『週刊少年ジャンプ』誌上で2020年31号から連載されている宮崎周平のギャグ漫画『僕とロボコ』が今、密かに人気を集めている。今の時代のお笑いシーンに通じる「人を傷つけない笑い」を主軸にしつつも、他の同誌連載作など様々な有名作品のパロディをやりたい放題という漫画だ。実際に、『99人の壁』(フジテレビ系)にて、ケンドーコバヤシに大好きな漫画として紹介されたり、『呪術廻線』とコラボした動画は300万再生を越える状況になっている。
7月で連載一周年を迎える同作、これを記念して7月12日(月)発売の『週刊少年ジャンプ 32号』では、センターカラーを飾る。
インタビュー前編では、"脱サラ"をして、大好きな漫画で仕事がしたく一念発起。赤塚賞佳作を授賞し、読切もすんなり掲載されて、という順風満帆な連載作家前夜を、作者の宮崎周平先生に伺った。
『週刊少年ジャンプ』の連載作家になるまであと少し、と思いきや...... 。
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宮崎 問題はここからなんですよ。連載ネームが何ひとつ通らない(笑)。
――読切と連載は違いますか?
宮崎 違いましたね。読切は読切でずっと作ってて、それは結構、本誌や増刊の『ジャンプGIGA』に載せてもらえたんです。だから、それほど長い期間は途切れず誌面に名前は載せてもらえてたので、消えた漫画家にはならずに済んでたところはあったんですけど、それでも連載ネームだけは何十回、何十作品作ってみても、うんともすんとも通らない(笑)。
――どれくらい通らなかったんですか。
宮崎 『週刊少年ジャンプ』の場合は年に5回ほど連載会議があって、最初に提出したのが2013年3月の連載会議でした。そこで落とされてからというもの、連載会議があるたびにほぼ毎回のようにしつこく出し続けたんです。
その後も6、7年ほど毎回のように出しては落とされ続けて......合計すると25回以上は落ちてると思います。多分、ギネス取れますよ(笑)。連載会議最多提出記録と連載会議最多落選記録で。
――凄まじいですね。
宮崎 担当に聞いたところだと、途中からだんだん連載会議名物みたいな扱いになってきたらしくて、出すたびに他の編集者からも「また、宮崎周平が出してるぞ」って。会議ではみんな笑って受け止めてくれるんだけど、最終的には結局通してもらえない、みたいな......(笑)。
――何が悪かったんでしょう?
宮崎 毎回、一番多く言われたのが「この絵じゃ売れない」ってことでしたね。あと「商品として先が見えない」とか。
――そこはさすがに『ジャンプ』ですね。温情で通してもらえるとかないんですね。
宮崎 ないですね。私も出すたびにちょっと緊張しながら返事を待つんですけど、「絶対落ちる!」って、先に自分へ言い聞かせて待つようになって。そしたら、担当から案の定「ダメだった」って連絡が来て、もう始められる気がしなかったですからね。連載なんて。
――じゃあ、苦節7年でようやく連載会議を通してもらえたのが『僕とロボコ』という作品だったんですね。そのお話の前に、『少年ジャンプ+』掲載のスピンオフで『お約束のネバーランド』(漫画:宮崎周平/ 原作:白井カイウ/作画:出水ぽすか)という作品をしばらく続けていらっしゃいました。こういうスピンオフに難しさはありませんでしたか?
宮崎 むしろ、めちゃくちゃ勉強になりました。大前提として、白井先生と出水先生が作られたキャラをお借りしている立場なんで、「キャラをぞんざいに扱わない」ということですね。私自身、『約束のネバーランド』の大ファンなのはもちろんですが、その上で徹底的にそのキャラを理解しなきゃいけないし、そもそも原作ファンに「こんなの違う!」って嫌われないよう細心の注意を払わなきゃいけない。絵についても、このあたりから初めてちゃんと練習してかなり上達しました。
――確かに、『約束のネバーランド』は作品への思いが強いファンが多いですが、そこは律儀なんですね。
宮崎 自分に対してはいい加減なんですけどね(笑)。
あとは、『お約束のネバーランド』で出せた初のコミックスがそこそこ売れてくれまして。もちろん、原作のパワーにあやかってということは重々承知した上でなんですけど、初めて自分の描いたものが売れるというイメージが少し見えた、といいますか......。
――編集部の宮崎先生に対する見方も少し変わったんじゃないですか?
宮崎 それは確かにあるでしょうね。スピンオフではありますけど、ちゃんと売れたって実績を提示できたのも大きかったと思います。
――その後、満を持して『僕とロボコ』が念願の連載会議を突破。昨年の春頃の話だと思いますが、感想はいかがでした?
宮崎 いつも通り「絶対落ちる!」と自分に言い聞かせて待ってたので、まずビックリしたのは確かなんです。でも、どうやら担当も自分で連載会議に出しておきながらこれじゃ通らないと思ってたフシがあったようで、電話をいただいた時に、喜ぶとか、祝うとか、そんな瞬間を一瞬も与えてくれなかったんです。すごい低めのテンションで「通ったよ、通ったんだけど、このまま始めたら僕はすぐ終わると思うから!」って警告から始まる感じで(笑)。
――苦節7年でようやく通ったのに?(笑)。
宮崎 少しは喜ばせてくれてもよさそうなもんじゃないですか!? でも一切、そんなタイミングなかったです(笑)。だから私も「ああ、そうですよね~。どうしましょうか?」ってすごい低いテンションで返して(笑)。
――編集部よりも担当が一番手厳しかった!(笑)。
宮崎 でも、そこは指摘された通りだなというのは私自身も思ってたので、お互い正しい態度ではあったと思うんですけどね。
――とはいえ、連載会議に通った以上、近いうちに必ず連載が始まりますよね。それまでにどんな改善処置を?
宮崎 連載会議には1~3話までネームを作って出したんですけど、それは叩き台くらいの感じで担当ともさらに徹底的に詰めていって、結果的に1話の途中から2話にかけてかなり修正入れて。3話に関してはほぼすべて描き直しました。担当からも「これ、最初で最後のチャンスだと思ってやろう!」って言われて、気合を入れ直しました。
担当いわく、これでダメだったら「やっぱり、宮崎先生に連載は難しいのでは」ってイメージが編集部内が定着して、ギャグマンガは連載ネームを通すのがそもそも難しいし、通りにくくなるかもしれないと。"最初で最後のチャンス"という言葉は重かったですね。
――具体的に一番、直したのはどこですか?
宮崎 ロボコの見た目ですね。最初のロボコは僕が昔から読切で描いてる『隣の席の珍子ちゃん』って作品がありまして、その珍子ちゃんにそっくりだったんですけど「これじゃ、クドすぎて読者に嫌われる!」って言われて。
そのあと、『お約束のネバーランド』で勉強させてもらった、読者に好かれるキャラとはなんぞやということを最大限に意識して、私なりにアクを抜いてみたりしました。最も意識したのは、同じロボキャラの女のコということで、鳥山明先生の『Dr.スランプ』の則巻アラレちゃんですね。あとは『SPY×FAMILY』(著:遠藤達哉)のアーニャ・フォージャーとか、『よつばと!』(KADOKAWA 著:あずまきよひこ)の主人公の小岩井よつばちゃんのエッセンスも入ってますね。
――かわいいキャラをいろいろ研究したんですね。
宮崎 何せ最初のネームの段階で担当に真っ先に言われたのは「ロボコが出てくるまでは面白いね」だったんですよね。それがちょっと悔しくて。
――『ドラえもん』へのオマージュ要素が感じられる作品だ、というのはよく指摘されるところだと思いますが、最初の構想はどこから起こしてきたんでしょう?
宮崎 先ほども挙げた『隣の席の珍子ちゃん』という作品の珍子ちゃんが、私としては今でもずっと好きでたまらないんですよ。でもこれじゃダメだって否定され続けてきたなかで、一度、その珍子ちゃんが学園モノの設定の中にロボットとして登場するというネームを描いたことがあったんです。 その時に限って、いつも否定的な担当がいい反応で。それがずっと記憶に残ってたんですよ。私としてはやっぱり珍子ちゃんが好きなんで(笑)。そこからどんどん肉付けしていったら、という流れが一番大きかったんじゃないかと思います。
――それで、主役がロボットになったんですね。
宮崎 もうひとつは、赤塚賞で佳作をいただいた『むこうみず君』の時代からそうなんですけど、担当から「宮崎くんは男の親友同士がダラダラ会話してるような話を回すのはうまいから、親友マンガを描いて」って言われ続けてたのもあって。
――ガチゴリラ&モツオとボンドのやりとりですね。
宮崎 それを融合させたら、自然とこういう『ドラえもん』のような感じの作品になっていきました。
――それでも、決してそこだけに留まらない要素は多分に入ってますよね。これもよく言われるところでしょうが、人を傷つけない笑いというのが今の時代にマッチしてるとか。
宮崎 時代性というところだと、今は、渡辺直美さんとかゆりやんレトリィバァさんみたいな容姿云々(うんぬん)じゃなく、面白くってかわいい女性像がみんなに愛されるという思いもあって、そこにうまくロボコがハマってくれたんじゃないかなぁと。
――『僕とロボコ』で特筆すべきはパロディの多さです。特に『ジャンプ』作品からは、数々のレジェンド作から、つい最近連載開始された『アオのハコ』に至るまで様々なネタが仕込まれてますが、まずド直球の質問として......怒られたことないですか?
宮崎 一応、許可はちゃんと担当経由で取ってもらってるので......大丈夫だと信じてます!
――許可は取ってるんですね。特に『呪術廻戦』や『僕のヒーローアカデミア』あたりは頻度も多いですからね(笑)。
宮崎 ありがたいことになんとか許していただいてるようです。特に同じ『ジャンプ』で連載されてる作家さんはお優しい方が多いので......内心どう思われてるかはなかなか直接お会いできる機会がないので正直なところ不安ではありますが!
――現在連載中の『ジャンプ』作品で、ライバルとして意識されてる漫画などありますか?
宮崎 今は断然『アオのハコ』ですね!
――作品設定などもいろいろと重なるかもしれませんね......(笑)。
宮崎 憧れのお姉さんキャラと、ちょっと内気な主人公が偶然一緒に暮らすことになる青春ストーリーだなんて、もう完全にかぶせてきてるとしか思えない設定ですからね! これは、宣戦布告されてるようなものだと思って私も注目してますから。まずは完全にかぶってるファン層を取られないように、こちらもより一層頑張っていきたいと思ってます!
――なるほど(笑)。『ジャンプ』連載作品に新たな対立軸が! ライバルとはいえ、ちゃんと読んでるんですね。
宮崎 めちゃくちゃ面白いんですよ(笑)。第1話を読んだ週から担当とも「これはなかなか凄い漫画が来たぞ!」と話をして。気づいたら、『僕とロボコ』でも1話まるまるそれをネタにしちゃってました(※『週刊少年ジャンプ2020年23号』参照)。三浦糀(こうじ)先生本当にごめんなさい!
――新たなコミックス4巻が7月2日発売になりました。その他、ガシャポン化&リアルAI化など様々な新展開情報が最新の『週刊少年ジャンプ 32号』(7月12日発売)ではセンターカラーで紹介されています。支えてくれているファンの皆さんに特に伝えたいことはありますか?
宮崎 これはコミックス2巻のおまけページでも少し書いたことなんですが、ギャグ漫画ってサラッと読む分には楽しんでもらえると思うんです。その半面、読者アンケートを送ってもらうにしても「一番好き」って評価をもらうのはなかなか難しいし、ましてやコミックスを買ってもらうのは、なかなかハードルが高いと思ってます。
でも、そのハードルを越えて支持していただける方がいらっしゃるから一年も続けさせてもらえたと思うと、本当に感謝しかありません。そんな支持を受け続けられるような漫画を描き続けていきたいと思ってます。これからもぜひ『僕とロボコ』の新たな展開にご期待いただければと思います。2年目もどうぞよろしくお願いします!
――『アオのハコ』に負けないように頑張ってください!
宮崎 はい、三浦先生には負けません!(笑)
●宮崎周平(みやざき・しゅうへい)
2012年下期の第77回赤塚賞にて『むこうみず君』で佳作受賞。同作を13年『週刊少年ジャンプ 11号』にて掲載、漫画家デビューを果たす。その後、『ジャンプ』本誌、および増刊『ジャンプGIGA』にて多数の読切作品掲載を経て、2019年1月から人気作『約束のネバーランド』のギャグスピンオフ『お約束のネバーランド』を『ジャンプ+』にて連載開始。そして20年『週刊少年ジャンプ 31号』より念願の本誌連載作『僕とロボコ』をスタートさせ、現在も好評連載中