「チャラ男だったり歌だったり、僕は『芸人』として自分が最大限パフォーマンスできるジャンルを探し求めてきた。そこはプライドレスかなって」と語る藤森慎吾氏

情報番組のMCに歌手、俳優、ミュージカルにYouTubeとマルチな活躍を見せているオリエンタルラジオの藤森慎吾。いわゆる「ネタをやってナンボ」の芸人像とは対極のポジションにいる彼だが、その肩書はあくまで「芸人」だという。

04年にはNSC在学中にもかかわらず『M-1グランプリ』準決勝進出を果たし大ブレイク。その後に訪れた悪夢と再起。芸能界の酸(す)いも甘いも知り尽くした藤森が語る、しなやかでプライドレスな生き方とは?

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――先日の吉本興業退社の会見にて藤森さんが中田(敦彦)さんを「あっちゃん」と学生時代と同じ呼び方をしているのがとても新鮮でした。

藤森 芸人はよく「うちの相方は......」みたいな言い方をしますけど、普段から「あっちゃん」と呼んでいるんだから、それでいいんじゃないかなって。

芸人の世界には独特の習わしみたいなものがあって「相方とは仲が悪くなければいけない」とか「相方のプライベートは知らないほうがいい」とかって言う人もいますけど、僕はそういうのはどうでもいいと思っているんです。

今の第7世代の芸人たちを見ていると、そういうものにとらわれていなくて本当にいいなって思いますね。

――このたび、出版された『PRIDELESS』という本のタイトルにも、そういった固定観念に縛られない藤森さんのスタンスが表れていますが、ここでいう「PRIDE」をあえて日本語に訳すとするとなんですか? 見栄、虚勢、それとも自負?

藤森 そういったものすべてをひっくるめて、だと思います。そもそも僕は普段から「ここは譲れないな」とか「ここは受け入れよう」とか、そういうことはほとんど考えることがないですね。

コンビを結成して15年以上になりますけど、自分たちでは到底かなわない芸人さんもたくさん見てきました。おかげで早い段階で自分たちの力量に気づけた部分もあります。そういうのもあって自然とプライドレスな考え方に行き着いたのかもしれません。

――著書の中には「吉本にはダウンタウンを目指せという共通理念がある」との記述があります。デビュー当時、オリエンタルラジオはその最有力候補として会社の期待を一身に背負っていましたが、今、当時を振り返ってみていかがですか。

藤森 ありがたいことにデビュー当時は会社にめちゃくちゃプッシュされていて、今の大﨑洋会長には「君らのために渋谷に劇場(ヨシモト∞ホール)をつくるから、頑張ってくれ」なんて言われました。そうした期待を感じながら僕らも必死に頑張っていたんですけど、すぐに「無理だろうな」とわかったんです。 

冷静に考えたら「ダウンタウンを目指せ」なんて恐れ多いし、そもそも違う誰かになろうと考えること自体、無理があるじゃないですか。しかもテレビ一強時代だからこそダウンタウンさんのようなスーパースターが現れたわけで、これからの時代はもっと無理だと思います。

――藤森さんは今、番組MCに俳優、歌手、ミュージカルにYouTubeとさまざまな活動をされています。それでも肩書は何かと聞かれたら「芸人」と答えるのですか。

藤森 はい。そこにはこだわりもあるし、憧れもあります。

もちろん芸人と名乗るからには『すべらない話』や『IPPONグランプリ』に出て、爆笑をとって賞をもらいたいという思いもあるんですけど、無理なものは無理ですからね(笑)。

そうしたなかで僕は自分に向いていない部分は諦めて、チャラ男だったり歌だったりと、自分が最大限パフォーマンスできるジャンルを探し求めてきた。そこはプライドレスなことなのかなと思ってます。

――「芸人たるものネタをやってナンボ」という考え方もありますが、それに関しては。

藤森 正直、芸人の中にはネタをやりたくない人もいるんですよ。僕らはもう、やりたくないとはっきり言っちゃってるんですけど(笑)、業界の雰囲気的にはやっぱり言いづらい部分もあると思うんです。

でも今、テレビで活躍している芸人だって、みんながみんなネタが優れていたわけではないんです。だから僕は芸人だから必ずしもネタをやらなければいけないとは思わないですね。もちろん、ネタを作り続けている芸人に対してのリスペクトはめちゃめちゃありますけど。

――これからの芸人の未来はどうなるのでしょうか。先ほどおっしゃっていたようにテレビが頂点ではないという時代がすぐそこまで来ています。

藤森 今の時点で確固たる地位を築いている芸人はテレビだけでもギリギリ逃げ切れると思います。僕もデビューした頃は、ずっとテレビの世界に居続けたいと思っていました。でも僕らの世代はたとえどんなにテレビで成功しても、もはやテレビ全盛期の人たちのような収入も人気も華やかさも手に入れることはできないと思います。

――今の小中学生ぐらいは、テレビの世界よりも、YouTubeの世界の人のことを「スター」だと認識しています。

藤森 僕は今、テレビとYouTubeの両方で仕事をしていますが、「YouTube見てるよ」と言われることはあっても、「テレビ見てるよ」とはほとんど言われません。だってテレビだと1時間番組でも出番は数分ということもざらですが、YouTubeは出ずっぱりですからね。

やっぱりテレビで1000万人に見られるよりもYouTubeで100万人に見られるほうがインパクトは大きいのかなと。だからといって「テレビはネットにのみ込まれる」みたいな言い方にはくみしたくない。マスに訴える力は、まだまだテレビのほうが上だと思います。

――5年後、10年後の自分の青写真はどのように描いていらっしゃいますか。

藤森 予測をしてもだいたい当たらないですからね(笑)。10年前に吉本を辞めることになるなんて、まったく考えていませんでしたから。

でもひとつだけ考えていることがあって、それはオリエンタルラジオのデビュー20周年となる2025年に日本武道館でライブをすることです。残りの人生、あと何回ワクワクできるのかなって考えたとき、これは間違いなくそのひとつになる。今後はそこに向けてベットしていきたいと思ってます。

●藤森慎吾(ふじもり・しんご)
1983年生まれ、長野県出身。2003年、明治大学在学中に中田敦彦とオリエンタルラジオを結成。04年、リズムネタ「武勇伝」でブレイク。11年、「チャラ男」キャラで再ブレイク。14年、音楽ユニット「RADIO FISH」を結成し、16年には楽曲『PERFECT HUMAN』が大ヒット、NHK紅白歌合戦にも出場を果たした。現在はバラエティ、ドラマ、ミュージカル、YouTubeなどマルチに活躍するほか、オンラインサロン「FILLLLAGE(フィレッジ)」も開設

■『PRIDELESS(プライドレス) 受け入れるが正解』
(徳間書店 1300円+税)
お笑いコンビ・オリエンタルラジオとして話題を振りまく一方、個人でもバラエティ、ドラマ、ミュージカルとマルチな活動を展開している藤森慎吾。昨年末には吉本興業からの独立も話題になった彼がこれまでの半生、人生哲学をまとめた一冊。大ブレイク後に訪れた悪夢とそこからの再起。決してこだわらない、逆らわない、競わない、あきらめない。そんな藤森流「気くばり思考」が明かされる

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