昨日配信のインタビュー【前編】では、34年前、テレビ番組内で起こったプロレスラー馳浩(衆議院議員、元文部科学大臣)との因縁、そして今年1月に電撃的に訪れた和解劇まで、その真相を語っていただいた山田邦子さん。
インタビュー【後編】は、筋金入りのプロレス愛、そして『オレたちひょうきん族』の時代のお笑い界について聞いた。
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――邦子さんから見て、プロレスの魅力って何ですか?
山田 これだけスマホだ、パソコンだって世の中が便利になっていくなか、人間がパンツ一丁で活躍する原点のような分かりやすさですね。
――確かに。
山田 あと、もちろんプロレスラーは強いことは当たり前なんだけど、"事件"っていうのかな、"話題"のほうがいいのかな、そうした何かがあったほうがいい。
ちっちゃくてもいいからそこをネタにして――まあ、私はそれで34年苦しんだわけだけど、それがプロレスの面白さでもあるんだよね。
――おっしゃるとおりだと思います。
山田 ヒーローとヒールがいて、例えばNOAHの中では潮崎豪みたいな太陽のような立場の選手がいるとしたら、悪役と言ったらおかしいけど、悪ぶった拳王がそんな立ち位置にいる。
中嶋勝彦もそんな感じだし、怪しい動きをしているのがいいなあと思って気になってますね。特に中島のお尻と太腿、それからふくらはぎのバランスのよさっていうのかな。あれは半端じゃないんですよ。それと丸藤正道の面白さもね。彼はかわいコちゃんの顔をする。人たらしですよ(笑)。
――NOAHは今度、11年ぶりの日本武道館大会を開催します。注目しているところは?(※このインタビューは2月12日に開催された武道館大会の前に行ないました)
山田 やっぱりメイン(GHCヘビー級選手権試合。潮崎豪のベルトに武藤敬司が挑戦)でしょうね。武藤は年齢はいっていても(58歳)、天才ですからね。しかも、ヒザの手術をしてから絶好調なんですよ。足四の字固めなんてやってくるから参っちゃうわね。
潮ちゃん(潮崎)は今、私のパーソナルトレーナーなんですよ。
――あ、そうなんですね。
山田 だけど「今、コロナ禍だからジムに行けない」って言ったら、チャンピオンなのにウチに来てくれて。
――チャンピオンが家にきてくれるなんてスゴい!
山田 そう。最近は私も年齢を取ってきて筋肉がイマイチだけど、潮ちゃんはそういうことも計算しながらカラダを見てくれて。武藤さんとは長い付き合いだけど、今回は潮ちゃんを応援しようってことに至ってます。
でも今のNOAHは、清宮海斗を含む若い選手も育ってきているから、初めての武道館の熱気、大きさ、それからポジションっていうのかな、そういうことをも味わってね、先輩たちの姿を焼き付けてもらいたいと思っているの。
――まるで母親のような心境ですね(笑)。
山田 そうかもね。だけど私も『やまかつ(邦ちゃんのやまだかつてないテレビ)』で武道館のコンサートをやっていたから、自分も武道館に対して思い入れがあるんですよ。だから、ホントにワクワクうれしい感じ。
――そんな邦子さんですが、今まで見てきた中で、私的なベストバウトというと?
山田 そうなると、ジャイアント馬場VSスタン・ハンセンであり、アントニオ猪木VSモハメッド・アリかなあ。
――そこに行きますか!
山田 いろいろと言われている試合だけど、やっぱり燃えたもの。猪木さんは「プロレスだの、格闘技だのは関係ない。誰が強いかなんだ」って言うんだけどね。
――その2試合が出るだけでも、プロレスを観続けてきたことが分かりますね。
山田 最近、一番好きなのはSANADAなんですよ。華があって強くてビジュアルがある。後は"事件"があれば。
2年くらい前のオカダ・カズチカ戦はよかったなあ。飯伏幸太戦も良かったし。やっぱりなんでもそうだけど、ライバルの存在がいないとダメなのよね。
――プロレスへの愛を感じますね。今、プロレスラーにはライバルが必要とおっしゃいましたが、例えば、邦子さんが芸能界で新人の頃、どういった方法でのし上がって行ったのか。そこはプロレスの世界でも、プロとして共通の方程式がある気がします。
山田 偉そうなことは言えないけど、なんでもいいから好きだなと思う先輩についていけばいいのよ。
――ちなみに、邦子さんが好きだった先輩は?
山田 ビートたけしさんですね。
――たけしさん!
山田 たけしさんには「ついてくんな。帰れ!」って何回も言われましたよ(笑)。でも、観ていたいじゃないですか。本番だけじゃなくて生き様とかね。
そこから吸収して研究する。そこには科学とかでは割り切れない、学校では教えてもらえない何かがあるんですよね。そこを学んで盗むことじゃないかな。
そういう意味で言うと、私は幸せでしたね。先輩がやっているようにやればよかったから(笑)。だってたけしさんは今でも面白いですもん。不思議な生き物ですよ、全部が面白い。今、新婚さんで幸せなんだから(笑)。
――たけしさんは、人生が全てお笑いというかエンタメなんですね。
山田 あと、たけしさんはすごくプロレスが好きでね。ひょうきんプロレスとかやっていたじゃない。女子プロレスがなかったから私は出られなかったけど、出たかったなぁ。
――たけしさんとの出会いが、その後の邦子さんの活躍につながったんですね。
山田 そうなんだけど、私はたけしさんだけでなく、凄い人とたくさん会える職業をやらせていただいてるんですから幸せですよ(笑)。
長州力さんが焼肉を焼いてくれたり(笑)、宇宙飛行士にも会えたし、一流の料理人にも会えた。企業の社長さんから名だたる俳優さんにも会えて。刺激的な人生ですよ。
――少し昔のお笑いの話をお聞きしたいのですが、ザ・ドリフターズの『8時だよ全員集合』はプロのお笑いの方が毎日稽古をして本番を迎える番組だったのに対し、裏番組の『オレたちひょうきん族』はほとんどアドリブのお笑いだった、と言われています。
山田 まあ、『ひょうきん族』は刺激的でしたよね。高田文夫先生たちが書いた台本自体はあったのよ。でも、あってないようなものでね。『ひょうきん族』は全部がパロディで、その当時流行ったドラマやニュースをすぐにパロディにして番組をつくる。全て壊しながら作るやり方なんですね。
『全員集合』のほうは作り込んで作り込んでいくやり方。だから『ひょうきん族』にいるとたくましくなりましたよね。そこに食らいついていかないと、立っているだけでセリフも飛ばされちゃうし、出番が無くなっちゃうんですよ(笑)。
――すごく厳しい世界だったんですね。
山田 なんでもいいから食らいついて面白いことを言わないといけなかったんですよ。だから反射神経がないと対応できない。
一方で『全員集合』のほうはみんなで練習して練習して、それこそ生放送だったから停電したり火を吹いたり、物が壊れたりしてね。その中でなんとかするっていうチームワークがとても面白かった。要は、テレビVS舞台みたいな感じなのかな。私はどっちも経験しましたけど、どっちにも面白さがありますよね。
――どちらも一流の芸人、コメディアンでないとできない仕事ですね。
山田 そう。でも、もしかしたら志村けんさんはアドリブには弱かったかもしれない(笑)。その分、バンドマンだから音楽センスが優れていたね。
『ひょうきん族』の私たちはっていうと、みんな近所のガキ大将みたいな感じ。クラスにいるようなガキ大将ね(笑)。
――『ひょうきん族』と『全員集合』のメンバーは、お互いライバルって感じでバチバチだったんですか?
山田 仲が悪いってずーっと言われていたけど、本当のことを言えば、ビートたけしさんと志村けんさんは親友だし、私だってドリフターズの方々とはとても仲良くしているし。でも、仲が悪いほうが世間的には面白いからね(笑)。
――そこは山田さんと馳さんというか、プロレスの世界も同じですね(笑)。
山田 今でもなんとなくの派閥はあるのかもしれないよ。例えばとんねるずのところにはダウンタウンが出ないとかあるんでしょうけど、根本的にお笑いの人はみんな仲良しだからね。
――今日はプロレスの話のみならず、お笑い界のレジェンドの方に、当時のお話を聞かせてもらって、本当にうれしいです。ありがとうございました!
山田 激しくぶつかり合ったほうが最後は分かり合えるんですよね。そこはプロの世界なら、芸能界もプロレスもみんな同じかもしれないね(笑)。
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著:山田邦子 860円+税 新書判224ページ 2021年3月1日発売
還暦を過ぎてもなお、YouTubeや舞台と新しいことに挑む山田邦子さんの人生指南書。夏目雅子さんや島倉千代子さんなど今は亡き大スターとの思い出や、「ひょうきん族」で苦楽をともにしたたけしさん、紳助さん、さんまさんなどとのエピソードで振り返る山田邦子の生きる力の源とは――。