現在、お笑い界は「お笑い第7世代」と呼ばれる若い世代が席巻中。その仕掛け人のひとりが29歳の若き放送作家、白武ときお氏だ。
霜降り明星、フワちゃん、かが屋といったキーパーソンに厚い信頼を寄せられ、『しもふりチューブ』などのYouTubeチャンネルを手がける一方、老舗お笑い番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)にも最年少の作家として参加している。
初の著書『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』では、YouTubeの歴史や現状、第7世代の動向、コロナ禍のエンタメ事情を分析した白武氏。さまざまなメディアを越境する新世代のエンタメ仕掛け人を直撃した。
* * *
――本書を読んで驚きました。放送作家デビュー2年目で大晦日(おおみそか)の『笑ってはいけない』シリーズ(日本テレビ系)に参加されたんですね。
白武 この経歴だけだとまるで優秀みたいですけど、一番強いところになんとかしがみついたという感じです。先輩作家の深田憲作さんが若い作家を探しているというのを聞いて、僕もちょっとは戦えるんじゃないかと思って手を挙げたんですけど、返り討ちにされましたね(笑)。
でも、少しだけ爪痕を残せたんで、翌年以降も呼んでもらえて、それが名刺代わりになりました。
僕は学生時代にお笑いのDVDを見まくっていたので、若いのにダウンタウンさんのことをやたら詳しいっていうギャップがあったのもよかったのか、『ガキの使い』のレギュラー作家にも入れていただきました。
――仕事を選ぶ基準は?
白武 先輩には「若いうちはなんでもやったほうがいい」と言われますし、確かにそうだなと思うんですけど、自分が学生時代にソリが合わなかった人と同じ顔してる人とはだいたい合わないんですよ(笑)。
気が合う人とやったほうがモチベーションもパフォーマンスも上がるなって思います。自分が最高だと思えない相手に誘われても、結果的にうまくいかないんですよ。
僕はお笑いがめちゃくちゃ好きですけど、放送作家で1位になりたいっていうのは早々に断念してるんです。すごい先輩がたくさんいるので。お笑いだけではなくて、多方面でヒットメーカーになるのがカッコいいなって思うんです。
――若い芸人が白武さんには心を開いている印象があります。
白武 いやなことをしないし、させないからじゃないですかね。彼らは僕同様みんなお笑いマニアなんです。同じようなものを見てきて、芸人以外でそういう話をできる人が初めてだったんだと思います。あと、彼らが声をかけられる経験がなかった時期に声をかけられたっていうのも大きかったかもしれないです。
――『しもふりチューブ』を始めたのは?
白武 少し前までは「芸能人がYouTubeをやるのはダサい」という空気が強かったんですけど、カジサックさんがそれを徐々に変えてくれました。
僕も芸能人が普通にYouTubeをやる時代が来ると思ったので、これは早めにやっておいたほうがいいと思って、霜降り明星のふたりに声をかけました。彼らもそのうねりを肌感覚でわかっていたんでしょうね。「どうせやるなら毎日更新しましょう」と言われました。
――最初に毎日更新って聞いたとき、事務所に酷使されてんじゃないかって思いました(笑)。
白武 彼らにとってはM-1に続く挑戦のひとつなんだと思います。
――第7世代が脚光を浴びている理由は?
白武 今はどのメディアもコンプライアンスの意識がものすごく強い。でも、こういうのがセクハラだ、パワハラだって言われても、何十年もそれでやってきた演者が急にアップデートするのは難しいと思うんです。
一方、第7世代の芸人たちは、SNSを通して熱心にコメントをくれるファンの言葉を日々敏感に感じ取っているので、「ナチュラルダイバーシティ感覚」が備わっていると思います。
また、これまではテレビを主戦場にするしか選択肢はなかったけど、今はYouTube、TikTok、noteなど、才能を発揮できる場所がたくさんあることも大きいですね。
――そのなかでテレビの変化は?
白武 2009年頃から、ためになる情報バラエティ全盛時代が始まり、それが10年くらい続きました。人口ピラミッドに応じて一番層の厚い高齢層をターゲットにしていたのが一因ですが、最近は個人視聴率を重視する傾向になって若者に向けた番組が増えました。
コロナ禍で『有吉の壁』(日本テレビ系)のようなただただ楽しい番組が好まれる傾向もあるので、テレビマンが本当にやりたかった番組がやりやすくなっていると感じます。10月から日本テレビがネットの同時配信を始めるそうなので、今までの常識のようなものが崩れて、ガラッと変わるんじゃないかと思います。
――3月4日にYouTubeチャンネル『みんなのかが屋』で、お笑い界では最も早く無観客配信ライブが開催されました。
白武 政府の自粛要請で相次いでライブの中止が発表されている時期でした。だったら逆に「開催」を発表したら面白いんじゃないかと。初めての試みだったということもあって、皆さん応援してくれて普段のライブの倍の収益があった。
投げ銭のような仕組みは、対アイドルのような恋人感覚ならともかく、芸人に対してはダサく見えてしまうんじゃないかと思ったんですけど、このコロナ禍で「お金を払うことで応援したい」という文化がお笑いの世界でも進んだのはよかったことだと思います。
――これからの時代における放送作家の役割は?
白武 番組予算が削られていくなかで、最初のほうに減らされるのが放送作家。制作力も強く、多くの人に届けるメディアとしてテレビは最強だと思うので、テレビの仕事は今後も続けていきたいですけど、いろんな場所でやれるのも自分の強み。
YouTubeチャンネルでも最初の設定やルールを決めるのが大事なんですけど、それができる人が少ない。そういう動画プロデューサーのような役割が重要になってくると思います。
今後はお笑い以外でも、映画、小説、ボードゲームなど、世界中に置かれる作品を作りたい。高校時代、学校がつまらないなかで大量の映画とお笑いのDVDを見て救われました。そういう暇つぶしの一滴になれればうれしいですね。
●白武(しらたけ)ときお
1990年生まれ、京都府出身。放送作家。担当番組は『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 』(日本テレビ系)、『霜降りミキXIT』(TBS系)、『霜降り明星のあてみなげ』(静岡朝日テレビ)、『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』(TBSラジオ)、『かが屋の鶴の間』(RCC ラジオ)など。YouTubeでは『しもふりチューブ』『みんなのかが屋』『ジュニア小籔フットのYouTube』など、芸人チャンネルに多数参加
■『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』
(扶桑社 1400円+税)
『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』や、霜降り明星のYouTubeチャンネル『しもふりチューブ』に放送作家として参加する白武ときお氏がつづる初の著書。エンタメビジネスの最前線で媒体を越境しながら働く白武氏が、YouTubeとテレビの現状を分析。メディア論にとどまらず、エンタメ業界で必要とされるスキルや、著者が実践しているライフハックなども紹介しており、実践に基づいたカルチャー&ビジネス書だ