連続ドラマ『ネメシス』の企画・プロデューサーを務める北島直明さん 連続ドラマ『ネメシス』の企画・プロデューサーを務める北島直明さん

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

現在放送中の連続ドラマ『ネメシス』の企画・プロデューサーを務め、これまでに大ヒット映画を何作も世に送り出してきた北島直明さんが登場!

■営業時代に学んだ"夜回り先生"的な姿勢

――幼少期にはどんな映像体験をされましたか?

北島 『スター・ウォーズ』(1977年~)と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年~)に衝撃を受けましたね。映画業界に興味を持ったのは『ハチ公物語』(1987年)です。8歳の頃に見て、大号泣したんです。子供だったので、プロデューサーや監督という仕事もわかってなかったんですけど、漠然と「大人になったらこういうことをしたいな」と思ったのを覚えています。

――では、青春時代に見て影響を受けた作品はなんでしょう?

北島 ジェリー・ブラッカイマー(『トップガン』『アルマゲドン』など)やJ・J・エイブラムス(『スター・トレック』シリーズなど)の作品です。

――共にアメリカを代表する映画プロデューサーですね。

北島 あとはスティーブン・スピルバーグも。もちろん監督作も好きなんですけど、むしろ自分は製作総指揮として携わっている作品に興味を持っていました。当時から「誰が企画してるのか?」ということに興味があったんですよ。

――自分で撮ろうと思ったことはなかったんですか?

北島 高校3年生の頃に、映画監督を目指したこともありました。自分で脚本も書いて、15分くらいのものを3本くらい作ったんですけど、吐きそうなほどつまらなくて......。友達から「できたら見せてよ」って言われたけど、「データが消えた」って嘘をついたくらい(笑)。

監督業は向いてないと気づいて、だからこそ、「仲間を集めて企画を作るプロデューサーの仕事なら......」と自分の可能性を信じて、就職活動をしました。

――日本テレビ入社後は、三池崇史監督の『藁(わら)の楯(たて)』(2013年)でプロデューサーデビューされます。振り返ってどうですか?

北島 今思うと、最初が三池監督で本当に良かった。大変な現場ではあったんですけど、映画というものを一から十まで学べたので。そこで出会った大沢たかおさんとは今でも縁が続いていて、『キングダム』(2019年)や『AI崩壊』(2020年)にも出演してもらっています。

――仕事観に影響を与えた作品はほかにあります?

北島 『藁の楯』の前に関わった『桐島、部活やめるってよ』(2012年)でしょうか。実は自分はもともと営業職で入社していまして......。

――そうだったんですね!

北島 就活当時、日テレはオリジナルムービーを作り始めた頃で、自分は大メジャーエンタメ映画が好きでそういう作品を作りたかったから、「資本や製作体制が整っているところがいい」と思って受けたんです。

でも、いざ面接に臨むと、自分と同じような映画オタクはたくさんいて(笑)。面接官に「今なら志望動機を変えてもいいですよ」って言われて、映画部門から営業部に変えたんです。入社からはしばらく営業で、『桐島』の頃に映画部に転属しました。

少しでも現場のことを知りたいと思って、押しかけアシスタントプロデューサーとして参加させてもらったんですけど、そこで自分よりも若い役者たちが死ぬ気で頑張っている姿にすごく刺激を受けて。あのときの経験がなければ、『ちはやふる』シリーズ(2016年~)は生まれていなかったと思います。

――そこにつながりますか!

北島 今でこそ、主演の広瀬すずさんをはじめ、主要キャストは大人気ですけど、当時は皆、新人で。キャスティングのタイミングでは『海街diary』(2015年)もまだ公開されていませんでしたしね。その後、『オオカミ少女と黒王子』(2016年)や『町田くんの世界』(2019年)でも新人を抜擢(ばってき)してますけど、それも『桐島』で若いエネルギーを知ったからこそだと思います。

――北島さんの作品は若者が輝いていますもんね。

北島 『桐島』は一気に何人ものスターが生まれた作品でした。その一方、あと一歩及ばず、オーディションで落ちてしまった役者も当然います。役者の人生をバカほど変えちゃう可能性があると思うと、こっちも生半可な気持ちではオーディションは開催できないし、本当にずっと考え抜いて選んでいます。

だからこそ、選ばれた役者がほかの作品でも活躍してくれたらすごくうれしい。知り合いのプロデューサーの作品に出ていたりすると、現場の見学に行くこともよくあります。"夜回り先生"みたいですけど(笑)。

――そういう接し方って営業時代に学んだんでしょうか?

北島 それはありますね。他社の同世代と食事に行って「上司が自分を見てくれない」って愚痴ってるのを聞いて、みんな同じことで悩んでいるんだなぁと。きっと役者も同じで、「ちゃんと見てくれてる人がいる」っていうのがやっぱりうれしいと思うんですよ。だから、僕は一緒に仕事した役者のことをずっと気にしています。

■実在する街と魅力的なバディ

――現在放送中の連続ドラマ『ネメシス』では、広瀬すずさんが櫻井翔さんとW主演を務めていますよね。広瀬さんは今では押しも押されもせぬトップ女優ですが、この作品で彼女を起用した経緯は?

北島 探偵モノを因数分解すると、「実在する街が舞台」「魅力的なバディ」とかいくつか要素があります。『探偵はBARにいる』(2011年~)はススキノだし、『探偵物語』(1979~80年)は渋谷というように。

それで企画段階で車を走らせて街を探すところから始めたんですけど、伊勢佐木町(いせざきちょう)の雑多な街を通ったときに、すごく楽しそうに走ってる助手と探偵の画えが見えたんです。探偵よりも天才的で元気で愛らしさもあって、無敵さすら感じさせる助手......。そんなイメージが浮かんだ瞬間、「これはもう広瀬すずしかいない」と思い、すぐにオファーさせていただきました。

――信頼関係を感じるエピソードです。

北島 広瀬さんと一緒に浮かんだのが櫻井翔さん。「パッと見、無敵な人が逆にポンコツだったら面白い」と思って。広瀬さんと櫻井さんに出演を断られていたら、この企画はなくなっていたと思います。

――最後にひと言どうぞ!

北島 「家族で見られる、ワクワクできるものを」と思って作っています。誰が見ても楽しめる作品にしたつもりなので、食わず嫌いしないで見てほしいです!

●北島直明(きたじま・なおあき)
1980年生まれ、徳島県出身。2004年、日本テレビ入社。営業局を経て、入社8年目より映画プロデューサーに。担当作は『ちはやふる』シリーズ、『キングダム』『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』『ルパン三世 THE FIRST』『藁の楯』『50回目のファーストキス』『斉木楠雄のΨ難』『オオカミ少女と黒王子』など

■『ネメシス』
毎週日曜22:30~23:25(日本テレビ系)
出演:広瀬すず、櫻井翔、江口洋介ほか

【★『角田陽一郎のMoving Movies』は隔週水曜日配信!★】