荒野行動、原神、PUBGなどのゲームが世界定番として日本でも大ヒット中。実は、これらすべて中国メーカーのゲームだったりするのだ。
超絶グラフィックでユーザー大満足のクオリティ重視のタイトルからおもしろ動画広告が話題の作品まで、中国メーカーがスマホゲーム市場でもがっつり覇権ゲットの方程式を超速解説ですっ!
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■誰もが知るタイトルがみんな中国ゲーム!
大ヒットを続けるバトロワゲームの『荒野行動』や『PUBG MOBILE』は、今やYouTubeの実況配信でも圧倒的人気を誇るタイトルに! そして昨年は超級グラフィックのアクションRPG『原神』がブレイク。さらにはSNSやYouTubeでB級感高めの広告動画がヘビロテされる『マフィア・シティー極道風雲ー』や『おねがい社長!』などなども。
常にアプリストアで上位ランカーとなっているのが、中国発のスマホゲームだ。ゲームファンでもない限り中国メーカー作品とは気づかないレベルで、すっかり国内エンタメのセンターとして浸透中である。
しかも日本だけでなく、アメリカやEUでも絶好調。事実上の世界最大勢力となっている。その強さの秘密や歴史などを、中国IT事情に精通するジャーナリストの高口康太さんと共にチェックしていきましょう。
――各国のアプリストアでも上位を占めているのはもれなく中国勢。これ、収益的にはどんな状況になっているの?
高口 昨年、海外市場から中国スマホゲームへの課金額は1兆200億円を突破しました。これは2019年から約1.5倍の成長で、各国の課金額の上位には『PUBG MOBILE』『荒野行動』『マフィア・シティ』など、日本でもおなじみのタイトルが並んでいます。ちなみに、この各国収益のトップは日本で、3000億円を超える課金を記録。2位のアメリカも3000億円弱の課金があります。
――さんざん経済や軍事で"対中"とか言っているのに、中国へ超・課金中じゃん!
高口 これだけでなく、中国のゲームメーカー超大手のテンセントやネットイースなどは、アメリカや日本のゲーム会社にも多額の出資をしており、"実質中国製"のスマホゲームが世界市場の中心ですね。
――そもそも中国テレビゲームの歴史は?
高口 テレビゲームが普及し始めたのは90年代初頭。ファミコンなどの8ビットマシンの互換機が普及し、一本のソフトに十数本ゲームを収録した海賊版が流通して大ヒット。これらのハード、ソフト共に自称国産でした(笑)。
――ダメ絶対なやつじゃん!
高口 この時代に大ヒットしたのが、日本でも人気だった横スクロールアクションゲーム『魂斗羅(コントラ)』です。現在ではこの作品の版権をテンセントが正規で取得し、スマホ版の新作を配信して大ヒットさせるほど中国で愛されています。
――過去の不正を札束で解決する中華スタイル! ところで、この時期に世界を席巻していた日本製のプレステや任天堂の各種ゲーム専用機は人気にならなかったのですか?
高口 ゼロ年代に入って日本製ゲームマシンが正規販売されましたが、中国はゲーム内容などの規制が厳しく、さらに海賊版ソフトが流通して商売になりませんでした。それと並行して中国ゲーム市場のメインはパソコンに移り、オンライン対戦のゲームや、カジュアル路線だとブラウザで遊べるパズルが人気になっていきました。
そんななか、10年代の中盤に状況が一変します。
――いったい何が?
高口 この頃には、中国製スマホは世界市場をほぼ手中に収めており、音楽・動画・ゲームなどのエンタメ用途の端末がパソコンからスマホに入れ替わりました。
そこで中国のIT大手は、スマホで楽しめるエンタメサービスの開発に力を入れるようになります。そして15年にテンセントがリリースしたオンライン対戦ゲーム『王者栄耀』が国内で大ヒット。これは現在でも世界市場で月間300億円前後を稼ぎ出すモンスタータイトルです。
これをきっかけに「スマホゲームはとにかく儲かる!」と認知され、多くの中国IT企業がゲーム開発にフルスイングし始めました。ただ、この時点では海外進出に積極的ではなかったんです。国内市場だけで十分に儲かっていたから。
――でも、現在は海外市場でバキバキに稼いでいますよね? それこそ動画広告とかすっごいし!
高口 先に海外市場を目指したのは、実は大手より中小のメーカーでした。中国国内のプロモーションは、アプリや動画共有サイト内の広告が圧倒的に波及力を持っています。
そして中国の動画広告展開は一年中ヘビロテさせるのが基本ですから、資金力勝負になり、超大手以外は厳しい戦いになる。なので中小が先に海外を目指したわけです。そこで彼らが活用したのが、中国国内で行なわれている動画広告のヘビロテ戦略でした。
――なるほどー! でも中国って、グーグルとかアップルといったアメリカ企業との商売が難しいイメージありますけど。なんであんなにガンガン広告出せるんですか。
高口 グーグルは【検索結果などを検閲されるなら商売できない】という理由で中国から撤退しましたが、実は広告部門は今も中国で営業中で、そこを通じて彼らはYouTubeに広告を出しているのです。この方式だと現地法人を開設する必要がなく経費節減にもなるし。ですから『マフィア・シティ』のように中国ではほぼ無名のゲームも、日本市場では5年で数百億の売り上げを記録できるんです。
今ではTwitterやインスタにも出稿でき、中国の中小だけでなく大手メーカーも本気で世界展開するようになりました。GAFAのインフラを一番効率よく活用しているのが、実は中国メーカーという(笑)。
ただ、相変わらず中小メーカーは現地製作の動画広告を流していますから、日本語字幕が変だったり、キャラのノリが異様で、それが逆に話題になっていますよね(笑)。
――実際、中国でもこんな謎広告が流れてたりするの? 中国でITエンジニアとして働く上海在住の徐さんに聞いてみましょう。
徐 日本では『ガーデンスケイプ』『Hero Wars』というタイトルで売られているゲームの動画広告は、中国でも「動画と別のゲームじゃん!」と完全にネタ扱いになってますね。
あと、こっちのユーザーの特徴として、財布のひもはかなり固く、ガチャを回すのがメインになるようなゲームには課金しないんですよ。そもそも、そういったゲームには必ず類似タイトルがあって、そっちなら広告表示はあるけど無料でも十分に楽しめますから。
一方で、ゲーム性やグラフィックが重視の『原神』や『荒野行動』みたいなゲームのアイテム課金では躊躇(ちゅうちょ)しません。
――それって絶賛超課金中の日米に比べ、中国ユーザーのほうがゲームリテラシーは高いんじゃないか説が!? 高口さん、どうでしょうか?
高口 例えば【YouTube広告に1億円投資したら、2億5000万は確実に儲かる!】という収益データが中国企業では共有されています。ゲームもガチャ重視の簡単なスペックで喜んでくれるので、中国メーカーからしたら日米市場は自国よりもずっと楽でおいしい市場ですね。
それこそYouTubeに広告を出稿している某メーカーの社長に聞いたら、「広告出すだけで儲かってしょうがない!」とウハウハでしたから(笑)。
――ちなみに、日本で人気が高い、日本産のスマホゲームは、中国での評価は?
高口 『パズドラ』や『モンスト』は中国市場で惨敗です。無料で楽しめる類似タイトルがいくらでもあるので。
――そして近年、中国のゲーム市場は"仕上げ段階"に入ってきているそうですが?
高口 昨年から世界中でヒットしている『原神』は、高いグラフィックやアクション性により、ガチャ要素に頼ることなく世界中から支持されています。ここ数年人気のバトロワも同様です。つまり、純粋なゲームの楽しさで勝負できるタイトルを開発できる環境が整ってきたのです。
――つーか、本気でスマホゲー作り始めて10年もたってないのに、その開発能力の高さってどーいうこと?
高口 日本や欧米と違って、ゲーム専用機の文化が根づかなかったのが大きいと私は考えています。【キャラをコントローラー操作でこう動かす】といった既成概念がなく、スマホのスペックを最大限に生かした自由な発想で開発されています。
同時に、低スペックのスマホでもストレスなくグラフィック重視のゲームを楽しめるよう最適化している。これも、スマホ強国だからこそできる開発環境です。
――そんな中華スマホゲームの次なる狙いは?
高口 オリジナルキャラクターといった自国IP(知的財産)での世界制覇です。これまでも国内ではスマホゲームからIPをヒットさせていますが、中国はとにかく消費が早く、ひとたびヒットすると全方位で露出させ、ファンから秒で飽きられてしまう(笑)。アイドル市場もそうなんですが、"長持ちしない問題"がずっと続いているんです。
一方、日本やアメリカは【このタイミングで映画があるから、ファストフードのキャンペーンも同時進行】というように、露出スケジュールの管理を関係企業の間で共有し、収益を長く継続させる。このへんは中国のエンタメ企業が最も日米から吸収したいノウハウでしょうね。
――自国IPがブレイクすれば、ほぼ世界制覇完了の中華スマホゲーム。でも中国さん、ヘンテコ動画広告が気になりすぎるゲームの開発も引き続きお願いします!