『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!! 希代のストーリーテラーのふたりが4月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
■『キン肉マン』で初めて覚えた"ヤンキー接待"
爪切男(つめきりお 以下、爪) まずは、僕らと『キン肉マン』の関わりから話してくれとのことで。燃え殻さんが、最初に『キン肉マン』に触れたのはいつですか?
燃え殻(以下、燃) 僕は、小学3年生のとき、悪魔六騎士が出ていた頃ですかね。小学校にマンガ研究会があって、みんな『キン肉マン』を描いていて。で、俺はジャンクマンを描いてた、簡単だから。あとロビンマスク、実は描きやすいじゃないですか。それが最初かなあ。
爪 僕は、燃え殻さんと小学校一周分、6年離れているから、夕方に『キン肉マン』のアニメがやっていて。
あと年上の、燃え殻さんくらいの先輩が、キンケシを持ってて。人気のないキンケシ、ダブったらくれるんですよね。「おまえの好きなプロレスのマンガだよ」って、キンケシと一緒にコミックスを渡されたりして。『キン肉マン』って、みんなで読むものだったじゃないですか。
燃 確かにそうだった。
爪 年下にも『キン肉マン』を通じていろいろ教えてくれた。で、俺たちがいいキンケシを持ってたら、奪うじゃないですか、あなたの世代は(笑)。あと、日本コロムビアからカセットテープで、超人のテーマソングのアルバム集が出ていたんですよ。ブロッケンJr.は『ベルリンの赤い雨』って曲、ミスター・カーメンは『ファラオの呪い』っていう曲とか。
燃 超人ごとに曲が?
爪 そう。いろんな人が歌ってて、声優さんが間でセリフを言ってるんです。スクリュー・キッドのテーマとか──。
燃 スクリュー・キッドの曲まであるの?
爪 はい。だからそういう、マニアックな世界を最初に見せてくれたのが『キン肉マン』だったかもしれないです。自分が初めて出会った、入り口はメジャーだけど、マニアックに深く掘っていけるもの。あと、超人募集に応募してたから、みんなで考えたりとか。それに、『キン肉マン』は、年が離れた先輩とかとも話せる、安心のキーワードだったので。ガキの頃は助かりましたよね。それこそ、ヤンキーに取り入るのにも役に立つし。レアなキンケシをヤンキーの××くんが欲しがってるって聞いたら、それを持っていけばいじめられることはないっていう。
燃 (笑)。献上するんだ。
爪 あと、ファミコンの『キン肉マン マッスルタッグマッチ』(1985年発売)で、俺のほうがうまいけど、ヤンキーにはわざとバックを取らせてあげたりして。初めて接待プレイっていうものを覚えたのは、『マッスルタッグマッチ』。
燃 わかる!(笑)
爪 だから、自分が生活していく上で必要な、社会性とオタク性の両方が、『キン肉マン』にはあったというか。『キン肉マン』から両方学んだ。
燃 あと、なんか、いいかげんだったじゃないですか。
爪 ハハハハ。はい。
燃 超人が、最初出てきたときと変わったりとか。ああいうのも、ラクでよかったんだよね。部室で読むのにちょうどいいっていうか。ちゃんとしてない感じが......死んでも生き返るマンガの元祖、みたいなとこ、あるじゃないですか、『キン肉マン』って。
爪 ああ、そうですね。
燃 それでも、がっかりしないっていうのがね。あと、読んでる人との一体主義。だって、読者がキャラまで投稿するんだから。そうだ、それから、今の『キン肉マン』は、柔術的なものも入れてるじゃないですか?
爪 ああ、アップデートしてるんですよね。
燃 そういう部分は、ちゃんと時代と寝てるなと。MMA(総合格闘技)の技が出てきたりとか。昔のマンガの続編って、今けっこうあるけど、今のものを入れられないじゃないですか。その点、『キン肉マン』はそれができる。なぜなら、昔から、今のものを反映しまくってきたから。
爪 そうそう。良くも悪くも形がない。
燃 最初はギャグマンガだったのにプロレスマンガになるし、最初はでっかくなって闘うっていう設定だったのに、それをやめるとか。そういう、おもしろいものをどんどん取り入れていく、おもしろ至上主義っていいなあと。あと、『キン肉マン』の続きの前に『キン肉マンⅡ世』があったじゃない?
爪 あった。(連載は)1998年とか?
燃 ワクワクがありましたよ、俺。武藤敬司がやっている『プロレスリングマスターズ』ってあるでしょ、90年代のレジェンド・レスラーが集まる。ああいうノリで、キン肉マンとかがまた動いてくれたらうれしいな、と思って読んでたけどね。
爪 僕はあのときって、続編に対する怖さがあって。ちょうど『シティーハンター』の続編、『エンジェル・ハート』(2001〜2010年)......あれはパラレルワールドだけど、香が死んでるっていうのが受け入れられなかったから。
燃 ああっ、そうだった!
爪 だから、続編に対するアレルギーは、ちょっとあったかもしれない。『Ⅱ世』、読んではいましたけど。だから、『Ⅱ世』の後に『キン肉マン』が始まったときはうれしかったですね。だって、あの巻数から続きましたからね、37巻から単行本が出始めて。
燃 そう、正伝というか。
爪 だから、相当な覚悟で始めたんだろうなと思いました。『Ⅱ世』で苦戦してらした感じも伝わってきたから。
燃 でも、あの頃の超人たちがもう一回動きだす、超人だから年を取っていなくて、当時のままで、技だけ、アップデートされてる。それがおもしれえなと思って。
爪 それは確かにそうですね。
燃 今回(3月1日発売の本誌10号掲載第339話「巨獣神話の崩壊!!の巻」)、マンモスマンが実は無敗だったっていうところも好きです。「無敗であれ!」と思いました(笑)。
爪 ビッグボディも、短い期間で相当なスキルアップをしたんだね、っていう感じだし。
燃 ビッグボディ、推しすぎじゃないかってくらい推されてますよね。
爪 それ、ファン心理を突いてくれていると思いますよ。ビッグボディ、昔は、子供ながらに「あんまりだろ」って思うような扱いだったし。
燃 そうだね。じゃあ、長い長い伏線回収が(笑)。
爪 でも『キン肉マン』の続編がまた始まって10年近くたつけど、知らない人は知らないじゃないですか。でも、僕たちは読んでいた、っていうのは、なんなんですかね?
燃 いや、俺、今はマンガ、そんなに読まないんですよ。でも、こんなに読むことにストレスがないマンガ、ほかにないっていうか......なんだろうね? 画(え)かなあ。画にストレスがないんですよ。
爪 ああ、確かにね。
燃 だからサクッと読める。あと、画がだんだん変わっていって、今、フィギュアっぽいんですよね。それも読みやすい理由かもしれない。だからもっと若い子が読んでもいいと思うんですけどね。すごい描き込んであって、線がいっぱいあるとか、そういう画じゃないから。だから、ネットでも読みやすいだろうなあって思うし。
爪 再アニメ化があるといいと思うんですけど──。
燃 ああ、それは!
爪 そうすればもう一度火がついて、下の世代にも......アップデートされた『キン肉マン』が、若い人たちの目にどう映るのか、見てみたいし。
■いよいよ本題。4月の『キン肉マン』連載評
今回の「先月の肉トーク」テーマ
第343話 神聖なるタッグ!!の巻(4月5日分)
第344話 血の祭壇"コロッセオ"!!の巻(4月12日分)
休載特別 『闘将!!拉麵男』第1話「拉麵男誕生!!の巻」後編(4月19日分)
第345話 急造タッグの慢心!!の巻(4月26日分)
あらすじ
天界の神々が、全宇宙の超人の死滅をたくらみ多数の同志と共に地上へ降臨、超神VS超人の史上最大の死闘を展開。4月の連載時点では、マンモスマンVS超神・コーカサスマン、キン肉マン スーパーフェニックス&キン肉マン ビッグボディVS超神・イデアマン&ザ・ノトーリアスのタッグマッチが行なわれていた
***
燃 最新の『キン肉マン』、ここ数話の展開はどう?
爪 僕は、プロレスがずっと好きだったから。やっぱタッグマッチって燃える――。
燃 あ、わかる!!
爪 だから楽しみに読んでますよ。しかも、ここでタッグを組むのが、フェニックスとビッグボディ。まあ、組まなさそうなふたり(笑)。
燃 過去のこともあるしね。あと、そのフェニックスとビッグボディの相手が、スタイナー・ブラザーズ(*兄リック・弟スコットの兄弟タッグ。1989年からWWFやWCW、さらには日本でも活躍した)みたいな、タッグ屋なんだよね。
爪 そう、その設定に笑いましたけど。「神がタッグ屋なんだ?」みたいな(笑)。どうしても、フェニックスとビッグボディの合体技とか、期待しちゃいますよね。「このふたりが、どんな技を出すんだろうな?」とか。でも、今、ビッグボディが、タッグとはなんたるものかをフェニックスに教えようとしているという。
燃 うん。ビッグボディが頭を使うっていうのが、意外なんだよなあ。
爪 でも、僕みたいな、中野とか高円寺に住んでるやつらは、ビッグボディを応援せなあかんですよ。
燃 いや、昔からビッグボディは、みんなの話題には出るじゃないですか?
爪 うん。全日本の四天王時代、三沢光晴、川田利明、小橋建太、田上明で......あと格闘技、ヒクソン・グレイシーとかも含めて、誰が最強かってみんなでしゃべったときに、俺の周りはね、結局「田上が最強」っていうことになってたんですよ。
燃 (笑)。それ、爪さんの周りだけだと思う。
爪 いや、田上が最強だと、丸く収まるんですよ。相手がヒクソンだろうと誰だろうと、喉輪で一発だ、っていう。
燃 俺の周りは(ジャンボ)鶴田最強説だったなあ。
爪 だから、その感じがあるんですよ。結局田上が最強だと推し続けたように、俺はビッグボディを推し続けますよ。
燃 でも確かに、ビッグボディは、プロレスファンだったら推さざるをえない。
爪 ねえ? 覚醒を見たいじゃないですか。まだ鶴田にいじめられてた頃の田上、爆発する前の時期が──。
燃 でも、昔の田上、今のビッグボディみたいな感じでがんばってる人って、どこのプロレス団体にもいますよね。
爪 やっぱビッグボディは推さざるをえないっていうか。逆にビッグボディを応援してない人、いるのかなって思う。
■今の『キン肉マン』に大満足のふたりがあえてワガママを言うなら
燃 あと、今の映画『アベンジャーズ』とかでもそうだと思うんですけど、敵役のキャラが立ってるかどうかで決まるとこ、あるじゃないですか。
爪 そうなんですよね。
燃 昔は、悪魔将軍っていうキャラが出てきただけで、もうそれで2年ぐらい引っ張れたっていう。
爪 うん、あれはすごかった。
燃 悪魔将軍っていう重しがあるから......スプリングマンとかが出ていても、悪魔将軍が最後にいるから、スプリングマンが冗談に見えないんですよ。だから、今の『キン肉マン』にも、悪魔将軍的な、重しのようなキャラが欲しい。
爪 ......けっこうしんどいこと言ってますよ、それ。
燃 そうなんだよ。
爪 悪魔将軍クラスのキャラをもう一回作れ、っていうのは。難しいですよね。例えば極端な話、テリーマンが敵側にいくとか。
燃 ああっ!
爪 敵キャラとしては申し分ないし、「そうはいってもテリーのことだから裏に何か事情があるんじゃないか?」とかいう想像も膨らむし。
燃 それはありますよね。悪役待望論というか、超人タッグ編のときも、ネプチューンマンとビッグ・ザ・武道ブドーとか。圧倒的だったじゃないですか。
爪 そうそう。あの頃みたいな感じで、今もワクワクしたいですよね、タッグだし。
燃 そうなんですよ!
爪 あのときのネプチューンマンとザ・武道、カッコよかったですよ。「本当に強(つえ)えな!」みたいな。
燃 そうそう。だから、昔出てきた超人が、グレードアップして、悪役として出てくる、というのでもいいのにな、と思いますけどね。そのほうが、昔からの読者が燃えるというか、血統が見えるじゃないですか。それがないと、悪役は、出す技が全部初めて、ってなっちゃうから。「あのときのあの技がグレードアップしてるんだな」ってなると、安心して見られるというか。
爪 今のプロレスが跳びはねたり、技がすごいのはわかるんだけど、昔のプロレスほど重みやドラマを感じないから、今のプロレスはあんまり見ないというのは、俺より年上のプロレスファンがよく言うことですけど。技術は昔より全然すごい、でも重みがない。そこにもっと人間ドラマが加わったら......今の『キン肉マン』は、すごい技がポンポン出てくるから、技が先に立っちゃって、キャラとか人間ドラマがちょっと見えにくくなっているような。
燃 僕の周りに、今の『キン肉マン』の話をできる人がひとりいるんですけど。彼が言うには、悪役側を覚えきれないと。
爪 ああ、ああ。
燃 昔だったら、覚えられたじゃないですか、悪役も正義超人も。今は、悪役側がちょっと複雑化していて。
爪 全員は無理でも、ひとりぐらいはドラマが深いキャラがいてもいいかもしれないですね。アシュラマン、最初出てきたときはそうでもなかったけど、どんどんキャラが深くなって、欠かせないキャラになったじゃないですか。
燃 今の『キン肉マン』がそうじゃないのは、さっきの話と同じで、今のプロレスがそういうものだから。ある意味、時代とちゃんと寝てるからそうなるっていう。
■クオリティの高い試合がそろうが故に
爪 あとね、テンポはめちゃくちゃいい。「これぐらいで終わってほしいな」っていうところで、終わる。
燃 昔はもっと長かった。
爪 で、たぶんそれも、今の時代を反映してる。
燃 そうそう、Web連載っぽいなあと思う。試合自体がサクサク進む感じが。
爪 そこでアップデートできずに、終わっていくマンガ家さんが多いなか、すごいですよね。
燃 今の新日のプロレスが人気なのと一緒、時代に合ってる、という。だから僕らが「もっとドラマを」とか言ってるのは、今「やっぱ三沢と川田がいいよね」って言っているようなものかも(笑)。
爪 で、今の新日は、試合内容は、昔よりむちゃくちゃいいじゃないですか。
燃 今の話で思い出したけど、昔のスクリュー・キッド&ケンダマンのタッグの試合なんて、ダメなときのWWEみたいだったじゃないですか。
爪 そうね、乱入とか。
燃 でもあれがおもしろかったんですよね。そう考えたときに、全部の試合がクオリティの高いところでそろっている、というところが、今はあるのかもしれない。
爪 そうですね。
燃 ズッコケてる試合がない。だってケンダマンって時点でズッコケてたじゃないですか。昔プロレスを見に行ったときも、ズンドコ試合のほうが強烈に覚えてたりするんですよ。ズンドコもあったほうが、興行全体として成り立つ。
爪 昔、アニメの『キン肉マン』で、すごいシリアスなシーンでも、キン肉マンが牛丼を持って踊りだすと、全員付き合って踊ってたりとか。ああいうズンドコがあってもいいですよね、今。
燃 そう、クオリティが高いんですよ、全部。でもズンドコ試合も欲しい(笑)。そうだ、2月、3月は『闘将(たたかえ)!!拉麵男ラーメンマン』が、合間にアップされるようになったじゃないですか。(担当編集に)あれはどうして?
編集 周りから「久しぶりに読みたい」って声があって、ですかね。
燃 そこまで狙いがあったわけではないと(笑)。『闘将!!拉麵男』(1982~88年連載)、『フレッシュジャンプ』で連載してましたよね?
爪 こういうスピンオフ作品をやるっていうのも、『キン肉マン』は相当早いほうじゃないですか?
燃 そうだよね。だって、スピンオフ作品がアニメ化されてたのって、すごいよね。
爪 そうそう。スピンオフのレベル、超えてた。そのくせ、本編のほうの技とかは出てこないんですよね。パラレルワールド、完全に別の世界の作品として描いていて。
燃 そうだよね、とんでもないね、今考えたら。だから、あとは、今、これだけキャラがそろっているなかで、超人オリンピックをちゃんとやってほしい。ファンは全員うれしいと思う。
爪 それこそ、最後はテリーマンとキン肉マンが闘う。
燃 ああ!
爪 今の闘いを終わらせた後で、なんかしらの展開をうまくつくって、超人オリンピックを経て、最終的にテリーマンとキン肉マンが向かい合う。
燃 最初の超人オリンピックのキン肉マンとロビンマスクみたいに、キン肉マンとテリーマンが向かい合う。
爪 確かに、キン肉マン×テリーマンは、ジャイアント馬場×アントニオ猪木、武藤敬司×三沢光晴みたいなもんで、先生が描かずに残してるものですから。見たいなあ。燃え殻さんの言うとおりだな、珍しく(笑)。
燃 でもそうでしょ?
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。テレビ美術制作会社に勤めながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、2016年、90年代の若者を描いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で小説家デビュー。本年、同作が森山未來主演でNetflixより全世界同時配信予定。最新著『夢に迷って、タクシーを呼んだ』(扶桑社)も好評発売中
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となっている
●6月28日(月)発売『週刊プレイボーイ』28号には、「爪切男×燃え殻の先月の肉トーク!!」の最新コラムを掲載!!
●おふたりの最新著はこちら!!