ニンテンドースイッチ用としては初のシリーズ完全新作となる『ライズ』。日本国内だけでなく、海外でも評価は高い ニンテンドースイッチ用としては初のシリーズ完全新作となる『ライズ』。日本国内だけでなく、海外でも評価は高い
2021年3月26日に発売され、すでに全世界で500万本以上(*)を販売したニンテンドースイッチ用ゲームタイトル『モンスターハンターライズ』。会社を休んで"一狩り"いってしまう人まで発生した『モンハン』新作は久しぶりの携帯ゲーム機で登場。

シリーズの誕生から17年がたち、今や子供から大人まで遊べる国民的ゲームに成長した人気の秘密をプロデューサー・辻本良三へのインタビューから探った!

(*)2021年4月5日時点での累計販売本数(ダウンロード版販売実績含む)

■初代から新作まで共通したテーマとは

――前作の『モンスターハンター:ワールド(以下、ワールド)』は、PS4など据え置き機ならではの広大なフィールドを舞台にした狩りが大きな反響を呼び、カプコン史上1位となる、世界累計1600万本を売り上げました。今回のニンテンドースイッチ用の新作『モンスターハンターライズ(以下、ライズ)』では、シームレスなマップ移動はそのままに、携帯機らしい手軽さとテンポ感を重視した狩りを体験できますね。

辻本 前作で平面のアクションはかなり確立できたので、『ライズ』はそこに高低差を加えました。マップが立体的になっただけでなく、「翔蟲(かけりむし)」というワイヤーアクションのような新要素を導入し、建物や崖を登ったり、モンスターに一気に切り込んだりといった、従来とは違った遊び方ができるようになっています。また、携帯機のゲームということで、ちょっとした空き時間にマップを探索するだけでも新鮮な体験をしてもらえると思っています。

新アクションの翔蟲(かけりむし)。標的や目的地への移動だけでなく、ジャンプ攻撃や空中回避でスピード感ある狩りを実現 新アクションの翔蟲(かけりむし)。標的や目的地への移動だけでなく、ジャンプ攻撃や空中回避でスピード感ある狩りを実現

――狩りの相棒もネコ型の「オトモアイルー」のほか、イヌ型の「オトモガルク」が新たに追加。「オトモガルク」は広いマップを駆ける移動手段としても活躍しますね。

辻本 実は以前から、「ネコはいるのに、どうしてイヌがいないの?」という意見がけっこうあったんです(笑)。それで『ライズ』の大きなフィールドの移動手段としてもマッチするので導入しました。 おなじみの「オトモアイルー」(画像右)は今作でも大活躍。多種多様なサポートで支えてくれるぞ。そして新たな仲間「オトモガルク」(画像左)も登場。連携した攻撃や、背中に乗った移動などで活躍するぞ おなじみの「オトモアイルー」(画像右)は今作でも大活躍。多種多様なサポートで支えてくれるぞ。そして新たな仲間「オトモガルク」(画像左)も登場。連携した攻撃や、背中に乗った移動などで活躍するぞ

――モンスターを拘束し操る「操竜(そうりゅう)」も大きな新要素です。

辻本 「操竜」は単にモンスターに乗れるだけでなく、プレイヤーの新たな攻撃手段になるようにと考えました。ただ、これも「やらないと狩れない」というものではないんです。こうした新要素はあくまでプレイヤーの選択肢を増やすためのもの。「プレイヤーに多様な選択肢を提供すること」はシリーズを通して意識してきたことであり、『モンハン』というゲームの根本にあるテーマでもあります。

――具体的に言うと?

辻本 例えば、『モンハン』は剣や斧(おの)などの武器種を選ぶところから始まります。そこから自分がしっくりくる武器を選び、合わなかったら切り替える。さらに同じ武器でも使い方で個性が出るようにしています。もうひとつの特徴はネットワークを介した協力プレイです。一緒に狩りをするメンバーが変われば、遊び方もまた変わります。つまり、プレイする人の数だけ狩りのバリエーションが生まれるのが、『モンハン』らしさだと考えています。

――「巨大モンスターを狩る」という単純なシステムのなかで、どれだけ多様な遊び方を提供できるか追求してきたと。

辻本 実際、『モンハン』は同じゲームでも、プレイヤーごとに思い入れのある箇所がバラける珍しいゲームです。「あのモンスターを狩るときに、あの武器を使ったな」とか「あいつと一緒にやった狩りは大変だったけど楽しかったな」とか。プレイ体験が自分だけの思い出として残りやすいタイトルなんです。

今はネットを介した協力プレイが一般的だが、コロナ禍が落ち着けば、こんな光景がまた見られるようになるかも 今はネットを介した協力プレイが一般的だが、コロナ禍が落ち着けば、こんな光景がまた見られるようになるかも

■世界を初めて意識して変わったこと

――そもそも、「プレイヤー同士のコミュニケーションを重視したアクションゲーム」という発想の原点は?

辻本 もともと17年前の初代『モンハン』は、オンラインゲームが将来メジャーになることを見越して作られたタイトルでした。"対戦"ではなく"協力"を基本としているのも、オンラインゲームに対する敷居を下げることが目的でした。だから、『モンハン』ではクエスト達成の報酬にプレイヤーの貢献度による差をつけていません。それをやってしまうとゲームが殺伐としてしまうからです。

――では、『モンハン』の協力プレイがローカル通信からインターネットを通じたマッチングシステムへと進化していったことも、「ようやく自分たちの本来やりたかったことが実現できてきた」という思いがあるのでしょうか?

辻本 そうですね。環境が整ってきたというか。

――では、なぜ携帯ゲーム機に戻ってきたのでしょうか? ネットで出会った仲間と広大なフィールドで狩りをする『ワールド』の方向性を突き詰めてもよかったのでは?

辻本 『モンハン』は据え置き機と携帯機の両方で展開してきたタイトルです。それだけに『ワールド』のような腰を据えた遊び方を求めてくれる人もいれば、携帯機の手軽さを求めてくれる人もいます。今回は後者のニーズにも応えたいと思いました。その上で携帯機らしい、より手軽で、誰でも遊びやすい『モンハン』を目指しました。それは『ワールド』のときにあらためて意識したものでもあります。『ワールド』は、初めて明確に"全世界向け"として開発したこともあり、『モンハン』そのものを知らない人でも遊びやすい工夫を徹底して考えたタイトルでした。

――具体的には?

辻本 プレイヤーの意見と向き合うため、開発時にテストプレイをかなりやりました。そこで初めて遊ぶ人を観察していると、そもそもターゲットのモンスターを探す時点で挫折している人が多かった。

――確かに、昔の『モンハン』はモンスターを追跡すること自体が大変でした。

辻本 かといって、すぐに見つかってしまうとフィールドを歩き回る楽しみがなくなる。そこで、モンスターがいる方向だけを示す「導蟲(しるべむし)」というシステムを導入しました。また、モンスターに与えたダメージが表示されるのも、『ワールド』からの変更です。これも初心者から、「攻撃の手応えが感じにくい」という意見が多くあったのが理由です。

――初心者向けの調整では難易度を下げることがまず頭に浮かびますが、ツボは実はそこではなかったと。

辻本 アクションの難しさは達成感や爽快感と紙一重でもありますからね。だから、「難しいところ」ではなく、「困っているところ」を探すことが大切でした。

マルチプレイは最大4人まで参加可能。近くの人とその場ですぐ遊べ、インターネットでつながれば、いつでもどこでも世界中のハンターと一狩りいけるぞ マルチプレイは最大4人まで参加可能。近くの人とその場ですぐ遊べ、インターネットでつながれば、いつでもどこでも世界中のハンターと一狩りいけるぞ

■『モンハン』に流れるアーケードのDNA

――それが『ワールド』の大ヒットにつながったんですね。

辻本 それを踏まえ、『ライズ』では携帯機としての手軽さも追求しました。週プレの読者には、「学生時代はよくやったけど最近は......」という方も多いかもしれませんが、そういう人にこそあらためてプレイしてみてほしいですね。きっと遊びやすさに驚くと思います。しかも、近頃はお子さんと一緒にプレイするお父さんも多いそうですよ。

――ついに親子で「一狩りいこうぜ!」の時代が来たと。

辻本 『ライズ』は携帯機でも遊べるということもあり、親子で一緒に並んで狩りに行くこともできます。昔は近所の友達同士で遊ぶゲームだったのが、今では家族のコミュニケーションツールにもなっているのは、感慨深いです。

――ちなみに、『モンハン』の根底にある「集まって一緒に遊ぶ」ことを重視するのは、カプコンが多くのアーケードゲームを制作してきたことの影響もあるんですか?

辻本 まさにそうです。実は初代『モンハン』も、アーケード部門から異動した人たちを中心に開発されたんですよ。

――辻本さんもアーケードゲーム開発の出身です。その経験から学んだことは?

辻本 アーケードゲームって、お金が入っていないときが重要で、デモ画面で流れている映像が面白そうでないと遊んでもらえない。だから、画面を見ただけで「やってみたい!」と感じてもらえるようにする力は、そこでかなり鍛えられました。カプコンのアーケードゲーム出身者は、よく「見て楽しい、遊んで楽しいことが大切だ」と言います。その思想は『モンハン』にも生かされていると思いますね。

辻本良三(つじもと・りょうぞう 
カプコンのゲームプロデューサーとして、2007年発売の『モンスターハンターポータブル 2nd』以降、一貫してシリーズを担当。最新作『モンスターハンターライズ』でもプロデューサーとしてタイトル全体を統括する 

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