角田陽一郎氏(左)が『星の子』で監督を務める大森立嗣氏に聞く

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

前回に引き続き、全国公開中の『星の子』で監督を務める大森立嗣(おおもり・たつし)さんにお話を伺いました!

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──最近の日本映画はどうですか?

大森 難しいですね(笑)。ひとつ思うのは、強くはっきりしたメッセージを出さない映画にお客さんが集まりづらいとは感じますね。僕はそういう作品も、映画のあり方のひとつだと思っているんですけど。今回の『星の子』もそうですし。

──それってインスタ映えみたいな話と同じで、表面的なことばかり意識した結果、そうじゃない作品の可能性を最初から閉ざしてるというか。

大森 曖昧さを含んだ作品のほうが深く入ってくるし、記憶に残るかもしれないのに、50文字以内で言い表せるような作品がもてはやされている気がするんですよ。

──でも、僕は日本映画が持つ繊細さ、曖昧さっていちばんの強みだと思ってて。だからこそ、この連載を始めたんですよ。

大森 それはうれしいですね。

──最新作の『星の子』を見た感想を言っていいですか? 僕も新興宗教に入ろうかなって思いました。

大森 はははは!(爆笑)

──若い頃は宗教に対して嫌悪感もあったけど、今は「心のよりどころがあるのも悪くないかもな......」と感じていて。監督は原作を読んで、どういう思いで作られたんですか?

大森 芦田愛菜(まな)さん演じる「ちひろ」という少女の気持ちの揺らぎのようなモノを描きたいなって。彼女はある意味、自分とはかけ離れた場所にいるコなんです。僕は男兄弟だし、子供がいるわけでもないので。でも、遠いからこそ、わかりたいと思った。

──ちひろ役の芦田愛菜さん、ちょうど中3のときに中3の役でしたね。

大森 15歳(撮影当時)だけどもう子役じゃないですから。思ったことは言うし、演技力もしっかりしている。だからこそ、逆にその演技力を壊したくなる瞬間もありましたね。

──けっこう話し合いました?

大森 最初のほうで大きなシーンがあって、どういうふうに感情を表現するか相談しました。ちひろが階段の踊り場で、友人に対して「(岡田将生(まさき)さん演じる南先生に)私も会いたかった」と言うシーンです。

僕も彼女の感情がわかんなくて、「どうする?」って聞いたら、「どうしましょう?」って聞き返してきて。一度休憩して戻ってきたら、「駄々をこねるようにやってみます」って言われたんですよ。結果、素晴らしい演技で。監督としては救われました。

──この作品は、わかりやすい"映え作品"とは真逆ですよね。揺らぎがあるし、曖昧さもあるから、最後どんなラストになるのか本当に読めない。そのドキドキ感って、たとえ表面的なキャッチーさがそこまでなかったとしても、十分魅力的なものなんじゃないかなって。

大森 うれしい感想ですねえ。そういうことを大きな声で伝えていかないと、映画のお客さんは育っていかないかなって気がするんですよね。

──観客の見る目を鍛えれば、わかりやすさやキャッチーさがなくても、作品として優れていればもっと支持されていくと思います。でも、肝心の業界側が市場を育てる感覚がないようにも思えるんですよね。

大森 お互い、50歳にもなるとそういうことを思いますよね。この映画はまさにお客さんに委ねる作品なので、どう見られるのか楽しみですね。

●大森立嗣(おおもり・たつし)
1970年生まれ、東京都出身。主な監督作は『ゲルマニウムの夜』『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『まほろ駅前』シリーズ、『さよなら渓谷』『セトウツミ』『光』『日日是好日』など

■『星の子』全国公開中
©2020「星の子」製作委員会 配給:東京テアトル、ヨアケ

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