『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

女優としても活動しながら、長編初監督作品『海辺の金魚』が6月25日に公開予定の小川紗良さんが登場。"名画座愛"を語ります!

■高校時代から名画座通い

――人生で最初に見た映画はなんでしょう?

小川 『ライフ・イズ・ビューティフル』(1999年)ですね。まだ保育園の頃、両親が見ていて、私もなんの気なしに一緒に見たんです。あの作品って戦争映画で、しかもけっこう衝撃的な展開じゃないですか。戦争も映画もわからない年齢だったので、びっくりして夜通し泣いちゃいました。

――コメディっぽく進みますし、最後ああなるとは思いませんもんね。

小川 トラウマというか、それ以来怖くて見れていないんですけど、今でもいろんなシーンを覚えています。映画の力強さを初めて感じた経験でもありましたね。

――では、今のお仕事につながった作品はなんでしょう?

小川 高校生くらいから名画座に通うようになったんです。当時は目黒シネマによく行っていました。

――僕もよく行きますよ。2本立て、いいですよね。

小川 そうなんですよ! 役者業を始めたばかりの頃だったので、蒼井優さんをはじめ、見たい役者さんの作品を目当てに行くこともありました。犬童一心監督、岩井俊二監督、市川準監督たちの作品を目黒シネマでたくさん見て、すごく影響を受けたと思います。

大学に入ってからは、いろんな名画座に通うようになりました。早稲田大学に通っていたので、それこそ早稲田松竹はよく行っていて。石井聰亙(そうご/現在は岳龍[がくりゅう])監督作品のオールナイト上映で『狂い咲きサンダーロード』(1980年)や『逆噴射家族』(1984年)を見て、すごく感銘を受けました。

――『逆噴射家族』、僕もハマりました!

小川 あの作品、大好きなんですよ。家が爆発して、ひらけた屋外でご飯を食べるシーンで終わるんですが、オールナイト上映が終わって朝方の高田馬場を歩いたら、すごくすがすがしい気持ちになりました。

洋画だと『悪魔のいけにえ』(1975年)を池袋の新文芸坐のオールナイト上映で見たことがあります。オールナイトでヤバ映画を見るのって楽しいですよね(笑)。朝方の池袋の景色がまたよくて。映画館に行くと、街の景色やそのときいたお客さんも含めて記憶されるんですよね。

――この連載では「映画に影響を受けて『出たい』と思ったのか? 『作りたい』と思ったのか?」とゲストの方によく聞くんです。俳優は前者、監督は後者が多いんですが、紗良さんはどちらですか?

小川 どっちも思うかもしれないです。

――あ、そう答えた方は初めてです!

小川 映画作りに携わることが好きなので、どんな関わり方でもいいから、「面白い作品に一本でも多く関われたらいいな」という気持ちが常にあるんです。

――そう思うようになったのもこの仕事を始めてから?

小川 高校生の頃から映像を作っていたので、たぶんその頃からどっちも思っていた気がします。

■「いい子」の呪縛を肯定的に解きたい

――長編初監督作品『海辺の金魚』が6月25日に公開されますが、監督として影響を受けた作品はなんでしょう?

小川 ホウ・シャオシェン監督など、台湾のニューシネマが好きですごく見てるんですけど、ああいう豊かな時間がゆったりと流れる作品に影響を受けているかもしれません。

――この作品もゆったりと時間が流れていますもんね。

小川 ロケ地は鹿児島県阿久根(あくね)市だったんですが、情景がどこか台湾に似てるんですよね。生えている植物とか、ちょっと湿気のある感じとか。

――この作品の発想はどこから来たんですか?

小川 学生時代はずっと短編と中編を撮っていたんですけど、いつか長編を撮りたいなと思っていたんです。主演の小川未祐(みゆ)さんは大学時代に撮った短編にも出てくれたんですけど、久しぶりに再会したとき、彼女は表現者としての野望や葛藤、悩みが渦巻いている時期で。そのアンバランスな感じがすごくいいなと思って構想を練り始めました。

――『海辺の金魚』というタイトルにはどんな思いが込められているんですか?

小川 金魚って人間の観賞用の魚なので、海で生きられず、鉢の中でなければ生きられないんです。同じように、子供たちも誰かに守られなければ生きていけない存在ですよね。この作品では、まだ何も知らない高校3年生の主人公・花が社会という海に出ていかないといけない時期を描いているんですが、そんな姿を金魚と重ねました。


――ご自身の経験も込められているのかなと思いました。

小川 自分で書いて自分で撮っている作品なので、自分自身の心情はかなり出ていると思います。例えば、「いい子」がキーワードとして登場するんですけど、ホメ言葉である一方、状況によっては呪いのようになってしまうと思ってて。この映画では、特に女の子に対してのそういう「いい子」の呪縛を、肯定的なやり方で解いていけたらいいなと思っていました。

――僕も一度監督をしているんですけど、編集でかなり大きく変わったんです。紗良さんはいかがでした?

小川 変わりましたね。脚本はけっこうしっかり作っていったんですけど、演技経験のない子供たちに出てもらったので、現場では思いどおりにならなかったんです。でも、そこが狙いでもありました。予定調和じゃないものを作りたかったので、子供たちにすごく助けられましたね。

――この作品をどんな方に見てもらいたいですか?

小川 もちろんいろんな方に広く見ていただきたいですけど、特に女性や子育て中の方に届いたらいいなと。試写会でも、お子さんがいる方から熱い感想をいただくことが多かったので。

――今後やりたいことは?

小川 いつか自分で書いた小説をもとに自分で映画を撮りたいです。この作品の撮影後に小説化のお話をいただいたんですけど、小説だから書けること、広がっていくことがたくさんあって面白いなと感じました。映像とも脚本とも違って、新しい発見がありました。

――監督・主演はいかがですか?

小川 学生のときにやったんですけど頭が混乱するんですよ......。監督のときは監督に専念したいです。

●小川紗良(おがわ・さら)
1996年生まれ、東京都出身。女優、映画監督。早稲田大学文化構想学部卒業。監督作に映画『あさつゆ』(2016年)、『BEATOPIA(ビートピア)』(2017年)、『最期の星』(2018年)、『MOOSIC LAB 2016 予告編』『月』、MV『恋は魔物 美しくってばかみたい!』などがある。

■『海辺の金魚』6月25日(金)より全国順次公開予定
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