人気バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』内の企画で安田大サーカス・クロちゃんがプロデュースした「豆柴の大群」。作詞・作曲も担当したところ、歌詞が良すぎると各所で話題に! ビッグプレイヤーたちをも認めさせた彼の作詞のルーツを探った。
■急に届いた曲に3日で歌詞を書く
――「豆柴の大群」は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)内の企画「MONSTER IDOL」から2019年に生まれました。クロちゃんがアイドルをプロデュースするという内容ですね。
クロちゃん(以下、クロ) 僕はプロデューサーとしてオーディションにも参加したり、グループ名を考えたりしました。また、プロデュースの一環で作詞・作曲もすることになり、沖縄で行なわれた合宿型オーディションで選考の合間に作ったのがデビュー曲『りスタート』です。
――『りスタート』の歌詞へのこだわりは?
クロ メンバーの中にはほかのアイドルグループでうまくいかなかったコや、高校を卒業して働いていたコもいるんです。きっと彼女たちは「出遅れた」とか、マイナスからのスタートと感じていたと思うんですけど、僕はそんなことないと思っていて。
むしろこれまで積み上げてきたことは意味があることだよ、と伝えたくて、サビの歌詞には真っすぐに「だから無駄じゃないよ 経験したすべて」と入れました。
――続くシングル第2弾として、所属事務所WACKプロデュースの『大丈夫サンライズ』と、クロちゃん作詞・作曲の『ろけっとすたーと』の2作が同時に発売されました。
クロ 企画で、YouTubeに上がった2曲の再生回数を競って『ろけっとすたーと』が負けたら金輪際「豆柴の大群」に関わらない、勝てば再度関われるということだったので、かなり力を込めて作詞しました。この曲はテンポが速かったので、ファンとのコール&レスポンスを意識しました。
結果勝ったのでアドバイザーとして戻ることになったんですけど、メンバーにどっちが良かったか聞いたら5人とも『大丈夫サンライズ』に手を挙げやがったんですよ......。それで腹が立って、「それならそっちに寄せておまえらが好きなもんを書いてやるよ」って書いたのが3作目『ドンクサハッピー』です。
――これまでの曲と違ってクールでオシャレな曲調ですね。
クロ これまでの2曲は自分の中から言葉を出していましたが、「メンバーが好きそうなものを」と思って書いたことで、作品が自分の手から離れたという印象です。この曲の評価がけっこう高く、メンバーからも「あの曲イイですね」って好評でした。僕的にはちょっと違うんですけど......。
作詞するときは、急に曲が送られてきて「これの歌詞を3日後までに書いて」と言われることが多かったです。書き終わってもすぐ次の曲、みたいな。アドバイザーって調べたら「アドバイスする人」って書いてあったんですけど!? なんで作詞してるの僕!?
――それらの作品がヒャダイン(前山田健一)さんや川谷絵音さんに高く評価されていますが、それについてはどう思いますか?
クロ なんかわからないけど、ありがたいですよね! 僕の歌詞をバカにする人に「あなたたちはヒャダインさんや川谷絵音さんの感性を否定するんですか?」って言えますからね(笑)。
■20歳になっても絵本を読んでいた
――作詞の経験はそれまでにありましたか?
クロ 中学2年生のときからポエムを詠んでいました。きっかけは急性盲腸炎で搬送されたとき。状態がかなり悪く、緊急手術をすることになり、手術は成功したんですけど、そのとき初めて「死」を意識したんです。入院している病室の窓から外を見上げながらふと「ポエム書きたいな」と思って、そのとき書いた「鬼」というポエムが処女作です。
――その「鬼」はどのようなポエムだったんですか?
クロ その頃、ノートに漢字で「鬼」って書きまくるくらい鬼が好きだったんです。今考えるとヤバい子供ですけど。で、昔話って鬼を悪者に描くじゃないですか。でも、もしかしたら鬼ヶ島に追いやったのは人間なんじゃないかって。
それで「鬼って本当は優しいんだよ」というポエムを書きました。なんでか鬼側の気持ちになっちゃったんですよね。昔から声が高いことをイジられていたので、マイノリティだという意識が強いのかもしれません。
――それからもポエムの創作活動は続いていたんですか?
クロ これまでに100作品以上は書いたと思います。夜中にツイートする「闇ポエム」も入れればもっとかも。「暗黒に支配されそうな自分」とか「闇が追いかけてくる」とか「ラビリンスの中に閉じ込められてしまう」とか、そういうのが好きなんです。
――ご自身の詩心に影響を与えた作品や文学は?
クロ 一番は絵本でしょうね。ずっと絵本が好きで、20歳になっても買って読むくらい好きでした。『ぼくは王さま』シリーズとか。そういうのもあって、歌詞の中に「織姫と彦星」や「白雪姫」「シンデレラ」などの作品名も登場するのかなと思います。
あとはマンガとアニメ。特に歌詞でいえばアニソンに強く影響を受けたと思います。実は子供の頃アニソン以外聴いてなくて、みんなが言うBOOWYを、当時『週刊少年ジャンプ』で連載していた『BOY』だと勘違いしたり。
ザ・ブルーハーツも知らず。小室哲哉さんは知ってたんですけど、それは『シティーハンター』のEDテーマを作曲してたからで。そのくらいアニソンが中心だったんです。
実はその頃、生身の女性に一切興味がなく、母親に「頼むから生身の人間を好きになってくれ」って号泣されるほどでした。当時は壁に張った『セーラームーン』の水野亜美ちゃん(セーラーマーキュリー)の等身大ポスターと身長を比べたり、『うる星やつら』のラムちゃんのポスターにキスしたり。「いつか2次元に行ってやろう」って本気で思ってたから!
――特に好きなアニメソングはありますか?
クロ 『ハイスクール! 奇面組』の『ちょっと辛いあいつ』(作詞・秋元康)という曲ですね。「自由に生きるのは難しいけど/縛られちゃ意味がない」という歌詞が好きで、人生のバイブルです。僕が自分を貫けるずぶとさを持っているのは、この曲のおかげだとも思っています。
■存在しない言葉「バリケーション」
――「豆柴の大群」のことをどういう目線で見ているんですか?
クロ 僕は前々から「豆柴の大群」のメンバーを天使だと思っていて、そうプロデュースしてきました。4作目の『サマバリ』は異国情緒あふれるラテンっぽいノリで、そういう国に旅するイメージで歌詞を書いたんですけど、時々乱暴な言葉が入っちゃってて。「テメェ」とか「食らわせてやりたい」とか。それで気づいたんですけど、彼女たちは堕天使で、異国への旅は天界からの追放なんですよ!
――この曲に出てくる「バリケーション」とはどういう意味なんですか?
クロ 意味はないです。バケーションとバリアを掛け合わせたイメージです。語呂が良ければいいかなって思っています。だって『魔神英雄伝ワタル』とかも「ヒミコミコミコ......岩よ動け!」とか言ってるけど「なんなんそれ」って思うし。
――よく覚えてますね。
クロ だって僕言ってたもん! 本当に動くと思って唱えてたもん!『さすがの猿飛』のOPテーマ『恋の呪文はスキトキメキトキス』も本当にそんな呪文あるのかな?って思うけどないんですよ。
でも、その人が本当にあると信じたら恋の呪文になるんじゃないかなって。ニュアンスが良ければそれでいいじゃんっていう自由なところもホメていただいてます。
――最後に、「豆柴の大群」のアドバイザーとして展望はありますか?
クロ もともとアイドルになりたくて芸能界に入ったんですよ、僕。今は事務所にダマされて芸人をやっているんですけど。なので彼女たちには僕の分も売れてほしいなって思います。今は生ライブとかは難しいですが、着実に成長しているので楽しみにしていてほしいです。
SNSで「おまえら歌も踊りもうまくないな」とか「テレビにも出なくなってオワコンだな」っていろいろ言われたりとかしてメンバーが落ち込んでいたときに、僕は「僕がつくったアイドルなんだから言われて当然でしょ」って声をかけました。僕が言われてるんだから気にしなくていいよって。
そういう意味で言ったのに、「あ、そうか。クロちゃんのせいで言われてんのか」ってメンバーがケロっとして、変に納得されちゃって。それは違うんだけどな......。元気になってよかったけど......。
作詞家としては、僕が書いた曲をいっぱい聴いてもらって印税生活したいですね! こんなチャンスめったにないので。アイドルが自分の曲を歌っているだけでめちゃくちゃうれしいですけど、お金が欲しい。だから「豆柴の大群」には売れてもらわないと困るんです!
●クロちゃん(Kurochan)
1976年生まれ、広島県出身。安田大サーカスのボケ担当。大柄な体格にスキンヘッドというルックスながら、ソプラノボイスを持つギャップでブレイク。「豆柴の大群」のデビュー曲『りスタート』ほか、数々の楽曲の作詞を手掛ける