SASUKEの伝説、ミスターSASUKEこと山田勝己が復帰する『SASUKE2020~NINJA WARRIOR~』は、当初収録が絶望視されていた SASUKEの伝説、ミスターSASUKEこと山田勝己が復帰する『SASUKE2020~NINJA WARRIOR~』は、当初収録が絶望視されていた
"ミスターSASUKE"山田勝己が帰還する『SASUKE2020~NINJA WARRIOR~』第38回大会は、そもそもはコロナの影響で開催自体が危ぶまれていた。TBSの番組チーフプロデューサー・村口太郎氏が収録までの道のりを語ってくれた。

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村口 SASUKEはただでさえ局内最大規模の番組で、一般人の出演で成り立っている。夏くらいまでは開催を口にできる空気ですらなかった。

それでも、7月に『音楽の日』という生放送の大型番組を、感染対策を万全にしてやりきったり、ドラマ『半沢直樹』も、スタートはかなり遅れたけれどもやりきって、大勢の方に見ていただけたり。TBSの中でも少しずつ勇気をもらい、専門家を招いてそういう番組がどういう感染対策をしていたか徹底的に勉強して、なんとか開催にこぎつけることができました。

――世の中ではさまざまなイベントが中止になり、オリンピックも延期になり、スポーツ中継も多くは未だ無観客で行なわれている。開催に持っていくには相当なハードルがあったのでは?

村口 世間の皆さま、視聴者の皆さまに、どのような形ならば納得して楽しんでいただけるか、ひとつひとつ摸索していきました。それこそ、スタッフにひとりでも感染者が出たら中止にできるのか......とか、そういうケースも含めてですね。

――このコロナ禍でのSASUKEの収録にはどのような気持ちで臨まれたのですか?

村口 簡単に申し上げると、「仮に陽性者が出たとしても濃厚接触者をゼロ人にする」、そういう状況を100パーセントつくるべく準備をしました。

――密を避けるために制作の人員を減らし、番組ではおなじみの観客席を撤去し、選手の競技が終わるごとに一回ずつコースの消毒をする。出場者100人に課した収録直前のPCR検査代には多くの経費が投入されたと聞きました。

村口 応募者を緑山スタジオに集めてのオーディションもやらない。収録前に出場者全員集合してのブリーフィングも準備運動もやらない。出場者は5人ずつばらばらの時間に集合。応援は家族だけに制限。PCR検査も、今のSASUKEはTBSのスポーツ局のスタッフがメインで担当していて、現在のスポーツ大会やイベントの現場では(検査は)常識ですから、その基準に則って実施しました。これまでの収録とは何から何まで違いました。

大会は専門家を招いての万全の感染対策の下、開催。選手の競技間には必ずエリアの消毒を行なうなど「飛沫対策」を徹底した 大会は専門家を招いての万全の感染対策の下、開催。選手の競技間には必ずエリアの消毒を行なうなど「飛沫対策」を徹底した

――春先は、常連の選手たちのあいだでも「今年は(開催は)厳しいんじゃないか」と、あきらめムードも漂っていました。

村口 やっぱり、脈々と受け継がれているTBSの伝統的な番組で、選手たちのモチベーションはもちろんですが、視聴者もそうですし作り手である僕らも1年に一度はSASUKEを見たい。その一心でできることはすべてやりました。

変な話、社内にひとりでも「今年はやめときましょう」という声があればやめられる状況ではありました。やめるのは簡単なので。でもここ数年は1年に一回開催で、それでも選手たちはモチベーションを維持するのが大変だと思う。これが「1年空いてしまいますよ」となったら、彼らはどこに向けて練習すればいいのか。

本当に『選手=番組』なので。選手たちの努力だけで成り立っている番組ですから、1年も空いたら1stステージで全滅なんていうこともないとも限らない。いろいろなことを考えた上で、「じゃあ開催するにはどうすればいいんだろう」と皆で知恵を出し合って、準備して。

でも当初よりは幾分ハードルは下げました。最初は応援も完全無観客にするとか、実況アナウンサーも現場に呼ばずに後日実況を収録しようとか、そこまで考えていたので。最終的にはスタッフの数を減らし、アナウンサーは距離を保って現場で実況をつけ、応援は選手の身近な関係者のみというレギュレーションになりました。

――ひとりの感染者も出すことなく収録を終えられたということで、プロデューサーとしては肩の荷が下りた感じですか?

村口 うーん、どうでしょうね。もちろん、「ひとりでも感染者が出たらSASUKEの歴史が終わってしまう」くらいの気持ちだったので、無事収録できたことは僥倖でした。

が......番組である限り、視聴者の反応を見るまでは成功とは言えません。「観客もいなくて、こんなに寂しいSASUKEは初めてだ、これならやらなくてよかったんじゃないか」となるか、「開催してくれて、放送してくれてありがとう、1年の最後に勇気をもらえた」となるか、こればかりは祈る思いです。そしてコロナ禍でも練習を続け、SASUKEの開催を信じて準備をしてくれた選手たちひとりひとりにとにかく感謝です!

■村口太郎(むらぐち・たろう)
1997年にTBS入社。これまで『S☆1』『世界バレー』『WBC』などの担当を歴任してきたスポーツ番組のエキスパート。記念すべきSASUKE第1回大会でもAD(アシスタントディレクター)として奔走。12月29日(火)19:00放送開始の『SASUKE2020~NINJA WARRIOR~』第38回大会の番組チーフプロデューサー