『未来のミライ』でプロダクションデザインを担当した建築家の谷尻誠氏(左)の映画体験を、角田陽一郎氏がひもとく!

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

前回に引き続き、『未来のミライ』でプロダクションデザインを担当した建築家の谷尻誠さんにお話を伺いました。

* * *

――好きな作品はなんですか?

谷尻 『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989年)はすごく好きな映画のひとつです。作中で火事が起きて新しく建物が造られるんですけど、目の前に広場があって、そこに住みついている男がいるんですよ。

――様子のおかしな人ですよね。

谷尻 その男は火事になる前もいて、建て直された後もいる。変わらずにそこにいることで、時間の流れが対比構造で生まれているんだなと。何度も見るうちにそう感じるようになって、「変わらないものを設定することで変わりゆくものが顕在化するのか」と感動したんです。

――そんな視点をほかに感じた映画ってありますか?

谷尻 『ショーシャンクの空に』(1994年)ですね。色のない数十分を過ごさせて、監獄の中で音楽が奏でられたときに初めて色がある世界に変わる。ああいう作り方はやっぱり「クソー!」って思っちゃいますね。建築空間も、暗さを作ることで明るさが生まれたりするので。

セットでいうと、『ガタカ』(1997年)が好きで何回も見ました。今見ても、「めちゃめちゃ空間カッコいいな」って思います。

単純に好きな作品でいうと『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011年)。親子が「矛盾語ゲーム」という遊びをやるシーンがあって、例えば「オリジナルコピー!」と言ったりするんです。

建築をやっていても、「懐かしい未来」とか「中のような外」とか、逆説的な意味を同居させて空間化することってけっこうあるんですよね。

――相反すること、好きなんですね。

谷尻 大好きです。例えばこのスマホが重たいって判断するには、「どこからが重たいのか」という基準を頭の中に持っているはず。その既成概念を利用するのが好きなんですよ。人が持っている既視感みたいなことを考えたうえで、「だったら、こっちの方向にいかせるか」みたいなことを常に考えて設計してます。

施主さんもきっとどこかで「心地よく裏切られたいから僕らに頼んでいるんだろうな」って気持ちがあるんですよね。言いなりになるとつまんないし、裏切りすぎるとダメ。その頃合いをいつも探っています。

――心地よく裏切るという意味では、このオフィスがそうでした。オフィスの中に食堂があって、近所の人も普通に食事しに来るんですよね。

谷尻 最初はすごく反対されました。駅から離れてるし、事務所と一緒なのは守秘義務的にどうなんだと。でも、反対意見が出たからこそ、僕は絶対に新しい価値があると思ったんです。実際に造ってみると、いろんな人から「すごく新しいね」と喜んでもらえました。おかげで毎日知らない人の顔を見ながら仕事をしています(笑)。

――反逆児的なとこもあるんですね。

谷尻 マイノリティがマジョリティになる瞬間に立ち会いたいという気持ちがあるんですよね。

――立ち会いたい、なんですね。ずっとマイノリティではないと。

谷尻 マジョリティもマイノリティだった時期が必ずあるわけじゃないですか。そういうものに何回立ち会えるかって、けっこう大事だなって思っているんですよ。

●谷尻 誠(たにじり・まこと)
1974年生まれ、広島県出身。2000年、建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEを設立。2014年より吉田愛と共同主宰。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせて多数のプロジェクトを手がける。「BIRD BATH&KIOSK」「絶景不動産」「21世紀工務店」「tecture」「CAMP.TECTS」「社外取締役」「toha」など、多分野で開業、活動

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