ダンスアーティストで女優の仲万美(なか・ばんび)が初主演を務める映画『ドリームズ・オン・ファイア』が公開中だ。

これまで加藤ミリヤやBoAなどのバックダンサーを務め、翌15年にはマドンナのワールドツアーに帯同するなど、世界的に活躍するダンサーの仲が演じるのは主人公の少女・ユメ。田舎から上京したユメが、苦労を重ねながらトップダンサーを目指す物語だ。

女優への挑戦を考えていなかったにもかかわらず、今回の主演に対して、「もうボクがやるしかないなと思った」と語る仲が、女優になった経緯や今作への思いを語る。

――今作へ出演することになった経緯は?

 パーティーで監督(フィル・メッキー)に出会ったことがきっかけです。3年くらい前、2回目に会ったときに、「脚本が出来たよ! バンビに出て欲しい」って言われて。

――2019年公開の『チワワちゃん』が女優としての初出演ですが、それよりも前ということですか?

 そうなんです。監督からストーリーを軽く説明されて、「それはもうボクがやるしかないな」って感想でした。「ボク以外に出来る人いないでしょ」って。それに、監督の熱意にどうしても応えたい気持ちしかなかったんで、快諾しました。


――しっかりダンスができなければ、成り立たない作品ですからね。主演ということにプレッシャーは感じなかった?

 きっと違う映画なら緊張したと思うんですけど、「この作品で、この監督で」ってなったら、不思議とプレッシャーはなかったです。監督がたぶん、ド直球に誘ってくださったからだと思います。

――トップダンサーへ駆け上る役と、自身とが重なる部分は多かったのでは?

 ストーリーとして苦労する部分はすごく共感しました。ダンスってなかなかそれだけでは食べていけないんですよ。レッスンをいくら持とうが、手元に残るのは本当にひと握り。自分もバイトを2、3個掛け持ちしていて、何が本業か分からない時期もありましたから。特にユメがキャバクラやゴーゴーダンサーで働く姿は、当時の友達を思い出して生々しいなと思いました。

――華やかそうな世界ですけど、本当に限られた人しかダンスだけで生活できないんですね。

 そうなんです。ただ、ユメ本人はボクというより、母と同じだなと思いました。母は学生の頃にミュージカル系のダンサーをやっていて、その夢を叶えるために成人式の2、3日後に家出して上京していたんですよ。結局、姉を妊娠して諦めることになったんですけど。

――仲さんもミュージカルに出ていましたよね?

仲 一昨年『Rock Opera「R&J」』に出ました。そのときは、「やっぱ血なんだ、同じ道をたどるか」と思いました。今は母に「あんた、ここの伸びが足りないわ」とか説教されますし(笑)。

それでその話をボクが中学生くらいのときに何気なく聞かされて、なんとなく覚えていたんですよ。なのでユメ自身も上京した時は、相当自信あったんだろうなと思ったり、役作りとしてはそれがベースになったのかもしれません。


――ユメは上京してすぐ苦難が続きますけど、どんな気持ちで演じていたんですか?

 「あんたすごいね」って単純に思いました。「どんなにくじけても、どんなに挫折しても立ち上がる勇気、すごいよ」って。東京で活躍するダンサーは怪物ばかりですから。

でも、田舎育ちで怪物を知らない無知なユメは、目の前でことごとくつぶされる。そりゃあ崩れますよね。相当な自信と勇気がないと家を出ていけないと思うし、そんな挫折も這い上がろうとする気持ちもボクには無かったから尊敬しますね。

――仲さん自身は、10代のころから活躍してきたわけですもんね。

 そもそもボク自身は目標もなくやってたんですよ。もちろんダンスが好きって部分は共感できます、ダンスが好きだから頑張った過去もあるし。

ただ有名になりたいわけじゃなかったんですよ。なのでオーディションも行ったことないし、コンテストも一度だけ15歳のときに友人とノリで出ただけなので。

――それは意外です。オーディションやコンテストをきっかけにステージが上がっていくのが一般的な中ですごいですね。

 恵まれている部分もあれば、挫折する前に逃げるっていう逃げ癖があるんですよ。乗り越えなきゃいけない壁があるとして、「上手になりたい、でもどんなに頑張ってもこの人みたいになれない」からって凹む。

17歳くらいでそうなりそうになって、ダンスから一度離れました。「この壁は這い上がれないかも、じゃあ逃げます」みたいな。誰だってそうだと思いますけど、凹むのは嫌なんですよ。だったら一度に逃げて、一回打ち切ったほうが潔く次に行けるんで。


――マドンナのツアーやリオ五輪の閉会式という大舞台を踏んできた人とは思えないですね。

 昔から逃げるのが得意で、性格だけじゃなく本当に逃亡するっていう(笑)。中学生のときも、気づいたらダンスシューズ履いてマンションの2階のベランダから脱走したこともありました。

マドンナさんのツアーも五輪も、逃げれるもんなら逃げてましたよ(笑)。実際にツアー中にホームシックになって、ホテルから飛び出したことがあるんですけど、「ここは日本じゃない」って、怖くて泣いて帰りましたから。それでも、そのツアーや色んな試練をクリアしてきたから、他のステージに行けたとは思います。

――同じ試練を乗り越えるのでも、なりふり構わず挑戦していたユメとは根本的に違いますね。

 ユメは自分で自分のケツを叩いてチャンスを掴みに行っていますからね。だから、最初の撮影はめちゃくちゃ困ったんですよ! いきなり人生最大のコンテストに挑むシーンから撮ったので、「ホント、どういう心持ち!?」って。今思い出すと笑いしか出てこないですよね(笑)。

でもその分、ユメについていろいろ考えられてよかったのかもしれません。レッスンで泣くシーンがあるんですけど、覚えてないんですよ、その時の感覚。泣く指示もなかったはずなので不思議だけど、それくらいユメになれていたんだと思います。


――この取材前の準備中にもダンスを踊っていましたが、ユメと同じように今もダンスは好きですか?

 女優さんになったのが3年前なんですけど、その時は人生で初めてダンスが嫌いになって、でもダンスが嫌いな自分がイヤで、ダンスを嫌いにならないために辞めようと思ったんです。

その時にちょうど『チワワちゃん』の話があったので、やってみたら見たことない世界で、すごく楽しいし、他に自分は何が出来るんだろうってワクワクしたんですよ。そこからなんでもやってみようという思考回路に変わったりして、結局ダンスも大好きだなと思いました。そういう意味では、今作の撮影は2年前だったので、心境的にもいいタイミングでしたね。

――女優活動で違う世界を体験したことで、ダンスへの愛も再確認できたと。これから女優として幅を広げていくと思いますが、目標は?

 女優って言われるのは違和感ありますね(笑)。役者としてはひとり憧れている人がいて、誰にも言ったこと無いんですけど、木村拓哉さん。どんな役でも本人の存在感と役を両立させているじゃないですか。すごく憧れますし、ボクはああなりたいと思います。

――最後に映画の魅力をお願いします。

 夢は必ずしも叶うわけじゃないし、叶えるためには運も必要だけど、その運を掴み取るには、無謀だろうと無理やりにでも自分で取りに行かないといけないんだなって、ユメを演じて思いました。それと同時に、そんなユメの姿が観る人の心を熱くさせてくれると思います。

それとトップダンサーが集まってくださって、すごいパフォーマンスがたくさん出てくるので、ダンスの楽しさも味わってください。


■仲万美(なか・ばんび)
5歳からダンスをはじめ、20年以上のキャリアを誇る。これまで加藤ミリヤ・BoAなどのバックダンサーを務め、2015年にはマドンナのバックダンサーとしてワールドツアーを約1年半同行。14~16年、19年には、NHK「紅白歌合戦」において椎名林檎アーティストダンサーを務めた他、16年リオデジャネイロオリンピックの閉会式における日本のプレゼンテーション「SEE YOU IN TOKYO」にも参加するなど、世界的にも活躍。
19年1月に岡崎京子原作の話題映画『チワワちゃん』で女優デビューを果たし、舞台『Rock Opera「R&J」』では、ヒロイン・ジュリエット役に抜擢。その他、雑誌・広告・CM・MV・イベントなどに数多く起用されるなど、今後の活躍も期待される。
Twitter【@bambi_615】
Instagram【@615_bambi】

■『ドリームズ・オン・ファイア』
5月15日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
出演:仲万美、髙嶋政宏、麿赤兒、黒田育世、奥田咲、紅林大空、メデューサ・リー、山下雫ほか
詳細は公式サイト【http://dreamsonfirefilm.com/】より