Kテレビとフルハイビジョンテレビでは、50インチ以上のサイズになると明らかに画質の差があるんですが、プロジェクターの場合はサイズを大きくしてもそれほど違いがない。フルハイビジョンで100インチくらいのサイズで映し出してみてもあまり粗い感じがありません。

ですから、50インチ以上の4Kテレビを買うのがコスパがいいし、満足度も高いと思うのですが、より大画面で没入感に浸りたいというのであればプロジェクターもありだと思います。

そしてスピーカーは、サウンドバーというバータイプのスピーカーを設置するのが一番手軽です。サウンドバーは2万円台からあります。

もし、家の中で大きな音を出せないというのであれば、首かけ式のネックスピーカーはどうでしょう。首の近くから音が出るので周囲の迷惑にはなりませんし、ヘッドホンをしたときの圧迫感や耳の蒸れがいやな人にもオススメです。ネックスピーカーは1万円台からあります」

今、急激に進化している有料配信ライブ。コロナ禍でイベントなどに行けないときだからこそ、環境も整えて楽しもう!

●8月21日(金)、25日(火)の19時から声優ユニット「DIALOGUE+」の有料配信ライブ「走れ!君と曖昧な光のあとで」が開催されます。詳細はDIALOGUE+オフィシャルサイトをご覧ください。